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動乱の刻―歪む運命『焚火と知の灯』

世界は、静かに脈打っている――

芽吹き、歪み、そして命は交差する。

今、ひとつの「刻」が動き出す。

『焚火と知の灯』


時折、パチパチと炎の中へと焚べらた木材が爆ぜる音が響く。

とても静かな夜がやっと訪れた。

夕陽が沈み、深い森が闇に沈んだ頃から、怒涛の荒波の中に私達は投げ出されていた。


ひっそりと、人目を避けるように建てられている教会内部を調査する。内部に攫われたレイラ・トランシエンス女王陛下が囚われて居ないかどうか…または、その手掛かりを探る。それがこの旅の目的だった。

だが、内部に侵入して知ったのは…教会が、このハオルチア国を滅亡させる為に、悪事を働いていた事実だった。

非道な行いの犠牲者…実験に使われていた子苗達の保護。

そして…陛下を攫った張本人ネブラミスが、教会大司教として君臨していた。


妄執を抱え、狂信的な教会信者達。

存在を匂わせる、破滅へと誘う神。

魔剣とネブラミスの因縁。

度重なる危機を脱して、教会は跡形もなく白夜の葉力で消し去られた。

そうして…私達は今こうして再会し、焚火を囲んで炎を眺めている。

なんて…長い夜だろう。

皆、疲れ果て、言葉を失っているように思えてならない。


皆…と言っても、魔剣と天使の姿はここには無い。ネブラミスとの闘いで傷を負い、大量に出血した魔剣は、まだ目覚めていない。傷は天使が癒したから、問題ない…とは思うが、天使は魔剣の側を離れようとはしなかった。

今は、車体近くに簡易テントを張り、ベッドをあつらえ寝かしている。

車体の中には、救出した子苗達がラプティス達と遊び疲れて、スヤスヤと眠っているらしい。


そんなベッドを持って来ていたっけ?と不思議に思ったが…マリンが森の中から太めの木を伐採、地面に力一杯4本ほど突き刺し、その木の幹に頑丈なワイヤーロープをざっくりと編み上げ、くくり付け…簡易ベッドとしてあつらえたらしい。

だから…その魔剣の身体が横たわっても安定して、沈まぬ程頑丈なワイヤーロープを…何でマリンは素手で引きちぎる事が出来るのか…気になるのに、怖くて聞けない。

尋ねたとしても、マリンの事だから

「この程度の些事が行えないようでは、主に仕えるメイドとして失格でしょう。」とか何とか…言いそうだ。


静かな沈黙を破るように、白帝城がひとつ溜息を漏らした。

九尾が顔をあげて

「すまん…色々あって、すっかり自分の中に篭ってしまった。」

白帝城は小枝を炎に焚べながら

「いや、構わない。情報の共有をして貰いたいのは確かだが…。溜息は、すまない…そういう意味では無いんだ。保護した子苗の行く末を…案じて、思わず溜息を吐いてしまったのだ。」

「救出したのは、何苗になる?」

「4苗…だが、多分…3苗になるだろう。アレは天使の力をもってしても…回復は難しい。」

「…そんなにか?」

「身体を、あちこち改造された形跡があった。無理に遺伝子情報を組み込んだのでは無いだろうか。拒否反応で、身体が崩れて出している。天使でも…崩れは止められないだろう…な。」

九尾は唇を引き結び、痛ましさに眉を顰める。その生命が尽きようとしている子苗の元へ向かおうと立ち上がるが、白帝城が腕を掴み引き戻した。

「お前は、会わない方が良い。私が最期まで責任を持って…弔う。だから、安心して前だけ見ていろ…。」

白帝城の強い意志を込めた瞳で見つめられながら、九尾は苦しげな様子で、腰を落とした。

「…頼んだ。」

「ああ。任せろ。」

白帝城が九尾の心情を理解し、安心させるように…その丸めた背中を、ポンと叩いた。

九尾はフッと微かに笑う。

二人の会話に、雰囲気に、誰も口を挟めず…ただ祈るように右手で胸を抑えるばかりだ。

何て、痛ましい事だろう。

九尾を慮り、行動しようとする白帝城…それを受け取り、白帝城ならば全てを任せられる…頼もしい。そう九尾は感じているのだろうな。


「それじゃ、得た情報の共有、擦り合わせをしよう。魔剣と天使は、後から…でいいな?」

気を取り直したように、九尾が話し出すと、皆が集中し始めるのが分かった。

「ええと…白帝城が知っているのは、輪が話した教会の悪事、大司教が現れたって処までだったな?」

九尾の問いに、白帝城は頷く。

「よし。大司教は、ネブラミスだった。アレは…やっぱり化け物だわ。あの魔剣を貫き、マリンの全力の蹴りを喰らっても立ち上がり…楽しめそうだと吐かしやがった。」

九尾の言葉に、白帝城が鼻白む。

「な…本当か?」

「マジだ。」

白帝城は口元に右手を沿わせ、

「それは…確かに、化け物と言っても過言では無いな…マリンの全力を受け流せる輩が居るとは…信じられない。」

呆然としながら話す白帝城は、気が付いてない。マリンの眉がピクピクと反応している様に…。

それって…遠回しにマリンも化け物だと言っているようなモノだよね?

雫は、背後から漏れ出すマリンの殺気を感じながら、思案顔をしている。

九尾は、サッと口を閉ざし、それ以降はマリンに触れぬように回避して。

白夜は素知らぬ顔で、膝に居る私の背中を撫でている。


「そうか…マリンと同格、もしくはそれ以上の身体能力を兼ね備えている…と言う事だな。しかし…そうなると、化け物相手にどう立ち向かうか…これは、難しいぞ。」

全くマリンの様子に気付かぬ白帝城は、『同格』と言う言葉を使ってしまう。

「…白帝城様。お話しの腰を折ってしまうのも恐縮なのですが、ひとつ宜しいでしょうか。」

ついに、マリンが口を開く。

「そのお言葉は、私がネブラミスと言う名の化け物と、同類の化け物と、仰っている…と、受け取っても構いませんか?」

にっこりとマリンが微笑みを浮べて、白帝城に詰め寄る。

九尾が、それを見て盛大に溜息を吐いた。

「え?…いや、そんな事は話していないが……あ。」

さっきまでは白帝城の事を『凄いな、何か…頼れる。カッコイイな』とか思っていたけど…やっぱり、白帝城は白帝城で。何処か抜けてるんだなぁ〜。

「や、違うんだ…決してマリンの話しをしている訳ではなくて…だな。

ネブラミスが、化け物クラスに強いと言う話しをしているのであって…」

「その比較が、私の全力攻撃…な、訳ですよね?甚だ心外で御座います。白帝城様ともあろうお方が、あのような女と私を同類項の化け物と考えてらっしゃるとは…。」

パキパキとマリンが拳を鳴らす。

「この言動は、紳士には有るまじき所存と思われます。…再教育が必要かと。」

ズササっと、白帝城が咄嗟に後退り逃げる。

「ご許可を頂きたく存じます。」

かなり御立腹なマリンが、雫と九尾に視線を投げる。雫は、何も言わずに肩を竦めて見せる。

まぁ…理解及ばず、口を滑らせた白帝城が悪いよね…って感じかな。

九尾は左手で顔を覆いながら

「本当に、白帝城は頼りになるのか、馬鹿なのか…わからん。まぁ…それも白帝城の持ち味ってヤツだろう。…マリン、抑えろ。再教育の必要は無い。」

と、呆れたようにマリンに指示を出した。

「…承りました。」

マリンは少し不服そうではあるが、素直に九尾の指示に従い、雫の背後に戻り…空気と化した。

「すまない…以後気をつける。」

ホッとしたように、白帝城が元の場所に戻り

「マリンも…私が至らぬばかりに、不快な思いをさせてしまった。申し訳ない。」

と頭を下げる。


コレよ、コレ。これも、白帝城の凄い処だと、私は思っている。

身分ある地位を持つ者が、いち従者に対して詫びを入れて頭を下げる。普通ならば有り得ないんじゃないかな。だからこそ、申し訳ないと思っている気持ちが良く伝わるんだ。

相手がどんな身分であろうとも、それに拘る事なく、真摯に向き合う。

うん、やっぱり白帝城は尊敬すべき株だと思う。


「…話しが逸れたな。戻すが…結局、教会の連中は…ハオルチア国の転覆を狙うテロリスト集団…と、俺は思うんだが。他に誰か、思うところはあるか?」

「…多分、それ、違うと思う。」

九尾の話しを黙って聞いていた雫が口を開く。

「国家転覆を狙っているのでは無くて…国家滅亡。或いは、世界滅亡。そのものだと…思う。

ネブラミスの葉力は異常で、異様過ぎた。幾ら研究の成果…だと言われても納得出来る範囲を、軽く超えている。」

思案顔のまま雫は静かに語る。

「それに…輪さんが話した夾竹桃と言う名前の精霊の存在もある。ハオルチア同士の内乱…テロリスト如きに、精霊が関わる…とは、考え難い。だとすれば…やはり精霊が話した通りに、霊力が関係し、神の存在は無視出来ない。」

「雫は、宗玄が話した『神は滅亡を望んでいる』ってのを、妄信では無く、真実だと思うのか?」

九尾の言葉に、雫は小さく頷いた。

「狂信ではある…とは、思う。けど、それに誘う存在はある。何らかの方法で、霊力を得たネブラミスの単独…とも考えたけど、辻褄が合わない。最後に輪さんが叫んだ言葉で、ネブラミスは動きを止めて、苦しみ出した。『神の神託を忘れたの?』

ネブラミスは、神託に沿って動いているのは確実…。神は存在し、ネブラミスは、神の使徒だと思われる。

そして、その神託に…天使が深く関わっている。」


雫が一気に捲し立てるように語るのを、皆沈黙のまま聞いて居る。

「どんな形で天使が関わっているのか…それは、まだ、理解に及んでいない。でも、ネブラミスが魔剣と天使を突き刺す寸前に止めた…と言う事を鑑みれば、自ずと理由は悟れる。天使が生きている。これが絶対条件だと思う。生かしたまま、神の座する場所へ誘う…これが、ネブラミスに下された使命じゃないかと思われる。」

私は息を詰めたまま雫の話を聞いていた。雫には…ネブラミスの言葉は届かず、聞こえていない筈だ。

なのに…見ただけで、私が話した夾竹桃の存在や、霊力に精霊力が喰われている事実。僅かなピースで、ここまで把握していた。

私の推理なんて…目じゃないな。

「神が滅亡を望むとは…何て事だ。」

白帝城が頭を抱えて嘆く。

「ただの神では無い…と、思う。破壊を司り、滅亡を望む神…邪神。」

「その邪神の使徒がネブラミスだと?」

白帝城の言葉に、雫は首を左右に振った。

「…そんな簡単では、無いかも知れない。教会はセレナ・ルシフェラを祀る神聖な聖域…そこに邪神が祀られるとは、考え難い。多分…女神セレナ・ルシフェラが、何らかの理由で堕ちた…神堕ちしたのでは…無いかと思う。」

雫の言葉に、一同が息を飲んだ。

神が…堕ちる。聖なる力は、邪悪に染まり、闇の支配者へと変貌を遂げる。

「崇拝する神が堕ちて、信者達もその崇拝のまま、闇に染まった。だから、教会をそのまま利用出来るし、セレナの姿を模した像もそのまま…。邪神信仰では無く、セレナ信仰のまま…事が進んでいた。だから、発覚が遅れてしまった…。」

その言葉に一番ショックを受けたのは、白夜であった。

セレナの姿を模した像に、白夜は魅入らていたように思う。美しい姿だった…なのに、神堕ちしてたなんて。

でも…案内してくれた株は話していなかったか?

「本当のお姿は、もっと美しい」と。あの言葉は、堕ちた神の姿の事だったんだ。


「これは、あくまでボクの推測。まだピースが足りない…」

雫がそう話しながら、白夜の膝に居る私に視線を向けた。

「戦闘中に…魔剣はネブラミスと話をしていたよね?ボクには聞き取れなかった…でも、輪さんの耳なら聞こえていた筈だ…教えてくれないかな?」

「え、そうなのか?」

九尾まで私に視線を向ける。

「うん…時折、唇が動いていたから、話をしていたんだと思う。位置取り失敗して…唇を読めがなかったんだ…ごめんなさい。」

雫がシュンとして肩を落とす。

「あの状況でしたし…雫さんの安全が第一ですわ。お気になさらないで下さいませ。」

白夜が雫を励ますように声を掛けると、私へと視線を向けた。

「さて、魔剣達が何を話していたのか…教えて貰いたいものだな。」

白帝城までも、そう言った。

魔剣の話は…とてもセンシティブな話しで…個人的な問題だと思う。

それを今、ここで、魔剣の許可無く話して良いのだろうか…。

私は皆を視線を真っ向に受けながら、夜空を見上げた。

夜は…まだ終わらない。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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