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動乱の刻―歪む運命『旅路』

『動乱の刻』編、開幕――

命の交差と選択の先に、何が芽吹くのか。

どうか、この旅路を共に。


『旅路』


王都から南へ向かうと、ルアセルと呼ばれる大きな湖がある。

水は澄んでいて、まるで鏡のように、晴れ渡る空や辺りに自生する木々を映し、キラキラと輝いている。

とても美しい湖だ。

その湖を横目に、私達は街道を西へと進む。


マヤが白帝城から譲渡された結界術に、精霊術を加えて新たな結界を王都に展開させた翌日、女王陛下の行方を探っていた九尾が、有力な情報を得て戻ってきた。

その情報とは…南のサボテン国との境に位置する辺境の地で、怪しい一団を見かけた…と言うものだった。


昔は信仰が厚く、四葉を遣わした神を奉る教会が東西南北に神殿を建て、一大勢力を築いていたが、徐々に衰退し、今や風前の灯。

各地域の神殿を維持する力は無く、放棄同然となっているらしい。

その放棄された南地域の神殿に、盛んに株が出入りしているというのだ。


元々、教会関係者は王族を疎ましく思っている。

信仰が衰退した原因が、民の生活を安全安定させる為に、次々と改革を進めてより良くさせてきた政治の所為、民が神への信仰よりも、安寧な生活を選ばせた王族の所為だと、逆恨みをしていたのだ。

そんな背景の中での、株が居ないはずの神殿の動き…怪しいにも程がある。


ネブラミスが何を企んでいるかは分からない…が、教会関係者に攫った女王陛下を渡さないとは限らない。

調べるだけなら、九尾が単独で動いた方が早い。だが、神殿に陛下が囚われていたなら、急ぎ救出せねば

陛下の生命に関わる…と判断して、九尾は王城に戻ってきたのだった。


アストロの指揮で、急ピッチに準備が整えられた。

九尾は単身で馬を走らせ移動しているが、雫や天使…猫まで一緒に行動するとなると、そうはいかない。

馬車を用意…いや、こんな時こそアレの出番じゃないか!と、アストロは秘蔵の竜車を五葉の為に用意した。


そんなこんなで、数日後には旅路の空の下…。

南へ向かう街道は、大きなルアセル湖あるので、西側を迂回するように整えられている。その街道を私達はアストロさんが用意した、秘蔵っ子に揺られていた。…。

馬車ならぬ竜車を引くのは、ラプティスという名前の竜…と言うか、二足歩行のトカゲ?

爬虫類系なのは間違いないかな。

何か…ラプティスの走り方は、まるでダチョウみたいだと思った。


丸っこい頭。大きく黒目がちな瞳をクリクリさせて、爬虫類だから、瞳孔は蛇みたいだけど、中々愛嬌があって可愛らしい。

小さな両手をプラプラさせながら、太くてガッチリとした両脚が、大地を踏み締めてひた走る。

太くて長い尻尾を、まるでネコ科のチーターのようにバランス感覚器に使っているようで、リズミカルに揺れる。

馬ならば二頭は必要な大きな車体も、ラプティスなら一匹で牽引出来る、かなりの力持ちだ。

初めてラプティスと対面した時は、雫が大興奮で…。前置きなしで、ライブラリーを炸裂させて、早口で説明してくれた。


ラプティス…二足歩行の草食竜。

サボテン国原産の希少な脊椎動物で、暑さや乾燥に強く、優れた脚力と持久力で、古くは砂漠地帯での荷役として使われていた。

車体を牽引している状態で、移動距離は馬の1.5倍に相当する。

草食なので、性格は穏やかで扱い易い個体が多く、とても人懐っこい。

簡単な言葉なら、理解できる知能もある、とても賢い動物だ。


硬く、滑らかで、鱗模様が美しい皮を狙い、一時は乱獲が進み、個体数が激減してしまった過去があり、現在はサボテン国で手厚く保護されている事から、ハオルチア国に居るラプティス数匹は、友好国へ献上された…いわば国の宝と言っても過言ではない。

…らしい。


そんな貴重なラプティスを、アストロさんは旅路の仲間として、独断で貸し与えてくれたのだった。

後で問題にならなきゃ良いけど…。


車体の両サイドを守るように、九尾と魔剣がラプティスに跨がり走っている。二人とも初めてラプティスに跨ったのに、軽快な走りっぷりだ。

車内には、雫・天使・私、白帝城が乗り、ラプティスの手綱をマリンが握っている。


と言うのも…ここだけの話しだけど、本来なら九尾が御者をするはずだった。

だけど、白帝城がラプティスにビビりまくって…とても単身で乗れる状態では無く…かと言って竜車を扱う事も出来ず…仕方なくマリンが御者を務めているのだ。

「…そんな事も出来ないのですか?」

とマリンが白帝城に冷ややかに言った時は、

一気に気温が下がった気がして、誰もフォローに入れなかった…。

アレは、『逃げ場のない旅路の間は、マリンを怒らせてはならない!』と、暗黙のルールが確立した瞬間だったな…。


…何て事を考えていると、緩やかに竜車は速度を落として、静かに停車した。車体の扉が開き、九尾が顔を覗かせる。

「少し早いが、ここら辺で野営の準備をしよう。白帝城、結界を頼む。」

と白帝城に声を掛ける。

「心得た。」

と、白帝城は答えるが…何か顔色が悪いみたいな?

それに気づいた天使が白帝城に寄り添う。

「…大丈夫ですか?」

「かなり揺れたから…少し気分が…いや、大丈夫だ。問題ない…」

フラフラしながら、白帝城は車体から降りる。

船酔いならぬ、竜車酔いかな…。確かに、揺れてたけどね。

白帝城が青い顔をしながら、周囲に結界を張る。虹色の膜が、淡く拡がり私達を包み込んだ。


それを目視で確認すると、九尾が雫を抱き上げて竜車から降ろす。

私は自分で飛び降りた。

乗っている間は、マリンが用意してくれた、ふわふわクッションを引き詰めた籐籠で寝てたから、割と快適だけど…雫は大丈夫かな?

雫の様子を見ると、元気いっぱいにラプティスに駆け寄って声を掛けて労っている。


魔剣と九尾が野営の準備に追われる中、マリンと雫でラプティスの世話をする。旅路の間に出来た、暗黙のルーティン。

通りすがりに「…情け無いですね。」とマリンに言われた白帝城は、焚火の側に座り込んで落ち込み、それを天使が傷口を抉るような、慰めにならない励ましをしている…。

そんな状況も、この数日で見慣れた光景になった。


白帝城はずっと城に閉じ籠るように結界を張っていた訳だし、旅慣れとかもしていないだろう。

それに、白帝城は常にマヤが側に控えて甲斐甲斐しく世話を焼かれていた。そのマヤと離れてしまったから…

今まで、全てをマヤに任せていたのだから、ある意味自業自得。仕方ない事だろうけど…何とも痛ましい。


私とマヤとじーちゃんは、精霊の力で繋がっているって話しだから…もしかすると、私の思考は共有されているかも知れない。

プライベートは何処に消えた!とも思わなくもないが…今は活用しよう。


ーマヤ!

貴方の主がポンコツで…

マリンから冷ややかな視線と、棘だらけの言葉を浴びる続ける旅路だよ…。

城に戻ったら、白帝城を労わって、慰めてあげてね…。


「読んでくださり、ありがとうございました。」

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