表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された特異点:意識を失うと最強の神の力が俺を支配する。誰も知らない、この体こそが世界を救う鍵であることを  作者: Riang Perdana
第一章 ヘブリー星の王女を救おうとしたら、なぜか異世界に飛ばされて記憶まで失っていた件
2/25

第一章 第二部 ―― 記憶喪失(2)

ゆっくりと瞼を開く。


ぼやけていた視界が徐々に焦点を取り戻し、そこに映ったのは古びた大聖堂の高い天井だった。


石造りの天井には精巧な彫刻が刻まれている。


空間を支配しているのは圧倒的な静寂。


ほんの僅かな物音でさえ、この何百年も存在し続けてきた石壁に呑み込まれてしまいそうだった。


俺は冷たい床の上に横たわっていた。


身体が重い。


まるで全身の力を根こそぎ奪われたかのようだった。


「……ぁ」


小さな呻きが漏れる。


その瞬間――


激痛が頭を貫いた。


まるで巨大なハンマーで何度も殴りつけられているような痛み。


視界が再びぐらりと揺れる。


俺は顔を歪めながら頭を押さえた。


――何があった?


――どうして俺はここにいる?


記憶を探ろうとする。


どんな些細なことでもいい。


何か一つでも思い出せれば――


そう思った。


だが。


何もない。


本当に何もなかった。


思い出そうとするたび、そこにあるのは空白だけ。


記憶そのものが消え去っている。


そして何より恐ろしいことに――


俺は自分の名前すら思い出せなかった。


まるで人生そのものを丸ごと削り取られたような感覚。


過去が存在しない。


自分が何者なのかさえ分からない。


だが目覚めた直後から、一つだけはっきりと感じていることがあった。


嫌な予感だ。


理由は分からない。


それなのに、この大聖堂の空気に触れているだけで全身の本能が警鐘を鳴らしていた。


――ここから逃げろ。


――今すぐに。


この場所は――


危険だ。


「……外に出ないと」


俺はふらつきながら立ち上がった。


意識を取り戻したばかりの脚は震え、身体中の筋肉が力を失っている。


それでも周囲を見渡す。


大聖堂の奥。


そこには巨大な黒い木製の扉があった。


俺は急いで駆け寄る。


取っ手を掴み、力いっぱい引いた。


動かない。


今度は押してみる。


やはり反応はない。


残された力をすべて込める。


それでも――


びくともしなかった。


その時、理解する。


「……閉じ込められているのか」


思わず舌打ちした。


「くそっ……」


拳を強く握り締める。


「どうして何も思い出せないんだ……」


苛立ちを抑えきれず、前髪をかき上げる。


頭痛が消えてくれれば何か思い出せるかもしれない。


そんな淡い期待を抱いた。


だが結果は同じだった。


記憶は戻らない。


一つも。


欠片さえも。


「鍵を探さないと……」


「もうこの場所にはいたくない」


俺は振り返った。


その時だった。


コツ……


コツ……


コツ……


二階から足音が響いた。


身体が硬直する。


目が見開かれた。


「誰かいる……?」


心臓が急激に鼓動を速める。


考えるより先に身体が動いていた。


隠れなければ。


大聖堂の礼拝堂には長椅子が整然と並び、その先には祭壇がある。


左右には内部へ続く石造りの回廊。


だが足音はどんどん近づいてきていた。


迷っている時間はない。


俺は素早く長椅子の陰へ身を滑り込ませる。


そして隙間から慎重に様子を窺った。


「ねぇ……あなたぁ……」


「もう目を覚ましたかしら? ふふっ」


女性の声だった。


甘く。


優しく。


柔らかい。


それなのに。


背筋が凍り付く。


何かがおかしい。


その声には説明できない不気味さがあった。


俺は息を殺しながら左側の回廊を見つめ続ける。


そして数秒後――


一人の女性が姿を現した。


全身が強張る。


その女性は大聖堂の中央に立っていた。


人を魅了するほど美しい。


それでいて圧倒的な威圧感を放っている。


深い紫色の髪は美しくまとめられ、数本の髪が完璧な顔立ちを彩っていた。


紫水晶のような瞳。


まるで世界の秘密すべてを知っているかのような自信に満ちた眼差し。


濃紫色のコルセットドレスには豪華なレースと銀細工が施されている。


露わになった肩の白さは衣装の闇色と鮮やかな対比を描いていた。


黒い透け布が重なった長いスカートが歩くたび静かに揺れる。


優雅で。


美しく。


そして恐ろしい。


首元には紫の宝石が嵌め込まれたチョーカー。


さらにその隣には、小さな蝙蝠が一匹。


忠実な従者のように漂っていた。


「あなたぁ……どこにいるのかしら?」


「もしかして、私とかくれんぼしてるの?」


彼女はくすりと笑う。


軽い笑い声。


だが俺の喉は乾ききっていた。


本能が叫んでいる。


――見つかるな。


――絶対に。


俺は反射的に両手で口を塞いだ。


少しの呼吸音すら漏らしたくない。


女性は歩き始める。


ゆっくりと。


長椅子の間を進みながら。


コツ……


コツ……


コツ……


靴音が静寂の中に響く。


そして近づいてくる。


確実に。


「ふふっ」


「あなた、かくれんぼが好きなのね」


「いいわ。なら私が見つけてあげる」


足音は止まらない。


むしろ距離は縮まっていく。


冷や汗が額を伝った。


「ちゃんと隠れていてね、あなた」


「私をがっかりさせないでちょうだい?」


「あはははっ」


笑い声が大聖堂全体へ響き渡る。


俺は唇を強く噛んだ。


見つかるな。


頼むから――


彼女は長椅子の列を一つずつ確認していく。


まるで獲物を探す捕食者のように。


「どこかしら?」


その声は。


もうすぐ近くだった。


長椅子の隙間から見える。


紫色のドレスの裾。


そして彼女の足が。


俺の隠れている場所から数歩の位置で止まった。


ドクン――


心臓が大きく跳ねる。


鼓動がうるさい。


聞こえてしまうんじゃないかと思うほどに。


静寂が戻る。


数秒。


いや。


数時間にも感じられた。


そして――


「見ぃつけた♡」


冷たい声が頭上から降ってきた。


俺は顔を青ざめさせながら見上げる。


視線が交わる。


ほとんど距離のない至近距離で。


紫色の瞳が。


まっすぐ俺を見下ろしていた。


その瞬間――


本当に。


心臓が止まったような気がした。

「この物語をここまで続けてこられたのは、ひとえに皆さんの応援のおかげです。もし各話を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークと評価をお願いします。こうした皆さんのあたたかいサポートが、次のお話を書くための大きな励みになります。この物語の旅路に寄り添ってくださり、本当にありがとうございます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ