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鎖の刻―魔剣の過去『王宮へ』

心の奥底に沈んだ記憶が、今――

鎖を引き千切って、顔を出す。


繋がれていたのは、運命か。それとも、絶望か――

それは、彼の魂に巻きついた『鎖』の記憶。

『王宮へ』


数日間、オレの葉力調査だ、新たな調査報告書作成だのと、鯱真と駐屯地隊長は意見を交わしながら書類作成に追われていたようだった。

当事者のオレは何も変わらずに、翁牙に世話を焼かれている。

夜になると鯱真は部屋へ訪れる。翁牙と三株で、たわいもない話しをしたりして過ごすのが日課になりつつあった。

鯱真は少しやつれてきている気がして、心配になったりもした。サボテン国とは全く違う気候…オレには快適であったが、サボテンの翁牙と鯱真には厳しい環境では無いだろうか?

万が一、二株が風土病にでもなったら…と考えると、心配にならない筈もない。

その話しをすると、翁牙は高らかに笑い飛ばした。

「鯱真がやつれているのは、慣れない事務作業ばかりだからさっ!机に張り付いて、黙々と書類作成なんか普段はやらないから。第二部隊団長様は、先陣を切って身体を張る…と有名だからなっ。」

「…そうなのか?」

ベッド脇にある椅子を陣取る鯱真が、嫌そうな顔をしながら頷く。

「…苦手なんだ。仕方ないだろ?」

憮然としながら答えると、翁牙が呆れたように

「普通、団長とも成れば…現場なんかは部下に任せきりになるもんさ。なのに…コイツと来たら、街の巡回だ、国境警備だと、部下の仕事を奪ってまで働くから…困ったもんだよ。」

別に翁牙が困る事は無いだろう…と思うが。

「俺は、現場を重要視してるだけだ。自分の眼で確認するのも、大事なんだ。」

「まぁ、そういう事だから、君は心配する事は無いぞ。俺達サボテンは、ハオルチアの様に繊細では無い。タフなんだ。違う環境下でも、割と何とかなる。だから、心配しなくて大丈夫さ。」

翁牙がニカッと笑って見せる。その笑顔に、サボテン国のあの青空を重ねて思い描いていると…コンコンと扉を叩く音が響く。

鯱真が即座に席を立ち、扉を開けると

駐屯地の兵士が一株立って居るのが見えた。

「ご報告に参りました。ただ今、王宮護衛兵団第四部隊が到着致しました。明朝出立予定との事であります。

翁牙殿には、速やかに準備を進められたし。鯱真殿には、王宮護衛兵団第四部隊隊長が面会を求めておられます。大変恐縮ではありますが、御足労頂きたく…との事であります。」

「やっと来たか…承知した。直ぐお会いしよう。案内を頼む」

「はっ!」

鯱真が振り返り、翁牙に声を掛ける。

「では、後は頼む。まぁ…サボテン国からここまで来たのに比べたら、快適だと思うがな。」

ニヤリと笑うと、鯱真は扉の向こうへと姿を消した。

「やれやれ…あの揺れは、もう勘弁して貰いたいものだな。しかし…第四部隊…?」

翁牙が鯱真が陣取っていた椅子に座ると、腕を組んで思案顔になる。

「…何か問題でも?」

「いや…護衛兵が迎えに来るとは聞いていたが…まさか、兵団で来るとは想定外だったから…しかも、第四部隊…バリバリの戦闘部隊だったと記憶している。何だ?何かと争うとでも…いや、強襲を避ける為?

う〜ん…」

そのまま翁牙が唸り出す。

「…オレが暴れ出す危険性が有る…と思ってるんじゃないのか?」

オレの葉力は危険だと認識されたとしても、何ら不思議でも有りはしないだろう。好きな時に、どんな武器でも顕現するのだから。

「いや、それは無いな。君の怪我の状態、風土病の状況…既に報告済みだ。例え、その葉力を危険視したとしても…兵団を赴かせる理由にはならないな。」

「じゃあ…何だって言うんだ?」

「まさか…とは、思うが…クソったれな研究所が関係してるとか?13号君を取り返す…もしくは、口封じの為に強襲される恐れがある…とか。」

「…オレひとりの為に、奴等がそんな危ない橋を渡るとは…思えないんだが?」

「…だよな。そんな事するくらいなら…尻尾切りが妥当…」

翁牙が言葉を切り、眉間に深く皺を寄せ、考え込む。

「分からない事は、後で鯱真に尋ねるとしよう。さ、俺は出立準備をしてくる…お気に入りの蜜柑も道中に食べるように、多めに持って行こうな。」

翁牙が立ち上がり、オレに笑い掛ける。その笑顔に、違和感を感じたものの…その時は深く考えなかった。


だが…その時の翁牙の話しが、後に事実だったと…知る事になるとは…夢にも思わずに居た。


朝焼けに滲むように…王宮護衛兵団第四部隊が列を成して、国境警備駐屯地を出立する。

その兵団に守られる様に、国賓を迎える豪華な馬車が中央に陣取り、進む。歩みは速やかで、迅速であり、急いで居ると誰が見ても分かる速度であった。

鯱真、翁牙の両名は、ハオルチア国民の救出、護衛を行った立役者であり、サボテン国友好関係を担う国賓として王宮へと招かれた。

広々とした馬車の中…急遽あつらえたとは思えぬ程の立派なベッドに横たわる株は、ハオルチア国内で非道な実験、研究を受け、身も心もボロボロになりながら、生命からがらサボテン国へと逃げた被害者として扱われている。


王宮に着いたら、まずは被害者株の医療引付きが行われる。優先されるべきは、生命。ハオルチアを統べる女王陛下がそう厳命していた。

その後は、国賓として招いたサボテン二名の勇士と勇敢さを讃える晩餐会を催す予定である。

被害者株には、体調次第ではあるが、事情聴取が晩餐会中であっても行われる手筈になっていた。

事は重大で有り、時間経過を鑑みれば、急務にならざるを得ない状況である…と知らされる。


王宮護衛兵団第四部隊は、まるで何かを恐れる様に、足早に街道を直走る。その理由を…微かな揺れを感じる豪華な馬車の中で、鯱真は翁牙達に説明をし始めた…。


「どうやら…正体不明の敵に、ハオルチアは襲われているらしい。」

重々しく鯱真が口を開いた。

「…戦争でも仕掛けられてるのか?何処だ…そんな愚かな真似をするのは…西の大陸…アガベ大国か?まさか、海を渡ってエケベリア公国では無いよな?」

翁牙が食い気味に聞くと、鯱真は首を横に振る。

「分からない…らしい。」

「何だ、それは?」

「どうやら…株では無い。物の怪の様で…斬り付けると、崩れて消えるらしいんだ。眼も、口も無い…ただ黒い泥の様な…塊が、株の姿を模して襲ってくるらしい。」

鯱真が信じられない…とばかりに首を竦めて見せた。

…オレの心臓が、バクバクと脈打ち始める。黒い塊…斬り付けると消える…泥…だと?

「それで、その黒い物の怪の攻撃を喰らうと…その箇所から徐々に腐って、崩れて、死んでしまう…らしい。」

鯱真の話に翁牙が驚愕の表情を見せる。

「馬鹿な…そんな症例は聞いた事がないぞ?」

「いや、実際に戦闘に加わったと言う奴からも、話は聞いた。兵士が何株も死んで居るのも確かだ。」

「…だから、兵団なのか?」

「いつ、何処で、何の為に…まるで予測が出来ない。物の怪の攻撃は、王都に集中しているらしいが…それも定かでは無いらしい。情報が錯綜して、ハオルチアは軽いパニック状態と見ていいだろう…。」

鯱真が信じられない話しだがな…と話しを締めくくり、二株は沈黙した。


待て…それは、あの崖の上で戦ったアレじゃないのか?

斬っても斬っても…後から湧いて出てくる…黒い、泥の塊…。

瞬時に、あの時の光景が脳裏に浮かぶ。渇いた風、乾燥した荒れた大地…サボテン国とは違う、濁んだ空。あの…泥の匂いを思い出す。

途端に胸がつかえ、耐え難い吐き気をもよおす。両手で口を押さえて、動く上半身を捻りながら、その吐き気に耐えた。

オレの異変に、翁牙が即座に気づく。

「っ!どうした…吐き気がするのか!?大丈夫だ…我慢しなくて良い。吐き出せ。」

翁牙が用意した、布にオレは吐いたが…水ばかりにを吐く。

「…どうした?大丈夫か…」

鯱真までオレの側により、背中を摩ってくれる。

話すか?いや…今更だな…オレはこの二株には隠さず、何でも話してきてるんだ…。

「…知ってる。オレは…その黒い泥を知ってるんだ。崖から落ちる前…見世物で…その泥と戦っていたんだ…」

「なっ…」

背中を摩っていた鯱真の手が止まる。

「…本当か?」

オレは翁牙が差し出す木製カップに注がれた水を受け取りながら、頷く。

「話しを聞くだけだが…多分、同じヤツだと思う…実際見たらハッキリ断言出来る…と思うが…」

「何て事だ…じゃあ、クソったれ共は、既に動き出して居るって事なのか?」

翁牙の言葉に、オレは力無く首を振る。

「分からない…あんな泥みたいな奴等、あの時に初めて見たんだ…。アレも奴等の研究対象だったのか?

だが…研究所では、そんな物見た事も聞いた事も無かったんだ。

いきなり現れて、戦えと…指示されただけ…。正体までは、知りようが無い…。」

オレの話に鯱真が唸る…。

「コレは…もしかすると、かなり根が深いかも知れんな。」

「どう言う事だ?」

翁牙が尋ねる時、鯱真が腕を組み換えて座席に座り直した。

「13号君が居た研究所…以外で、その泥だか影だかを扱う奴等が存在する…可能性があるって事だろうな。」

「クソったれが増えたか…。」

「あくまで可能性だがな…クソったれ同士が手を組んだか。さもなきゃ…同一系の研究所なのか…。まぁ、クソったれが増えたってのは、確かだろうな…。」

鯱真が首に手を当てながら、コキコキと鳴らす。

「…どうする気だ?」

翁牙が鯱真を測るように見つめる。

「…話すさ。こりゃ、晩餐会は中止になるな…まぁ、堅苦しい会食が中止になるのが、唯一の救いだね。」

鯱真が戯けるように肩を竦めて見せると、翁牙がニヤリと笑う

「…言えてるなっ」


その泥の話は、オレは事情聴取の際に話す。鯱真は、ハオルチアの治安参謀に会った時に、それとなく話す…となった。

鯱真は、線引きをしたんだと…その時にオレは悟った。コレから向かう先は…ハオルチアの中心である王宮に他ならない。

サボテン国からの使者としての立場上、これ以上は踏み込めない…踏み込んではいけない…と、考えたのだろう。

もし、ハオルチア国から正式に応援要請があったなら…力添えを頼まれたなら、鯱真は二つ返事で動くに違いない。だが…それは、きっと無いだろう…と、無知なオレでも感じる事が出来た。

ここから、先は…オレが動く番だ。

実際には…動けないが、ありのままを伝える。それだけで、事は動き出す…二株の表情からしても、かなり重要な話しだと知ったから。 


さぁ…ここからは、戦場だ。

サボテン国の勇敢な二株の助力は、ここまでだ。

オレは気を引き締めてながら、ベッドから見上げる様に…窓の外を睨みつけた。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。


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