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動乱の刻―歪む運命『夜のしじま』

世界は、静かに脈打っている――

芽吹き、歪み、そして命は交差する。

今、ひとつの「刻」が動き出す。


『夜のしじま』


私はしどろもどろになりながら、夾竹桃と言う名の精霊に、出会った経緯を皆に話して聞かせた。

出会う…と言うより、押し掛けて来た…が正解のように感じるが。

反応はそれぞれで、雫は興味深そうに、時々小首を傾げながら聞いている。

九尾は、少し呆れたように、「俺達が必死にアレと対峙してる間に…そんな事に。」と溜息を吐いている。

白夜と言えば、目をキラキラさせて

「私、実際に精霊様と関わった事はございませんのっ!輪さん、凄いですわ〜。」と、何故か仕切りに関心していた。

天使は、気を失ったままの魔剣が気になるようで…耳を貸してはいるが、心ここに在らずって感じ。

マリンは、相変わらずで。常に何事にも平常心を崩さずに、土埃に塗れてしまった雫の髪を梳き、乱れた服を直し…と、甲斐甲斐しく世話をしていた。

「だから、信者の三株はじーちゃんに保護されたって事だから、大丈夫。きっとじーちゃんが、宗玄の呪術を解除してくれるよ…。」

私は、話をそう締め括り、息を吐いた。話が長くなるから…夾竹桃の性格までは語らなかった。本当は、めちゃくちゃ聞いて貰いたい!が、後にしよう…。

「…なるほどねぇ。まぁ、クスノキの爺さんなら大丈夫か。」

九尾が安心したように一息吐くと、魔剣の側に控えているギギの首を優しく撫でながら

「また魔剣を頼むなぁ。」

と話しながら、魔剣を抱えて、ギギの背に乗せる。

「ギュッ!」

賢いギギは、「任せろ」とばかりに

元気に答えて見せた。

「天使もギギに乗って、魔剣が落ちないように支えてやってくれ。」

九尾は天使に手を差し伸べて、ギギの背に跨るのを手伝った。

「んじゃ、白帝城の所へ行くか」

マリンがギギの手綱を引きながら、先頭に立って歩き出す。

白帝城が居る場所は、マリンしか知らないから。

私は白夜に抱かれ、九尾は雫を抱き上げて、マリンの後についてゆっくりと歩き出した。


道すがら、九尾は天使に

「そう言えば…ヤツから吹き出した闇に囚われた時…闇が砕け散ったのは、天使がやったんだろ?何をしたんだ?」

と尋ねた。

その問いに、天使は小さな首を振る。

「分からない…。ただ皆が無事で有りますように…この闇を抜けて、皆と再会出来ますように…と、祈っていただけなんです。そうしたら、光が…。」

天使はそこまで話すと、口を閉ざしてしまう。本当に、どうして光に包まれ、闇を砕く程の力が出せたのか、自分でも分からない様子に見えた。


天使の祈りは、神に捧げるような祈りではないらしい。

それは、一心に願い、叶えようと努力する誓いのような…そんな切なる願いを『祈り』と言ってるに過ぎない。

「そうか…その力を自在に使えるようになれば…」

九尾はそこまで話すと、口重そうに閉ざし、天使から視線を外した。

九尾の話したい事は、私でも察する事が出来る。

多分…天使があの力を使い熟せるようになれば、北で待つと話した…あの化け物と対峙する時に、活用出来るんじゃ無いか?…きっとそう言いたかったんじゃないかな。

でも、それは天使の『祈り』では無い…。天使は、争いを好まないだろう。その暗号名が示す通りに、彼女は癒し、赦し、助ける者なのだから…。


暗く深い森の中、道なき道をマリンの姿を見失わないように進む。

灯りはマリンが目印になるようにと、腰にぶら下げているペンライトのような小さな灯りのみ。

私は夜目が効くから、まだ見えけど…先頭を歩くマリンは大丈夫なのだろうかと、不安に思っていると、私の耳に、微かに…サワサワと水の流れる音が聞こえて来た。近くに小川があるみたいだな…。

そのまま暫く歩くと、小川の辺りに出る。

マリンは、小川に沿うように下流へと歩き出した。

「もう少しです。泥濘んでる処も御座いますので、足元にお気をつけて下さい。」

マリンが振り返る事なく、話す。

私達がはぐれる事なく、付いてきていると確信しているみたいだ。

マリンの言葉通りに、焚火の灯りが薄っすらと見えて来た。

私達は無言のまま、白帝城の虹色のシャボン玉のような結界の中へと入る。白帝城の結界は、誰でも侵入出来る訳では無い。実際、白夜と出会った時には、盗賊風の株達の侵入を阻んでいたしね。

許された者だけが中へと通る事が出来て、それは任意で決定づけられる。

強度や広さも思いのまま…本当に白帝城は凄い!と実感出来る瞬間だ。


私は白夜の腕の中で、ホッと息を吐く。抱かれているとは言え…何か、緊張していたみたいだな…。

キャンプ地は小川の辺りで、少し開けた場所にあった。車体を守るように、ラプティス達が集っているのが見える。

焚火の側には、白帝城が焚き木をくべながら、火の番をしていた。

白帝城は私達に気が付くと、立ち上がり駆け寄ってきた。

「無事だったか!凄い音が聞こえてきて…心配したぞ。」

「魔剣が傷を負った。まぁ…治癒はしているが、血を流し過ぎたみたいで、気を失ったままだ。」

九尾の言葉に、白帝城は息を詰めた。

「…そうか。では、休ませないとな。待ってろ、直ぐに用意する。」

色々と質問したい気持ちを抑えるように、白帝城が車体へと戻ろうとすると

「私もお手伝い致します。」

マリンがギギの手綱を九尾へと手渡すと、白帝城と共に車体へと向かう。


九尾は雫を降ろすと、腰に手を当てながら

「雫も重くなってきたなぁ…いつの間にか、こんなに背も伸びて。流石に雫を抱いたまま、夜の森を歩くのは…キツイなっ!」

「…幼子とはいえ、女子に対して『重い』とは、失礼だと思いますわ。」

九尾の軽口に対して、白夜が呆れたように苦言を呈する。

「え。…いや、うん…すまん。」

九尾が雫の頭に手を置いて、素直に詫びると

「重いって事は、ボクが成長してる証だよね?

謝る必要性を感じない…」

とキョトンとしながら、九尾を見上げている。

「でも大変なら、ボクは自分で歩けるよ?」

九尾が優しく微笑みながら

「夜の森は危ないからな…」

と、雫の頭を撫でる。

「まだ暫くは…今のままで。」

優しげな九尾の微笑みに、雫がはにかみながら頷く。

本気で重いと思っているわけではなくて、九尾なりの軽い茶化しなんだろうと察しが付くが、

「九尾様…お優しい…」

私を抱く白夜が、頬を染めながら、ほぅ…と息を吐き、小さく呟いた。

うん…白夜にはイマイチ伝わってない気もするが、恋というフィルター越しだから…仕方ないかな。


何と言うか。私は日常に戻ってきた…そんな気持ちが溢れてきて、白夜の腕に抱かれながら、ゴロゴロと喉を鳴らす。

やっと…夜が穏やかに包み込んでいるのを実感した。


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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