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絶対零度の演算と銀の渇望(後半)

この作品はAIによる文章生成を使用しています。

「……勝つためなら、どんな方法でも構わないんだろうな」


確認ではない。それは、これから行う行為への一方的な宣告だった。

幸太の静かな声に、氷雨は一瞬の戦慄を覚えた。だが、彼女の明晰な頭脳は、極限状態にあってもなお、目の前の現象を定義し、代償を見積もろうと演算を止めない。


「ええ。この際、多少のリスクは覚悟の上です。たとえ――っ、な、にを……ッ!?」


幸太がその顔をわずかに傾け、一気に距離をゼロにした瞬間。

氷雨の論理的な思考は、物理的な衝撃によって無残に断絶した。

言葉を紡ごうとしていた彼女の唇に触れる、温かくも暴力的なほどの「糖分」。


「ん、んんっ……!? ――ふ、あ……ッ」


驚愕に目を見開いた氷雨の隙間を突き、幸太の舌が迷いなく侵入する。

脳を直接灼くような高純度のエネルギーが、絡み合う舌尖から、交換される熱い唾液を介して、彼女の体内へと奔流となって流れ込んだ。


(な、に……? ……っ、あ、あああ……っ!!)


極限の糖分摂取により、彼女の思考は凍りついていくようにどこまでも冷静に、澄み渡っていく。だが、それとは正反対に、身体は内側から熱く溶けそうなほどの熱を持ち始め、心臓は先程の異形との戦闘を遥かに超えるほど、うるさく、激しく鳴り響いていた。


戦闘時でさえ殆ど動くことのなかった氷雨の表情は、今や高熱の糖分によってドロドロに溶かされ、あどけなさを残した唇からは熱い吐息が漏れる。冷徹な観測装置だった無機質な瞳はトロンと濁り、幸太から与えられる「銀の毒」への陶酔に浮かされていった。


脳波計があれば、おそらく針が振り切れていただろう。

銀の糸が引くほどに深く、執拗に貪られる感覚。精密機械のように凍てついていた彼女の身体が、今はただ、彼から与えられる快楽に塗りつぶされていく。


「んっ、ふ……ん、んぅ……ッ!」


感情の起伏を一切排して生きてきたこれまでの自分は、もうどこにもいない。氷雨は抗うどころか、自らその「毒」を渇望し、幸太の口内に溢れる甘い唾液を最後の一滴まで貪り尽くそうと、必死に、そして卑しく舌を伸ばした。


乏しかったはずの感情表現は、彼の舌を激しく、そして執拗に絡め取るという行為によってのみ、爆発的に表出する。与えられる熱を、甘さを、支配を――。氷雨は壊れた機械のように、ただひたすらに幸太の口腔を侵略し、自らを塗りつぶしていく。


幸太の唇から流し込まれた『理論値』の熱源が、氷雨の神経系を瞬時にジャックする。

今まで必死に演算し、積み上げてきた数式が、より高次な「答え」として視界に固定された。幸太の網膜が捉える世界の構造、彼が演算する「確定した未来の線」が、氷雨の脳に直接焼き付けられていく。


「あ……が、はぁ……っ! すごい……世界が、止まって見える……」


羞恥に染まっていた氷雨の顔から劇的に温度が消え、一転して極限の集中による白磁のような冷徹さが宿る。その銀色の瞳には、透き通るような青い燐光が灯っていた。


(……見える。勝利への、最短経路が)


今まさに突進してくる二十七トンの質量。氷雨は思考の瞬きよりも早く、以前とは比較にならない密度で空気を圧縮した。放たれたスパイクが真空のレールを引き、カナブンの足の節をピンポイントで粉砕する。

突進の慣性が、構造上の弱点を突いた正確な一撃によって激しく乱れ、カナブンは大きく怯む。同時に、異能による推進力も僅かに弱まった。


「――確信しました。これなら、外さない」


減速しながらも迫りくる絶望の質量に対し、氷雨はさらに膨大な圧縮空気の塊を生成する。幸太の『ガイド』が示す勝利の特異点――カナブンの頭部斜め上と、腹部の直下。


「開放」


氷雨の短い呟きと共に、大気が爆ぜた。

上空からの不可視の圧力がカナブンの頭を地面に叩きつけ、コンマ数秒のラグを置いて腹部の空気が牙を剥く。頭部を支点に、二十七トンの巨体がまるで玩具のように鮮やかに反転し、無防備な腹部を天に晒して転がった。


だが、カナブンはその腹部さえも鋼鉄以上の装甲で覆っている。通常の風の異能では、どれほど出力を上げようとこの「盾」を貫くことは叶わない。


(……いいえ。風で貫く必要などない)


幸太の冷徹な声が、直接脳内に響く。

『――決着だ』


言葉による説明は不要だった。共有された思考が、次に行うべき「最適解」を導き出す。

氷雨は強化された異能を全開にし、カナブンを包み込むように巨大な『球形の檻』を構成して大気を強制固定した。そして、その中心点から一気に空気を引き抜く。


急激な断熱膨張――。

物理法則が悲鳴を上げるほどの熱奪取により、球体の中には一瞬で絶対零度の嵐が吹き荒れた。


「ギ、……ッ……」


咆哮を上げる間もなかった。

さしもの重装甲種も、分子運動を強制停止させる超低温の前には無力だ。紅潮していた血管も、強固な外殻も、瞬く間に白く凍りつく。球体の中に僅かに残っていた空気さえも、その極低温に耐えきれず液体へと変貌して異形の甲殻の上を流れる。

氷雨は再び、スパイクを放った。狙いは、完全に凍結し、構造的な粘りを失った腹部の中心。


パギィィィィィィン!!


先ほどまでの苦戦が嘘のように、ガラス細工が割れるような、あまりにも硬質で無機質な音を立てて、スパイクはカナブンを易々と貫通した。

衝撃は凍てついた肉体の中を順番に伝っていき、全身に網目状の亀裂が走る。


次の瞬間、巨大なカナブンの身体は、自重を支えることさえできずに崩落。数十万の結晶となって粉々に砕け散った。


夕闇の中、ダイヤモンドダストのようにキラキラと輝く異形の残骸が、静かに地面へ降り注ぐ。


静寂


氷雨は幸太のすぐ傍らで、ゆっくりと彼の方へ向かって振り返った。

その四肢は微かに、だが確かな熱を帯びて震えている。それは過剰な出力を放出した反動か、あるいは――脳を直接蹂躙された、抗いようのない「快楽」の名残りか。

「……佐藤くん。私、は……」


幸太を見上げる氷雨の瞳は、任務を完遂した達成感よりも、脳の芯まで焼き付いた『供給』のあまりに甘美な余韻に、激しく揺れ動いていた。

無機質な幸太の視線と重なるには、彼女はあまりに小柄だった。だが、その身長差ゆえに、見上げる彼女の視界は幸太という存在だけで容易く塗りつぶされる。


氷雨は震える指先で自分の唇に触れた。

加速した思考が、冷徹に「次の供給」を望んでいる。組織の任務も、世界の危機も、すべてが二の次になるほどの『甘い侵食』が、彼女の合理性をじわりと溶かしていた。


切りの良い所まで1日1話更新していきます。

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