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動乱の刻―歪む運命『呼び声〜森の奥で』

世界は、静かに脈打っている――

芽吹き、歪み、そして命は交差する。

今、ひとつの「刻」が動き出す。

『呼び声〜森の奥で』


ふと目覚めと、私はまだ白夜の膝の上に丸くなっていた。ぐっすり眠ったような気がするけど…そんなに時間は経っていないのかな。

モゾモゾと動くと、白夜が悲鳴を上げた。

「ダメっ!動かないで下さいまし。痺れが…っ!」

動くな、と言われても…もう膝から降りてしまったよ。

白夜が車内で悶え出す。あれ…もしかして、私が起きるまでずっと我慢してて、足が痺れちゃったのかな?

白帝城が、クスクスと笑いながら、白夜の膝を触ろうと手を伸ばす。

「っ!何をするんですかっ?やめて下さいっ!」

白夜が身を捩り逃げようとするが、足の痺れは極限までキテいるらしい。

猫飼いあるあるだよねぇ。膝の上で、気持ち良さそうに寝られると…起こすのが可哀想で、動けなくなるんだ。私もよく足が痺れて、悶絶してたっけなぁ〜。

何だか…とても昔の事のようで、懐かしく思える。

私は白夜を見上げると、そっと…その膝に前足を添えた。


ずっと窓からは、大きなルアセル湖を横目に走っていたが、今は深い森の中を走っているようだ。

街道から外れたのだろうか?

暫くすると、車体はゆっくりと速度を落として停止した。白帝城が車体の扉を開けて先に降りると、天使に手を差し伸べる。一旦降りるみたいだ。

白帝城は天使に手を貸して、少し高い車体から降りる手伝いをする。毎回の光景だけど、優しいって言うか、過保護と言うか…。本当、白帝城はジェントルマンだなーと思う。

天使を降ろすと、白夜へと手を差し伸べた。

白夜は、白帝城の手を取るのを躊躇する。

「私は慣れておりますから、手伝いは必要ありませんわ。」

白夜はツンと突き放すように言うと、

「女性に手を差し伸べるのは、紳士としての義務みたいなものです。私の顔を立てると思って、どうか手を取って下さい。」

壊れ物を扱うように、白夜に手を差し伸べ、白帝城が王子様スマイルを見せた。ん〜魅せるねぇ。

「…そういう事なら、仕方ありませんね。…ありがとうございます。」

白夜は少し顔を赤らめて、おずおずと白帝城の手を取った。

全く、ツンデレだなぁ…。

私は、そのやり取りを横目で見ながら、車体から飛び降りた。


辺りは、深い森の中。

もう南辺境地域に入ったのだろうか?

白帝城が、昨夜より狭めの結界を展開させた後…。

その疑問は、九尾が説明してくれた。

車体の側に、簡易テーブルを設置して

大きな地図を広げる。

「今がここ。既に南辺境に入っている。目的の教会跡地は、ここから南へ真っ直ぐ向かえば、ラプティスの脚なら二時間掛からずに着く…。余り近くに寄ると、キャンプ地としては危険だからな…一旦ここで休憩して、作戦を詰めるぞ?」

九尾の言葉に、皆が神妙に頷く。

「では、休憩に入る前に分担して準備をしておこう。」

会話の続きを、白帝城が引き継いだ。

「男性陣は、結界は張ってあるが…念の為に周辺の安全確認を。雫と白夜でラプティスの世話を頼む。マリンには…申し訳ないのだが、お茶と軽食の支度を頼みたい。」

白帝城の言葉に、皆が動き出す。

あぁ、白帝城リーダーっぽいじゃないか。

九尾と魔剣が、揃って周辺の調査へと向かう。背を向けてから、私の視線に気が付いたのか…九尾が右手をヒラヒラと振って見せた。

「あ、コラっ!ダメだよっ」

雫の声に振り返ると、ギギが魔剣を追いかけて走り出している。

「もぅ…仕方ないなぁ」

ギギは、魔剣に特に懐いているようで、常に側に居ようとする。良き相棒になったみたいで、ほのぼのする。

あ、でも…コレは、アストロさんは頭を抱える事態になる可能性が高いのではないだろうか。

貸す、のではなく、与える…もしくは、取られる…いや、盗るになるかも…?

本当に、問題にならなきゃ良いけど…。


それぞれが寛ぐ中。

皆から少し離れた場所で、木に寄りかかり、俯く天使の様子がおかしい事に気がついた。

近づき、天使の膝に前脚を添えて、顔を覗き込む。天使は私を見つめ、微笑みを浮かべようとするが、頬が引き攣り笑えない。

「…どうしたの?」

顔色が、真っ青になっている。具合が悪いのだろうか?コレは皆に知らせないと…。

私は声を上げて、九尾を呼ぼうとしたら、天使がいきなり私の口に手を添えた。

「むぐっ」

口が塞がる。変な声が出てしまった…。

「…呼ばないで…」

天使は私を抱き上げて、ギュッと力強く抱き締めた。

「ヴニャッ」

また、コレか…ちょ、苦しいっ。

「ごめんなさい…少しの間だけ…」

抱き締める手が、小刻み震えている。

「…旅に出てから…時々、こうなるの…。」

天使が私の身体に顔を擦り寄せて、呟いた。

「…怖いの。陛下が…こうして居る間にも、お辛い思いをしているのでは…考えると、とても怖い…。

それに…嫌な感じがするの…誰かが、ずっと呼んでるみたいで。でも…呼び声のする方へは、行っては駄目…そんな気がして…怖くて。」

天使が私の身体に顔を埋めて、大きく息を吸った。

「輪ちゃんは、日向の香りがするのね…とても、落ち着くわ。」

そのまま、何度も深呼吸。

まぁ、確かに猫って良い匂いがするんだよね…私もよく吸引してたよ?

でも、まさか自分がやられる立場になるとは…。

「…声が、近くなってるわ…。」

天使は小さく呟く。

さっきよりは、幾分、震えは収まってきているみたいだ。吸引の効果かな…。

私は前脚を、爪を出さないように気をつけながら、そっと天使の顔に添えた。

「大丈夫だよ。皆が側に居る…魔剣が、必ず守ってくれるから…。心細くなったら、いつでも吸引して良いよ?身体、綺麗にしておくからね。」

私の言葉に、天使はフッと笑みを浮かべた。

「ありがとう…落ち着いたわ。今の話は内緒にしてくれる?」

私は返事の代わりに、頬をペロリとひと舐めする。

「ふふ…ザラザラで、少し痛いけど…気持ち良いわ。」

顔色も、少しづつ戻ってきている…もう大丈夫かな?

天使は、艶やかに微笑んだ。


「なんだ、輪とイチャついていたのか?白帝城が、作戦会議をするから、集まってくれ…だってよ。」

魔剣が天使を呼びに来た。

手を差し伸べて、天使を立たせる。

「ありがとうございます。」

天使は魔剣に微笑むと、私を魔剣に渡して、スカートに付いた土埃を手で叩いて落とす。

「…何、イチャついて話してたんだ?」

魔剣が小声で話しかけてくる。

私は、魔剣の鍛え抜かれた腕をすり抜け、肩へと登ると、耳元に顔を寄せ、

「天使とイチャコラしてただけ…羨ましい?」

と囁いた。

「なっ!べ、別に、羨ましいとか、そういう訳じゃ、ないっ」

耳を赤くしてるけど?魔剣の耳は本当に正直だね〜。

「ふふ〜ん。本当に…?」

「おまっ…。もういいっ!行くぞ。耳元で、髭がくすぐったいんだよっ」

そういうと、肩に乗る私の首を掴み上げ、腕の中へと戻された。

「真面目な話し。天使の様子が少し変だ…なんかあったら、ちゃんと言えよな。」

魔剣も気が付いてたんだ…そりゃそうか。よく目で追ってるもんな。

「わかった。」


誰かが、天使を呼んでいる…普通に捉えれば陛下が呼んでるとも考えられる。でも、その声のする方へ行かない方がいい…天使はそう感じたんだ。

なら、声は陛下であるはずが無い。

じゃあ…誰が、天使を呼んでいるんだろう…。

背中にゾワリと悪寒が走る。

天使には、内緒にすると約束したけど…この話は、九尾か白帝城にしよう。魔剣は駄目だ。私の直感がそう告げる。

空は茜に染まりつつある…もう夕暮れなんだ。

嫌な予感と共に、森は闇へと沈んでいくのだった。


「読んでくださり、ありがとうございました。」

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