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動乱の刻―歪む運命『在りたい姿』

世界は、静かに脈打っている――

芽吹き、歪み、そして命は交差する。

今、ひとつの「刻」が動き出す。

『在りたい姿』


全員が私の言葉を待っている。

雫の天才的推測…女神セレナは護り導く座から堕ちた。

理由までは推測出来ないが…女神がハオルチア達を身限り、世界の破滅を望んでいるのは確かなのだろう。

滅亡へと誘う神の使徒…ネブラミスは神託に縛られながらも…魔剣を苦しめ、絶望の淵へと堕とす為に、自分から魔剣を奪った天使の死を願っている…ように、私には思えた。

神堕ちしたセレナは、天使を生きたまま連れて来いと、所望しているらしい。使徒とするからなのか、その癒しの力を欲しているのか…全く検討も付かないが。

ネブラミスは自分の望みと、神の神託の狭間で悲鳴をあげて倒れ伏したのだ。


雫は、情報のピースを欲しがっている。確かに、私には魔剣とネブラミスの話しは聞こえていた。

けど…それは個人的な話しで、雫が欲するピースでは無いような気もしている。二人の会話は…二人の過去の話し。とてもセンシティブなものだから…本人の許可無く、語るのが憚られた。


私は意を決して、口を開いた。

「雫が言う通り、二人は会話をしていたよ。私にはその話が全て聞こえていた…。その話の内容は、教会や神の話しでは無くて…個人的でセンシティブな話しだから。魔剣の許可を得なければ…話せない。」

誤魔化しも、偽りも必要ない。

私は正直に思う事を口にした。

「…センシティブな問題。」

雫が俯きながら言う。

「ごめん…雫。でも、こればかりは…魔剣の許可が欲しい。私の良心の問題だから…。」

雫は首を横に振る。そして、私に微笑みかけた。

「そっか…何か因縁があるんだろうなぁ〜とは思っていたしな。輪が良心の呵責に苛まれるのも頂けない…今は我慢するかね。」

「そうだな…無理強いはいけないだろう。」

九尾と白帝城も理解を示してくれた。

「魔剣様が許可を下さった暁には…お話しを聞かせて下さいませ。と言うか、ご自分の口から語るのが、筋ですわね?」

白夜がそう話しながら、私の背中を優しく撫でる。


何だろ…コレ。

何だか、泣きたくなる。

内容を知らない皆にしてみたら、重要かも知れない情報だろう。その有力な情報を私は良心的な問題で話せないと…自分本位な意見をまるっと受け入れてくれた。

信じてくれている。

許可さえ貰えて、良心の呵責に苛まれる心配が無くなったら、必ず話すと…信頼してくれている。

それが伝わってきて、泣きたくなる程嬉しかった。

「ん?どうした…そんな耳、項垂れさせて。」

九尾がひょいと白夜の膝の上から抱えあげると、その腕の中に私の身体を包み込んだ。

「大丈夫、気にすんな。センシティブな話しって…輪が言うからさ、俺には察しがついたよ。」

パッと顔を上げて、九尾の顔を見つめる。知ってるのかな…魔剣の過去を。

「何となく…だけどな。俺の想像通りなら…話し難いってのも頷けるしな。」

九尾の言葉に、雫がウンウンと頷いた。

「…魔剣の過去に関わる話か。」

白帝城がズバリと言い当てる。

やっぱり皆知ってるんだな…。

九尾が眉根を寄せて白帝城を軽く睨んだ。

「…本当、そういう処だぞ…雫も俺も、マリンでさえ薄々察して言葉を濁してんのに…直球で言いやがりやがって。全く知らない白夜が居るのを忘れんな。…無駄な疎外感を与えんだろがっ。少しは空気を読め。」

九尾にビシッと怒られる白帝城…何か珍しいな。

「すまない…白夜殿。疎外感を与えるつもりでは無かったのだが…。」

「いえ、詫びる必要は御座いませんわ。私は気にしません事よ?それよりも…五葉の皆様の内情に、私のような部外者が踏み込んで宜しいのか…其方の方が気になります。」

白夜は、膝が軽くなったせいか…居心地悪そうにモゾモゾと腰を動かしている。

「…部外者?白夜は何を言ってるの…」

雫がキョトンとした顔をしながら、小首を傾げた。

「白夜は、仲間だよ?仲間外れは良くない。」

そう言ってニコリと微笑み掛ける。

「そういう事だから。白夜も俺らに遠慮するな。何でも話して、皆で解決して行くんだ。それが、俺達…五葉のやり方だからな。」

「そうだ、白夜殿も…どんどん思う事を話して欲しい。ご覧の通り…私は如何にも空気とやらに疎いようで…注意してくれれば直すように、善処したいと思う。」

白帝城の言葉に、白夜がクスリと笑う。自分から空気読めないから、叱ってくれ…と言ってるようなものだから、確かに変ではあるかも?

でも、真面目な白帝城らしくて…私は好ましく思うよ。


私の憂いはすっかり晴れた。

信用と信頼と優しさをギュッと詰め込んだ素敵な仲間達だ。

だったら、私のやる事はひとつだけ。

私は九尾の腕の中からジャンプして、

ひらりと身を翻して地面に着地した。

「魔剣の様子を見てくるよ。」

もし、意識が戻っているようなら…話をしよう。自分からネブラミスの話をするか、話し難いならば私が代わって皆に伝えよう。

きっと魔剣の古傷の痛みを…皆は共有してくれる筈だ。そして、立ち向かう為に支えてくれる。だから、ひとりで抱えないで欲しいって…魔剣に伝えるんだ。

「なら、少しだけ天使にこっちに来るように話してくれるか?白帝城に闇に囚われた経緯を話したいから。」

尻尾をピンと立てながら歩き出した私に、九尾が声を掛けてきた。

「了解です!」

振り返らずに、返事をして歩き出す。

きっと九尾はニヤニヤと私の姿を目で追っているのだろう。

そんな気がしてならなかった。


車体近くに張られたテントの天幕を、私はするりと抜けて中へと入る。

魔剣は目を閉じている。下から見上げる顔色は…そこまで悪くないように思え、呼吸音も規則正しく、安定しているようで、ホッとした。

それでも、天使の表情は不安を隠せないでいた。

ひっそりと魔剣の横に座る姿は、儚さげで悲しげに映る。

私は天使を驚かせないように気を配りながら、声を掛けた。

「魔剣は…まだ目覚めないんだね。でも、顔色は少し良くなってきているみたいだから…大丈夫だよ。」

私の言葉に、天使は視線を落として頷いた。そして、私をそっと抱き上げると、魔剣の足元へ降ろす。

「大丈夫…だとは分かっているのですが…心配になってしまうんです。」

天使が、虚ろな笑顔で私に笑い掛ける。なんて…なんて顔をして笑うんだ。

「無理に笑顔になる必要はないよ。心配する気持ちは分かってるから…笑わずに、心配だ!って顔をしていなよ。」

私は居た堪れない気持ちのまま、思わず天使に言ってしまう。


…私を気遣って、無理に笑顔を見せてくれたのだろうに…余計な事を言ってしまった。

「…癖…みたいなものなんです。笑顔を見せてしまうのは。何ででしょうね…私が何を思っていようが、何を考えていようが…関係なくて。とりあえず、笑顔を見せれば、安心してくれる…だから…でしょうか。」

天使はジッと魔剣を見つめながら、ゆっくりと自分の気持ちを話し出す。

「周りに居てくれる方々に、心配させてはいけない。気遣われるよりも、気遣える…そんな株になれ。…と、幼い頃に、亡くなった母から言い聞かされました。育った家を離れ…兄様達のお屋敷住まう事になった時…皆様がお優く迎えてくれて。

尚更ながらに、母の言い付けを守らなくてはならないと…心配かけてはならない。甘えてならない。迷惑にならないように、心掛けて…。

いつの間にか、どんな時にも微笑むようになりました…。」

その天使の話は…。

幼い天使が、周りを気遣いながら笑顔を絶やさずに生活している様は…何処か歪んでいるように思える。

「雫ちゃんの…感情抑制とは、全く逆で…自ら抑制し、律し続けて…笑顔を浮かべ、周りに安心してもらえるように…測っていたんです。

でも…兄様だけは誤魔化せずに…酷く叱られました。我慢し過ぎだ、笑いたくないのに、笑わなくて良い…って。」

その時の事を思い出したのか、天使はクスリと笑う。その笑みは、本物だろう。


「その時は、兄様のお話にはピンッと来ないままで…クレスト…魔剣と知り合った時に言われたんです。

『その笑みは止めろ、気持ち悪い』って…。あぁ…私の本質をこの方は勘破しているんだ…この方は、笑顔を貼り付け仮面を被る私を知ってるんだ…そう思ったら、何だか…心から可笑しくなってしまって。

ああ、兄様は…あの時にそう言われたんだなぁ…って、後から気が付いて。」

クスクスと天使が楽しそうに笑う。

「私、皆が思うほど…穏やかでも、優しくも無いです。ただ…皆から嫌われたくない臆病者。仮面を被り、自分を守っていただけの…弱者なんですよ?」

天使が微笑みながら、私の喉元の毛を梳く。

「でも…優しくなりたいと思っています。皆が思い描く『天使』で在りたいと…願っています。自然な私のまま、『天使』で有るように…努力している真っ最中なんです。

たまに…悪い癖が出てしまう時もありますが…多めに見て下さいね。」

そう話を締め括った、天使の笑顔は晴れやかで輝いている。

「天使は『皆が思い描く天使』と話したけど…天使はもうそこに到達してると思うよ…?

誰よりも優しくて、皆に負けない位の強さを持っているよ?

だから、大丈夫…天使は、いまのままでも、充分『天使』なんだからさ。」

私は天使の指先をペロリと舐める。

「…ありがとうございます。」

天使は少し照れくさそうに微笑むと

「輪ちゃんは、何か御用があってきたのでは…?」

「あ。忘れてた…九尾が少しだけ来てくれてって言ってたよ。」

思わず聞かされた天使の身の上話しで、肝心の要件を忘れるところだったよ。

「分かりました…少し行って参りますね…魔剣の事をお願いします。」

微笑みながら、席を立ちテントの中から表へと歩き出す。

その姿に憂いは無くて…いつもの嫋やかな天使のままだった。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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