動乱の刻―歪む運命『呼び声〜邪念』
世界は、静かに脈打っている――
芽吹き、歪み、そして命は交差する。
今、ひとつの「刻」が動き出す。
『呼び声〜邪念』
足音が近づく。
九尾と白夜は戦闘態勢を崩さずに、相手を迎え討つ。
この教会施設を、完膚なきまでに叩き潰す。その為には、白帝城と魔剣を待たなくては駄目だ。
白帝城は、地下施設に囚われている子苗を救出して保護をする。
それを確認した後に、魔剣が敵を惹きつけている間に、九尾が情報を持っている株を連れて行かねばならない。まだ陛下の行方は知れていない…情報を得るには、やはり宗玄が最適だろう。虫唾が走るが、やむを得ない。
最後に施設を破壊する。白夜の葉力ならば、破壊は一瞬で終わる。
九尾がここ迄の作戦を一気に捲し立てるように語った。
「建物を損壊させるなよ!最後まで待つんだぞっ。」
九尾が白夜に念押しをする。
途中で建物が大破したら、目も当てられない惨状になりかねない。
私も、九尾に同意する。それだけは勘弁して欲しいっ!
「何度も念押しされなくても、分かってますわっ。十分に役立つとお見せ致します!」
その白夜の言葉を掻き消すように、乱暴に扉が開け放たれた。
揃いの黒いローブを着た三体の株が走り寄り、九尾と白夜に対峙する。
株達は無言のまま、崩れ落ちている宗玄に視線を向けた。
三体の株は、フードと深く被り表情が伺えないまま、手にした武器を構える。
まずは、槍斧を構える株が白夜へ襲い掛かった。その一振りを白夜が躱すと、短剣を扱う株が背後を狙う。
短剣の刃は、黒ずんでいて…如何にも毒か何かが塗られている形跡があった。白夜は、その一撃もふわりと躱しながら、相手に蹴りを入れて、間隔を維持する。
白夜の戦闘を見るのは初めてだけど、
まるで踊りを舞っているようだ。
扇子を扇ぎ、風を起こして、相手の態勢を崩した処に蹴りを入れる。
魔剣やマリンの戦い方とは、全く違う。優雅な舞を観ている気分になってしまう。
私は、ただ見惚れていた。
九尾には、素手の敵が対峙して、荒々しく組み手が展開していた。
こちらは、空手の試合を観てるみたいだ。今のところは、九尾には相手の攻撃は届いていない。
白夜が、扇ぐ風を強めた。
風は真空の刃となり、敵を切り刻む。僅かに躱されたのか、ローブだけが斬られて無表情な顔が露わになった。
ハッと白夜が息を詰めた。
槍斧を手にした株は、白夜を案内した、あの株だったのだ。先程は白夜に人懐っこい笑顔を見せていたが、今は青白い顔をして無表情である。
何か、おかしい…宗玄は教会の責任者だと話してた。その責任者、いわば上司にあたる株が倒れ伏しているのに、何で声を掛けない?
仲間を傷付けられているのに、感情を表に出さず、無表情って…変じゃない?
私は思わず声を出す。
「おかしいよ!こいつら、何か変だよ。」
私の叫びに、九尾と白夜はその場から飛び退き、相手から距離を取った。
「確かに変だ。さっきから、攻撃が通じている気がしない…。」
九尾が株から眼を離さぬまま言うと、その九尾に背を合わせるように、白夜が立ち
「真空刃が、僅かに、躱されているようです。風を纏っているから、軌道は読みにくい筈なのに…。」
戸惑いを隠せずに、白夜は呟く。
「それに…奴等の表情…アレは一体何事でしょうか?」
三体の株は、歩みを進める度に、右に左に身体がゆらゆら揺れている。
普通じゃない…。
歩みはスローモーなのに、襲い掛かってくる時は、俊敏な動きに変わる。
ローブのフードを切り裂かれ、唯一顔が見えている青年の眼は虚ろで、顔色は青白い…まるで、幽鬼のようだ。
青年は槍斧を構えて、突進してきた!
九尾と白夜が飛び退くと、斧で二度三度と連続で薙ぎ払う。青年の背後から、短剣使いが小刻みに突き技を繰り出してくるが、その全ての攻撃を、白夜は扇子で受け流しているものの、槍斧と短剣の波状攻撃に、段々と押され始めている。
「コイツら…動きが良くなってきてる!」
九尾が素手で攻撃してくる株を相手にしながら、叫んだ。俊敏性の高い、素手攻撃で九尾の動きを封じているみたいだ…奴等の狙いは、白夜に絞られている。
「些か、鬱陶しいですわっ!」
白夜が吠えた。
手にした扇子に、風が揺らめいきながら、集約していく。その集めた風を、白夜は下から上へと扇子を振りあげて、一気に放つ。風は渦を巻きながら、旋風となり敵を巻き込み、壁へと打ちつけた!
一瞬、竜巻が起きるのかと…ヒヤっとした。でも、この位なら、建物が崩壊する事は…壁は、敵が打ち付けられた反動と風圧で、もの凄いヒビ割れが入っているが…。崩壊は、まだ、しないだろう。
槍斧と短剣を使っている株は、強か身体を壁に打ちつけているのにも関わらず、ゆらりと立ち上がってきた。ただ壁に激突した訳では無く、壁にヒビ割れが入る程の風圧が加わっていて…かなりのダメージを与えている筈だ。…なのに、何で、立ち上がれる?
白夜が、息を飲み
「…信じられない…」
と、呟いた。
「クックック…」
嗄れた笑い声が聞こえて、私は振り返る。見れば、宗玄が横たわりながら、身体を揺らして笑っていた。
「…無駄だ!私が、造り上げた傑作達だ。…感情を消し、疲れも、痛みすら感じず、命じられたまま…死ぬまで戦う。相手を殺さぬ限り止まらぬっ!」
肩は外され、もう片方の腕は、頭を庇ったから折れているかも知れない。
宗玄は立つ事も出来ず、床に這いつくばりながら、笑う。
「クックック…。笛を吹いただろう?あれが、トリガーだ。音色を聞けば、切り替わる…。そう脳に埋め込んだ。私の技術だっ!
私の敵を屠る、最高の兵士の誕生。
素晴らしいだろう!?
まだ、あるぞ…奴等は戦闘を学ぶ。敵が強ければ強い程、己を進化させて戦う!
四肢がもげようと戦い続ける!
これが、研究の成果なのだ!」
クックック…含み笑いから…次第に哄笑へと変わる。
九尾の眼が、スッと細められて、素手で向かう敵を蹴り飛ばす。距離が出来た処で、九尾が宗玄の元へと歩み寄った。
そして、完全に狂った宗玄を冷ややかに見下ろすと、その口を塞ぐように、思い切り踏みつけた。
「…もう、喋るな。その高笑いを続けるなら、今直ぐ、殺す…。」
殺意がはっきりと分かる九尾の冷ややかな眼に、宗玄は恐れを感じたのか、口を閉ざす。血走った眼で、九尾を睨みつけながら、プッと折れた歯を吐き出した。
踏みつけられた時に、折れたのだろう。
「…神敵めっ!!」
宗玄の言葉に、九尾がニヤリと笑う。
「貴様のような、下衆野郎が信者で、神も嘆かわしいだろうよ?」
「…正に、仰る通りですわ。」
いきなり女性の声が凛と響いた。
ピタリと敵の攻撃が止まり、立ち尽す。まるで、金縛りにあったように、攻撃途中のまま動きを止めている。
白夜が、その現状を理解出来ずに、対処に悩んでいると…目の前で、槍斧を振り下ろそうとしている青年の頬に、一雫の涙が伝う。
「…た…すけ」
ぎこちない、途切れた言葉。
「助けて」青年はそう言いたかったのだろう。
白夜が耐えきれぬように、拳を握り締めて、ギュッと眼を閉じる。
「…痛ましい事です。」
また声が!
私は九尾の側により、声の主を探し、辺りを伺う。声が聞こえてくるまで、まるで気配を感じなかった。
いくら九尾達の戦闘に集中してたとはいえ、音すら聴き逃すなんて…。
白夜も、九尾の側に来た。背を向けて、警戒をする。
セレナ神の像から、スッと白い影を動くのを、私は捉えた。
「九尾!」
声を掛けると、白夜と私を庇うように
九尾が前に立つ。
「誰だ。」
セレナ神に語り掛けるように、九尾が声を上げると。像の影から、白いローブを纏った女性が姿を現した。
「読んでくださり、ありがとうございました。」




