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鎖の刻―魔剣の過去『不測』

心の奥底に沈んだ記憶が、今――

鎖を引き千切って、顔を出す。


繋がれていたのは、運命か。それとも、絶望か――

それは、彼の魂に巻きついた『鎖』の記憶。

『不測』


ポツポツと、少し辿々しく語る魔剣の話は…とても重々しく、苦しみに満ちていた。

魔剣は、ふぅ…とゆっくりと息を吐く。思い出すのも辛い、語る口が重い…そう呟くような、長い溜息。

想像以上に過酷な状況…どれだけ必死に耐え続け、生きる為に足掻いてきたのか…。


ーーただ、生きたいと思うだけなのに…なんで、こんな事になっちゃうんだろうね…ーー


脳裏に、夾竹桃の話した言葉が浮かんだ。二人…魔剣とネブラミスは、生きたいと願い、生きると誓いあっていた。極限状態と言っても過言ではない中で、その約束がどれ程の輝きであったのか…想像かたくないだろう。

ネブラミスは言った…「約束を破った」と。まだ話は続く…どんなに重く苦しい話しでも、最後までしっかりと聞かなくちゃ。

そう思って、俯いていた顔を上げた時に、ピクリと耳が反応する。

忍び足で、誰かが…テントに近づいて来ている。この足音は…九尾だな。

九尾ならば…察して、魔剣の話しの邪魔をするような真似はしないだろう。

私はそう思って、何も言わずに魔剣の話に集中した…。


ーーその後で…オレは、事故…なのかな?不測の事態に陥った…。


魔剣は、ゆっくりと話しの続きを語り出した。


『武器顕現』の葉力披露の後には、実践形式での戦闘を行う事になっていて…多数相手に1人で立ち向かう、より過酷な見世物が始まる。


『武器顕現』での模擬戦の、一応は勝者って事で、オレがやる運びになったんだ。場所を南より…他国まで流れる河に面した荒地が選ばれていた。

その場所は、高台になっていて…遮る物が何も無いから、見学するにはもってこい…だったんだろうな。

崖の下には、河が流れてて…何度か、河に飛び込んで逃げられないか?と考えた時もあったが…とてもじゃないが、飛び降りられる高さじゃないし、運良く河に飛び込めても、激しい急流で…危険すぎる、無理だと思って、諦めた場所でもあったんだ。


相手は…訳の分からない、黒い影だったよ。一応は株形ではあったがな。眼も、口も無くて…真っ黒で、何か、泥っぽい…嫌な匂いがしていた。

前に…話したろ?オレは訳ありで、影達の臭いに敏感だって。その理由が、それ…なんだ。

ワラワラと何十体もの影達が、武器を構えて、オレに襲い掛かって来た。

その殺気は本物で、オレを殺そうとしてるのを、嫌って程、肌で感じ取れた。ヒリヒリする…肌を通り越して、身体の内部を刺すような殺気の痛み。


殺される訳にはいかない…切り抜けて、何としても勝って、鉄格子の部屋で待つ14の元に帰らないと。

生き残る!ただその思いに、オレは集中した。

硬さは…無さそうだ。刃先が当たれば、スパッと斬れる…そんな予感がした。ならば、振りが早く扱い易い片手剣、左手に防御を兼ねた短剣を顕現させた。

相手の攻撃を短剣で受け、片手剣で切り裂く。二刀流はあまり得意では無いんだが…上手くハマって、戦えていたんだ。

影の動きがあまり素早くない…からだったかも知れない。

だが…奴等の数は減らない。斬っても斬っても、奴等は湧いて出て来る。

どれだけ斬ったか…何て、考える余裕も無くなっていく。


オレは、次第に追い詰められて…崖っぷちに立たされた。

崖下から風が舞い上がり、背中に嫌な汗が流れ落ちる。

瞬時に、武器を大振りの矛槍に持ち替えた。振り回して、奴等の中を突っ切るしか無いと判断したんだ。

全力で駆け抜けるのは、可能だろう…奴等が、14の素早さを兼ね備えていたら…ヤバかったかも知れない。

正念場だ。何としても、切り抜ける!


オレは軸足に力を込めた。

走り出そうとした、その瞬間…。


ビシッと、渇いた地面にヒビが入り、それは瞬く間に走り、割れ、オレは投げ出されるように…崖から落ちた。


一瞬、身体が浮くような浮遊感。そして、加速して、落下する感覚…。

そこからは…あまり覚えて無い。

一度、崖から飛び出る岩肌に、身体を強か打ち付けた…気がする。

気が付けば、水の中で…もがく度に、身体が軋み、呼吸すらままならない。ゴボッ、ゴボッ、と嫌な音が身体に響き、肺に水が入っている…と、他人事のように思った。

身体に力が入らなくなり…急流に身を任せるように流れる。意識が薄れていく中で…。オレは、


ーあぁ…14の長い黒髪を撫でたい…。早く、帰りたい…帰らなくちゃ…待ってる…14の元に…ー


それが、最後で…オレは完全に意識を手放した。


…オレが流れた後、どんな騒ぎになったのか。研究所がどうなったのか。…オレの帰りを、あの冷たい鉄格子に遮られた部屋で、ひとりで待ってる…14に何が起こったのか…。

オレは…何も、知らない。

知る術すら…持てなかったんだ…。


ーー魔剣は、そう言うと、涙を隠すように…両手で顔を覆う。

私は魔剣に掛ける言葉が見つけられぬまま、ただ黙って側に寄った。

せめて…このふわふわな毛並みの温もりが、魔剣の心に届くと信じて…。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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