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EP 5

悪徳子爵の陰謀と、深夜バイトの防衛線

応接室での「究極のテイスティング」から数日後。

バルサック子爵は自領に戻っていたが、その頭の中はあの「黄金の芋」と「黒い甘露コーラ」の強烈な味覚で満たされていた。

しかし、ただのジャンキーで終わらないのが悪徳貴族たる所以である。

(あの芋……あの悪魔的な美味さは、確実に帝国全土の貴族と平民を虜にする。あれを我がバルサック家の独占販売にできれば、計り知れない富と権力が手に入る……!)

子爵は、自室の豪奢な椅子に深く沈み込み、不気味な笑い声を上げた。

「おい! アルデン領に通じる街道をすべて封鎖しろ! そして、アルデン領から出る商人には、積荷の価値の十倍という法外な関税をふっかけろ! あそこを陸の孤島にして音を上げさせ、あの成り上がり男爵から、ポテトとコーラの利権を丸ごとタダで奪い取ってやる!」

子爵の悪辣な命令により、アルデン領への経済封鎖(兵糧攻め)が静かに、しかし確実に始まったのである。

***

「ヨ、ヨシキ様! 一大事でございます!」

アルデン領の執務室。良樹が「のり塩マヨネーズ」という更なる悪魔的ディップソースの開発に勤しんでいると、再びマルセルが血相を変えて飛び込んできた。

「隣領のバルサック子爵が、アルデン領に通じる主要な街道に関所を設け、完全封鎖いたしました! 当領の商人が外へ出ようとすれば、難癖をつけられて荷を没収されるか、法外な関税を要求されます! これは紛れもない、我が領に対する『兵糧攻め』です!」

「……な、なんだと!?」

良樹は、マヨネーズのボトルを握りしめたまま、ワナワナと震え出した。

「せっかく新メニューのテイスティング(監査)に大満足して帰ったはずなのに……なぜそんな嫌がらせを!? そうか……分かったでござるよ、マルセル殿」

良樹の眼帯の奥の瞳が、かつてないほどの鋭い光を放った。

「バルサック子爵マネージャー……いや、あいつは監査員などではなかった。隣のエリアで覇権を握る『ライバルチェーン店の悪徳オーナー』だったということでござるな!」

「えっ? チェーン店……?」

マルセルが首を傾げるが、良樹の思考は完全に「深夜のファストフード抗争」の枠組みに切り替わっていた。

「当アルデン店(領)の新メニューの圧倒的な集客力を恐れ、店舗へのアクセスルート(街道)を物理的に封鎖し、不当な価格競争(関税)を仕掛けて客足を遠のかせる……! なんという悪質極まりない営業妨害(コンプライアンス違反)でござるか!!」

良樹はバンッ! と机を叩いた。

「ヨシキのやつ、また変なスイッチが入ったわね……」

執務室の入り口から顔を出したルナが、呆れたようにため息をつく。その後ろでは、モウラとロードが新メニューのポテトをシャクシャクとかじりながら見物していた。

「ヨシキ様。このままでは、領内で収穫した芋が外に売れず、経済が死んでしまいます。バルサック子爵の横暴を、皇帝陛下に訴え出ますか?」

マルセルが切迫した声で尋ねる。

「フフフ……焦る必要はないでござる、マルセル殿」

良樹は、白エプロンを風もないのにバサァッと翻した。

「お客様が店舗(領地)に来られないように妨害されている。ならば答えは一つ……こちらから、お客様の元へ直接『デリバリー(出前)』するまででござるよ!!」

「でりばりー……? それは、一体どのような戦術で?」

マルセルが期待に満ちた目を向ける。

「簡単なことでござる。街道が封鎖されたのなら、道を使わなければ良い」

良樹は、ポテトを口いっぱいに頬張っている一匹のトカゲ……もとい、賢竜へとビシッと指を突きつけた。

「ロード殿!! 貴殿の『空飛ぶ機動力』と、モウラたんの『圧倒的な物理・防犯力』をお借りしたいでござる!」

「……ん? ワイか?」

ロードが、口の周りにコンソメの粉をつけながら首を傾げた。

「空から直接、隣領の平民たちの元へ『丼亭よしき・特製ジャンクフードセット』を投下(販売)する! 名付けて……『異世界ウーバー・ロード』の結成でござる!! 奴の領地の胃袋を、上空から直接制圧してやるでござるよ!!」

「ガハハ! 面白ぇじゃねぇか! つまり、空からアタイらが弁当売りに行くってことだな!」

モウラがメイスを肩に担ぎ直して大笑いする。

「左様! 街道の関所など、上空を飛び越えてしまえばただの木組みのオモチャでござる! バルサック店の悪質な営業妨害に、最強の直販ルートで逆襲してやるでござるよ!」

良樹の放った「斜め上の対抗策(デリバリー戦略)」により、悪徳子爵の兵糧攻めは、物理的に全く意味のないものになろうとしていた。

深夜バイトの防衛線は、ついに空の領域へと拡大したのである。

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