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EP 8

魅惑の3分チャージ! 竜撃砲の「威嚇射撃」

アルデン領の境界線、広大な芋畑へと続く平原。

土煙を上げて殺到する数百の傭兵(盗賊)団『赤き牙』の前に、たった三つの影が立ち塞がっていた。

「ヒャハハ! なんだあいつら、女子供とトカゲが一匹! 轢き殺して畑を燃やせェ!」

顔に傷のある頭目が下卑た笑いと共に号令をかける。

しかし、次の瞬間、彼らの嘲笑は絶望の悲鳴へと変わった。

「誰がトカゲやねん!! 燃やされるのはお前らの方じゃボケェェッ!!」

賢竜ロードが空へ舞い上がり、強靭な顎から『大火炎メガ・フレア』を放射する。炎の壁が平原を分断し、先頭を走っていた盗賊たちが一瞬にして黒コゲになって吹き飛んだ。

「オラオラァッ! アタイの芋畑メシに指一本でも触れてみろ! 腕ごと引きちぎってやるよ!!」

モウラが、闘気を纏った鎖付きメイスを竜巻のように振り回す。重装甲の傭兵たちごと、数十人がボーリングのピンのように宙を舞う。もはや戦闘ではなく、一方的な蹂躙である。

「風よ、貫け! ルナ・ショット!」

ルナの放つ魔法矢が、後方で指示を出そうとする小隊長クラスの急所を的確に射抜いていく。

「な、なんだこいつら!? バケモノかよ!」

「話が違うぞ! ただの田舎の農村じゃねぇのか!?」

圧倒的な暴力の前に、数百人の盗賊団は完全に足止めを食らっていた。

***

一方、その阿鼻叫喚の最前線から遠く離れた、芋畑の後方にある小高い丘の上。

佐須賀良樹は、一人で巨大な魔工兵器『竜撃砲』を肩に担ぎ、冷や汗を流しながらも不敵な笑みを浮かべていた。

(よし! モウラたん達が完璧にラインコントロール(入場規制)をしてくれているでござる! やはり持つべきものは優秀なバイト(猛者)でござるな!)

良樹の狙いは、盗賊団の殲滅ではない。

彼らを直接撃てば、過剰防衛でこちらが「悪」になってしまう(という平和ボケした現代日本の感覚が抜けていない)。

良樹が竜撃砲の巨大な砲口を向けたのは、盗賊団の頭上を越えた遥か後方――アルデン領とバルサック領の境にある、赤茶けた不毛のハゲ山だった。

(あんな岩だらけのハゲ山、吹き飛ばしても誰の迷惑にもならないでござる! あの山を木っ端微塵にして派手な爆発カラーボールを見せつければ、ヤバいクレーマー共もチビって逃げ帰るに決まっているでござるよ!)

「いくでござるよ! 竜撃砲、エネルギー充填チャージ開始ィィッ!!」

ギュイィィィィィン……!!

砲身のルーン文字が眩く発光し、周囲のマナを猛烈な勢いで吸い上げ始める。

古竜戦では誰にも待ってもらえなかった「魔の3分間」。しかし今、前線は仲間たちが完璧に抑え込んでいる。誰にも邪魔されない、至福の変形・合体シークエンスの始まりだ。

「メインジェネレーター、臨界出力へ移行! セーフティロック、第一、第二、解除!」

良樹は、竜撃砲の側面の何もない空間を、目にも留まらぬ速さでタイピングする(※完全なるエア操作である)。

「目標、後方のハゲ山! 風向きヨシ! 湿度ヨシ! 弾道計算……パーフェクトでござる!」

(※竜撃砲にそんな高度な計算機能はない)

ガシャンッ!!

「姿勢制御固定! アンカーボルト、地中へパージ!!」

良樹が力強く右足を踏み鳴らす(※ただの足踏みである)。

丘の上で、一人で謎の叫び声を上げながらパントマイムを繰り広げ、青白く発光する大砲を構える男。

前線で戦っていた盗賊たちも、その異様な光景に気づき始めていた。

「お、おい! なんだあの丘の上の男……!」

「凄まじい魔力の奔流だ! あれが、噂の成り上がり男爵か!?」

盗賊たちが恐怖に顔を引きつらせる中、良樹の脳内タイマーが、ついに「3分」の経過を告げた。

「フハハハハ! 待たせたな、クレーマーども! 当店(アルデン領)のセキュリティの高さを、その目に焼き付けるが良いでござる!」

良樹は、中二病の眼帯(古竜戦の後に新調した二代目)をギラリと光らせ、竜撃砲の引き金に指をかけた。

「喰らえ! 究極の威嚇射撃(ダークネス・防犯・バズーカ)!! 発射ああああぁぁぁぁッ!!!」

――ドッゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

良樹の肩から、鼓膜を破るような爆音と共に、極限まで圧縮されたマナの奔流が極太のレーザーとなって撃ち出された。

光の濁流は、盗賊団の遥か頭上を通り越し、一直線に目標である後方の「不毛のハゲ山」へと着弾する。

ピカァァァァァァッ!!!

太陽が地上に落ちたかのような目眩まし閃光。

直後、大地を揺るがす大爆発が巻き起こり、巨大なキノコ雲が空高く舞い上がった。爆風が平原を駆け抜け、盗賊団の足元を大きく揺さぶる。

「フ、フハハハハ! 見たかでござるか! これが拙者の力でござる!」

良樹は、砲口から白煙を上げる竜撃砲を担ぎながら、丘の上で完璧なドヤ顔をキメていた。

(よし! 誰もいないハゲ山は見事に消滅したでござる! これで暴徒どもも戦意喪失間違いなし……ん?)

良樹がドヤ顔のまま前線を見下ろすと、そこには異様な光景が広がっていた。

数百人の盗賊団全員が、良樹が吹き飛ばしたハゲ山の方を振り返り、武器を取り落として、絶望で顔を真っ青にしていたのだ。

特に、顔に傷のある頭目などは、膝から崩れ落ちて白目を剥いている。

「あ……あぁ……」

頭目が、震える声で呟いた。

「俺たちの……俺たちの『隠し砦』が……」

「……へ?」

丘の上の良樹から、間抜けな声が漏れた。

「昨日、他の連中から略奪してきたばかりの財宝も! 留守番してた残りの子分たちも! 俺たちが何年もかけて岩山をくり抜いて作った、あの絶対不可侵の本拠地が……山ごと消し飛びやがったぁぁぁっ!?」

盗賊たちが、頭を抱えて泣き叫び始めた。

そう。良樹が「誰もいない不毛のハゲ山」だと思って威嚇射撃の的にしたその山こそ、バルサック子爵の資金援助によって作られた、盗賊団『赤き牙』のメインベース(本陣)だったのだ。

「ひぃぃぃぃっ!?」

良樹は丘の上で、内心パニックを起こしていた。

(や、やっちまったでござる! ただの威嚇のつもりが、相手の実家(本陣)をピンポイントで更地にしてしまったでござるぅぅ! これじゃあ威嚇どころか、血も涙もない極悪非道な先制攻撃テロでござるよぉぉ!!)

しかし、前線の盗賊たちから見れば、良樹のその行動は「戦慄の知将」のそれであった。

「あ、悪魔だ……! あの男爵、俺たちがここへ攻め込んでくるのを完全に読んで、俺たちが前線に釘付けになっている隙に、空き家になった本陣を山ごと消し飛ばしやがったんだ……!」

「退路も、帰る場所も、最初から全て断たれていたって言うのか……! なんて恐ろしい男だ!」

盗賊たちの戦意は、文字通り「完全に」消滅した。

チャリン、チャリンと、次々に武器が地面に捨てられていく。

「こ、降伏だぁぁっ! 命だけは……命だけはお助けをぉぉ!!」

頭目を筆頭に、数百人の荒くれ者たちが、丘の上の良樹に向かって一斉に土下座(五体投地)を始めたのである。

「えっ……あ、うん。……フ、フハハ! 賢明な判断でござるな! これに懲りたら、二度と当アルデン店(領)に近づかないことでござるよ!」

良樹は、冷や汗を滝のように流しながらも、必死に足の震えを隠し、竜撃砲を担いだまま中二病の笑い声を響かせた。

こうして、バルサック子爵が放った最凶の武力は、良樹の「魅惑の3分チャージからの、まぐれ本陣爆砕」によって、たった一発の砲撃(と恐ろしい勘違い)の前に無血開城させられたのであった。

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