表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/84

兆しの刻-ざわめく世界『継がれし光』

※「芽吹きの刻」編(改訂版)を経て、ここからは新たな物語が紡がれております。

『継がれし光』


雫が、疲労困憊のマヤを休ませると、一人で歩けないマヤに肩を貸しながら、自室へと戻って行った。

私は、テーブルに置かれたクッションに座り、白帝城を見つめている。

何だろ…ずっと外のオーロラを見つめたままで、ふらふらなマヤに労いの言葉も掛けないなんて、白帝城らしくないと思った。

それは、じーちゃんも感じているようで、黙ったまま白帝城の言葉を待っているように見える。


「古老殿、お聞きしても宜しいでしょうか…。」

聞き取れない程、小さな声で白帝城がじーちゃんに話しかける。

多分じーちゃんには白帝城の心の声が聞こえていて、何を考えているのか、筒抜けだろう。

「…言うてみ。」

じーちゃんは、静かに答えた。

いつもの好々爺感は消え失せている。その短い言葉には、まさに精霊王としての威厳が醸し出されているように感じられた。

「…この極光の結界は、本当にマヤが?」

白帝城はオーロラから視線を外し、鷹の眼に怯えているような、不安気な顔をして振り返る。

「術式により、力そのものは儂が補っておる。が、結界をイメージして張り巡らせのは、マヤの力と言っても過言では無かろうよ。」

「そうですか…これをマヤが…。」

「儂もひとつ良いかの。」

白帝城がまた窓の外へと視線を向けようとするのを、まるで止めるように、じーちゃんが話しかける。

「白き城よ。己が従者に何故声をかけぬ。」

鷹の眼が、白帝城を射抜くように睨んでいる。そうか…じーちゃんは怒っているのかも知れない。



「主を名乗る者が、大仕事を果たした従者に声ひとつかけぬとは。よくやったと伝えるのは、主たる者の責務であろうが。」

じーちゃんの言葉に、白帝城は小さく首を左右に振った。

何だろ…淋しそうに見える。

「情け無い事に…かける言葉が見つかりませんでした…。」

そい言いながら、先程までマヤがいた椅子に崩れるように座ると、白帝城は力無く項垂れた。

「考えてしまったのです。

マヤは、弟子入りしたその日のうちに、私の結界よりも、遥かに見事な結界を張った…。

それは、偉業を成し得たと言っても良いと思います…。ならば…私が今までの行いは…何だったのでしょうか?」

白帝城は規格外と言われてきた葉力で、ずっと結界を張り続けていた。

でも精霊術でマヤが、あっさりと白帝城の結界を凌駕してしまった…。

しかも、弟子入りした直後に。

要するに、今の白帝城はマヤの力を目の当たりにして意気消沈、無力感に苛まれてるって事かな?

九尾に聞いた話しでは、白帝城は絶対の自信をもって結界を張る任務に就いているって言ってた…うん、そりゃあ、あんなの見たら落ち込むのも無理ないかも。


「ふん…くだらん!」

鷹が苛立ちを顕にして、白帝城のぼやきを一蹴する。

「主を名乗る割には、随分と情け無い話じゃな。

マヤの生命を賭してまでの行いは、一体誰の為だったのか…それすら、見えぬか?」

鷹の眼が一段と鋭く光る。

私は、白帝城の自信喪失は否めないと思う。それだけ、プライドを持って結界を張り続けてたんだから…。

でも、私が口を挟む事ではないだろうから、クッションの上で丸くなり、寝たフリを決め込む。


「白き城よ…答えよ。

己れは偉業を成し得たいが為に、結界を張り続けておったのか?

それとも、己れの結界が卓越しておると、優越に浸りたいが為か?」

じーちゃんの問いに、白帝城は顔を上げて「そんな事は…」と否定の言葉を紡ごうとするが、全てを語る前に、じーちゃんが遮る。

「ならば。何故、この地に捉われる呪いを甘んじて受け入れ、結界を張り続けた!」

「私は…守りたかった…皆が避難出来る、この城を護ると…誓った。」

白帝城が、じーちゃんの言葉の熱に当てられた様に、呆然としながら言葉にする。

きっと白帝城は、この城に結界を張ったその時を、思い出しているのかも知れない。

白帝城の眼に光が戻り始めた。


「全く、手が掛かる御仁じゃのぅ。それが、その想いこそが、全てだろうに…。」

じーちゃんは、溜息を吐いて白帝城を見つめる。

「…優劣を気にして何になる?

護りたいという想いのままに、見事にやり通したではないか。それは卑下する事では無かろう。」

白帝城は、肩を落としたままで

「私は…役目を全うしたのでしょうか?」

と、すがる様な眼差しで鷹を見つめ返す。

確かに、自分は結界を張り続けて、護ってきた。

例え、自分以上の結界をマヤが張り替えたとしても、

その事実は決して消えない。

頭では理解しているのに、感情が付いていかない。

誰かに、肯定してもらいたいと、白帝城は思ったのかも知れない。

「立派にやり仰せた。」

じーちゃんが、白帝城の今までの行いを間髪入れずに肯定する。

「強き想いは、願いとなり、マヤに引き継がれた。その形が、あの極光じゃよ…言わば、願いの光じゃ。」

「…願いの光」

白帝城が、呟きながら窓の外に拡がる、緑から茜に揺らめく優しい輝きを眺める。

じーちゃんは言ってた。

想いこそが、常に人を動かす原動力になると…。強い想いは、願いになって、きっと誰かに届き、いつしか浸透して根付く。

白帝城の『護りたい』という願いがマヤに届き、根付いた。そして、その願いが皆を動かして、オーロラを創り出すまでに至ったんだ。

この輝きは…確かにマヤの願い。そして、白帝城の願いそのものだろう。


「私がしてきた事は…決して無駄では無く、確かに皆を護ってきた。その想いは…マヤが、私の想いを、願いを…引き継いでくれた。」

「そうじゃよ。」

鷹が止まり木から降りると、トテトテと白帝城に歩み寄る。テーブルの端まで行くと、白帝城の顔を見上げるように

「白き城よ。汝の想い無くして、マヤの目覚めは叶わなかっただろう…。主として、誇れ。願いを引き継ぐ、良き従者に恵まれたのじゃから…。」

鷹がクリッと眼を見開きながら、両の翼を広げる。

「そして主として、恥なきよう努めよ。新たな想いを胸に抱き、尽力するが良い…。」

凛とした精霊王の言葉に、白帝城は胸に手を当てて頭を軽く下げる。

眼を閉じて、ゆっくりと言葉を噛み締める。

「マヤに恥じない行いをすると、古老殿にお約束致しましょう…。私は、今からマヤの元へ行って参ります。」

少しだけはにかむようにして、白帝城が立ち上がる。

その眼には、先程までの不安そうな色合いは消えていた。きっと、頭の中と感情が整理されたのだろう。

「よくやったと…。あと、有り難うと伝えねば成りません。」

「うむ、それが良いじゃろう。マヤはまた泣くじゃろうのぅ…。どうも涙腺が緩いようじゃからの。」

ふぉふぉふぉ…と、じーちゃんの笑い声に見送られて、白帝城は部屋を出て行った。


「して、輪はいつまで寝たフリをしてるつもりかのぅ?」

じーちゃんが私の側に来て、寝顔を覗き込む。

一生懸命、寝たフリして空気になってたけど…やっぱりじーちゃんにはバレてるよねぇ。

じーちゃんは、私の思考を読んで

「当たり前じゃ。まぁ、白き城は気づいておらぬようじゃったがのぅ。」

と答える。

なら、良いかな。

情け無い姿は、見せたく無いだろうし…私は知らないフリをしてるよ!

「良い判断じゃな。彼奴は自尊心が高いからのぅ…弱った姿を知られたくはなかろう。」

私は起き上がり、肉球をペロペロと舐める。

最近、猫の行動に抵抗が無くなってきたなぁ…。毛繕いとか、今は平気で出来る。

「して、輪よ。マヤの結界は王都を包んでおるが…一歩出れば、危険に晒されよう。彼奴らと共に行く気であるならば、心せよ。」

私は顔を上げて、鷹のじーちゃんを見る。…側から見ると、猫と鷹が近距離で見つめ合う図って、何か凄いな。

「陛下奪還の旅?」

「そうじゃよ…付いて行く気なんじゃろ?」

そりゃ、一緒に行きたいけど…足手まといにならないかな?猫だし…役に立たないし。

「想いのまま、行動するが良いぞ。

輪の想いも、また強きものじゃ…必ず必要となるじゃろう…。」

意味深な言葉を…それは、予言?

じーちゃんは鷹の眼をクリクリさせて、小首を傾げる。

仕草が可愛いなぁ…

「儂は予言の類いは行えないのぅ。これは、そうじゃなぁ…輪の運命は彼奴と共に有るという、儂の勘じゃな!」

じーちゃんが胸を張って言い切る。

勘かぁ…でも、賢者で精霊王の第六感だもんな。馬鹿には出来ない。

「分かった。皆と一緒に行くよ。」

そもそも留守番と言われたら、拒否ろうと思っていたしね。


「儂と、マヤと、輪は精霊の力によって繋がっておる。困った時は助言のひとつでも与えてやれるじゃろう。だから、心配するでない。」

鷹が翼を伸ばして、私の背中を撫でる。すると、小さい私の羽根がみるみる萎んでいった。

「大丈夫じゃよ。より小さくしただけじゃ…羽根が有ると不信感を招くやも知れぬからのぅ。」

撫でられて、羽根は体毛に隠れる程小さくなった。

「飛びたいと願えば、精霊の力で翔けるじゃろう。また、小さくと願えば今と同じように隠れる…自在に出来ようて。」

じーちゃんって本当に、何と言うか

至れり尽くせりみたいな…。

白帝城の事といい…凄く親身になってくれてる。精霊王なのに…なんで?

「ふぉふぉふぉ…只のお節介なジジイじゃからのぅ。気にせんで良い。儂は儂の理に沿ってるだけじゃ。」

鷹が肩を揺らして笑う。

何だろ…じーちゃんの言う理って。

でも、きっと教えてはくれないんだろうな…そんな気がした。

翼を伸ばし、羽先で私の頭を撫でる。

鷹の眼は、優しく澄んでいて、奥深い輝きが『いつか知る時も来よう』と

話しているように思えた。


「読んでくださり、ありがとうございました。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ