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鎖の刻―魔剣の過去『出会い』

心の奥底に沈んだ記憶が、今――

鎖を引き千切って、顔を出す。


繋がれていたのは、運命か。それとも、絶望か――

それは、彼の魂に巻きついた『鎖』の記憶。

『出会い』


アストロとの聴取の後…無理が祟ったのか、オレは高熱を出して数日間寝込む羽目になった。

担当医のリュカがブツブツと文句を言っているのを、揺れる意識の中で聞いていたのを覚えてる。

九尾達はどうしただろうか?

研究所の仲間は助けられたのだろうか?

気にしてみても、誰にも問う訳にも行かない。実働は、アストロ配下の私設部隊…しかも、極秘任務を担う暗部なのだから。


ふと…誰かの気配を感じて眼を覚ました。リュカが診察に来たのかと、眼を開けて其方を見ると…。

『光』の化身のような少女が立っていた。

白銀の豊かな髪が、窓から差し込む日差しを反射してキラキラと輝き、まるで…光の化身かと思った。

陶器のような、艶やかな白い肌。ほんのりと色づく頬は、とても柔らかそうで…オレの様な無骨な輩が安易に触れてはいけない、そう思わせる何かを感じた。

窓から外を眺めるその瞳は…銀色に、淡い緑が滲む…独特な色合いをしているが、その眼差しは…虚ろで、暗く、淋しげな陰りを含んでいるように見える。

『綺麗』『美しい』翁牙から借りた本にあった単語が、頭の中でグルグルと廻る。…そうか、これが、その単語の意味なのか…と、実感した。


その少女の年齢は、顔立ちには幼さを残してはいるが…大人びた雰囲気からして、オレと同じか、もしくは少し下位かも知れない。

淡いピンク色のドレスに、リュカと同じ白衣を肩から羽織っている。雰囲気からして、医師では無さそうに見えるが…何者だろうか?

「…?」

誰かと尋ねる事も忘れて、その姿に呆然と魅入っていると、少女がオレの視線に気が付いて此方を見た。

視線が合った瞬間、少女は少し驚いたような様子を見せたが、直ぐにそれも消えて、柔らかな微笑みを浮かべる。

「…気が付いたみたいで、良かった…」

少女が、オレに声を掛けてくる。

少し高い声…鈴を鳴らすような…だったか?そう言えば、本に書いてあったな。

今まで…こんな株は見た事が無い。

「…誰だ?」

「私?私は…アンジェリカ。もう直ぐ暗号名を授かると思うけど…まだ本名で…大丈夫かしら…。」

「アンジェリカ…?」

そう名乗った少女は、ふわりと服の裾を持ち上げて、ベッド脇の椅子に座る。

「暗号名を授かるまでは…アンジーって、呼んで下さい。」

ふわふわと微笑みを浮かべる少女は、小首を傾げながらオレの顔を見つめてくる。

「…何の用だ。お前…医師では無いだろ?」

何だろうか?優しげなその微笑みに…違和感を感じる。

「用事?…貴方のお見舞い…アストロさんから聞いてない?治療する為に様子を見に来た…。」

ニコリと、アンジーは微笑む。

「…は?お前が…癒し手?」

「そう…でも、まだ秘密なの…だから、表面上は…お見舞い。」

ふわふわした微笑みに、背中のざわつきが押さえきれぬまま…

「…微笑むな…止めろ、気持ち悪い…。」

言葉にしてから、しまった!と思ったが、後の祭りで…少女は微笑みを凍り付かせた。

「…何で?」

少女は俯いて、小さく呟く。

「…別に笑いたい訳じゃないだろ…無理に笑顔を貼り付けて、そんな必要は無い…と思う。」

オレを慮って笑いたくも無いのに、微笑みを浮かべ、安心させようとしてくれてたのだろうに…。

「…すまない。」

浅はかな言葉で、アンジーを傷つけてしまったかも知れない…と、詫びの言葉を口にすると、アンジーはクスッと笑った。

その笑みは、さっきまでの貼り付けたような微笑みでは無く、面白い…楽しいと…そう思う笑みだった。

「凄いね…貴方。私の…笑顔の仮面を見破るなんて…初めてかも?」

右手の人差し指を、ドレスと同じ淡いピンク色の唇に添えて、小首を傾げながら…アンジーはオレをジッと見つめてくる。

「…何で、そんなに見る。」

また、さっきとは違う…居心地悪いような、居た堪れないような、サワサワする感じがして、オレはアンジーから視線を外して、あらぬ方向を見る。…何だ、この感じは?

翁牙に冷やかされた感じに似ているが…状況も違うし…。

恥ずかしい?…照れてる…のか、オレは?

「…耳が真っ赤…」

アンジーの言葉に、余計に耳が熱く感じてきた。

「…煩い…」

オレは両手で布団を引っ張ると、頭からそれを被る。…何だ、何でオレは、こんなに恥ずかしい?

「…可愛い…」

クスクスと楽しそうに、アンジーが笑う声が聞こえる。

オレは、布団の中でギュッと目を閉じた。


…それが、後に『天使』と言う暗号名を授かる、少女との出会いだった…。


それからと言うもの…アンジーは、毎日オレを見舞うようになった。

そんな、ある日。アンジーが庭園から摘んできた花とやらを病室に飾っていると、担当医のリュカに連れ添わられて、翁牙が見舞いに訪れた。

「やぁ!すっかり顔色が良くなったな!」

邂逅一発そう言うと、ベッドに座るオレの手を握る。

「翁牙…随分と久しぶりだな…そっちは大丈夫なのか?鯱真は元気か?」

何だか、ホッとした気分になり…自然と笑みが浮かぶ。

「…笑った…初めて見た…」

アンジーは驚いたように目を見開きオレをジッと見つめながら…そう呟く。そして、パッと顔を赤らめる。

「あ。失礼致しました…お茶でもお持ち致しますね…」

と、笑顔を貼り付けながら、何故か慌てて部屋を出て行った。

リュカがそんなオレ達を見て、微笑ましく頷くと、翁牙に

「後程お迎えに上がりますので、ごゆるりとお過ごしください。」

と声を掛けて、アンジーを追うように病室を出ていく。


「ふふーん…なるほど、なるほど。」

翁牙が満面の笑みで、オレの横に椅子を引き、座り込んだ。

「何が、なるほど…なんだ?」

「いや、何…なかなか綺麗なハオルチアだなぁ〜と思ってな。」

ニヤニヤとしながら、翁牙はオレを見る。

「…意味が分からん」

「まぁ、良い出会いが合ったようで…何よりだと思ってな。さて、鯱真だったか?奴も元気にしているよ…一緒に来たがって居たが…サボテン国からの使者って肩書きで、しかも母国から難問を吹っ掛けられて頭を抱えているよ。」

「難問?」

「ああ、ハオルチア国から正式に駐在大使と残ってくれ無いかと要請が来てな…サボテン国が、その判断を鯱真に丸投げしたんだ。さて…今の現状で可能かどうか…悩んでる真っ最中だな。」

「…駐在大使…凄いじゃないか。」

「まぁ、一回の警備兵団団長が駐在大使とは…有りえない話しだかね。万が一の布石の一端だろうが…。」

翁牙が溜息を吐くように、肩を落とす。

「サボテン国からの助力を請うため?」

「そう考えるのが妥当だと…素人でも分かるな。問題は、サボテン国がその判断を鯱真に丸投げした事実、なんだ。」

「…どう言う事だ?」

「国家間の問題を個人…しかも警備兵団団長に一任するなどあり得ない。万が一…助力を請われても、個人の決めた事で有り、国は関与しない。…って、成りかねないって事だな。」

翁牙が肩を竦める。

なるほど…サボテン国は助力はしないが、ハオルチアの要望である駐在大使は、個人の判断で置くって事か…。

詐欺みたいなモノじゃないのか、それは…。

「…やり方が汚いと思わないか?」

「だから、鯱真が怒りを通り越して、呆れてるんだな。」

やれやれ…そんな感じで翁牙は肩を竦める。

「鯱真は…どうする気なんだ?」

オレとしては…二株が居てくれたら、素直に嬉しいが。それは口にして良い話しでは無いだろう。

「サボテン国は、まぁ…命令に背き、見切り発車でハオルチアに来た鯱真を簡単には許さないって流れだと思っているよ。だからさ、いっそこのまま…出奔するのも手かと思ってる。」

ニカッと笑う翁牙に、こっちがギョッとさせられる。

「出奔!?」

「…声がデカいよ。まだ相談中だかな…鯱真ほど頼りになる国境警備隊は居ない。他国に知れ渡る程の名声は伊達じゃないって事だな。なら、その名声を人質に…国から帰還命令をするしか無いようになる迄、旅にでも行くかって…話だな。」

あっけらかんと、翁牙は語るが…そんな事が可能なのか?

「…帰還命令が来なかったら?」

「その時は、そのまま好きにするさ…旅は良いぞぉ〜ワクワクするじゃないか。」

楽しげに笑う翁牙に、オレは不安を隠し切れずにいる。幾ら頑丈だからと言えど…そんな永らく母国を離れていられるのだろうか?

「ん?不安そうな顔をしているな。

何、大丈夫さ。俺も一緒に行くし…医師が共に居れば、食うにも困らないし、風土病の対策も万全だしな!」

…そう言う問題なのか?

「何だ…俺達が居ないと、そんなに淋しいのか?…全く、君は可愛い雛鳥だなぁ〜。…蜜柑剥いてやろうか?」

「っ!? な、誰が、雛鳥だっ!」

ニヤニヤと翁牙が笑いながら、枕元にあるテーブルの上にある籠から、小粒の蜜柑を取り出し、皮を剥き始める。

「まぁ、冗談はさて置き。俺達は大丈夫さ…サボテンは丈夫なだけが取り柄だからな。…君は、身体を労りながら、できる事に全力を尽くす事だけ考えるんだ。」

蜜柑を睨む様に、翁牙は真剣な眼差しをする。

「君は、破壊と死を齎す刃では無い…それを忘れずに、自分の本質を見失わないように気をつけるんだ。」

「…オレの本質…」

「そう。感情が昂れば、怒りに震え、本質を見失い、見誤る事もあるだろう…誰もがそうなる…事も多い。だからね…君は忘れないようにして貰いたいんだ。君は…常に理不尽と闘い、正しく有ろうとした事実を…。憎むのは、理不尽であり、そんな状況であり、決して株そのものでは無い…生命では無いと。君の本質、本能は、それを君以上に知ってる筈だから…。君の刃を剥ける矛先を、常に問うて欲しい…。」

ゆっくり皮を剥きながら…翁牙は噛み締めるように言葉を選び、オレに語り掛ける。

まるで…アストロが抱える暗部の加入を知っているように聞こえる。だが、それを翁牙が知る術はないだろう…。だから、本当にオレを気遣い、心配してくれていると、思う事が出来た。

「…難しくて、良く分からない。けど、心配してくれてるのは伝わってきた。…ありがとう。」

翁牙が少し照れ臭そうに笑うと、剥いた蜜柑をオレの口に放り込む。

「…おっさんは、説教臭くて嫌だねぇ。ま、助言として、頭の片隅にでも留めてくれると、嬉しいよ。」

蜜柑をモグモグと咀嚼しながら、オレは素直に頷いた。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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