EP 7
逆ギレの武力行使! 盗賊(傭兵)団の襲撃
バルサック領の暗がりにある、隠し砦。
そこには、血と酒の匂いが染み付いた、数百人規模の荒くれ者たちがたむろしていた。バルサック子爵が裏で飼っている私兵――実質的には、帝国法で裁ききれない汚れ仕事を引き受ける悪名高き傭兵(盗賊)団『赤き牙』である。
「……話は分かったな、頭目よ」
バルサック子爵が、山積みにされた金貨の袋をテーブルに叩きつけた。
「アルデン領の広大な芋畑をすべて焼き払え。そして、あの偏屈ドワーフ、ドンガフの工房を破壊し、成り上がり男爵の首を刎ねろ! 空からのデリバリーなどというふざけた真似が二度とできんよう、徹底的に蹂躙してやるのだ!」
子爵の目は、嫉妬と憎悪で完全に血走っていた。
自領の経済が崩壊しつつある今、もはや体裁を取り繕っている余裕はない。武力でアルデン領の生産拠点(厨房)を物理的に破壊し、すべてを灰燼に帰すという強硬手段に出たのである。
「ヒャハハ! 任せときな、子爵様。農民どもの悲鳴を聞くのは大好物でね。あの生意気な男爵の首、ポテトとやらと一緒にこんがり揚げて進ぜよう」
顔に大きな傷のある『赤き牙』の頭目が、残忍な笑みを浮かべて長剣を舐め上げた。
***
「ヨ、ヨ、ヨシキ様ァァァッ!! 緊急事態でございますゥゥッ!!」
アルデン領の執務室。良樹が「ポテチの袋に空気を多めに入れて内容量を誤魔化す(シュリンクフレーション)」という、地球の悪しき食品業界のテクニックを導入すべきか真剣に悩んでいた時、マルセルがかつてないほどの悲鳴を上げて転がり込んできた。
「ど、どうしたでござるかマルセル殿! そんなに慌てて! まさかポテトの揚げすぎで油が引火したでござるか!?」
「違います! 武装した数百人規模の盗賊団が、領地の境界を越えて一直線にこちらへ向かってきております! 奴らの狙いは……恐らく、当領の要である『芋畑』と『ドンガフ殿の工房』です!!」
「……は?」
良樹の手に持っていたコンソメ味のポテトが、ポトリと床に落ちた。
「す、数百人の武装集団……? 芋畑と工房を狙っている……?」
良樹の脳内で、中二病の思考回路が凄まじい勢いで「現代の飲食業界のトラブル」へと変換(誤訳)されていく。
(数百人規模の襲撃……! つまりこれは、ライバルチェーン店が裏で雇った反社か、あるいはデリバリーの遅延にブチギレた『超・極悪クレーマーの集団暴動』ということでござるな!? そして奴らの狙いは、当店の在庫(芋畑)と厨房設備(工房)の物理的破壊!!)
深夜のワンオペ時代、酔っ払いの大学生グループ(数人)に店内で暴れられただけでも死ぬほど怖かったのに、今回は数百人である。
「ひぃぃぃぃぃっ!! 警察(帝国騎士団)! 警察を呼ぶでござるぅぅ!! 防犯カメラの映像を保存して、店のシャッターを下ろすでござるぅぅッ!!」
良樹は完全にパニックになり、執務室の机の下に潜り込んでガタガタと震え出した。
「ヨシキ! 何を情けねぇ声出してんだ!」
バンッ! と扉が開き、完全に戦闘狂の顔になったモウラが、両手に武器を構えて入ってきた。
「おい、数百人の盗賊団が来たってな! 久々に血沸き肉躍る大乱戦じゃねぇか! アタイとロードで、奴らをミンチにしてやるぜ!」
「左様でっせ! 領民の畑荒らすような輩は、ワイのブレスでこんがり炭火焼きにしたるわ!」
ロードも窓の外を飛び回りながら、鼻息を荒くしている。
「みんな、油断しないで! 相手はプロの傭兵みたいよ! でも、私たちの領地(お店)は絶対に守り抜いてみせるんだから!」
ルナも愛用の弓に矢を番え、決意に満ちた表情で頷いた。
仲間たちの頼もしい姿。
しかし、机の下で震える良樹の心には、別の強烈な感情(社畜としての責任感)が湧き上がっていた。
(い、いや待つでござる。いくらモウラたんたちが強くても、数百人を相手に店舗(領地)の中で大立ち回りを演じられれば、確実に店内(畑や家屋)の備品が巻き添えになって破壊される……! それだけは……在庫の損失(ポテチの供給停止)だけは、絶対に避けねばならないでござる!!)
良樹は、ブルブルと震える足を両手で叩き、無理やり立ち上がった。
そして、部屋の隅に布を被せて厳重に保管してあった『ある物』へと歩み寄る。
「ヨシキはん? 何する気や?」
ロードが不思議そうに首を傾げる。
「……店舗の備品(畑)を守るのが、店長(領主)の務めでござる」
良樹が布をバサァッと払い退けると、そこにはドンガフが作り上げた最強の魔工兵器、あの黒鉄連峰での古竜戦で全く見せ場の無かった巨大バズーカ――『竜撃砲』が鈍い光を放って鎮座していた。
「拙者が……拙者が対処するでござる!」
良樹は、自分の背丈ほどもある重厚な竜撃砲を肩に担ぎ上げ、眼帯の奥の瞳に狂気(防犯への執念)を宿らせた。
「モウラたん、ロード殿、ルナたん! 貴殿らは前線で、あの悪質クレーマーどもが畑に指一本触れられないように足止め(ラインコントロール)を頼むでござる! その間に拙者が……この『対クレーマー用・究極防犯カラーボール(竜撃砲)』で、奴らに目に物見せてやるでござるよ!!」
「ガハハ! カラーボールって何だか知らねぇが、お前が腹を括ったんなら上等だ! 存分にぶっ放しな!」
モウラが嬉しそうに斧を鳴らす。
「よしっ! 全員、出陣でござる!!」
良樹は重い大砲を引きずりながら、決死の覚悟で執務室を飛び出した。
(ヤバい奴らには、店に入る前に『威嚇』して追い返すのが一番でござる! 拙者のロマン砲で、誰もいない空き地(ハゲ山)に一発ド派手な空砲(威嚇射撃)を撃ち込んで、クレーマーどもをビビらせて帰してやるでござるよ!!)
古竜戦での屈辱を晴らすべく。そして何より、愛する在庫を守るべく。
勘違い男爵・良樹の、3分間におよぶ魅惑のチャージタイムが、今度こそ戦場に木霊しようとしていた。




