二人の転校生
この作品はAIによる文章生成を使用しています。
あの路地裏の惨劇から、三日。
佐藤幸太は、以前と変わらぬ足取りで私立高校の門を潜った。
あの夜、幸太を包囲していた不気味な追っ手たちは、目的を果たしたかのように霧散し、直後に駆けつけた警察官によって彼は保護された。30分程度の事情聴取。現場は、薬物中毒で理性を失った男が罪のない少年を襲おうとし、その最中に何らかの異常で「自滅」した凄惨な事故現場として処理された。幸太は解放され、何食わぬ顔で自宅へと帰り、そして今日、平然と登校している。
だが、その視界は決定的に変質していた。
校庭を駆ける運動部の足音は、筋肉の収縮率と疲労度を示すグラフとして。すれ違う教師の小言は、声帯の震えから推測されるストレス指数として。
世界はもはや、情緒ある風景ではなく、解析を待つだけの「情報の海」と化していた。
「よお幸太! おはよう。お前、なんか今日テンション低くねーか? まさか、またゲームしてて寝ないで学校来たのかよ」
クラスメイトであり、数少ない友人でもある茂部が、いつもの軽い調子で肩を叩いてきた。以前の幸太なら「まあな、ランクマが止まんなくてさ」と笑って返していただろう。だが、今の彼にとって、その会話はあまりに非生産的だった。
「……おはよう、茂部。別に、いつも通りだ」
「いつも通りって……。お前、目つきがヤバいぞ? なんかこう、冷え切ってるというか。悩みでもあるなら聞くぜ?」
茂部が心配そうに顔を覗き込んでくる。その親愛の情すら、今の幸太には「無駄な語彙の選択」を強いるノイズでしかない。
「必要ない。それより、予鈴が鳴るまであと百二十秒だ。早く席に着くことを勧める」
「……あ、ああ。分かったよ、なんだよ急に真面目になりやがって」
突き放すようなそっけない返答に、茂部は困惑した表情を浮かべて自分の席へと戻っていった。
静まり返った教室に、朝礼を告げるチャイムが鳴り響く。それと同時に担任の教師が入室し、教卓を叩いた。
「皆さん、今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。……さあ、入って」
担任の言葉と共に、二人の少女が教室へ足を踏み入れ、教室中にどよめきが走った。
「初めまして。朱鷺沢烈華です。前の学校とは雰囲気が違って緊張しちゃうけど……早く皆さんと仲良くなれたら嬉しいです」
腰まで届く鮮やかな赤みの差した長髪をツーサイドアップに結い、165cm程度の身長に、制服の上からでも分かる発育の良い肢体。目元に引かれた朱色のアイシャドウが、彼女の華やかさを一層際立たせている。烈華は少し顔を赤らめ、はにかむような笑顔を振りまいた。その天真爛漫な「美少女転校生」の演技に、男子生徒たちは一瞬で心を射抜かれる。
対照的に、隣に立つ銀髪ボブの少女は、150cmほどの小柄な体躯で、どこか幼さを感じさせる風貌だった。透き通るような白い肌に、感情を一切排した無機質な声。
「銀城氷雨です。よろしくお願いします」
可憐な笑顔を振りまく烈華と、人形のように無機質な氷雨。正反対の美少女二人にクラスが騒然とする中、担任が淡々と告げる。
「二人の席は佐藤くんの両隣ですね。教壇から見て右の席が朱鷺沢さん、左の席が銀城さんです。仲良くするように」
烈華はクラスの誰もが見惚れるような笑顔を浮かべたまま、幸太の隣へ歩み寄る。彼女は椅子に座ると同時に、内緒話でもするように幸太の耳元に唇を寄せた。
その瞬間、それまでの柔和な様子とは打って変わり、強気で鋭いトーンへと変貌する。
「(……三日前のあの事件。あんたが男を殺したこと、こっちは全部知ってるのよ。放課後、屋上で話があるから。絶対に来なさいよ? ――砂糖中毒者))」
猫をかぶった仮面の裏側で、赤い瞳がギラリと光る。
すると間髪入れず、反対側——いつの間にか音もなく隣に立っていた氷雨が、幸太の制服の袖をぎゅっと掴んだ。
「佐藤くん。彼女の言葉は法的なリスクを孕んでいます。安心してください。私があなたを、法的に、物理的に、そして肉体的に……『徹底管理』いたします」
二人の美少女に囲まれ、火花が飛び散る中、幸太はただ一人、窓の外を眺めていた。
彼はまだ自覚していない。
理論値天才糖を摂取し、もはや人間を超越した「餌」となった彼を目指して、異界の狭間から悍ましい何かが這い出そうとしていることを。
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その後、何事もなかったかのように授業は進んでいった。
昼休憩、転校生二人の周りには瞬く間にクラスメイトが群がり、熱気を含んだ人だかりができていた。
だが、その中心からわずかに離れた席で、幸太は周囲の喧騒に目もくれず、一冊の本に没頭していた。以前なら茂部たちと下らないゲームの話で盛り上がっていたはずの彼が開いているのは、量子力学か、あるいは高度な計算幾何学か——素人目に見ても理解不能な数式が並ぶ、分厚い専門書だ。
クラスメイトたちは、主役である二人の美少女に夢中で、隅で読書に耽る幸太の異質さなど、気にした様子もなかった。
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やがて放課後。
氷雨は担任から「提出書類に不備がある」と突然の呼び出しを受け、不服そうに唇を噛みながら職員室へと向かっていった。
それは烈華が所属する非政府組織、『アグニ』の工作員による巧妙な妨害工作だった。
表向きは巨大薬品メーカーとして運営されている彼らは、中濃度までの『天才糖』を異形からの知覚から遮断する特殊物質の製法を独占している。政府ですら、製造効率が悪く危険な政府の研究所製のモノよりも、アグニが供給する高品質な低濃度天才糖に依存せざるを得ないのが現状だ。
その独占的な権力を背景に、アグニは政府の監視をすり抜け、独自のネットワークを校内にまで張り巡らせている。氷雨という「邪魔者」を遠ざけるよう、烈華が事前に組織へ指示を出していたのだ。
対して、氷雨が所属するのは政府直属の対異形特殊部隊『IA(Intelligence Agent)』。
異界の脅威を秩序で封じ込めようとする国家の盾。だが、皮肉なことに、その盾の運用ですらアグニの供給する特殊物質なしには成り立たない。
アグニのボスであり、烈華の父でもある男は、天才糖が持つ未知の可能性に病的なまでに魅せられていた。彼らが狙うのは、政府が厳重に保管していたはずの、理論値100%に限りなく近い天才糖『原液』。
そして今、その「至宝」を意図せず体内に宿してしまった唯一の人間――佐藤幸太を巡り、二つの組織が音もなく火花を散らしている。
何も知らない一般生徒たちが下校のチャイムに浮き足立つ中、幸太は面倒だと思いつつも、一人屋上へと向かう。
鉄扉を開けると、そこには風に赤みがかった髪をなびかせた烈華が待っていた。
「やっと来たわね。……あんたさ、このまま普通に過ごせるとでも思ってるの? 自覚しなさいよ。あんたにはこれから、とんでもない不幸が降りかかるんだから。三日前に何が起きたか、あんたはこれっぽっちも理解していないでしょうけど」
烈華が予言者のように言い放つ。だが、幸太は表情を変えず、わずかに鼻で笑った。
「不幸? 随分と非科学的なことを言うんだな。俺の脳は常に最善の未来を演算している。お前風に言うなら――俺に不幸は起こりえない。理解していないのではなく、理解する必要がないだけだ」
「なっ……」
その傲慢とも取れる冷静さに烈華は一瞬眉をひそめたが、すぐに口角を吊り上げ、ニヤリと笑った。
「ふん、生意気な奴。……ちょうどいいわ。あんたのその演算に、【コレ】は含まれてるのかしら?」
烈華が、何もない屋上の空を指さす。
直後。
青い空が飴細工のようにグニャリと歪んだ。
空間の裂け目から這い出してきたのは、悪夢を具現化したような怪物達——『アント』。
見た目はオオクロアリに似た形状をしているが、本来外骨格に覆われているはずの場所は、剥き出しの赤黒い筋肉が複雑に絡み合い、その表面を太い血管が脈打っている。
頭部には左右非対称に配置された5つの目があり、その無機質な輝きは蜘蛛を思わせる。そして腹部の背中側からは、異質な銀色の角が鋭く生えていた。
体高0.6m、全長3.0mを超える異形が、幸太から漏れ出す強烈な甘い匂いに狂い、次々と現世へと溢れ出した。




