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動乱の刻―歪む運命『呼び声〜白き教会』

『呼び声〜白き教会』


作戦は決まり、行動を開始する。

森の木々の枝葉の隙間から、細い三日月が顔を覗かせて…森は静まり、ただ風に揺れる木々のざわめきだけが耳に残る。


九尾と白夜が先行して、教会へと向かった。魔剣達は少し離れた場所に待機だ。

私は、九尾の腕の中で耳をそば立て、辺りを警戒をする。

暫くすると、灯りが薄っすらと見えてきた。

「前に偵察に来た時より…増えてるな。奴等、隠れる気がないみたいだ。」

九尾が木の影に身を寄せて、建物を伺う。建物の入り口には、揃いのローブを纏った株達が、見張りをしているように立っている。

白夜が、九尾の影に隠れながら

「なら…後ろ暗い事を、していないのではありませんか?教会は、信者も減り、衰退しておりますが…決して違法性のある集団ではありませんし…。

西辺境では、父君が教会の建物を撤去致しました。古くなり、危険でしたし…。東も同じだと伺いましたわ。北地域は、完全に廃墟になってるそうですし…なら、南に身を寄せるのは道理ではありませんか?」

白夜がヒソヒソと語る。

言われてみれば、そうかも知れない。

でも、九尾が匂うと言う、その直感を私は信じたい。

「ま、調べたら分かる事だ。」

九尾が振り返り、白夜を睨む。

「いいか。俺は反対したのに、お前がやるって言ったんだからな…言ったからには、しっかりやれよ!」

「分かってますわっ。」

拗ねたように、白夜は九尾から目を逸らした。


九尾が反対した作戦とは。

まず、白夜が信者のフリをして建物内に侵入する。この時に、九尾が気配遮断と認識阻害を使用して、一緒に侵入する。

九尾が建物内を偵察している間は、白夜が囮として教会関係者の意識を逸らして、時間稼ぎをする。

私が一緒なのも、教会関係者の警戒を緩める為だ。

偵察が終了したら、白夜は九尾と共に撤収する。

本来なら、偵察任務は九尾一人でやるはずだったが…白夜が教会関係者の相手をする。その間なら、多少、音がしても大丈夫だと…言い張ってきかなかったのだ。

白夜のいう通り、気配を消したとしても、ドアの開け閉めなどの音は…消す事は出来ない。

認識を阻害したとしても、不審がられ足がつく可能性は否定出来ない。 九尾の偵察を遂行するには、白夜の助けは有効な手段だろう。

だが、囮というのは決して安全ではない。いつ何時、牙を剥かれるのか分からない。

だから、九尾は反対していたのだが…。


「じゃ、行くぞ。無茶はするなよ?」

九尾が念押しをしてくると、白夜が不貞腐れたように

「分かってますわっ」

と、プイッと顔を逸らしてしまう。

「頼んだぞ。」

ポンっと白夜の頭に手を乗せる。

心配そうに眼を細めると、そのままスルっとひと撫でした。

「っ!?」

白夜が目を見開き、九尾を見つめると、見る見る顔が朱色に染まった。

「お任せ下さいませ!」

白夜は用意したローブのフードを頭からすっぽりと被った。

信者は、教会を訪れる際には、白か黒のフードを頭から被るのが礼儀とされているらしい。そんな礼儀は誰も知らなかったが、雫のライブラリー能力で知り、急遽用事したのだ。

白い布は、テーブルクロスをそれらしくマリンが手を加えた物だ。

私は、九尾の腕の中から白夜の元へと移動。

九尾に「頼む」と言われ、頭を撫でられてご機嫌な白夜は、意気揚々と建物へと歩き出した。

私の耳に、九尾の溜息と呟きが聞こえてくる。

「…大丈夫かねぇ…」


「どちら様ですか?」

建物を見張る株が、白いフードを被った白夜に気が付くと、そう声を掛けてきた。

見張りはニ株。建物に設えた薄明かりの中、ぼんやりと滲む影のように、揃いの黒いローブのフードを頭から被り、立ちはだかっていた。

建物の扉は、大きく頑丈な造りをしている。かなりの重量がありそうだ。


白夜は、私を胸に抱きながら、何も言わずに深々と一礼する。それを見ると、見張りの株も同じように一礼した。

ーー問われても、すぐに返事は駄目。

まずは、一礼が礼儀。


雫のアドバイス通りに、白夜は行動する。

「夜分遅くに、申し訳ございません。森で迷い…訪れるのが遅くなってしまいました。朝まで待つのが、礼儀と心得てはおりますが…私ひとりで、森での夜明かしは、心細く…お慈悲を頂けないかと…。」

白夜がおどおどしながら、淑やかに話す。ひとりは怖い…森の夜が怖い…と、雰囲気で語っている。

白夜、なかなか演技派じゃないか。

「おぉ。そうですか…お一人ではさぞや心細かった事でしょう。この森は深く、広いですからね。迷うのは当然かも知れません。ささ、中へどうぞ。」

固く閉まった扉が、ギギギィィ…と重く軋んだ音を響かせ、広々と開け放たれる。きっと九尾が、入り込んだだろう。


「私がご案内致しましょう。先ずは、ご礼拝をなさりますか?」

案内を買って出た株は、黒のローブのフードを外し顔を出した。

少し陽に焼けた顔色をした青年が、人懐っこい笑顔を見せる。

「はい。是非、セレナ様にお会いしとう存じます。」

ここに祀られている神は、セレナ=ルシフェラという名の女神で、ハオルチアの安寧と繁栄を約束した、尊い神らしい…雫が教えてくれているので抜かりはない。

神の名前を口にする事で、信者であると強調出来るだろう…。何せ、衰退の一途を辿る教会。

奉る神の名を知る民は少ないはずだ…と雫が話していた。


「先ぶれも出さずに、急に訪れてしまい…ご迷惑だったでしょうか?」

歩きながら白夜がしおらしく尋ねると

「セレナ様は寛大な女神様で有らせられます。こうして、信者が訪れてくれるのは、大変喜ばしいと…仰るかと思いますよ。」

青年はにっこりと微笑みながら、先を歩く。雫の知恵のおかげで、疑われる事なく、白夜は敬虔な信者と思われたようだ。

「猫を抱いたまま、セレナ様にお会いしても大丈夫なのでしょうか?…恥ずかしながら、私はセレナ様にお会いするのが初めてでして…。」

白夜が不安そうにしながら、戸惑いながら口にすると、青年はクスリと笑う。

「問題ないかと。昔は、犬や馬をお連れした信者が訪れたと…聞き及んでおります。セレナ様は動物がお好きだとか…きっと喜ばれるでしょう。」

廊下のどん詰まりに、綺麗な紋様が刻まれた扉がある。木で出来ているようだが、掘りの部分に金箔や、銀箔が施され豪華に仕上げられていた。

「さぁ、この扉の向こうが礼拝堂になります。セレナ様の身姿が有らせられる聖なる部屋です。」

青年が説明後、扉に手を掛けてゆっくりと開ける。


眼に飛び込んで来たのは、広々とした大聖堂。

淡く漂う乳香の香りが、聖域を静かに満たしていた。

祈りの残滓のような空気が、肌にじっとりと纏わりつく…。

白を基調とした荘厳な造り。天井はアーチ型で高さを感じ、小さな小窓が幾つも嵌め込まれている。きっと日中は光が差し込み、荘厳さに拍車を掛けるのだろう。

飾り柱は、細やかな細工が施されていて、華やかなかつ、清廉さを醸し出す。床は白乳色の艶やかな大理石で、椅子などの余計な物は何も無く、中央に真っ直ぐに引かれた黒い絨毯があるだけだった。

白亜の空間の中、中央に引かれた黒絨毯は、不自然なほど濃く、まるで呪符のように空間を分断している。

柱に設えた灯りがぼんやりと照らし出す室内は、荘厳で清廉なのに…何処か違和感を覚える、怪しさを滲ませていた。


黒い絨毯の先には、セレナ=ルシフェラの白い像が立っている。

穏やかな笑みを浮かべ、長い髪をヴェールの様に、薄衣を着る細身の身体に纏わり付かせている。

左手を胸に、右手を差し伸べるように立つその姿は、慈愛に満ち溢れていて…素直に美しいと感じさせた。

…けれど、何故か胸の奥がざわつく。

伸ばされた指先が、微かに冷たく、何処突き放すような印象を残す。

その眼差しも、優しげに微笑んでいるはずなのに…見透かされているような圧を感じてしまうのだ。

まるで、「手を取れ」と言いながら、「選ばせている」ような…そんな曖昧な意志が、像の内に潜んでいるようだった。


「美しいでしょう?」

青年が白夜に声を掛ける。

白夜は、大聖堂の怪しさと、セレナ=ルシフェラの像に完全に飲まれ立ち竦んでいたのだ。

「あ、はい。余りにお綺麗なので…言葉を失っておりました。」

青年が愉快そうに笑う。

「無理もありません。確かに…この像のセレナ=ルシフェラ様は、美しい。でも…本当のお姿は、もっと美しいのですよ?」

「…え。本当のお姿…?」

え…どういう事。この像は偽物なのかな?本当の姿って…本物の像が、大聖堂以外の場所にあるの?

「おや、信者の方がお見えになってるのかね?」

背後から太く霞んだ声が聞こえて、白夜は驚きを隠せずに振り返る。

青年が一礼をするのを見て、慌てながらそれに倣う。

「猫をお連れの信者がお見えになりましたので、案内をしておりました。」

「そうか…それはご苦労。後は私が引き受けよう。配置に戻りたまえ。」

「畏まりました。」

青年は一礼すると、さっさと戻ってしまう。残された白夜は、少し不安そうに、急に現れた株に目をやった。

「私は、教会最高責任者をしております。天川宗玄と申します。」

白夜が一歩後退った。

宗玄の背後にゆらりと尻尾が揺れる。

「貴方は…西の?」

「辺境伯の御息女様が、こんな森の中の寂れた教会に何の御用でしょうか?それとも、父君の意に反して信仰心が芽生えたと?」

宗玄と名乗る株は、白夜の素性を知っている!てか、この株和名だし、ベヌスタだよね?

ちょっと…コレはマズイのではないだろうか。


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