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追放された特異点:意識を失うと最強の神の力が俺を支配する。誰も知らない、この体こそが世界を救う鍵であることを  作者: Sayu
第一章 ヘブリー星の王女を救おうとしたら、なぜか異世界に飛ばされて記憶まで失っていた件
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第一章 第一部 ―― 記憶喪失?

肺が焼けるように熱かった。


俺はひたすら走り続けていた。


果ての見えない闇の森をかき分けながら。


鋭い枝が服を引き裂き、棘だらけの茂みが容赦なく肌を傷つける。凍てつく夜気は骨の髄まで突き刺さったが、そんな痛みでさえ胸を支配する不安には到底及ばなかった。


見つけなければならない。


俺にとって、何よりも大切な人を。


彼女は連れ去られた。


姿を消した。


だから何があろうと――


必ず助け出さなければならない。


乱れた呼吸を無視して、さらに速度を上げる。


胸は苦しく、脚は限界に近い。


それでも立ち止まることなどできなかった。


もし間に合わなければ――


俺は失うことになる。


自分にとって大切な存在を。


いや、それだけじゃない。


彼女は、この惑星そのものにとっても重要な存在なのだから。


やがて――


俺の足が止まった。


息が詰まるほど静まり返った森の中心。


虫の鳴き声さえ存在しない。


見上げれば、黒い壁のような巨木が空を覆い隠していた。


そして――


木々の隙間から、一人の女性がゆっくりと姿を現した。


心臓が大きく跳ねる。


彼女は――


エヴリン・グレイス。


俺が探し続けていた女性だった。


その美しさはいつだって気品に満ちていた。


だが同時に、どこか冷たい。


まるで誰にも近づかせまいとするかのような距離感を纏っている。


腰を越えるほど長い黒髪。


その髪の奥には淡いシアンの輝きが隠れており、光を受けるたび神秘的な光彩を放っていた。


普段なら優しさを宿している空色の瞳。


しかし今は違う。


そこには深い悲しみだけが沈んでいた。


肩を露わにした白いドレスが夜風に揺れる。


頭上には青い宝石をあしらった黒いティアラ。


首元には星のペンダントが静かに輝いていた。


相変わらず気高く、美しい。


それなのに――


なぜだろう。


ひどく遠い存在に見えた。


「エヴリン」


俺は呼びかけた。


だが――


彼女は振り向かない。


眉がひそまる。


何かがおかしい。


あの虚ろな瞳。


俺を無視して歩き続ける姿。


すべてが不自然だった。


「エヴリン……」


すると彼女は足を速めた。


そして、森のさらに深い闇へと駆け出していく。


考えるより先に身体が動いていた。


俺もすぐに後を追う。


「おい、エヴリン! 待て! どこへ行くんだ!?」


「ここは危険だ! 一緒にここから離れよう!」


「何があったんだ!?」


息を切らしながら叫ぶ。


すると数秒後――


彼女は立ち止まった。


その目の前で。


ゆっくりと紫色のポータルが開いていく。


闇色の光が渦を巻き、周囲の空間そのものを呑み込んでいるかのようだった。


俺も思わず足を止める。


異様な光景に視線が釘付けになった。


そして。


エヴリンが振り向く。


だが――


その瞳は俺の知るものではなかった。


何も映していない。


完全な虚無。


彼女は一言も発することなく、そのままポータルへ足を踏み入れた。


「え……?」


俺は数秒間、その場に立ち尽くした。


だが。


俺は彼女を助けるためにここまで来たんだ。


一人で行かせるわけにはいかない。


俺は残された勇気を振り絞り、ポータルへ飛び込んだ。


その瞬間――


想像を絶する激痛が全身を襲った。


まるで生きたまま皮膚を剥がされているようだった。


見えない圧力が四方八方から身体を押し潰す。


異常な重力が容赦なく俺を引き裂こうとする。


体内のエネルギーは数秒で枯渇した。


意識が飛びそうになるほどの苦痛。


そして――


俺の身体は勢いよく放り出された。


ドォン!!


地面へ激突する。


なんとか顔を上げた瞬間。


俺は息を呑んだ。


目の前には。


漆黒の城が幾重にも連なり、天へ届くほど高くそびえていた。


不吉な瘴気が漂い、全身の毛が逆立つ。


空は暗赤色に染まり。


巨大な赤い月が王国の上空に浮かんでいる。


だが――


俺を凍り付かせたのは、その景色ではなかった。


先ほどまで追いかけていた女性。


彼女はもう、エヴリンではなかった。


そこに立っていたのは。


圧倒的な美貌と威圧感を併せ持つ、一人の見知らぬ女性だった。


深い紫色の髪は美しくまとめられ、数本の髪が完璧な顔立ちを縁取っている。


紫の瞳は確信に満ちていた。


まるで俺自身さえ忘れている何かを知っているかのように。


濃紫色のコルセットドレス。


繊細なレースと銀の装飾。


露わになった肩は雪のように白く。


黒い透け布が重なったロングスカートは、優雅さと不気味さを同時に演出していた。


首元には紫水晶のチョーカー。


そして小さな蝙蝠が一匹。


まるで従者のように彼女の隣を漂っている。


俺は立ち上がろうとした。


しかし身体が異常に重い。


この世界の重力は未だ俺を押し潰していた。


膝が再び地面につく。


力が入らない。


呼吸一つするだけで苦痛だった。


女性は静かな足取りで近づいてくる。


「だ、誰だ……。エヴリンはどこだ?」


すると彼女は妖艶に微笑んだ。


「あら、あなたったら。どうしてそんなにエヴリンのことばかり気にするの?」


「それとも……私じゃ魅力不足かしら?」


顔が近づく。


近い。


近すぎる。


吐息が肌に触れるほどに。


背筋がぞくりと震えた。


なぜだろう。


この女性の顔に見覚えがある気がした。


どこかで会ったことがある。


そんな感覚だけが残っている。


だが思い出そうとするたび、頭が激しく痛んだ。


「頼む……エヴリンがどこにいるのか教えてくれ!」


俺は無理やり立ち上がろうとする。


だが次の瞬間


ドンッ!!


見えない衝撃が身体を打ち据えた。


再び吹き飛ばされる。


膝をつき、地面へ叩きつけられた。


「どうしてさっきから、他の女の話ばかりするのかしら?」


彼女の瞳が変わる。


空気が震えた。


息が苦しくなるほどの禍々しい魔力が周囲を満たしていく。


「今は私がここにいるでしょう?」


「だから……これからは私があなたの傍にいてあげる」


白い指先が優しく俺の顎を持ち上げた。


冷たい。


だが、その冷たさが余計に恐怖を掻き立てる。


「狂ってる……お前は狂ってる……」


すると彼女はくすりと笑った。


「ふふっ」


「ええ。きっと、あなたの想像以上にね。――愛しい人」


その笑みは美しかった。


だが決して安心できるものではない。


理性を失った者だけが浮かべる笑顔だった。


心臓の鼓動が加速する。


恐怖。


混乱。


不安。


すべてが入り混じり、思考が麻痺していく。


その時。


彼女の掌に濃密な紫色の魔力が集まり始めた。


渦を巻きながら膨れ上がるエネルギー。


放たれる圧力だけで地面が震える。


「ごめんなさい、あなた」


「少しだけ痛いわ」


「でも大丈夫」


「これから私たちは、永遠に二人きりで幸せになれるんだから――ふふふっ、あははははっ!」


―――BOOOOOM!!!


回避する暇などなかった。


凄まじい衝撃が全身を貫く。


激痛。


視界が回る。


音が消える。


世界が遠ざかっていく。


光が。


少しずつ。


消えていく。


残ったのは


闇。


すべてを呑み込む闇だけだった。


そして意識が完全に途切れる直前。


脳裏に浮かび続けたのは、たった一つの疑問。


あの女性は、一体何者だったのか。


そして、俺はこの先どうなってしまうのか。

「この物語をここまで続けてこられたのは、ひとえに皆さんの応援のおかげです。もし各話を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークと評価をお願いします。こうした皆さんのあたたかいサポートが、次のお話を書くための大きな励みになります。この物語の旅路に寄り添ってくださり、本当にありがとうございます!」

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