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動乱の刻―歪む運命『呼び声〜扉の向こう』

世界は、静かに脈打っている――

芽吹き、歪み、そして命は交差する。

今、ひとつの「刻」が動き出す。

『呼び声〜扉の向こう』


私は、磨き抜かれた廊下を猛スピードで駆ける!

始めに聞こえたのは破壊音だった。多分、魔剣が入り口の扉をぶっ壊したんだと思う。

なら、まだ入り口付近に居るはずだ。あの角を曲がれば…。

私はスピードを殺さぬまま、角へ差し掛かかった。滑り込むように、身体を横向きにする。スライド走行、所謂ドリフトだ。

壁ギリギリで、再度脚を動かし床を蹴り加速する。

出入口の扉まで、このまま直線だったはずだ。

「っ!」

視野に黒い背中が見えた。居たっ!魔剣だっ!

私はそのままの勢いで、魔剣の背中に齧り付く様に飛びついた。

「うわっ!」

魔剣が前のめりにふらつく。

「輪さん?」

雫が魔剣の叫び声で、背中にベッタリと張り付く私に気が付いた。手を差し伸べて剥がそうとするが…魔剣の服に爪が引っ掛かり、剥がせない。

「ご、ごめん…」

服がびろーんと伸びる。

「そのままお待ち下さい。」

見かねた様にマリンが私を抱き抱え、爪から丁寧に服を外す。少しだけ生地に穴が空いてしまった…。

「いきなり飛び付いて、どうした?」

魔剣は穴が空いた服を気にする素振りも見せず、マリンに抱かれた私の顔を覗き込む。

心に渦巻く焦燥感は消えていないけど…魔剣の顔を見たら、少し落ち着いた。


辺りを見回せば、見張りをしていただろう株、破壊音を聞きつけ駆けつけたであろう株達が、揃って床に倒れ込んでいた。気絶しているみたいだ。

その株をロープを使い、拘束している白帝城。拘束の手を休め、私を抱き抱えているマリン。

心配そうに私を見つめる天使。

手を伸ばして、私の頭を撫でる雫。

そして、マリンの代わりに気絶している株を拘束し始めた魔剣。

ラプティスも四匹揃っている。

皆…来てくれてる。

「そんなに毛を膨らませて…輪さん、どうしたの?」

雫が私に話しかけてきた。

「九尾と一緒に居たんでしょう?」

緊急事態だと、皆に報告しなくちゃ。地下にいる実験に使われている子苗の救出と、九尾と白夜の窮地。

落ち着かなくちゃ…端的に話すんだ。

「皆に、伝えに来たんだ!」

私は息を吸い込んで、話し始める。


私の話しを何も言わずに、皆は最後まで聞いてくれた。

「なるほど…。そんな事態に…。

では、此処から救出と応援で別行動をしなければならないな…さて、どうする?」

白帝城がそう言いながら、ひとつ息を吐いた。

「なら、オレは九尾の所へ一人で向かう。輪、案内を頼む。」

魔剣が、マリンの腕の中から私をつまみ上げると、自分の腕の中へと移して抱き抱える。そのまま歩き出そうとする魔剣の服を掴み、雫が引き止めた。

「勝手に決めないで。」

雫は、上目遣いで魔剣を睨む。プッと膨れた頬が愛らしく、魔剣は毒気を抜かれたように立ち止まった。

「緊急事態…ボクが決める。」

雫は、スッと眼を細めて、スイッチが切り替わる。

「…最適な配置は。

白帝城は防御結界を張りながら、救出優先で行動。子苗の運搬には、ラプティス。邪魔をしてくる敵の排除にマリン。子苗に怪我などあった場合の対処に天使。」

雫の言葉に、一度は頷く。確かに、最適なメンバーだろう。でも、雫の名前が無いけど…。

私の疑問に答えるように

「…ボクは魔剣と行く。」

と雫は言った。

「それは駄目だ、危険過ぎる。雫も私と共に行こう。」

白帝城が意を唱えるが、雫は首を横に振る。

「ボクは見定める…それが、ボクの役目でもある。…大丈夫、安全そうな場所から見るだけだから。」

マリンが小さく溜息を吐いた。雫が言い出したら聞かないのは一番良く知っている。

「無理はなさらないで下さい。」

マリンはその一言に、思いを集約させた。

「うん。マリン、白帝城達を頼むね。九尾は此処を完全に壊滅させると言った…。なら、徹底的に排除して構わない。」

雫の言葉に、マリンは傅いた。

「承知致しました。」

マリンから、ブワッと闘気の様な揺めきが湧き上がる。…東斜塔でマリンの戦いは見たけど、アレの比じゃない、物凄い覇気を感じる。

…もしかして、九尾の応援にはマリンが最適なんじゃないかと思えるくらいだ。


「待って下さい!」

急に天使が声を荒げた。

雫がビックリした様に、身体を震わせる。

「…私も魔剣と共に参ります。」

下を向き、思い詰めているように天使が小さく宣言する。

「何を言ってる!」

白帝城が天使を怒鳴りつけた。

声に驚いて、尻尾が膨らんでしまった。白帝城が天使を怒鳴るなんて…初めて見たかも?

「…魔剣と共に行くと、そう言いました。」

「駄目だ!さっき聞いただろう。危険なんだっ!」

白帝城が天使を肩を荒々しく掴む。

「私は行かなければ…ずっと呼ばれているんです…声が、聞こえて…。」

天使が、両手で顔を隠すようにしながら俯く。

その言葉に、白帝城は息を呑んだ。


天使は、ずっと誰かに呼ばれているような、声が聞こえると話していた。

とても怖いと…声がする方へ行ってはいけない気がすると。

「声が、近い…。『此処に居る、おいで…おいで…』って、聞こえるんです…。とても、怖い。けど…確かめないと駄目なんです!呼ぶ理由を、私は、知らなければならない…眼を背けては駄目…向かい合わなくては。」

魔剣が天使の両手肩を掴む白帝城を、何も言わずに引き剥がす。

「…今も、その声は聞こえるのか?」

魔剣が天使を見つめる。

その瞳に映るのは、心配よりも怒りの色をしている。何故、怒り?

そして、誰にも聞こえぬように、口の中で「あの女か…」と呟いた。

魔剣も、気が付いたみたいだ。

「…はい。教会内に入ってから、一段と強くなりました。この建物内に、きっと居るんです…。多分、その大司教という女性ではないかと…。」

そう言うと天使は膝が崩れる様に、ふらりとよろめいた。白帝城が咄嗟に支える。

「そんなに辛いなら、何故私に相談しない?お前に結界を張れば、声を遮断出来たかも知れないのに。」

心配そうに白帝城が、天使を伺い見ながら気遣う。

「心配かけたく無くて…初めは気の所為かと思って…陛下を心配する余り聞こえてしまう…私の気の迷いかと」

「…それでもだ。話せば少しは楽になる…もっと周りに甘えても良いんだ。皆、お前を大事に思って心配しているのだから。」

白帝城が諭す様に、天使に語りかける。


天使の話しを聞いた後、九尾にはその話しをした。九尾は、難しい顔をしながら…「白帝城と魔剣には知らせるな」と私に言った。

自分から話せるようにならないと駄目だから…。自分の意思で、気持ちを伝える。慮っていられるばかりでは、天使の為にはならないと。

九尾に『父親かっ!』と突っ込みたくなった事は、話して居ない…。

でも、そうだね…天使はもう少し周りに甘えても良いと思う。

感情を抑制されていた雫でさえ、アレをしたい、コレをお願いと、マリンに甘えまくっているように思えるし。天使にも側使いが居たら違うのだろうか?

「ごめんなさい…兄様。」

天使が呟き、白帝城の胸の中に顔を埋める。

…はい?

今、天使は何て言った…白帝城を『兄様』って呼んでなかったか!?

ちょ、え?

私は軽いパニックを起こして、魔剣の腕の中でオロオロする。

「…白帝城と天使は兄妹だぞ?血は半分しか繋がってないみたいだが…似てるだろ。」

魔剣が私に耳打ちして語りかける。

…言われて見れば。輝く白銀の髪、銀に薄く緑掛かった瞳。絶世の美男美女。似てるか…。


そう言えば…私の育ててる天使の苗も、白帝城の苗と良く似ている。

それもその筈。天使って言う苗は、白帝城の突然変異個体なんだ。

たまたま産まれた突然変異体を、安定、定着させて流通するようになった。でも、まだ個体数が少ないせいか、調レア苗なんだけれども…。

白帝城よりも、より白さが際立ち、葉先はほぼ窓になっていて、半透明な真っ白の窓がとても美しい苗なんだ。

植物のハオルチアでは、『天使』って名前が使われている株は多い。

『天使の涙』とか、『天使の泪』とか。似た名前で非常に紛らわしが、微妙に葉姿が違う。どちらも硬葉タイプ。可愛いと言うよりも、カッコイイ感じかな?

私の『天使』は軟葉タイプになる。


「…その声は確かめないと。必ず…その声が届くのには、理由がある。」

雫が口元に右手を添えながら、考え込むようにして話す。

「何故、天使だけに声が届くのか…精霊術式?…いや、違うかな。なら、何かの繋がりを強化してる?…もしくは、天使に何かを植え付けた?」

雫の言葉に白帝城はギョッとした。

「植え付けるって何を!?危険では無いのかっ?」

「分からない…だから、確かめないと駄目。分かれば対処方法も考えられる。」

白帝城が勢いよく魔剣に向き直る。

大きく息を吸って、ゆっくりと息を吐く。何かを飲み込み、耐えるように目を据えた。

「天使を頼むっ!」

妹を心配し過ぎる兄は、本来なら自分が行くと言い張りたいのを我慢したのだろう。そして…大切な妹を、余計な事は言わずに、魔剣に託した。

白帝城は、そうやって常に自分の感情を律している。

「任せろ。」

魔剣が強く頷くと、ラプティスのギギを呼ぶ。ギギは呼ばれて嬉しそうに駆け寄ってくると、魔剣の指示を待つ。

「ギギ、雫と天使を乗せて一緒に来い。落とさない様に、気をつけるんだ。」

ギギにそう言い聞かせてら魔剣がマリンを振り返る。

「ギギは連れて行く。ついでに雫の護衛もさせる…それで良いか?」

「はい。」

マリンは静かに頷く。

「…マリン、白帝城達と避難が完了したら、即座にボク達と合流する為に大聖堂へ来て。入れ違わない様に、注意する事。」

雫が天使と共にギギの背に乗り、手綱を握りながらマリンへと声を掛ける。

雫の背中に、天使が寄り添う。体型からすると、逆では無いか?とも思うが、ラプティスの扱いは雫の方が上手い。なら、コレで良いのか…。

「畏まりました。」

マリンが首を垂れる。

「行くぞっ。」

魔剣達は私の案内で、大聖堂へと向かう。白帝城とマリンは、ラプティスを連れて地下へと向かう。

また道が分たれた…皆が無事に再度合流出来るように、願いながら…。

私達は前へと歩み出した。


「読んでくださり、ありがとうございました。」

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