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EP 4

会食という名の胃袋蹂躙テロ

アルデン領の館、応接室。

バルサック子爵はふかふかのソファに深く腰を下ろし、豚のような鼻を鳴らしてふんぞり返っていた。

「フン。成り上がり男爵め。どうせ豚の餌のような、泥臭い塩茹で芋が出てくるに決まっておる。一口食べて吐き捨て、『このような物を領民に食わせるとは統治能力なし』と断定して、この領地の利権を丸ごと乗っ取ってくれるわ」

子爵が意地悪な笑みを浮かべていると、ガチャリと恭しく扉が開いた。

「お待たせいたしましたぁっ!! 当アルデン領が誇る、秋の新メニューの試食テイスティングでございます!!」

完璧なファミレス店員スマイルを顔面に貼り付けた良樹が、仰々しく銀のワゴンを押して入室してきた。

その後ろには、万が一の事態に備えて斧を隠し持ったモウラと、冷ややかな目をしたルナが護衛(という名の監視)として控えている。

「フン、持ってきたか。さぁ、その『黄金の芋』とやらを拝ませてみろ」

良樹がワゴンの上の銀のドーム型のクロッシュをパカッと開けた。

「はいっ! こちらが当領の最高傑作……『メガ盛りフライドポテト(コンソメ&のり塩のハーフ&ハーフ)』と、至高の魔法薬水『コーラ』のセットでございます!!」

ドンッ! とテーブルに置かれたのは、山のように盛られた二色の細長い揚げ芋。そして、ガラスのジョッキの中でパチパチと炭酸の泡を弾けさせている、氷がたっぷり入った漆黒の液体だった。

「……は?」

バルサック子爵は、目をパチクリと瞬かせた。

「なんだこの茶色い木の枝のようなものは……? それに、この泥水のように黒く泡立つ液体はなんだ! 貴様、私に毒を盛る気か!?」

「と、とんでもございません!」

良樹は慌てて揉み手をしてすり寄った。(※エリアマネージャーの機嫌を損ねてはならない)

「これは『コーラ』と申しまして、油で揚げた芋を最高の状態で味わっていただくための、いわば究極の口直し(チェイサー)でございます! 騙されたと思って、まずは一本、芋をお召し上がりくださいませ!」

バルサック子爵は怪訝な顔をしながらも、目の前から立ち昇る強烈に香ばしい油の匂いと、未知のスパイスの香りに抗えず、太い指で『コンソメ味』のポテトを一本摘み上げた。

(フン、所詮は芋だ。どれ、不味いと罵ってやるか……)

サクッ。

子爵の歯が、ポテトのカリッとした表面を破る。

その瞬間。

「…………ッ!!?」

バルサック子爵の脳髄を、落雷のような衝撃が貫いた。

パリッとした軽快な食感の中から、ホクホクの芋の甘みと熱い油が溢れ出す。しかしそれ以上に恐ろしいのは、表面にたっぷりまぶされた『悪魔のコンソメパウダー』の存在だった。

地球の食品メーカーが、人間が最も「美味い」と感じる塩分、糖分、そしてアミノ酸(うま味成分)の黄金比を科学的に計算し尽くして生み出した、究極のケミカル・パウダー。

異世界ファンタジーのオーガニックな味覚しか知らない貴族の舌に、そんな兵器級の旨味が直撃すればどうなるか。

「な、なんだこれはぁぁぁっ!?」

子爵は目をひん剥き、ワナワナと震え出した。

「い、芋の分際で、なぜ高級なオーク肉を三日三晩煮込んだような、強烈な旨味が爆発するのだ!? それにこの絶妙な塩気! 噛めば噛むほど、脳が『もっと、もっとだ!』と歓喜の叫びを上げている……!」

「バルサック様!? いかがなされましたか!」

護衛の兵士たちが慌てて駆け寄るが、子爵はそれを突き飛ばした。

「今度はこっちの、緑の粉(のり塩)がかかった方を……サクッ……うおおぉぉぉっ! 海の香りと、岩塩の暴力的なまでのパンチ力! これも信じられんほどに美味い!!」

無我夢中で両手を使ってフライドポテトを貪り食うバルサック子爵。すでに貴族の威厳など微塵もなく、ただの腹を空かせたオークのようだった。

「バルサックマネージャー! すかさず、その黒い液体コーラを流し込むのでございます!」

良樹が、すかさず合いの手を入れる。

子爵は言われるがまま、漆黒のコーラが入ったジョッキを掴み、喉の奥へと流し込んだ。

「グビッ、グビッ……! ぐはぁぁぁっ!!?」

今度は炭酸の刺激と、圧倒的な冷たさ、そして脳を直接溶かすような強烈な甘味が口の中を制圧した。

コーラの炭酸と甘味が、口の中に残っていたフライドポテトの油と塩気を完璧に洗い流し、口内環境をリセットしてしまう。

その結果どうなるか。

「油が……消えた……? いや、違う! この黒い甘露を飲んだことで、余計にあのしょっぱい芋が食べたくなってしまったではないかぁぁぁっ!!」

ポテトで塩分と脂質を摂取し、コーラで糖分を摂取しつつパレットを洗浄し、再びポテトを欲する。

これこそが、地球の映画館やファストフード店で無限に繰り返される、恐るべき『無限ジャンク・ループ(胃袋の蹂躙)』である。

「止まらん! 手が止まらんぞ! おい、男爵! おかわりだ! あの黒い水ももっと持ってこい! ゲプゥッ!」

バルサック子爵は、油と塩と青のりで顔中をドロドロにしながら、狂ったようにポテトとコーラを要求し始めた。

「かしこまりましたぁっ! メガポテトおかわり、コーラLサイズ一丁!!」

良樹は最高の接客スマイルで応え、厨房(中庭)へと指示を飛ばす。

(フハハハ! よしっ! エリアマネージャー、新メニューの仕上がりに大満足でござる! これで当アルデン店の監査は無事に乗り切ったでござるな!)

良樹が、全く見当違いのガッツポーズをキメている後ろで。

「……あの豚、完全にジャンクフードの奴隷ジャンキーに堕ちたわね」

ルナが、哀れなものを見る目で子爵を観察していた。

「あぁ。あんな油と砂糖の塊をがぶ飲みして、明日には血管が詰まって死ぬんじゃねぇか?」

モウラも、ドン引きしながら呟いた。

領地を奪うという野望はどこへやら。

悪徳子爵の邪悪な陰謀は、コンソメパウダーとコーラの圧倒的なケミカル暴力の前に、哀れなほどあっさりと粉砕されたのであった。

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