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追放された特異点:意識を失うと最強の神の力が俺を支配する。誰も知らない、この体こそが世界を救う鍵であることを  作者: Sayu
第一章 ヘブリー星の王女を救おうとしたら、なぜか異世界に飛ばされて記憶まで失っていた件
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第一章 第十一部――ロスト・リアリティ次元(8)

アベラントたちの咆哮が空を震わせた。


大地が再び激しく揺れる。


そして――数千もの怪物たちが動き出した。


一斉に、俺たちへ向かって。


黒い波。


それはまるで地平線の彼方から死の海そのものが押し寄せてきたかのようだった。


数千の足音が容赦なく地面を叩き、大地そのものが脈打つ。土煙が舞い上がり、湿った土の匂い、血の臭気、腐臭にも似た瘴気が鼻腔を焼いた。


巨大な熊。


虎。


獅子。


そして赤い瞳を灯した紫のローブを纏う人型。


その瞳に宿るものはただ一つ。


――殺意。


俺とエリシアは一瞬だけ視線を交わした。


言葉は必要なかった。


同時に地面を蹴る。


俺たちは肩を並べて走り出した。


踏み込むたび、ひび割れた地面が砕ける。


鼓動は激しい。


だが足は止まらない。


戦場はいつしか、一つの死の舞踏へと変わっていた。


横から飛びかかってきた虎型アベラント。


牙が目前に迫る。


俺は腰を落とした。


――ザァッ!!


低く振り抜いた剣閃が、怪物の胴を水平に断ち切る。


鮮血の代わりに紫の粒子が舞った。


その身体は俺に触れることすらできず、上下に分かれて崩れ落ちる。


その瞬間。


背後を銀髪が駆け抜けた。


エリシア。


夜風に踊る銀髪。


赤い外套。


彼女の剣が閃く。


――キィィン!!


紫のローブを纏った人型の大鎌が弾かれる。


火花が灰色の空気を染めた。


エリシアはそのまま身体を優雅に回転させる。


舞うような剣筋。


その一閃が敵を大きく後退させた。


俺たちは互いに指示を出さない。


俺が道を切り開く。


エリシアが死角を刈り取る。


まるで最初から二人で戦うことが運命づけられていたかのように。


「エリシア! ヴォラを狙え!!」


金属音の中で俺は叫んだ。


「リュウ様、しゃがんでください!」


考えるより先に身体を落とす。


その背中へ。


エリシアの足が軽く触れた。


次の瞬間。


彼女は宙へ舞い上がる。


羽根のように軽く。


時間がゆっくりと流れ始めた。


眼下には蠢く怪物の海。


その中心を、一筋の紅い光が天へと昇っていく。


「失礼します、リュウ様」


その囁きは戦場の轟音にかき消されそうなほど小さかった。


だが。


空中へ到達したエリシアの顔が徐々に青白くなる。


呼吸は荒い。


指先が微かに震えていた。


命の力が。


少しずつ。


確実に奪われている。


それでも。


彼女の瞳だけは真っ直ぐヴォラを見据えていた。


両手を掲げる。


空気が震える。


二つの掌の間に赤い光球が集まり始めた。


紅い稲妻が四方へ走る。


空気が裂ける音が耳を刺し、背筋を凍らせた。


「――レナ・クリムゾン・バースト!!」


紅蓮の光が天から落ちる。


――BOOOOOOM!!


赤い閃光が戦場すべてを飲み込んだ。


衝撃波が全方位へ爆発する。


大地が裂けた。


巨木が根元から吹き飛び、まるで枯れ枝のように空へ舞う。


数十体のアベラントが宙へ打ち上げられ、無様に回転しながら地面へ叩きつけられた。


黒煙が立ち上る。


視界が完全に閉ざされる。


数秒間。


誰の姿も見えない。


やがて煙が薄れていく。


そして俺は目を見開いた。


ヴォラ。


彼女はそこに立っていた。


微動だにせず。


その周囲には紫色の結界が展開されている。


傷一つ。


亀裂一つない。


一方で。


俺たちの周囲にはエリシアが展開した赤い障壁が存在していた。


彼女は自らの魔法で俺たちを守っていたのだ。


「あははははは!」


ヴォラの笑い声が空に響く。


「すごいわ、エリシア……本当にすごい」


紫の障壁がゆっくり消えていく。


しかし。


悪夢は終わらない。


吹き飛ばされたアベラントたちが立ち上がっていく。


腕を失った者。


身体が裂けた者。


それでも誰一人止まらない。


這い。


立ち上がり。


再び走り出す。


痛みを知らない亡者のように。


「素晴らしいわ、エリシア。本当に素晴らしい」


ヴォラの声は静かだった。


だからこそ恐ろしい。


その一言一言が氷の刃となって空気を切り裂く。


彼女はゆっくり歩く。


まるでこの戦場そのものが娯楽の舞台であるかのように。


俺は即座にエリシアの前へ立った。


剣を握る手に力が入る。


指先が白くなるほど。


だが。


ヴォラは俺を見ない。


彼女の視線は最初から最後までエリシアだけを見つめていた。


ゆっくりと掌を掲げる。


濃密な紫のエネルギー。


渦巻き。


軋み。


空間そのものを圧迫する。


呼吸すら苦しくなるほどの重圧。


――パリン。


エリシアの赤い結界が砕け散った。


巨大な槌で叩き割られた硝子のように。


「エリシア!!」


彼女の身体が傾く。


俺は慌てて抱き留めた。


軽い。


あまりにも軽い。


胸が激しく上下している。


息が苦しそうだ。


まるでこの世界に彼女のための空気が存在しないかのように。


「ヴォラ!! エリシアに何をした!! やめろ!!」


俺は叫んだ。


「ふふ……ねえ、あなた……どうしてそんなにその子を守ろうとするの?」


その笑みが吐き気を催させる。


次の瞬間。


エリシアの身体が大きく震えた。


背中が反る。


指先が自分の胸を強く掴む。


関節が白くなるほど。


「あああぁぁぁっ!!」


悲鳴。


その声が耳を貫いた。


彼女の身体が俺の腕の中で激しく震える。


「ヴォラ……頼む……やめてくれ!!」


声が掠れる。


もう見ていられない。


「あら、いいわよ。やめても」


ヴォラは首を傾げた。


笑みがさらに深まる。


「でも条件があるわ」


その言葉が。


毒となって心臓へ流れ込む。


「あなたが私のものになること。それだけよ」


俺は動けなかった。


迷い。


苦しみ。


絶望。


その時。


弱々しい手が俺の腕を掴む。


視線を落とす。


エリシアだった。


青白い顔。


震える唇。


だがその瞳だけは、まだ折れていない。


「……リュウ様……」


呼吸が途切れ途切れになる。


「彼女は……悪魔です……もし降伏したら……すべてを壊します……お願いです……彼女の側へ行かないで……」


「嫌だ!! こんな苦しみ方をしているお前を見捨てられるわけがない!!」


視界が滲む。


涙が零れそうになる。


遠くではアベラントたちの咆哮が再び響いている。


近づく。


どんどん。


死そのものが歩いてくるように。


「私の命は……もう長くありません……」


エリシアの声はかすれていた。


戦場の音に飲み込まれそうなほど小さい。


「私のために……すべてを失う必要なんて……ありません……」


胸が締め付けられる。


息ができない。


肺の中に砕けた硝子を押し込まれたようだった。


「世界には……リュウ様が必要です……」


涙が白い頬を伝う。


「私は……ただの未熟な魔法使いです……もし私が死んでも……世界は回り続けます……」


「違う!!」


俺は歯を食いしばった。


「俺はあの子たちと約束したんだ!!」


喉が裂けそうになる。


「お前を守るって約束したんだ!!」


エリシアは儚く微笑んだ。


壊れてしまいそうな笑み。


「私たちのわがまで……あの人たちを失いたいですか……?」


俺は黙る。


その通りだ。


迷えば。


その分だけ誰かが死ぬ。


その重みが肩にのしかかる。


重い。


あまりにも。


まるで無数の山が同時に落ちてきたかのようだった。


記憶を失う前の俺は。


きっと何度もこういう選択をしてきたのだろう。


だが。


今回だけは。


あまりにも苦しい。


「私の力は……もうありません……」


すすり泣く声。


「お願いです……みんなを……この呪いから……救ってください……」


ヴォラが再び歩き出す。


希望を失っていく獲物を楽しむ捕食者のように。


「ねえ、あなた」


その笑みが広がる。


「答えは決まった?」


世界が揺れる。


胸が苦しい。


鼓動が耳を叩く。


この選択は。


呪いだ。


「俺は……」


震える声。


だが。


少しずつ。


その声に力が戻っていく。


俺は顔を上げた。


ヴォラを真っ直ぐ見つめる。


「俺は――この狂った遊びを終わらせる。ヴォラ」


「……へぇ?」


ヴォラの紫のオーラが爆発した。


凄まじい圧力が戦場全体を覆う。


空気が凍りつく。


その瞬間。


「ああああぁぁぁっ!!」


再びエリシアの悲鳴が響いた。


その声が雷のように意識を打ち砕く。


俺はうつむく。


震える手で彼女を抱き締めた。


怒り。


悲しみ。


絶望。


すべてが胸の中で混ざり合う。


見えない刃が何度も心臓を刺し。


ゆっくりと抉り。


エリシアの痛みを無理やり味わわせてくる。


そして――


生まれて初めて。


俺は心の底から思った。


自分は、これほどまでに無力なのだと。

「この物語をここまで続けてこられたのは、ひとえに皆さんの応援のおかげです。もし各話を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークと評価をお願いします。こうした皆さんのあたたかいサポートが、次のお話を書くための大きな励みになります。この物語の旅路に寄り添ってくださり、本当にありがとうございます!」

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