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動乱の刻―歪む運命『呼び声〜大切なもの』

世界は、静かに脈打っている――

芽吹き、歪み、そして命は交差する。

今、ひとつの「刻」が動き出す。

『呼び声〜大切なもの』


九尾に抱えられた天使の様子がおかしい…。

雫の言う通り、天使に何か埋め込まれてる?それとも、ネブラミスのいう事を聞くように暗示を掛けられているとか…。

幾ら陛下と仕草が似ているからとはいえ、初対面で悪事を働く教会の大司教であるネブラミスと、一緒に行こうとするのは変だ。

「…貴様、天使に何をしたっ!」

魔剣が剣を構えながら、吠える。

「何も…。可愛らしい天使は、元から私の物…。邪魔立てするなら、この場で死になさい。」

ネブラミスがイラついたように魔剣を睨むと、抑え込んでいた殺気を一気に解き放つ。

その威圧感に、私の毛は全身が逆立った。

魔剣に突進してくるネブラミスの姿が一瞬消える。すると、次の瞬間には魔剣の背後に回り込んでいて、鋭い蹴りが魔剣の上体へと繰り出された!

「クッ」

魔剣は咄嗟に身を捩り、スレスレにその蹴りを躱す。そして、飛び退いた。

「流石の条件反射ね…。いつまで躱せるかしら?」

ネブラミスはそう言いながら、ニヤリと笑う。ふらりと身体を揺らすと、また姿を消した。

瞬き一瞬の間に、魔剣の目前に現れ、殴りかかる。魔剣はその拳を、剣の柄頭を当て、何とか軌道を逸らし、直撃を回避する。

え、何!?

ネブラミスは何で消えて、次の瞬間には側まで来てるの…瞬間移動?

ネブラミスは超能力者かっ!?

戦闘が始まり、私は慌てて九尾達の側まで退避したが、ネブラミスの攻撃に度肝を抜かれ、呆然としながら戦況を見ていた。


「あれは…縮地ですわね。」

雫に手を貸してもらいながら、目覚めた白夜がそう言った。

縮地…アニメとかで見た事がある。

目にも留まらぬ速さで移動する方法だよね?…実際に見れるとは…感慨深いな…。いやいや、そうじゃなくてっ!

あんな速さで移動とか、魔剣やばくない?

「葉力で、肉体強化してる。踏み出した瞬間に、脚力を一気に開放。一歩で飛ぶように移動してる…。力の連動が、スムーズ…だけど、かなりの負荷が肉体に影響を及ぼすと思われる…。」

雫がぶつぶつと呟きながら、ネブラミスの動きを観察している。

雫なら、この状況を覆す一手を見つけられるんじゃないだろうか?

「ちょっとお聞きして宜しくて。アレは一体どういう事かしら?」

白夜が不快そうに眉間に皺を寄せ、天使を抱き止める九尾を指差す。雫はかなり集中しているみたいで、白夜の声に反応しない。

「えっと…」

何か誤解していそうな白夜に、説明しないと…別の修羅場が展開されたら困る。私は口を開いた。

「天使が…ネブラミスの誘いに乗って、行こうとするから。九尾が止めてる感じで…ああなってる。」

私、説明下手かっ!

「…誘い…魅了の類いですか?」

白夜がふらつきながらも、立ち上がる。

「暗示とか、以前に会った時に何かされたんじゃないかと…雫が話してたけど…。」

そう言えば…ネブラミスが何か魔剣に話してたな。『天使とは対なる者』とか『惹かれ合う』とか。

『一緒に目覚めを迎える』とも話してた…どういう意味なんだろう?

今の天使の状況と何か関係があるのだろうか。


「あの状況は、非常に不愉快ですわ…。手っ取り早く正気に戻って頂きましょう。」

白夜が蹌踉めきながら、九尾の側へ寄る。そんな簡単に言うけど…正気に戻せるなら九尾がやってると思うのだけど…。

白夜は九尾をひと睨みしてから、天使の肩を掴む。そして、ぐいっと力任せに九尾から引き離すように、自分の方へと身体を向かせた。

「おい。」

白夜の行動に九尾が戸惑いを浮かべながら声を掛けた瞬間に…

パァン!渇いた音が高らかに響き渡る。白夜の右手が勢いよく振られ、天使の頬を思い切り叩いたのだ。

「なっ。」

思わず、私と九尾は声を揃えた。

天使は、叩かれた反動で床へと崩れ落ち、呆然としながら左頬に手を添えている。

「何を簡単に魅了されているのですかっ!」

白夜が天使を見下ろして一喝する。

「そんなに悪に染まりたいのなら、引き止めませんがっ!その前に、その花を咲かせた頭でお考えになって!貴女にとって、一番大切なモノを踏みつけてまで…向こうへ行きたいのですかっ!?」

天使が白夜の言葉を聞くと、ゆっくりと眼を見開きながら呟く。

「…一番大切なモノ…」

そうして視線を彷徨わせて、何かを探す。天使の視線は、未だ戦闘が繰り広げられている中央へと注がれた。

まさか…ネブラミスを見てる?と冷やっとしたが、天使は全く違う言葉を口にした。

「…クレスト…。」


クレスト?

何か…聞いた事あるような、無いような?私は、その言葉の意味を思い出せずにいると、天使が絶叫した。

「クレストーッ!!」

それには、白夜も驚いて一歩引いてしまった。九尾は、言葉の意味が分かっているのか、深く溜息を吐くと、肩を竦めてゆっくりと左右に首を振って見せた。何か、呆れてる…?

天使の絶叫を聞いた魔剣は、ビクッと身体を震わせると、素早く後方へと飛び退いた。視線はネブラミスから離さずに、天使の側へと駆け寄る。

「どうしたっ!?」

天使は涙を浮かべて魔剣を見つめると、その胸の中へと崩れるように身を投げ込んだ。

「私…ごめんなさい…。私は…大切な人を踏みつけて…ネブラミスの誘いに乗ろと…。」

泣きじゃくりながら、天使は魔剣の胸にしがみく。

「…正気に戻ったのか!良かった。」

魔剣は安堵した様子で、天使の肩に手を添えた。

「クレスト…ごめんなさい…私…」

天使が、涙で潤んだ瞳で魔剣を見上げる。さっきまでの虚ろさはすっかり消え失せて、キラキラと涙が輝いている。

「…大丈夫だ。何も問題ない。」

魔剣が優しく天使に微笑んで見せた。

…ん?

今、天使は魔剣の事をクレストと呼んだ…?

背後からひょいと抱き上げられてビックリすると、九尾が疲れた顔をして私を見ていた。

「クレスト・デスブレード、魔剣の本名だよ。」

九尾が耳元で囁く。

え…魔剣の本名って事は。

「…天使は、魔剣の名前を絶叫したって事?」

「そう言う事…あの状況でだぞ?白夜にビンタされて、正気に戻った瞬間に魔剣を呼ぶって…何か、俺、疲れた…。」

そう言いながらも、九尾の眼は暖かく魔剣と天使を見つめている。きっと、その疲れは…天使が正気に戻った安堵感からくるものだろう。

でも…そうか。

天使は、魔剣を心の底から大切に想っていたんだな…魅了状態から正気に戻る程に。魔剣も天使を大事に想っているし…何だ、二人は両想いじゃんかっ!

あぁ…。ちょっと九尾の疲れの原因は、コッチじゃないかって気もしてきたわ…。

「しかし…デスブレードってのは…痛いよなぁ〜。魔剣が自分で名付けたらしいぞ?」

九尾が心底呆れたように話す。

確かに…言われてみれば。かなり厨二病の匂いがする名前だな…。

その時

「危ないっ!!」

雫の叫びが場を切り裂いた。


九尾は私を抱いたままでその場を飛び退き。白夜は咄嗟に九尾の側に駆け寄り、魔剣は天使を、大事そうに包み込むように抱きしめたまま、跳ねるようにして飛び退いた。

皆がその場を離れた直後に、ネブラミスが周囲を破壊する程の威力で、拳を床に叩きつけていた。

ゆらりと立ち上がるネブラミスの拳からは、ポタポタと血が滴っている。

床は陥没して、ネブラミスを中心に放射線状にヒビが入り、破壊されていた。

さっきとは比べ物にならない位の、ドス黒いオーラがネブラミスの身体から湧き上がっている。

これは…怒りの感情だろうか?

「…いい加減にしてくれる?私の目の前で、一体何をしているのかしら。」

上目遣いで睨むその眼には、溢れんばかりの怒りが浮かび、天使を包み込むように抱きしめて守る魔剣の姿を、漆黒の闇色の瞳に映し出している。

「…本当に、癪に触るわね…。」

ネブラミスが地の底から響くような低い声でそう言うと、一歩…放射線状の陥没地帯から踏み出す。

バキバキッ!と、床が割れた。

えっ…どんな脚力してんのっ?踏むだけで床が割れるって…。

「もう、良いわ。今、貴方の目の前で大切な女を八つ裂きにしてあげる…。その血に塗れ、絶望と喪失感に苛まれなさいっ!」

ネブラミスは叫ぶと、土埃に塗れ薄汚れてしまった純白のローブを引き千切り、脱ぎ捨てた!

下には、身体にピッタリとフィットした服を着ている。豊満な胸を包むような黒いチューブトップ。生地はベロア素材だろうか…月明かりの中、独特の光沢感が見える。

胸元に耀く、ペンダントの紫の宝石が、肌の白さを引き立ているみたいに思えた。

柔らかなそうな太腿が露わになったショートパンツ。革素材だろうか?艶やかな素材が、何ともいえない色気を醸し出している。

膝上まである黒のニーハイブーツが、その色気を上限まで引き上げているように思えた。

何だ…色気が凄い。こんな服を着こなすのは、峰不二子くらいしか思い浮かばない。…いや、アニメだけどね…。


ネブラミスは鬼気迫る表情で、魔剣と腕の中で震える天使を捉えながら、フッと右手を振る。すると、いつの間にか武器を握り締めていた。

魔剣の剣よりは短い、鋭い針のような刀身。両手で握るように作られているから、グリップ部分は長め。

あれは…エストックって名前の武器だと思う。鎧を貫通する程の強度を誇る刺突専用武器。片手でも両手でも使えるのが特徴だった…と記憶してる。…ゲームの知識だけど。

と言うか…何処からエストックが出てきた?あんな露出多めな格好では隠す場所も無いだろ。…まさか?

魔剣と同じ武器顕現葉力を使うのかっ!?

ネブラミスは、魔剣を睨め付けながら、刀身をペロリと赤い舌で舐め上げる。

そして、間髪入れずに縮地を使い、一気に魔剣との距離を詰めた!

連続で繰り出される眼にも留まらない素速い突き技。

魔剣は片手で天使を抱えながら、何とか剣で突き技を跳ね返す。が、ギリギリ…脇腹や、天使を抱える左手を切り裂かれて出血し始めている。

庇う分だけ、魔剣の動きは制限を受ける。まるで、痛ぶるようにワザと急所は避けて突き技を繰り出しているみたいだ。

「避けてっ!」

雫が叫ぶと、白夜が真空刃をネブラミスに向かって放つ。

いつの間にか、雫と白夜で連携をしている。

魔剣が雫の声に反応して、即座に飛び退き、九尾の元へと天使の背中を力一杯押した。ふらつく天使を、九尾が抱き止める。

「隠れろ!」

魔剣が叫ぶと、九尾はキツく天使を抱きしめて認識阻害を発動させた。

ピッタリとくっ付けば、二人纏めて認識阻害出来るのか…。九尾は天使と共に姿を消した。


「読んでくださり、ありがとうございました。」

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