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動乱の刻―歪む運命『呼び声〜使徒』

世界は、静かに脈打っている――

芽吹き、歪み、そして命は交差する。

今、ひとつの「刻」が動き出す。

『呼び声〜使徒』


天使という上等な獲物を狩ろうとする、獰猛な猛獣のような眼差し。

その鋭さに、天使は微かに震える両手をキツく握り締めて、ネブラミスの眼光を正面から受け止めている。

そんな天使を守るために、ネブラミスが産み出した影人間を全て消し去った白夜と、隣りに九尾が並び立つ。

ネブラミスは笑みを浮かべたまま、二人との距離を測っている。ネブラミスの背後には、力尽きたように座り込み、左肩から流れる血を押さえて、項垂れる魔剣の姿があった。

天使は魔剣に走り寄り、回復術を施したいのに…目前にはネブラミスが立ちはだかり、それを遮っている。


さっき魔剣達を呼びに行ってる間に、九尾と白夜の二人はネブラミスと戦っていた…。

あの時は、まだ大司教の姿で素手だったはず。なのに二人ともフルボッコだった…。

今は、エストックを握り締めて居るんだよっ!ネブラミスは、魔剣すら圧倒する剣術を使い熟している。

コレ、かなりヤバい状況では無いだろか…。どうしたら良いんだろ?

白帝城を呼びに走った方が良いだろうか…。

私は判断に迷い、雫を見上げた。

雫はラプティスのギギに庇われるように、この状況を真っ向から見ている。私の視線に気が付いた雫が、

「多分、もう来る…大丈夫。」

そう呟いて、頷いて見せた。

何がもう来るって?

そう雫に尋ねようとした時に、魔剣によって破壊された扉近くに、気配を感じる。私は口を閉ざして、そちらを見た。


メイド服という戦闘服の裾を翻し、冷静に状況判断をしているマリンが姿がそこにあった。

瓦礫を軽々とジャンプして乗り越えて、九尾の背後へと回り込む。

「申し訳ありません。子苗達の避難に時間を取られてしまいました。今は安全な場所で、ラプティス達に守られております。」

マリンは、子苗の身を案じているであろう九尾に、そう報告をする。

「主から、排除命令を頂いております。それで宜しいでしょうか?」

九尾はネブラミスから視線を外す事なく、ニヤリと笑う。

「ああ、派手にやってくれ!」

「畏まりました。では、全力で対応致します。」

マリンが、両手のナックルガードに葉力を流し込むと、葉力は硬化して3本の爪へと変化する。雫がマリンの為に作った専用武器だ。

雫は、マリンが到着するのを予測してたんだな…流石だ。


ネブラミスは、突然現れたマリンを値踏みするように見ながら、警戒をしているみたいだ。

「その髪色…見た事あるわ。確か…東斜塔に居る小娘のメイドだったわね?」

ネブラミスの「小娘」と言う言葉に、マリンがピクリと反応する。

「マスターからも許可を得ましたので、排除させて頂きます。」

マリンはネブラミスの言葉に反応しながらも、対応する様子は見せずに、戦闘態勢に入った。

腰を据え、左手を前に翳す。右手を腰まで引き添えると、ネブラミスに向かって、飛ぶように一気に間合いを詰めた!

え…マリン、縮地を使えるのっ!?

ネブラミスとゼロ距離まで間合いを詰めると、マリンは渾身の右フックを叩き込む。その拳はネブラミスの鼻先を掠めて空振りした。

態勢を崩したマリンは、そのまま崩れるように左へ身体を傾けると、アクロバットのように捻り、右膝をネブラミスの脇腹に減り込ませ、力一杯振り抜いた!

そして、その威力は…ネブラミスの身体を数メートル吹っ飛す。

「クッ」

吹っ飛んだネブラミスは片膝を付くと、脇腹を押さえながら、美しい顔を歪ませている。

それは…本当に一瞬の出来事だった。

マリンが、あのネブラミスに一撃を入れたっ!九尾、白夜、魔剣でさえ…ネブラミスに一撃を入れる事が出来なかったのに。しかも…膝まで付かせるなんて!

「ああ…戦闘慣れしているわね。狐よりは楽しめそうだわ…。」

ネブラミスは立ち上がと、不敵に嗤う。マリンがファイテングポーズを崩さぬまま、嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「…では。お楽しみ頂きながら、果てて下さいませ。」

マリンの挑発的な言葉に、ネブラミスは苛ついた様子で睨め付ける。

そして縮地を使いマリンとの間合いを一気に詰めてきた!


…そこからの二人の戦いは、とてもじゃないが眼で追えない…。攻撃、回避と縮地を使いまくる。

そんな様子を見て、雫が唸った。

「…おかしい。何で、ネブラミスは…肉体強化、武器顕現、物質制御、眷属召喚…多種の葉力を使えるんだろう…。何かが…違う?」

その雫の言葉を聞いて、ふと考える。

さっきネブラミスが魔剣に話しかけていた時に…神の声を聞いて、力を得たと言っていた。研究員が欲していた力とも…それって…もしかして、霊力じゃなかろうか?


闇研究施設の殆どが教会が運営してる施設だった。教会は神を奉る場所で…。んと、じーちゃんは何て話してたっけ?

神から二つ目の器を授かり、神からの啓示を受けて『霊力』を使い熟す。

その力の源は無尽蔵…。

神の意志に従う定めに囚われる…使徒。

もし、宗玄が話していた…『神は滅亡を望んでいる』って言葉が本当だったら…?

最悪の思考に、私はゾクリと背中を震わせた。

ネブラミスは、破滅を望む神の使徒で、無尽蔵の霊力を操る事が出来る。だとしたら、多種の力を使い熟すのも納得出来る…。

使徒として教会に属しているならば、大司教という地位も当然だろう…。

でも…何でそんなに天使に拘る?

え、え、ちょっと待って。

ネブラミスは天使に、共に行こうと誘っていた…声に招かれた、惹かれ合う対なる者。そう話していなかったか?

まさか、天使に聞こえていた声って…ネブラミスが聞いた神の声?だから惹かれ合うって言うの?

破滅を望む神は…天使を使徒にしようと声を掛けて誘っていたのか!?

そんな…馬鹿なっ!

私はぐるぐる巡る思考の中で、パニックを起こた。どうすれば良い?雫に相談した方が…。

激しい破壊音が聞こえて、顔を上げれば…まだ激しい戦闘は続いている。

ネブラミスの拳が、マリンを捉え損い、壁を破壊している。崩された壁が、パラパラと破片を落としていた。

雫に相談する時間があるのだろうか?いや、悩んでる時間も惜しい。

私は雫に話しかけようと口を開いた時に…


ーもしも〜し?聞こえますかぁ〜?


頭の中に甘ったるい少女の声が響き、私は口を開けたまま固まった。

え…何?


ーあ、聞こえたみたい?

良かったぁ〜。そこって霊力がスッゴイからさぁ…声が届かないかと不安になっちゃったよぉ〜。


え、誰…?

頭の中に声が響くって事は、精霊さんだよね…。霊力がスッゴイって、やっぱりネブラミスは霊力を使っているんだ…。


ーそのオンボロの建物…教会?とか言うヤツ。なんかぁ〜株が来て騒がしくなったと思ったらぁ…急に霊力に満たされてちゃって!

私の聖域にまで侵食してきてさぁ…めっちゃ迷惑してたのぅ〜。弱精霊達も怖がるしさぁ〜。

普通はね、霊力って…こう、何て言うかぁ〜神々しい力なんだよねぇ?

眩しいっ!みたいな〜?

でも、そこを満たしてる霊力ってさぁ…禍々しいのぅ〜!そりゃ、弱精霊みたいに力が弱い子達は怖いよねぇ…。取り込まれたら、消えちゃうんだもんっ。

だからね、スッゴイ困ってたんだぁ〜。


…えっと、それは色々と災難だったね?

ところで、今…私達は、大変立て込んでおりまして…御用があるなら手短に話して欲しいなぁ〜とか思うのですが。


ーえぇ〜?

やだぁ…つまんないっ!

苦労してさぁ…声届けるのも、大変なんだよぉっ!…なのに、輪さんてば冷たいっ…。じーちゃまは、輪さんは超絶優しいって言ってたのにっ!

…夾ちゃんにだけ冷たいの?

もぅ、夾ちゃん、泣いちゃうからねっ!


つまんないっ!とか言われても…えと、泣かれるのは困るかな…

そのじーちゃま?は、私の事、知ってるのかな…

別に、えと…夾ちゃん?にだけ、冷たいって訳じゃないからね。

本当、冷たいって事では無くて…かなり立て込んでるからさ…。

その…ごめんね?


私は頭の中で、しどろもどろになりつつ弁明する。

…てか、何だコレッ!!?


時には、キャラたちと共に笑い、

時には、共に憤り――

彼らが抱える想いに、どこかで共鳴してもらえたなら。

ゆるやかに、この世界観を満喫して頂けたなら。

それが、私にとって、何よりの幸いです。


――読んでくださって、本当にありがとうございました。

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