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鎖の刻ー萌芽の集『夾竹桃、再び』

――鎖に縛られていた過去が語られ、やがて集い始める者たち。


繋がりゆく命の鎖は、

微睡みの中で揺れる魂を、次なる刻へと導いていく。


小さな“萌芽”が、やがて世界を揺るがす日まで――

『夾竹桃、再び』


大きな木の下に、ゆらりと揺めく姿。

まるで蛍火のような微かな灯りが、その周囲を舞い飛ぶ。

あれは、まだ姿を持たぬ弱精霊の生命の灯…。揺めきを守るように、それとも遊びに誘うように。…舞い飛ぶ灯りは、踊るように、くるくると周囲を飛び交う。

その灯りが私に気が付くと、数体の弱精霊が飛んで来た。微かな意識が…私に呼びかけてくる。


…姫サマを…宜しく頼みます…

…夾竹桃サマを…お願いします…


夾竹桃は弱精霊達から『姫様』と呼ばれているんだ。慕われているみたいじゃない。まぁ、ネブラミスの霊力に喰われないように、必死になって守っていたもんね…そりゃ、必死にもなるってもんだなぁ。


「そりゃ、私はこの地を守る大精霊…夾竹桃様だからぁ〜!荒らす者からこの子達を守るのが、使命だもーん!」

甘々な声…

え? 頭の中に響かずに、聞こえてきたぞ…

「ふっふっふ。この僅かな間のやり取りで、輪さんとの完璧な繋がりを構築したからねっ!私の得意技のひとつだも〜んっ。凄いでしょ!じーちゃんより、速く出来るんだから〜!

えっへんっ!」

そう言えば…じーちゃんが慣れたら直に聞こえるようになるって話してたか。なるほど…繋がりかぁ。

「ちょっ、ここは『夾ちゃん、凄いね!』って、褒め称える場面じゃないっ!?…輪さん、冷たくない?」

「…ん、眠いから、かな?」

「ええーっ!?ひどっ。」

まぁ、甘々の声がキャンキャンと脳に響くよりは…まだマシかな?

私は眠い眼を前脚で擦りながら、声の主の姿に視線を向けた。

揺らぎは消え、ちゃんと姿が見えるようになっている。これも…繋がり強化の影響か。…いや、夾竹桃の事だから、演出だった…なんてオチかも知れない。


賑やか大精霊『夾竹桃』は…。

あ、いかん。思わず耳が項垂れてしまった…。何と言うか、凄い?

眼に飛び込んで来たのは、どピンク色の髪…をツンテールにしている。

髪の結び目には、デカい真っ白なリボンが揺れる。

あ、今度は髭が下がってきた…。

服装は…どうやって…それを知ったのか疑問になるんだが…めっちゃロリータだった。サーモンピンクの艶やかな生地に、白いレースやフリルが多用されていて…所々に差し色で黒が使われている。

ん?これは…もしかすると…ゴシック&ロリータ…所謂、ゴスロリってヤツだろうか。いや、ゴスロリは黒が主流だったか?なら、甘ロリの可能性も…

むむむ…全く、わからんっ!!

胸元にはデカい真っ白なデカいリボン。

白と水色のボーダー柄のニーハイソックスに、黒い靴。で、また、デカい真っ白なリボン。

リボンだらけだな…。

「夾竹桃、推参っ!!…なんちゃって〜♪」

ビシっと決めポーズをすると、流石に恥ずかしくなったのか、照れてみせる。

「どう?どうっ!?夾ちゃん、めっちゃ可愛いでしょっ!余りの可愛らしさに、言葉を失ってしまったんじゃなぁ〜い?ふふん…夾ちゃんの可愛らしさは〜種族の垣根を、楽に越えるって事だねっ!もはや…この可愛らしさは、罪っ!?」

…自分でも分かる…眼が据わり、耳は横に倒れ…髭が下がったまま戻らない。尻尾をタシタシっと地面に小刻みに打ち付けて…身体中が、ウンザリしている!

騒がしいのは、言葉だけじゃなかった!何だ、この、ロリータっ子はっ!?じーちゃん、アンタは完全に何か間違えてるぞっ!?

「てへへ…そんなに見つめられると、夾ちゃん、照れちゃうなぁ〜。」

ふと、気が付く。

あれ…意識の伝達が無くなってる?

私、心の中でめちゃくちゃ文句言ってるのに…夾竹桃には聞こえてないみたいだ。…なんで?

「…思考の伝達は?」

私の言葉に、ウキウキでスカートの裾をフリフリさせていた夾竹桃が動きを止めた。

「んん?言葉の伝達を強化したから…思考の伝達は、今はストップしてるよ?やっぱりさ…言葉を直に交わすってのは、大事だと思うんだぁ〜。思考を読み伝える…のが、精霊らしさって、古い精霊は言ってるけどさぁ…何か、反則してるみたいで、好きじゃないんだぁ〜、私。」

その割には、ガンガン捲し立てて頭の中に語り掛けてきてたけど…まぁ、緊急事態だった…ってのもあったのかな。

「…思考をさ、読めちゃうと…相手が知られたく無いと思った事まで、聞こえちゃうでしょっ?それで…優位になって…精霊だから、凄い!ってのは…何か違うと思うんだぁ〜。ハオルチア気触れって、貶されるんだけどねぇ…でも、私、ハオルチア達が好きだからさ…なんて、語ったら…恥ずかしいよねぇ〜。」

恥ずかしそうに、もじもじする夾竹桃を見て…ちょっと反省した。

格好はロリっ子だし、騒がしいし…はちゃめちゃ系だけど。良い子じゃないか…。多分、私より長生きしてるだろうけど…うん、良い子って感じするから。

「ねね、仲間、紹介してよ!?マヤきゅんの主様…見てみたい〜!」

「マヤ…知ってるんだ?」

「そりゃ、じーちゃまに弟子入りしたハオルチアだもんっ!?ハオルチア好きとしては…行くっきゃ無いっでしょう〜!!マヤきゅんとは、お友達になったよん♪」

脳裏に…夾竹桃に翻弄され、オドオドと挙動不審になってるマヤの姿が、ありありと浮かぶ。

マヤ…色々と、本当、頑張ってるな…うん。

「ねね、行こう〜よ!」

まぁ、思考伝達も切れてるし…それに、精霊の姿は祝福をされない限り見えないしな。害は無いだろう…。

「んじゃ、行きますかね…」

会わせなきゃ会わせないで、騒ぎまくるだろうし。そっちの方が、ダメージ受けそうだ。

「やったぁ〜っ!」

来た道を戻り始めると、その後ろをウキウキとしながら夾竹桃が着いてくる。足音は…しないな。歩いている訳では無いみたいだ。浮遊してるのかな?


焚火が見えてくると、夾竹桃が立ち止まって、もじもじし始めた。

「うっは、居る!どうしよ…恥ずかしくなってきた!!?」

私は振り返り、夾竹桃の様子を伺う。

「うん、そりゃ、居るよ…連れて行けって、夾ちゃんが言ったんでしょう…。」

「そうなんだけどさ…ホラ、夾ちゃんは照れ屋だからさぁ〜。可憐だし、可愛いし…」

うん、後半部分は全く関係ないな…

と思っていたら、足音が近寄ってきているのに気が付いた。焚火に照らし出されるシルエットが…こちらに向かって歩いて来ている。

あれは…白帝城か。

心配で見に来てくれたのかな?

「ほら、夾ちゃん。あの株が白帝城だよ…マヤ少年の主。」

「え…。」

夾竹桃がピクリと顔を上げると、そのままフリーズした。

白帝城は、すぐ側まで来ている。

「輪…戻ったのか。良かった…心配になって、探そうかと考えていたんだ。」

白帝城が、私に優しく微笑みかけてくる。

「…無理…」

甘々の夾竹桃が、低く呟いた。

なんて?

「無理無理無理…」

夾竹桃は俯いたまま、ジリジリと後退りして…そのまま脱兎の如く走り出す。手近にある木の影に隠れてしまった。

何…?どうした…私は戸惑いながら、夾竹桃の後を追う。

「輪…どうした?」

白帝城が輪に声を掛けてくる。

「今、自称『大精霊』の夾竹桃と一緒に居たんだけど…白帝城を見たら、逃げ出して…ちょっと待ってて。」

私は振り返り、白帝城に説明するが…精霊が見えてない白帝城は、キョトンとしている。

「大精霊殿が?よく分からぬが…ここで待てば良いのだな。」

そう言いながら、私を見送ってくれた。


全く…会わせろって言うから連れて来たのに。何で逃げ出すかなぁ?

木の影で夾竹桃が、両手で顔を覆いながら、しゃがみ込んでいた。

「夾ちゃん?」

良く見れば…プルプルと小刻みに震えている。どうしたんだろうか?

「…無理無理無理無理無理…」

ブツブツと「無理」を連呼しているだけで、私の呼びかけに反応しない。

しゃがみ込む夾竹桃の身体に触れようと、前脚を上げて…躊躇した。触れられるのだろうか?

恐る恐る、ゆっくりと夾竹桃の膝に前脚を伸ばし…そっと膝の上に前脚を添えられた。

何だ…ちゃんと実体化してるんじゃないか。じーちゃんは、鷹の置物に憑依する形で、姿を保っていたけど…。見えないだけで、実体化は可能なんだな…。マヤが樟木の根本に佇むじーちゃんを見たってのは、こんな状態の時だったのか…と、私は改めてマヤの潜在能力の高さを認識した。


私に触られた夾竹桃は、ピクリと身体を揺らし、両手で覆い隠していた顔を私に向けた。

顔が朱色に染まり、大きなピンク色の瞳が、うるうると滲んでいる。

今にも涙が溢れ落ちそうだ。

「…夾ちゃん…大丈夫?」

何で、泣きそうになってるのか…。全く理解が及ばずに、戸惑う。まさか…魔剣のように、夾竹桃と白帝城の間に、何か因縁があるのだろうか?

そんな私の不安を掻き消すように

「あんな…ハオルチア見た事ないっ!!」

夾竹桃が絶叫した。

「…は?」

「だから、あんな綺麗なハオルチアを見た事ないのっ!!あの株は、本当にハオルチア!?神じゃないの?天界から美の男神が降臨したんじゃないの!?」

「…へ?」

夾竹桃は瞳をキラキラさせながら、私の両前脚をがっしりと握りしめて、立たせる。

何だ、夾竹桃…いきなりどうした!

「焚火の灯りを集めて輝く白銀の髪…優しげな翡翠の瞳…艶やかな陶器のような白い肌!

歩むだけなのに、気品を感じるっ!神々しいっ!!

あの微笑みっ!何、アレっ?

あんな綺麗な笑み…無理、心拍数が限界突破するわっ!!

あの美しい瞳に…罪深い程可愛い夾ちゃんの姿が映ったとしたら…無理無理無理…夾ちゃん、恥ずかしくて浄化されちゃうっ!!」

顔を赤くしながら、夾竹桃が力説する。そのテンションの高さに反比例するように、私の理性が冷えていく。

もう…ね、突っ込み処が多すぎて、何から突っ込めば良いのか…。


とりあえず…無理矢理立たされてるのは辛い。身体を捩って、後ろ脚で夾竹桃の両手を蹴る。力が緩んだ瞬間に、するりと前脚を抜いて、夾竹桃から距離を取った。

「…夾ちゃん…アレか。白帝城に一目惚れしたんだ?」

私の言葉に、夾竹桃が目を剥いた。

「いや、一目惚れって、そんな状態ではないからっ!そんなの、畏れ多いじゃないっ!違うのっ!!

何て言うの…白帝城様のお姿が、尊いのっ!分かる?

あの澄んだお声を聞くだけで、何か満たされるって言うかっ?

白帝城様を優しく包む大気になりたいっ!って思える…って感じでっ!

そう…尊いの。尊い…白帝城様の全てがっ!!!」

しゃがみ込みながら。両手をギュッと握りしめて、拳をブンブンと振り回してながら話す夾竹桃…。

どうやら…はちゃめちゃ系に加えて、オタク気質も持ち合わせているらしい…。間違いなく、夾竹桃の『推し』に白帝城がなったのだろう。


こりゃ、一波乱ありそうだ…そんな予感を感じながら、深々と溜息を付いたのだった。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。


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