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兆しの刻-ざわめく世界『鷹』

「芽吹きの刻」編(改訂版)を経て、ここからは新たな物語が紡がれております。

『鷹』


研究室に戻ると、私は雫達にじーちゃんに会った事を話した。

始めは、瞑想最中に眠ってしまい、夢でも見てたのだろう…と信じてもらえなかったけど。特にマリンさんの無言の圧は、ヤバかった…。


話してる最中にも、頭の中にじーちゃんの声が、「まだかのぅ、まだかのぅ」と急かす。

じーちゃん、呑気そうでのんびりしてると思ったけど…割とせっかちだ。

それだけ、事態は切迫してるのかも知れない。そう思うと、説明にも熱が籠っていたみたいで、雫のぽやっとした表情が、真剣味を帯びて険しくなっていった。


「でも…人形なんてボク、持ってないよ?」

雫は困ったように腕組みして、首を傾げる。マリンも右手を顎の下に添えて、俯き考えている様子だったが、ふと何かを思いついたように顔をあげた。

「雫様。以前アストロ様から頂いた、木彫りの置物が御座います。そちらでいかがでしょうか?」

マリンの言葉に、パッと表情が明るくなり、

「直ぐ出せる?」

と雫は言った。

「はい。お持ち致します。」

マリンが雫に頭を下げながら答えると、部屋を出て行く。

「宰相さんからもらったけど、ボクには必要無い物だったから、ずっとマリンに預けてたんだっけ…。忘れてたよ。」

雫が、てへっと笑う。アストロさん、喜ぶと思って渡しただろうに…必要ないと一蹴されるなんて。

ちょっと可哀想になるな…この事は誰にも話さないようにしよう。


暫くすると、マリンが戻り、木彫りの鳥の置物を持ってきた。

それは、民芸品で良く見かける物で、一本の幹をそのまま使い、彫刻を施して色を塗った素朴な感じがする鷹の置物だった。

確か、一刀彫って言うヤツだったかな。鶏とか梟、鷹が主流だったはず。

大きさは台座部分を含めて、50〜60cm位は有りそうだ。鷹の部分はその半分位しかないけど。


鉱石や銅像とかの置物に比べたら、木彫りってのは、じーちゃんと相性が良いんじゃないかな?

使われてる木が、何の木か…クスノキだったら最高なんだろうけど。大概はイチイの木とか、コシアブラって木で作られてるはず…。

コシアブラは、彫りやすいし、外皮を剥くと綺麗な白い幹なんだよね。実家に鶏があったから、覚えてる。

サイズはもっと小さいけど…。


マリンがそっと木彫りの鷹を、テーブルの上に乗せる。私はヒョイっとジャンプして木彫りの鷹の対面に移動。

…この置物、私より大きいな。確かにコレは置き場所に困りそうな気が…。

とりあえず、じーちゃんに連絡を…って、声掛けるってどうすれば良いんだろうか。

念話で大丈夫かな…。


ーじーちゃん!木彫りの鷹の置物を準備したよ!


心の中で、じーちゃんに呼びかけてみる。

「うむ。では、参るかの」と頭の中にじーちゃんの嗄れた声が聞こえてきた。と、ほぼ同時に、室内に旋風が巻き起こる。旋風には、緑のグラデーションの色が付いていて、室内が緑色に彩られる。

旋風は、テーブルに置かれていた用紙を巻き上げ渦を巻いた。

あの用紙は、雫が術式を考案する為に、色々と書き記した用紙ではないだろうか…。あぁ〜、コレは片付けるのが大変そうだ。マリン、ブチ切れしなきゃ良いけど…。


と、心配している間に、旋風は徐々に収まり、私の目の前にあった置物が、置物ではなくなっていた。

「あれ…?」

体長30cm位の本物の鷹が、木の幹にとまって私をジーッと見ている。

「ふぉふぉふぉ、儂じゃよ。」

鷹が喋った!

え、じーちゃんが喋った…脳内会話じゃないの?

そういえば、慣れたら普通に聞こえるって言ってたような。

雫が興味深かそうに、鷹のじーちゃんを見つめている。

「今は置物に身を移しておるからのぅ、発声器官がそれ寄りになっておる。じゃから、声が聞こえるんじゃよ。中々良い木を使っておるのぅ…。良い塩梅じゃ。

これなら、鳥らしく空を飛ぶ事も出来そうじゃな。」

ここに、鳥じゃなくても空を飛べる猫が居ますが…。

置物に身をやつしても、変わらず思考を読めるらしいじーちゃんは、「ふぉふぉふぉ」と鷹の姿で愉しげに笑う。


「貴方が、クスノキのじーちゃん?」

好奇心が爆発しそうな雫が、瞳をキラキラさせながら、テーブルに身を乗り出して話しかけてきた。

「おぉ、そうじゃよ。おまいさんは…確か『雫』じゃったかのぅ?」

じーちゃん、名前ちゃんと知ってるじゃん。ずっと『空色の娘っ子』としか話さなかったから、知らないのかと思ってたよ。

「うん、ボクが雫だよ。向こうで、じーちゃんが散らかした用紙を片付けてるのが、マリン。」

ハッとして振り返ると、マリンが黙々と床に散らばった用紙を、回収しながら、項目ごとにまとめている。

「おぉ…これは、悪いことをしたのぅ…申し訳ない。」

鷹のじーちゃんがマリンに向かって、深々と頭を下げた。

じーちゃんって、もの凄く力の強い精霊様みたいだけど…めちゃくちゃ腰が低いよなぁ。物腰も柔らかいし、優しいし、知識量も半端ないのに、全く偉ぶらないし…。


「精霊様がお越しになるのに、こう言った事態を予測出来なかった、私の落ち度ですので、精霊様が詫びる必要はございません。」

マリンが、ブチ切れしてない様子で内心ホッとしたけど…スンと対応するのは、変わらずなんだね。

マリンは、私の落ち度って言うけどさ、あの登場の仕方を予測とか、無理でしょう。

何と言うか、マリンってブレ無いよなぁ…。


「それで、じーちゃんが来てくれたのは、ボクが考案した精霊術式の件だよね?」

雫が、ワクワクが止められないって雰囲気でじーちゃんに話しかける。

「早速なんだけど…考案した術式図案を見てもらいたいな!色々と変更点もあるだろうし。

あ、でも、作り直した方が早いかな。その方が良いなら、そうしようよ。

じーちゃんは、どう考えてる?

そうだ、その前に、マヤに刻んだ、結界術譲渡術式を見た方が良いね!

もう刻んでしまったから、こっちは変更、出来ないんだよねぇ…。

完璧に作れてると思っているけど、駄目だったら、どうしようかな?上手く上書き出来るように、手を加えるか…それとも…うーん。」

いつもぽやっとして、普段はのんびり口調の雫だけど、余程興奮してるのか、早口で矢継早に喋っている。

「これこれ…逸るでない。慌てんでも、大丈夫じゃよ。ちゃんと手助けするから、安心せい。」

鷹のじーちゃんは、雫の有様にちょっと驚いたようだったけど…。私の脳裏に、苦笑いを浮かべる、あの皺深い、穏やかな顔が浮かんだ。

やっぱりじーちゃんは優しいなぁ。


雫は鷹のじーちゃんの言葉を聞くと、ふぅ〜と息を吐き、肩の力を抜いた。

「うん…ごめんなさい。何か、力入ってた…。」

そう言いながら、恥じらう雫を

「よいよい。儂の様な精霊と関わりを持つのは、初めてじゃろ?なら、仕方なき事じゃ、気にするでない。」

ふぉふぉふぉ…と、鷹のじーちゃんは笑う。


「では、先に件の少年…マヤだったかのぅ。会わせてもらえるかい?譲渡術式とやらも、見せてもらえると良いなぁ。」

鷹のじーちゃんが羽を啄みながら、そう言うと、雫はにっこりと微笑みを浮かべて、マヤを呼びに部屋を飛び出していった。

「おぉ…なんと良き笑顔じゃ。雫の魂を囲っていた澱が、綺麗に消えとる。無垢で、美しき笑顔じゃな…良きかな、良きかな…。」

マリンが驚いた顔をして、雫の後ろ姿を見送った。

そうか、いつもならマリンに「マヤを呼んで」と頼むはずなのに、自分で呼びに行ったからか…流石のマリンも、この行動は想定外って事かな。

それに、じーちゃん。

雫の魂の澱って…どういう事?

雫が感情を抑制されてたって知っているのかな。

「うむ、知っとるよ。あの娘っ子は、澱に囚われて、流れが澱んでおったが…今は、綺麗で自然な流れが出来始めておるようじゃ。」

頭の中に、小川の風景が浮かぶ。

流れが止まり、澱んでいた小さな川は、いつの間にか澱みが消えて、せせらぎが戻る。そして流れは、大流へと向かう…そんな情景。

いつしか、雫は大流へと向かうのだろうか…。


パタパタと雫が小走りで部屋に戻ってきた。左手に、マヤの右手を握り締めている。雫は、ろくに説明もしていないのだろう…。マヤの表情は戸惑いと驚きを隠せないでいる。

マヤの視線が、テーブルの上の私を見て、そして鷹のじーちゃんへと移り、止まる。

「あ…。」

マヤが小さく呟くと、目を見開き驚いたように鷹のじーちゃんを凝視した。

「ほぅ、コレは…想像以上じゃなぁ…。」

何やら意味深な言葉を告げると、

鷹のじーちゃんは眼を細めて笑った。


「読んでくださり、ありがとうございました。」

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