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鎖の刻―魔剣の過去『不随』

心の奥底に沈んだ記憶が、今――

鎖を引き千切って、顔を出す。


繋がれていたのは、運命か。それとも、絶望か――

それは、彼の魂に巻きついた『鎖』の記憶。

『不随』


テントの入り口付近に、九尾がずっと佇んでいる気配を感じている。

盗み聞き…していると言えば聞こえは悪いが、どうせ後から私が伝える話ならば、今聞いていたとしても問題は無いだろう…と、私は九尾の気配に気付かないフリを続ける。

それに、表に九尾が居て、魔剣の話しの腰を折らないように…計ってくれているとも思えば…有り難い。

何より…魔剣の過去は、私の予測を遥かに超えて…重く、辛い話しだったから、上手く皆に伝える自信が無くなっていた。

九尾が表に居てくれて、良かった…と感じている。


その九尾の気配に、魔剣は全く気付かない様子だった。それだけ…心の奥底に潜って、語ってくれているのだろう。

実験体として…死と隣り合わせな環境で、生きる為、生き残る為…幼い頃から心を寄せ合い、支えて合っていた、


subject.No.13-魔剣と、subject.No.14-ネブラミス。


生きる。必ず生き残り…いつか一緒に研究所から出ようと言う、唯一の生きる希望…約束は、果たされる事は無かった…。

魔剣は、崖から転落した後を知らない…でも、容易に想像出来た。

帰らぬ13-魔剣を待つ、14-ネブラミスの切ない迄の苦しみが。

鉄格子越しに足音が聞こえる度に、帰ってきたかと…期待する。違った…13じゃ無い。…また、違う…。違う…。そうやって、徐々に心が擦り切れていく様を…。

それは、魔剣も同じだろう。想像が出来るから、こうして苦しんでる。

優しい…魔剣は、本当に優しくて強い株なんだ…と、私は改めて感じていた。


ーー意識を取り戻した時は、周囲は真っ暗だった。ーー


魔剣は、涙を覆う両手を外し、遠い眼をしながら天井を見つめ…語り出す。


どの位流されたのか…全く検討も付かなかった。身体は動かない。全身が痛み、力も入らないまま…河の岸辺に打ち上げられて、なす術もなく、たただぼんやりと夜空を眺める。

聞こえてくるのは、鳴くように吹く風の音と、河のせせらぎのみ。

ゆらゆらと意識が揺らいで…あぁ、オレはこのまま死ぬんだな…と、実感もなく思っていたよ。

14…彼女だけが気掛かりだった。


ーごめん…帰れそうも無い…。このまま、死ぬかも知れない…。14…1株になっても、生きるんだ…。オレみたいに…諦めたら、終わりだからな…。ー


静かに眼を閉じて、オレは、死ぬその時を待っていると…。ザクザクと、乾いた土を踏み締める足音が聞こえてきた。

ー誰か…来た?

助けを、呼べば…助かるかも知れない!ー

消えかけていた、生きる執着に再び淡い灯りが灯った。

何とか身体を動かそうと足掻く。その度に、激痛が走って、呻き声が上がった。

「今…声が聞こえなかったか?」

誰かが、オレの呻き声に気がついてくれた!必死になって、助けを呼ぼうとするが、喉から出るのは呻き声だけ…。

ーここだ!此処に居るっ!頼む、助けてくれ…オレは、帰るんだ…14の元にっ!ー

オレの必死の願いは聞き届けられたみたいで…

「っ!?おいっ、誰か倒れているぞっ!!」

「何っ?…こ、これは…酷い…まだ息があるな…よし、早く救護班を呼べっ!」

オレを囲んで、辺りが騒がしくなっていく。周囲を見渡したいが、首が動かない…無理に動かそうとすると、激痛が走る。

せめて、見える範囲だけでも…と目を凝らすが、白く霞んでしまっていて、ぼんやりと形を捉えるのが精一杯だった。

「…何だ、この首輪は?しかも、酷い怪我だ…河に捨てられた奴隷か?」

「分からないが…可能性は高いんじゃ無いか?こんな状態では、密入国なんか出来ないだろう。」

…密入国?

一体何の話をしているんだろうか。

「救護班、こっちだ!あちこち、折れてるみたいだから、慎重にな。後、首がヤバイ…何か、固定した方が良いぞ。あ、そこの板を頭に引いて…そうだ、そのまま…ゆっくりと。両サイドも板で挟んで、包帯で固定しろ。」


誰かが、指揮を取り、横たわるオレを、テキパキと何かに固定していく。

頭の下、首元まで板に乗せられ、顔を板で挟むようにして、板ごとグルグルと布で巻かれていく。

辛うじて、目元は巻かれなかったが…どうせ見えちゃいないから、何の問題は無い。

「大丈夫だから、安心しろ。生命は救ってやれるだろう…暫く養生したら、話を聞かせてもらうからな。」

救護班とやらの一団を指揮していた男の声が、耳元で響く。

ー生命は救ってやれる…その言葉だけで、十分だ…。回復して、帰る…だけ…ー


そのまま眼を閉じて、オレはゆらゆらする意識を手放した。


再び意識を取り戻すと…少し黄ばんだ白い天井が眼に入ってきた。

ーここは…?

ぼんやりする意識を奮い立たせ、辺りを観察しようとしたが、首が全く動かない。視線を向ければ、白い布が巻かれているのが見える。

ーああ…あの時、巻かれたヤツか。

頭を動かすのを諦めて、身体の動作確認に入る。

右腕…動くな。指…問題無い。

左腕…痛みが走る。折れたってヤツか?指先…動くな。

下半身……感覚が無い?

右脚…左脚…付いているのか?

痛みすら、感じない。オレの両脚は…どうなってる?

目線が届かずに、確認が出来ない。

一体、オレはどうなってるんだ?

「あ、気が付いたようだな。俺が見えるか?分かるか?」

声を掛けながら、オレの顔を覗き込むように男が顔を近づけて来た。

肌色が…随分黒い。日に焼けてるってヤツだろうか?

澄んだ茶色の瞳に、白い布に巻かれたたオレが映っている。

焦げ茶色の…なんで、こんなにモジャモジャなんだ?…髪に、同じようなモジャモジャの髭。

オレは、頷こうとしたが…無理だったので、瞬きで答える。

「そうか、とりあえずは一命は取り留めたみたいで、何よりだ。話しは出来そうか?」

「…問題無い。」

掠れて、喉が引き攣るが…声は出せるみたいで、少しホッとした。

「俺は、この治療院の医師をしている者で、君の主治医に任命された銀翁玉の翁牙って者だ。宜しくな。」

銀翁玉の翁牙?

それは名前ってヤツだろうか…。

「お前さん、名前は?」

「…無い。」

名前…ってのは、聞いた事はある。たまに研究員達が呼び合ってる…個体名だろう。オレには無用なモノだった。

「…忘れたのか?」

翁牙ってヤツは、不思議そうな顔をしてオレの真意を問おうように見つめてくる。

「…だから、無い。subject.No.13と呼ばれていた…これは名前なのか?オレは…認識番号だと思っていたが…」

掠れた声で淡々と話すオレを、翁牙ってヤツは驚愕の表情で、見つめる。

「…いや、認識番号で合ってる…と思う。」

翁牙は、顎髭のモジャモジャ触りながら思案顔になった。

「…なるほど、何となくだが…見えてきたか。では、認識番号で呼んでも構わないかな?」

「…好きにしろ」

「んん。では、13番君、今から君の身体の状態を説明しよう。落ち着いて聞いてくれたまえ。」

翁牙は真っ直ぐな瞳にオレを映しながら…こう言った。


「単刀直入に話せば…君はもう歩けない。下半身不随になった…と言う事だ。」


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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