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EP 13.

偽物の出現! 「コピー丼」の脅威

帝都に『丼亭よしき』の香りが定着し始めた数日後のことである。

良樹が朝の開店準備として、カウンターの奥行きをミリ単位で調整(※ただのこだわり)していると、店の外から耳慣れない喧騒が響いてきた。

「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! これぞ美食ギルドが総力を挙げて再現した、真の帝都名物『ギルド特製・黄金肉丼』だ! 価格は……驚きの銀貨二枚(二百円相当)!」

「なっ……!?」

良樹は雑巾を握りしめたまま、マッハの速度で店を飛び出した。

通りの真向かい。昨日まで空き家だった一等地に、派手な装飾を施した新店がオープンしていた。看板には、良樹の店のロゴを露骨に意識したような、筆文字の「肉」という文字が躍っている。

「マルセル殿……あれは一体、何でござるか!?」

「ヨシキ様……申し訳ございません。美食ギルドが、当店のレシピを模倣した類似店を強引に開店させたようです。しかも、当店のほぼ半額という、あからさまな価格競争を仕掛けてきております……!」

マルセルの悔しげな報告に、良樹の顔面は蒼白になった。

(か、価格競争……! 帝都進出早々に、ライバルチェーンによる『ワンコイン戦争』の勃発でござるか!? しかもあっちの方が圧倒的に安い……これは、かつての新宿南口駅前における牛丼三社割拠時代を彷彿とさせる、血で血を洗う安売り合戦の再来でござるよぉぉッ!!)

良樹の脳内では、すでに「閉店」の二文字が巨大なネオンサインとなって点滅していた。

「……ふん。面白いじゃないか。アタイらの味を盗めるもんなら、盗んでみやがれってんだ」

厨房から出てきたモウラが、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「せやせや。ワイらの秘伝のタレは、ヨシキはんが『ポイント』ちゅう怪しい力で出しとる魔薬(化学調味料)の塊や。そこらの料理人が真似できるわけあらへんで」

ロードも、屋根の上で欠伸をしながら高みの見物を決め込んでいた。

だが、現実は残酷だった。

「銀貨二枚」という圧倒的な安さに釣られ、昨日まで『丼亭よしき』に並んでいた客たちが、雪崩を打って向かいのギルド直営店へと吸い込まれていく。

「よし……偵察マーケット・リサーチでござる! マルセル殿、あちらの『コピー丼』を一つ、買ってきていただくでござる!」

数分後。良樹の前に差し出されたギルドの『黄金肉丼』。

見た目は、確かに牛丼だ。薄切りの肉、煮込まれた玉ねぎ。美食ギルドが誇る最高級の牛肉を使用しているらしく、肉の質感だけなら良樹の店よりも上に見える。

良樹は震える手で、その肉を口に運んだ。

「…………」

咀嚼すること数回。良樹の眼帯の奥の瞳が、静かに見開かれた。

「マルセル殿。……これは、ただの『煮込んだ肉を乗せた飯』でござる」

「と、仰いますと?」

「パンチ(旨味)が……圧倒的に足りないでござる。奴らは良質な素材を使えば美味いと思っている。だが、牛丼の本質は『中毒性』。脳の報酬系を直接殴りつけるような、あの暴力的なアミノ酸のオーケストラが、この丼には一音も含まれていないでござるよ!」

良樹は、確信した。

ギルドの料理人たちは、天然の出汁コンソメや高級な塩に頼りすぎている。対して良樹の牛丼は、善行ポイントで召喚された「地球の食品科学の結晶(化学調味料入り醤油)」と「門外不出の粉末出汁」によって構築された、味覚の迷宮なのだ。

案の定、異変はすぐに起きた。

「……ん? なんだ、これ。最初は美味いと思ったが……三口目から飽きてくるな」

「味が……なんていうか、薄い。丼亭の、あのガツンと来る『何か』がないんだよな」

向かいの店から出てくる客たちの顔に、満足感がない。

さらに、美食ギルドは大きなミスを犯していた。

「コスト削減」と「大量生産」を急ぐあまり、牛肉の血抜きやアク取りを怠り、さらには回転率を上げるために米を半煮えで提供し始めたのだ。

「う、うぷっ……なんか、気分が悪いぞ。胃が重い……」

「向かいの店の丼は、いくら食べても元気になったのに、ここのは……ただ油っぽいだけだ!」

粗悪なコピー品を、強引なオペレーションで提供した結果。

『黄金肉丼』を食べた客たちが、次々と不快感を訴え、どんよりとした顔で店を後にする。

そこへ、良樹が店の前に立ち、中二病のポーズで高らかに宣言した。

「フハハハ! 偽りの黄金に惑わされ、胃袋を汚した哀れな仔羊(お客様)たちよ! 拙者が今、真なる『浄化(滅菌)』の味を教えてやるでござる!!」

良樹はシステムを操作し、ポイントを惜しみなく投入して、ある「薬味」を大量に召喚した。

「ルナたん! 風魔法で、この『極上の口直し』の香りを、向かいの店まで届けるでござる!」

「了解。――清涼の風、吹き荒れなさい!」

良樹が差し出したのは、キンキンに冷えた**『特製・浅漬け(お新香)』と、ポイント産の『最高級・黒烏龍茶』**。

その爽やかな香りと、脂を分解する「化学の力」が通りの空気を一変させた。

「あ……あの香り……! 胃のムカムカが消えていくようだ……!」

「やっぱりあっちだ! 暗黒男爵の店こそが本物なんだ!!」

ギルドの店を飛び出した客たちが、救いを求めるように再び『丼亭よしき』へと行列を作り始めた。

「フ……クレーマー(競合他社)に塩を送るほど、拙者は甘くないでござるよ」

良樹が不敵に笑う後ろで、向かいのギルド直営店では、激怒した客たちが「金を返せ!」と暴徒化し始めていた。

模倣はできても、その背後にある「お客様(胃袋)への執念マニュアル」まではコピーできなかった美食ギルド。

良樹が「価格競争に勝った!」と喜んでいる間に、帝都の闇ではさらなる不穏な計画――「味」で勝てぬなら「衛生(病)」で陥れるという、卑劣な罠が動き出そうとしていた。

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