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鎖の刻ー萌芽の集『夾竹桃の祝福』

――鎖に縛られていた過去が語られ、やがて集い始める者たち。


繋がりゆく命の鎖は、

微睡みの中で揺れる魂を、次なる刻へと導いていく。


小さな“萌芽”が、やがて世界を揺るがす日まで――

『夾竹桃の祝福』


私が何も無い空間を見つめながら、前脚を宙に浮かせている…。多分、白帝城にはそう見えているだろう。

でも、実際は…私の目の前には、南の地に聖域を展開させ、統括している大精霊の夾竹桃が座り込んでいる。

頭の中から「ハオルチアには精霊を認識出来ない」と言う事実が抜け落ち、皆に挨拶をしたものの…完全に無視されたと思い込み、泣きじゃくる夾竹桃。

私を気にして、同じように白帝城も座り込んで…私の見つめる先を探るように、その翡翠の瞳を向けている。


夾竹桃にしてみれば、泣いてる自分を心配している…と、受け取っても無理がない状況になっていた。

「あぁぁぁ…白帝城様が…夾ちゃんを心配して…ど、どうしよう…」

夾竹桃のピンクの大きな瞳に、白帝城の姿が映り込んでいるのが見える。

オロオロしながらも、白帝城から視線を外す事が出来ず…縫い止められてしまったように、夾竹桃はジッと白帝城を見つめていた。

「やばっ!?白帝城様の、澄んだ翡翠色の瞳に…夾ちゃんが映ってる?

この可憐で可愛い姿に…白帝城様、見惚れてる!?

ヤダヤダ…夾ちゃんは、白帝城様を推したいだけで…そんな、見惚れられても…困るって言うかっ!

あ、でも…可愛いって思ってくれてるのは、嬉しいっ!!」

夾竹桃は両手で隠すように、真っ赤に染まる頬を覆う。

「やばっ!!心拍数が限界突破するっ!!茹だって、身体中の水分が蒸発しそうっ!!

も、無理っ!夾ちゃんが可愛い過ぎて、見惚れてしまうのも分かるけどっ!何かっ、夾ちゃん、どうして良いのか、分からないっ!!」

夾竹桃は軽いパニックを起こしてるようで…騒がしさに拍車が掛かってきている。耳をペタンと伏せながら、さて…とりあえず落ち着かせないと、と考えていると。白帝城が私の背中を撫でながら…

「どうかしたのか?」

と声を掛けてきた。途端に夾竹桃の悲鳴が響く…

「きゃあーっ!

白帝城様の生声…す、素敵過ぎる…。やばっ!夾ちゃん、召される?召されちゃう?はぁぁぁ…ずっと聴いていたい…声…。綺麗で、カッコ良くて、素敵で、美しいのに…声まで素晴らしいなんてっ!!非の打ち所がないって事なのかっ!!!」

うん、もう…ダメだな、コレは。テンションMAXになっていそうだ。


私は、夾竹桃の膝を爪を出さないように気をつけながら、強めに叩いた。

「夾ちゃんっ!落ち着いて、聞いて…ハオルチアには精霊は認識出来ないんだよっ?」

私の言葉に、夾竹桃はピクリと身体を揺らす。良かった…私の言葉が届いたみたいだ。

「…認識…出来ない?」

夾竹桃の甘々の声が震えてる。

「うん…夾ちゃんの声は皆には聞こえてないし、姿も見えてないね。」

私の言葉を聞くと、夾竹桃は身体中の力が抜けたように…その場に倒れ伏した。

「夾ちゃん…大丈夫?」

「…白帝城様は…夾ちゃんを心配して…見に来てくれた…」

「って、訳では無いね…。皆も夾ちゃんを無視してた訳では無いよ。聞こえてないだけだからさ…その、元気出して?」

夾竹桃はワナワナと震えながら、握り拳で、ダンッと地面を叩く。

「輪さん、酷いっ!!もっと早く教えてくれても、良くないっ!?」

キッと私を睨む。美少女が凄むと…迫力あるな。

「ごめん…いや、私も夾ちゃんを五月蝿いって注意した後で思い出してさ。挨拶を始めちゃったし…何か、タイミングが合わなくて…口を挟める余白が無かったと言うか…本当に、ごめんね。」

涙の跡が微かに残る…夾竹桃の艶やかな頬を、私は優しくペロリと舐める。

「うぅ…すっかり失念してたよ…そうだった…じーちゃまみたいに依代に身を移さないと駄目だったんだ…。」

夾竹桃は力無く地面に伏せたまま、ボヤく。

「綺麗なハオルチアばかりで…嬉しくて。白帝城様の素晴らしさを知って…テンション上がりまくりで…忘れちゃってたよぉ…。そうだよねぇ…ハオルチアには精霊は認識出来ないんだよねぇ…。この、可憐な姿…見えてないんだよねぇ。愛らしい声も、聞こえてないんだよねぇ…。何か、凄く寂しいよぉ〜っ!」

バタバタと両脚をバタつかせる夾竹桃。小さな子供が、買い物中の親に「アレ、買ってーっ!」我儘を言ってる姿と重なり…何とも言えない懐かしさを感じながら、苦笑いが浮かぶ。


夾竹桃は呻き声を上げながら、地面に寝転がりながらバタバタと暴れていたが…暫くすると、ムクリと起き上がり、ニヤリと笑った。

「良い事…思いついたよぉ〜。」

その笑みは…悪巧みを考えついたって感じのソレで。何だか嫌な予感がした。

「…やめた方が良いかも?」

話しを聞く前に、止めに入る。何か、絶対にヤバイ考えな気がする。

「何で話す前に否定するのっ!ずっごい名案なんだよぉ?本当、夾ちゃん冴えてるんだなぁ〜!」

まぁ、確かに話しを聞く前に全否定は良く無いな…と思い直して、警戒しながらも

「因みに…何を思い付いたのかな?」

と、夾竹桃に尋ねてみた。

夾竹桃は地面に座り直し、ふふん…っと太々しく笑って見せる。

「ふふふ…この場に集まる、世で『五葉』と呼ばれている5株と、最強メイド、加えてベヌスタ属の錦…。

その7株に、この大精霊夾竹桃が祝福を与えるっ!!!」

夾竹桃が、どうよっ!?っと言わんばかりに胸を張りながら、私を見下ろす。


そんな夾竹桃を見上げながら…

「いやいやいや…そんな、いきなり7株も祝福を与えて大丈夫なの!?

ってか、大精霊とはいえ…勝手に祝福とか与えて良いモノなの?

精霊王の樟木じーちゃんでさえ、私以外には祝福を与え無かったんだよ?それを…夾竹桃が与えたら、問題になるんじゃないの?」

私の質問攻めに、夾竹桃はグッと息を詰めた。この反応…やっぱり問題になるヤツだ。

「…輪。大精霊殿は、私達に祝福を下さる…と話しているのか?」

白帝城には夾竹桃の声が聞こえて居ないから…私がずっと独り言を言っているように見えているだろう。

だから、察して口出しをしないで黙って聞いていたのだろうが…とうとう耐えきれなくなったのか、白帝城が話しかけてきた。

「聞くに…大精霊殿が、私達に挨拶をしてくれて居たのだろう?認識出来ず、不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ない…。」

白帝城は私の背後から、私が向く先に夾竹桃が居ると考えたようで…空間に頭を下げた。


その姿を見て夾竹桃が、ヒュッと喉を鳴らして息を呑んだ。

「輪の話しから察すると…私達に祝福を与えるのは、かなりのリスクを伴う様子。夾竹桃殿に…お目に掛かりたい思いは有れど、それは私達の我儘。どうか…無理はなさらずに、自愛して頂きたい所存です。」

白帝城がゆっくりと頭を下げながら、そう言葉を締め括った。

白帝城として見れば…止めようとしている私の援護射撃として、声を発したのだろうが…。

うん、逆効果だな。完全に…。

白帝城の言葉を聞きながら…夾竹桃の瞳がキラキラと輝きを増していく。

「白帝城様が…夾ちゃんを心配して…見えてないのに…声を掛けてくれた。ああ…夾ちゃんに会いたいって…我儘を?うう…夾ちゃんの身を案じてくれてるっ!?」

白帝城の言葉を噛み締めながら、夾竹桃は身悶えている。

そして…グッと拳を握り締めて、立ち上がる。

「仮にも、大精霊!!推しの我儘を聞く位の度量はあるっ!!」

そう、高らかに宣言した。

「誰にも文句は言わせないっ!!夾竹桃は、この場に居る7株のハオルチアを『推す』と決めたのっ!!」

声高らかに…夾竹桃の甘々な声が響き渡ると。何処からともなく、蛍火のような、淡い微かな光が湧きあがり、夾竹桃の周囲に集まり始める。

夾竹桃は両手を広げ、優しく抱きしめるように微かな光を集める。


「我が名に集いし精霊達よ。我と共に、我が愛する株達に…我らと言葉を交わし、我らと笑みを分かち合う…祝福を与えんっ!!」


その宣言と共に、抱きしめた蛍火を空へと解き放った。

多数の蛍火のような光の小さな粒は、白帝城を渦を巻くように包み込む。

そして、離れた場所に居る、九尾・白夜・マリン・眠っている雫を包み…簡易テントの中へと吸い込まれ、車体の中に消えていく。

きっと魔剣と天使を、蛍火が包み込んでいるのだろう…。

ふわりと微かに発光したが、やがて身体に吸収されたように…光が消えた。


今のが…祝福?

私がじーちゃんから授かった祝福とは、何か違う気がする。…いや、記憶が曖昧だから、そんな気がするだけで、ハッキリとは言えないけれども。

コレで…白帝城達にも精霊が認識出来るようになったのか?

いや、それよりも…夾竹桃は大丈夫なのか?あの小さな蛍火…光自体は微かで淡い光だったけど…かなりの精霊力を感じた。

心配になって夾竹桃を見上げると、肩を上下させている。やっぱり、負担は大きいんだ…。私の視線に気が付いたのか、夾竹桃が私に向かって微笑んだ瞬間に、ガクンッと、膝が落ちた。

「っ!」

危ない、倒れるっ!?

そう思っても、猫の私には何とも出来ないっ!

私の視野に白い影がスッと移動した瞬間に、白帝城が崩れ落ちる夾竹桃の身体を、受け止めていた。

「夾竹桃殿…大丈夫か?」

白帝城が夾竹桃の腰に手を回して、身体を支える。

無理をして、青ざめていた夾竹桃の頬に、パッと朱が差した。

夾竹桃は何かを言おうとしてるが、言葉にならないみたいで、口をパクパクさせている。

「私達の為に…無理をさせてしまったので無いか?」

白帝城の顔を間近に見て。夾竹桃は悲鳴を上げる事も忘れて、首を振る。

「しかし…その甲斐で、こうして夾竹桃殿とお会い出来る事が出来た。とても光栄です。」

夾竹桃を顔を覗き込みように、白帝城はフワリと微笑む。

「っ!!?」

夾竹桃が言葉にならない悲鳴を呑み込む。

「有難う御座います。」

柔らかな笑みで、白帝城は夾竹桃に礼を言う。

「っ!…ご褒美ですぅ…」

夾竹桃が一言だけ言葉を紡ぐと、白帝城に支えてもらいながら、意識を失ってしまったようだ。

くったりと力が抜けた夾竹桃を、白帝城は横抱きにして持ち上げる。

お姫様抱っこ…。

「輪が話していた通りに、とても愛らしい精霊殿だな。」

白帝城の足元に座る私に視線を向けると、ニコリと笑いかけて来る。

…何というか。

「白帝城…素でやってる?…それとも、何か…計算してる?」

私の問いに、白帝城はキョトンとしている。

「…んん…何でも無い。さ、皆の所に戻ろう。」

白帝城を促して、皆が集まる焚火近くへ向かって歩き出す。


…だよね。九尾じゃあるまいし。

白帝城が打算的に夾竹桃を煽る訳ないよね。九尾なら…やりかねないと思うんだけどさ。

これから先…邪神を何とかする為に、精霊達の力や知恵を借りなくてはならない事態になるかも知れない。

それを見越すなら、精霊と直接やり取り出来る祝福は、有効的な手段のひとつだろう。

九尾ならば、それに気づいて…何としても祝福を頂く手段を考えるだろう。

私の背後から、夾竹桃を軽々と抱き抱えて歩く…白帝城を盗み見る。

腕の中の夾竹桃は、幸せそうな顔をしながら気を失っている。

その夾竹桃を、満足気な笑みを浮かべながら見つめる白帝城。

…まさか、だよね?

んん、どっちだろうか。スッキリしないまま…私は皆の輪の中へと戻ったのだった。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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