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鎖の刻ー萌芽の集『鴉』

――鎖に縛られていた過去が語られ、やがて集い始める者たち。


繋がりゆく命の鎖は、

微睡みの中で揺れる魂を、次なる刻へと導いていく。


小さな“萌芽”が、やがて世界を揺るがす日まで――

『鴉』


森の木々達の小さな奇跡のおかげで、私達は迂回する事なく、目的地の小高い丘の上に到着した。

氷が『綺麗』と言った意味がよく分かる。ここからは、緑豊かな草原が見渡す事が出来る。爽やかな草原の風…気持ちが良い場所だ。

遥か先には、南と西を繋ぐ街道が望めた。この街道の道筋が南辺境伯が暴利を貪る場所に続くと思うと…イラッとするが、報告を聞いたアストロ宰相さんが、即効で潰してくれるだろう。今は、それを信じている。


綺麗な丘の上…その中腹に、遺体を埋葬する事に決めた。

マリンが埋める為の穴を掘る。マリンの怪力ならば、造作もないだろう。その間に、子苗達と白夜、ラプティスのポノで墓に供える花を摘みに行った。

本当ならば石碑を建てたい所だが…手頃な岩など周辺には見当たらない。木材で代用しようと、九尾、氷、白帝城の3株で太めの枝を採取する為に、森の中へ戻って行った。


私と魔剣、天使が、薄布に包み込また遺体の傍に、寄り添うようにして皆の帰りを待つ。

マリンは、せっせと穴を掘り進めている。魔剣が手伝うと進言したが、にべもなく却下された。

魔剣は、何かを思い詰めたような顔をして、草原を眺めている。そんな魔剣の後姿を、天使が心配そうに見ている。…何だろ、魔剣と天使の距離感が、いつもとは違うような気がする。

天使は気掛かりな事でもあるのだろうか?だったら、魔剣に話しかければ良いのに…。

魔剣の、何処か思い詰めたような顔も、何かを心配している天使の顔も…気にはなる。

けれど、私が口出しするような事でもないだろうと思って、今は静観しようと考えた。

まぁ、何かあったら…バンバン口出しするかもだけれど…。


皆が戻り…神妙な面持ちで、亡くなった子苗を埋葬する。

獣に荒らされないようにと、かなり深く掘ってある。遺体を地中に寝かせ、ポノが摘んだ小さな花を撒く。

皆で、少しづつ土を被せて穴を埋めていく…。先程まで、はしゃいでいた子苗達も…今は何も話さずに、黙々と土を被せる。子苗とはいえ、埋葬の意味を理解しているのだろう。

最後に、九尾達が調達してきた枝を、土饅頭に刺した。

太い枝の幹の一部だけ、外皮が剥がされていて、ナイフか何かで削って文字が書かれている。

『安らかに』

その一言だけだったが…それが、九尾らしいと感じた。

黙祷を捧げて…子苗達が摘んだ花を、皆で供えた。

これで、埋葬が完了だ。

私は、やはり何も出来ずに…ただ皆を見守るだけなんだなぁ。

ふわっと、風が空へと舞い上がる。

…きっと、幼い生命の欠片が、空へと昇って行ったのだろう。九尾の願いのまま…安らかな気持ちで。

そう思わせるような…優しい風が、小高い丘に吹いた。


私達はそのまま、なだらかな斜面を降りて、草原で休憩する事にした。

ラプティス達の綱を外してやると、子苗達を誘い、遊び出す。ラプティス達は本当に楽しそうで…暗い顔をしていた子苗が、あっという間に釣られたように笑い出す。

特に、『ポノ』は愛嬌があるから大人気みたいだ。身体が一番大きい『ラプちゃん』は、見守りながら、若草を食んでいる。警戒心の強い『ティス』は周囲の警戒を怠らない。『ギギ』に至っては…常に視野に魔剣の姿が入るようにしているみたいだ。

まぁ…雫を守りながら、修羅場にいた訳だから…気にするなと言っても無理だろう。

私は、白夜の膝の上で…ゴロゴロと寛いでいる。

…やっぱ、柔らかい女性の膝は最高だなっ!硬すぎず、適度な弾力で…こう、フィットする感じで。

それに、白夜からはいつも微かな香の匂いがする…花の香りだろうか?埃だらけになっても、着替えも持っていない白夜…それを気にしてか、九尾の傍に寄ろうとはしてないけど。全く、気にする必要が無いと思うなぁ〜。とても安らぐ、良い香りだ。九尾も白夜に膝枕でもして貰ったら、眉間の皺も薄くなるんじゃないか?

なんて…セクハラ紛いな考えをしていると、何処からか鴉の鳴き声が聞こえてきた。


さっきも森の中で鴉が鳴いて居たな…と思い出す。まぁ、鴉なんか何処にでも居る。深い森だから…野鳥も沢山居るだろう。気にする必要も無い…と思うのに、何か気になる。

私は頭を上げると、鴉の姿を探した。鳴き声からして…近くに居そうだけど。キョロキョロと周囲を見回す。

あ。居た…。

さっき子苗を埋葬した丘の上。1番高い木のてっぺんの枝から、私達を見下ろしている。

かなり距離があるのにも関わらず、その鴉の硝子のような眼と…バチッと視線が合った!


ーーちょっと、その癪な結界内に、入れておくれでないかい?


頭の中に、声が響く。

それは、紛れもない精霊の声。そして、祝福を受けた全員に聞こえてきていて…子苗達と氷を除くメンバーが、身体をビク付かせ、動きを止めた。


「なっ?」

九尾が頭に手を当てながら、戸惑うように視線を彷徨わせている。

うん、うん…そうだよね。ビックリするよね…私は、緊張で硬くなった白夜の膝の上から、皆に向かって声を出した。

「何処かに、精霊が来てる…多分、丘の上に居る鴉じゃないかな?距離があるから…心話で話しかけてきたんだよ。」

皆が私の言葉を聞き、一斉に丘の上を注視する中で…氷だけが、眼を見開き私を凝視している。

あ、やべ…喋っちゃった!

「…猫が喋った…」

氷は、うわ言のように呟く。そして、流れるような動きで、太腿のナイフを手にする。氷はスッと眼を細めて、獲物を狙う猟犬へと変貌した。

「っ!?」

視野に氷の微細な動きを捉えた雫が、慌てたように白夜に駆け寄り、膝の上の私を抱き上げる。

その時には…氷は、今にも襲い掛かろうと、脚に力が入り…。

こ、これは、マズイ!?

氷の中で、『喋る猫は危険』と分類されたっぽい? え…私を抱き上げた雫もヤバくないか?

ど、ど、どうするっ!?

私の思考が、めちゃくちゃな速さで回転するが、何も動けぬままに息を詰めた。

白夜が危険を察して、立ちあがろうと膝を立てる。…次の瞬間。

ーーガンッ!

鈍い音が響き…氷がナイフを手放して、地面に手を付いていた。

「っ痛たぁーあっ!?」

頭を両手で押さえて、氷が呻く。

え…?

地面に伏せた氷の背後に、九尾とマリンが立っている。

九尾は腕を組んで氷を見下ろし、マリンは拳を握りしめて、薄っすらと笑っていた。

マリンの笑顔…こわっ!

どうやら…氷の頭にマリンが拳を落としたみたい?

よく…あの状況を察して動けたな…と関心しつつ、とりあえずは危険が回避されたのだ…と、ホッとする。

「…氷、勝手に動くな。輪は大事な仲間だ。…言っただろ?そんじょそこらに居る猫とは違うって。」

怒ったような九尾の声音に、氷が眼に涙を滲ませながら見上げる。

涙は痛いせいだろう。何せ…マリンのゲンコツをまともに喰らったんだ。…手加減はしているだろうけど、頭が割れてもおかしくはない。

「ええぇ〜っ?そ、そんなぁあ…だったら最初から喋るって言って下さいよぉ。俺、妖か物の怪の類いかと…」

氷が頭を摩りながら、きちんと正座する。

「でも、喋る猫が仲間とか…やっぱ、兄貴は凄いっスねぇ!?」

九尾は、氷のその言葉には答えずに、ヒョイと肩を竦ませて白帝城の隣へと歩み寄る。

九尾がその場を離れてしまうと、氷はジロリとマリンを睨み付けた。

「…よくもやったな、メイド。」

低い声で、氷が囁く。

「輪様と、雫様に刃物を向けようとするからです。雫様が輪様を庇われたのが見えなかったのですか?

…手加減してなければ、死んでいます。駄犬が…身の程を知りなさい。」

冷ややかなマリンの一瞥に、氷は言い返せずに唇を引き結ぶ。

「さ、雫様…彼方に参りましょう。」


マリンが雫を促し、白帝城の傍へ行くように促す。白夜が、一連の出来事に度肝を抜かれたように呆然としつつ、マリンに促されるまま白帝城の傍へと歩き出した。

「…氷君。」

雫が振り返り、項垂れる氷に声を掛けた。

「…なんっスか。」

雫は、不貞腐れたような、不機嫌な氷の声など気にする素振りも見せない。

「輪さんが、喋る猫…普通の猫じゃないって言うのは、一部の株しか知らない秘密なの。…ボク達の秘密。だから、氷君も知った以上は、その仲間だよ。だから…内緒にしてね?」

雫があどけない笑顔を氷に見せる。

その笑顔を見て…氷は狐につままれたような顔をした。

「…姫様…笑顔を…」

氷が呟く。そうか…氷は以前の感情を抑制された雫しか知らないんだ。

だから、驚いているんだな。

以前の雫は感情を抑制されていて、無表情だった。今は普通に笑い、怒る。豊かな表情を見せるようになっている…。

「ふふ。秘密だからねっ!」

待っているマリンの元へと、雫は走り寄る。

雫に抱かれているから、氷の表情は見えない。けど…地面に語りかけるような氷の声が聞こえてくる。

「…そか。笑えるように…そっか。

俺を、『仲間』だってよ? へへ…笑っちまうよな…本当…。あーあ…姫様には、敵わないよなぁ〜…」

呆れるような、でも嬉しさもある…じんわりと何かに満たされたような…そんな言葉。

氷は…淋しいのかな?

自分が異質だと知ってるから…だから満たされないと、思っているから。

何となく…氷を気の毒に思ってしまう。悲しい…株なのかも知れない。

もう喋るってバレたんだ。だったら、話しかけよう。もっと氷を知りたいと、私は感じた。


ーーいつまで待たせたら気が済むんだいっ!あたしゃ、気が短いんだっ。とっとと中に入れろやっ!!


白帝城の傍に皆が集まるのを見計らうように、頭の中にドスが効いたがなり声が響く。


「うわっ…こわっ? 本当に精霊かよ…。」

九尾がポツリとそう言葉を漏らすと、

雫に抱えられている私に視線を移す。

いや、私を見ても…どうにもならないと思うんだけど…。


ーー聞こえてるよ、狐っ!怖いたぁ、誰の事だい?…話し次第ではタダじゃおかないからねっ!!


九尾が首を竦ませる。

声質から言えば…女性?かなりの年配な感じ。しかし…ドスが効いた低い声だ…しかも荒っぽい。

これは、とんでもない精霊が現れたんじゃないか?

「仕方ない…通すぞ。」

白帝城が周囲に張り巡らせた結界を緩やかに解除してゆく。

悪意を持つ者は、何人たりとも通れない…。精霊とはいえ、悪意を持たなければ通れる筈だ。夾竹桃は通り抜けて近くまで来れたんだから…。

ならば。

万が一に備えて、魔剣と白夜が備える。白夜は、いつでも吹き飛ばせるようにと、その手に扇子を構えている。

白帝城を前に。その背後に、天使と雫を。両サイドを守るように、九尾、マリン、白夜が挟む。

少し離れて、魔剣と氷が鋭い眼差しで鴉を見張る。


白帝城の結界が緩んだ瞬間に、木の枝から鴉が羽搏く。空を駆け、一直線に此方に向かってきた。

私達は、息を詰めて…黒い流れ星のような鳥の羽搏きを見つめていた。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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