表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された特異点:意識を失うと最強の神の力が俺を支配する。誰も知らない、この体こそが世界を救う鍵であることを  作者: Riang Perdana
第一章 ヘブリー星の王女を救おうとしたら、なぜか異世界に飛ばされて記憶まで失っていた件
24/29

第一章 第二十四部――リュウ・セレスティア外伝(4)

 彼の口元に、ゆっくりと冷たい笑みが刻まれる。


「いいだろう。そこまで死にたいっていうならな」


 ドォォォン――!!


 闘技場の鐘が轟音とともに鳴り響いた。


 張り詰めていた静寂を打ち砕くその金属音は、まるで命を賭けた戦いの開幕を告げる死神の鐘のように、巨大なスタジアム全体へとこだました。


 その瞬間――


 世界が、ゆっくりと動き始めた。


 Takeoの姿が消える。


 いや、消えたように見えた。


 彼の身体は黒い影へと溶け込み、白紙へ垂らされた墨汁のように滑るように駆け抜ける。頬を掠める風が、かすかな冷気を運んできた。


 ――左だ!


 本能が叫ぶ。


 俺は反射的に身体を捻った。


 シュッ――!


 避けきったはずだった。


 だが、影の刃先はわずかに俺の頬を切り裂いた。


 焼けるような痛み。


 続いて温かな液体がゆっくりと皮膚を伝い落ちていく。


 血だ。


 息を整える暇すらない。


 Takeoの姿が再び消えた。


 全身の毛穴が一斉に開く。


 背後。


 頭のすぐ後ろに、重い圧力が現れた。


 考えるより先に、俺は前方へ身体を投げ出した。


 ブォン――!


 黒い斬撃が髪の数センチ上を通過する。


 宙に舞った髪が何本も切り裂かれ、風に散っていった。


 速すぎる。


 ただ速いだけじゃない。


 こいつは――影そのものを渡って移動している。


 俺はひたすら後退を強いられていた。


 淡い青色の電撃障壁。


 俺が持つCランク程度の防御魔法が、影の攻撃を受けるたびに激しく軋む。


 バキッ――!


 障壁の表面に細かな亀裂が走った。


 一撃ごとに身体が潰されるような衝撃。


 胸が苦しい。


 肋骨が内側から握り潰されているかのようだった。


 膝が震える。


 今にも崩れ落ちそうになる。


 それでも俺は立ち続けた。


 額を冷たい汗が流れる。


 呼吸が喉を焼く。


 考えろ。


 焦るな。


 パターンを探せ。


 影移動には必ず起点がある。


 Takeoの笑い声が闘技場に響いた。


 獲物を追い詰めた狩人の笑い。


「ハハハハハッ!」


 彼は高く跳躍した。


 その足元の影が爆ぜる。


 黒い刃が十数本。


 まるで針の雨のように俺へ降り注いだ。


 俺は身体を回転させる。


 両手に雷光が踊った。


 バチッ! バチッ!


 次々と影の短剣を弾く。


 だが、数が多すぎた。


 一撃。


 その一本が防御を突破した。


 ドォン!!


 凄まじい衝撃が胸を打つ。


 肺の中の空気が一瞬で吐き出された。


 身体が宙へ浮く。


 そして――


 ドガァァン!!


 俺は闘技場の石床へ激突した。


 冷たい石の感触が全身へ広がる。


 視界が回転した。


 空。


 観客席。


 すべてがぼやけて混ざり合う。


 耳へ飛び込んできたのは歓声だった。


 だが、それは勝利を称える声ではない。


「貧乏人の負け犬め!」


「ははは! みっともない!」


「その程度かよ!」


 嘲笑。


 罵倒。


 それらは身体の傷よりも深く胸を抉っていく。


 ゆっくりと顔を上げる。


 王族席。


 そこにはEvelynがいた。


 彼女は俯いている。


 小さな肩がかすかに震えていた。


 金色の髪が顔を隠している。


 だが分かった。


 彼女は涙を堪えている。


 ――まだだ。


 終わってない。


 司会者が手を上げる。


 敗北宣言をしようとしている。


 その瞬間、俺は闘技場の床を掴んだ。


 指先が震える。


 爪が石を引っかき、小さな音を立てる。


 残された力をすべて振り絞って。


 俺は立ち上がった。


 足が揺れる。


 今にも倒れそうだった。


 全身が悲鳴を上げている。


 それでも。


 俺は立つ。


「……俺は、まだ負けてない」


 掠れた声が闘技場に響いた。


 静寂。


 スタジアム全体が凍りつく。


 Takeoが足を止めた。


 目を細める。


 そして再び、侮蔑の笑みを浮かべた。


「まだ這い回るつもりか?」


 彼はゆっくりと近づいてくる。


 余裕。


 慢心。


 絶対的な自信。


 そして――


 その時、俺は見つけた。


 ほんの一瞬の隙。


 Takeoが影から現れる瞬間。


 影がわずかに不安定になる。


 見つけた。


 そこが弱点だ。


 俺はわざと隙を見せた。


 誘う。


 その間に、闘技場の床の一点へ静電気を流し込む。


 Takeoは薄く笑った。


 予想通り。


 一直線に突っ込んでくる。


 影の剣が振り上げられる。


 ――今だ!!


 俺は拳を握った。


 バチィィィィィッ!!


 青い雷光が地面から爆発した。


 荒れ狂う電流が影を伝い、Takeoの身体へと襲いかかる。


 彼の目が見開かれた。


 初めて。


 その自信に満ちた表情が崩れる。


 ドガァァァァァン!!


 青白い閃光が闘技場全体を包み込んだ。


 Takeoの身体が壊れた人形のように吹き飛ぶ。


 ガァァァン!!


 彼は外壁へ激突した。


 巨大な亀裂が壁一面へ走る。


 やがて。


 その身体は崩れ落ちた。


 動かない。


 静寂。


 聞こえるのは俺の荒い呼吸だけ。


 息を吸うたび、肺の奥が焼けるように痛む。


 さっきまで嘲笑していた観客たちは固まっていた。


 口を開け。


 目を見開き。


 誰も現実を理解できない。


 司会者ですら言葉を失っている。


 数秒後。


 震える声がようやく響いた。


「しょ、勝者……リュウ・セレスティアァァァッ!!」


 会場が再び騒然となる。


 だが今度も歓声ではない。


「まぐれだ!」


「インチキだろ!」


「CランクがAランクに勝てるわけがない!」


 ざわめきが乾いた草原を焼く炎のように広がっていく。


 候補者席では魔導師たちの顔が赤く染まっていた。


「どうしてだ!?」


「俺が相手なら一秒で終わらせてた!」


 誰もこの結果を受け入れられない。


 俺はゆっくりと顔を上げる。


 王座の上。


 Evelynは立ち上がっていた。


 先ほどまで曇っていた顔は、今や眩しい笑顔に包まれている。


 その瞳は輝いていた。


 周囲の視線など気にも留めず、彼女は両手を大きく振って俺へ声援を送っている。


 その笑顔を見た瞬間。


 身体を覆っていた疲労が少しだけ消えた気がした。


 その隣で。


 Merlin王は静かに微笑む。


(この少年……実に面白い)


 力だけならCランク相当。


 だが、その精神力。


 敵の弱点を見抜く分析力。


 それは多くの魔導師を遥かに凌駕していた。


(実に……見事な子だ)


 だが――


 その勝利の余韻は長くは続かなかった。


 ドン。


 ドン。


 ドン。


 重い足音。


 その一歩ごとに闘技場が震える。


 会話が止まる。


 空気が凍る。


 一人の巨漢が候補者席へ姿を現した。


 身長は二メートル近い。


 筋骨隆々の肉体。


 その存在だけで空気が重くなる。


 血のように赤い殺気が霧となって身体を包んでいた。


 背負った巨大な戦槌からは凶悪な圧迫感が溢れている。


 ――Kurogane。


「情けねぇな。あんな女みてぇな男一人倒せねぇとは、王国魔導師の名が泣くぞ」


 低く重い声。


 胸の奥まで震わせるような響き。


 誰一人として反論できない。


 Kuroganeの視線がゆっくりとEvelynへ向く。


 口元が歪む。


「この大会は俺が勝つ」


「戦争司令官の座も、Evelyn姫も……全部俺のものだ」


 小さな笑い声。


 だが、それこそが恐ろしかった。


 やがてその目が俺へ向けられる。


 治療を受ける俺を。


 その視線は敵意ではない。


 もっと濃く。


 もっと醜い感情。


 嫉妬。


 会場中の男たちの中でも、ひときわ目立つ俺の容姿。


 それが彼の胸を激しく苛立たせていた。


 彼にとって脅威なのは俺の力ではない。


 俺の顔だった。


 Evelynの視線を奪いかねない存在。


 それが許せない。


 Kuroganeはまるで獲物を見つけた怪物のような目で俺を見つめる。


「次に会ったら、あの女みてぇな男を叩き潰してやる」


 低い呟き。


 だが、その場にいた誰もが身震いした。


 殺気はさらに深まる。


「――俺が殺してやる」

「この物語をここまで続けてこられたのは、ひとえに皆さんの応援のおかげです。もし各話を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークと評価をお願いします。こうした皆さんのあたたかいサポートが、次のお話を書くための大きな励みになります。この物語の旅路に寄り添ってくださり、本当にありがとうございます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ