EP 2
異世界初のジャンクフード誕生! 悪魔の粉
「ヨシキ様! 豊作でございます! 黒鉄連峰の雪解け水と、ルナ様の風魔法による恩恵か、信じられない速度で『男爵芋』が育ちましたぞ!」
アルデン領の広大な中庭。
老執事のマルセルが、山のように積まれた泥付きの芋を前に、感極まった声を上げていた。
わずか数週間。異世界の肥沃な大地と魔法の力は、良樹の無茶な作付け計画(ポテチ量産計画)をあっさりと実現させてしまったのだ。
「フッフッフ……見事な男爵でござるな。マルセル殿、大儀であった」
良樹は、腕を組みながら山積みの芋を見下ろした。
その顔は中二病の余裕に満ちていたが、内心では(いくらなんでも育つのが早すぎるでござる! 異世界の農業どうなってんでござるか!?)と盛大にツッコミを入れていた。
「しかし、ヨシキ。いくら飢饉対策とはいえ、こんなに大量の芋、どうやって食うんだ? 茹でるか焼くかしかねぇだろ。アタイは肉が食いてぇよ」
モウラが、泥だらけの芋を無造作に拾い上げながら、不満げに鼻を鳴らす。
「せやせや。いくらヨシキはんの料理スキルが凄かろうと、芋は芋でっせ。肉や魚のガツンとした旨味には勝てまへんわ」
ロードも、太い尻尾を退屈そうに揺らしている。
「フハハハ! 浅い! 浅いでござるよ、お前たち!」
良樹は白エプロンをバサァッと翻し、右手の眼帯をスッと押し上げた。
「この宵闇の魔眼(深夜バイトの経験)を持つ拙者が、ただの茹で芋などという貧相なものを出すとでも思ったでござるか? 今から貴様らに、地球の叡智の結晶……『最強の悪魔食』を教えてやるでござる!」
良樹は、頭上のシステムウィンドウを開き、これまで貯め込んでいた善行ポイントを惜しげもなく投入した。
『ピコン。ポイント消費を確認。【業務用サラダ油(一斗缶)】【特製コンソメパウダー】【青のり&岩塩ブレンド】を召喚します』
ポンッ! と、中庭のテーブルに、ファンタジー世界にはおよそ似つかわしくない、銀色の一斗缶と怪しげな銀色の袋が出現した。
「ドンガフ殿に作ってもらった特大の鉄鍋に、油をたっぷりと注ぐでござる! ロード殿、火力調整を頼むでござるよ!」
良樹は、深夜の牛丼屋で玉ねぎをスライスし続けた神速の包丁捌き(ワンオペスキル)を限界まで解放した。
タタタタタタタタッ!!
目にも留まらぬ速さで、男爵芋が均等な薄切り(ポテトチップス用)と、拍子木切り(フライドポテト用)へと分断されていく。
「温度ヨシ! 投入でござる!」
ジュワァァァァァァァッ!!!
煮えたぎる油の中に大量のポテトが投下された瞬間、心地よい揚げる音と共に、香ばしい油の匂いが中庭いっぱいに弾けた。
「おおっ……!? なんだ、芋を油の海に沈めたぞ!?」
モウラが目を丸くする。
数分後。
黄金色にカラッと揚がったポテトを素早く引き上げた良樹は、それを巨大な麻袋の中に放り込み、召喚した『銀色の袋』をバサバサと振り入れた。
「仕上げは……こうでござる! シャカシャカシャカシャカッ!!」
良樹が狂ったようなステップを踏みながら麻袋を激しくシェイクする。
「完成でござる! これぞ、あらゆる民の理性を破壊する悪魔の黄金……『コンソメパンチ・ポテトチップス』と、『のり塩フライドポテト』でござるぅぅッ!!」
ドンッ! とテーブルに山盛りにされた、黄金色の揚げたてポテト。
立ち昇る油の香ばしさと、未知のスパイスの香りに、モウラたちの鼻がヒクヒクと動いた。
「油で揚げた芋……? まぁ、匂いは悪くないけど……」
ルナが、恐る恐る薄切りの一枚を手に取り、小さな口に運んだ。
パリッ。
軽快な咀嚼音が響く。
次の瞬間、ルナの瞳が限界まで見開かれた。
「…………ッ!!?」
「ど、どうしたルナ!? 毒でも入ってたか!?」
モウラが慌てて身を乗り出す。
「おい……しい……」
ルナが、ワナワナと震えながら呟いた。
「え?」
「美味しいいいいいっ!! なにこれ!? パリッとした食感の後に、お肉と野菜を何日も煮込んだみたいな、ものすごい強い旨味が舌にガツンと来るわ! 塩気も強くて、噛めば噛むほど……ダメ、手が止まらない!!」
ルナは、普段の可憐な姿からは想像もつかないような勢いで、両手でポテトチップスを貪り食い始めた。
「な、なんだと!?」
モウラも慌てて、拍子木切りのフライドポテト(のり塩)を鷲掴みにして口に放り込む。
サクッ、ホクッ。
「うおおおおぉぉぉッ!? なんだこの強烈な風味は! 芋のくせに、肉に負けねぇほどのパンチ(うま味調味料)が効いてやがる! 表面の塩と、この緑の粉(青のり)が、油の重さを中和して、無限に腹に入っちまうぞ!! 芋酒! 芋酒持ってこい!!」
モウラは完全に理性を失い、雄叫びを上げながらポテトの山に顔を突っ込んだ。
「アカン……アカンでヨシキはん……!!」
ロードに至っては、涙を流しながらポテチとフライドポテトを交互に口に放り込んでいた。
「こんな凶悪な塩分と旨味の塊、一度知ってしもうたら、もう普通の塩茹で芋なんか一生食えん体になってまうわ! ヨシキはん……あんた、とんでもない悪魔の粉をこの世に生み出してしもうたんやで!!」
たった数分で、テーブルの上のポテトの山は、ジャンキーと化した猛者三人によって跡形もなく消え去った。
それでも足りず、「おかわり!」「もっと揚げるでっせ!」「アタイに油を寄越せ!」と良樹に詰め寄る始末である。
「フ、フハハハハ……!!」
良樹は、完全にポテチの虜となった仲間たちを見下ろし、邪悪な高笑いを響かせた。
「圧倒的じゃないか、我が軍は! 地球の食品メーカーが血の滲むような研究の末に生み出した『化学調味料(アミノ酸等)』の暴力! 異世界人のピュアな味覚が耐えられるはずがないのでござる!!」
良樹のポテチ錬成は、その日のうちにアルデン領の領民たちにも振る舞われ、村中に「悪魔の黄金」の虜となる者が続出した。
飢饉対策(マルセル視点)として始まった芋の量産は、良樹の深夜バイトのノリにより、異世界初の「ジャンクフード依存経済」へと変貌を遂げようとしていた。
この時、良樹はまだ知らなかった。
この強烈な匂いと噂が、すぐ隣の領地でアルデン領を虎視眈々と狙う「悪徳子爵」の鼻腔をも、容赦なく刺激し始めていたことを――。




