兆しの刻-ざわめく世界『想い』
※「芽吹きの刻」編(改訂版)を経て、ここからは新たな物語が紡がれております。
『想い』
それから私は、此方に呼ばれてからの日々を、クスノキじーちゃんに全て語った。まぁ、思考してただけなんだけど。
じーちゃんは、ホゥホゥ、と相槌を打ちながら、まとまりない乱雑な思考を根気強く読んでくれた。
ーなるほどのぅ…。それで、おまいさんは、如何したいんじゃ?
マヤ少年を、助けたい!
必死な願いを、無駄にしたくない。
女王陛下を助けたいと、涙を流した天使を。
そんな天使を、護ると誓う魔剣を。
大事な使命よりも、皆を守ると、動く決意をした白帝城を。
マヤを死なせないと、寝る間を惜しんで、新たな術式を編み出した雫を。
情報を集めると、城外へ飛び出して、奔走する九尾を。
何があっても、五葉を信じると送り出す覚悟を決めたアストロさんを。
私は猫で、役に立たないかも知れない…それでも、何か出来る事があるなら、皆の為にやりたい!
私は、私の大事なハオルチア達を、助けたい!
皆が、大切にしている何かを守る、その手助けがしたいっ!
脳裏に、この世界に来てからの出来事の映像が、フラッシュバックする。笑顔も、泣き顔も、苦しみに歪んだ顔も…まだ数日しか経ってないけど…それでも。あの株達は…あの子達は、私が、育ててきた、大切な子なんだっ!
ーあぁ…泣かんでよい…。泣くでない…。
おまいさんの、『想い』は、よぅ分かったよ。
じーちゃんが、宥めるように私を抱き上げると、自分の膝の上に乗せて、優しく背中を撫でてくれる。
私、泣いてたの…かな?
かなり、感情的になってるとは思うけど…よく分からない。
ーそうじゃよ…その『想い』が大事なんじゃ。
分かるかのぅ?
強い『想い』が無ければ、何も始まらないんじゃ。
上手くいく時もあれば、いかん時もある。良くも悪くも、背中を押すんは、いつの世も『想い』だけなんじゃよ…
ふと見上げれば、じーちゃんはニコニコと微笑みながら、私を撫でて…いや、撫で回している。
じーちゃんの言った事を、撫で回されながら、ぼんやり考えた。
強い想いは、願いになって、雫と私を繋いでくれた。
行動を起こす為の原動力。
何かに駆り立てられる時には、必ず『想い』がある…。譲れない程の強い『想い』が。
ー猫なる生き物を触ったのは初めてじゃが…柔らかいのぅ。毛皮もツヤツヤで、何とも言えぬ触り心地じゃ…。
誠に、心地良いのぅ。
こりゃ、寿命が100年は延びたわい。
じーちゃんはご満悦で、私を優しく撫で回す。
さわさわと風が梢枝を揺らす。
木漏れ日が、優しく降り注ぎ、苔むした柔らかい地面には、白い花が咲き、微かな花の香りが鼻先をくすぐる。確かに…心地良いなぁ。
ーそりゃ、良かったのぅ。
じーちゃんは嬉しそうに、皺深い顔を緩ませて微笑んだ。
ーさて、これだけ良い思いをさせて貰ったからには、礼をせねばならぬの。おまいさんの『想い』、儂が手助けしてしんぜよう。
私は膝の上で伸びきっていた身体を起し、じーちゃんの顔を見上げた。
ー手伝いをするにあたって、条件はあるんじゃが…。その前に、おまいさん…名前は輪、じゃったかなのぅ?
問いたい事がある…輪は、葉力、霊力、精霊力の違いは知っとるかい?
えっと…九尾に教えもらったのは…
葉力は、ハオルチア全国民が生まれながらに持ってる能力。
霊力は神から与えて貰った能力。
稀に生まれ持ってくる株も居るらしいけど…詳細は不明みたいな事を言ってたなぁ。
精霊力は…聞いたかな?
雫は、霊力=精霊力って定義して、
術式を作ったって話してた。
ーうむ…なるほど、なるほど。
では、儂が簡単に説明してやろうかのぅ。
株にはそれぞれ持って生まれた器があるんじゃ。
器の大きさによって、葉力の数値に差が出る。
『葉力』は身体の中で作られて、器を常に満たしておるんじゃよ。
これが、ハオルチア達がいう『葉力』じゃ。
なるほど…器か。
その例えは、分かりやすいかも。
ー次は『霊力』じゃが… 。
神から与えて貰ったと言っとったが、
正確には、神から新たな器を授かった…って処かのぅ。つまりは、加護や祝福で器が二つになった…と言う事じゃな。
もちろん、二つ目には『葉力』を満たすことは叶わぬ。
二つ目の器は、本人の意思を問わず、勝手に、世界に溢れる活力を集めよる。その力の源は、無尽蔵なのじゃよ。
それじゃ…霊力っていう二つ目の器を持つと、使い過ぎて葉力切れを起こして、体調が悪くなって倒れる…何て事がなくなるんだ!
マヤ少年も二つ目の器が有れば、万事解決になるのになぁ…。
ーそれが、そう上手くいかぬモノでな…株には二つ目の器を知覚出来ぬのじゃよ。もし器が有ったとしても、知覚出来ねば、使えぬ。
更に、知覚出来たとしても、『葉力』から『霊力』への切り替えが難儀でなぁ…。
その力を、使いこなすまでに至る株は、今はおらんじゃろなぁ…。
知覚出来ない…そうか、そんな力があると思わなければ、使おうとはしないし。そもそも切り替えのやり方とか、誰も知らないから、霊力を使えないのか…。
と言うか、神様。与えたなら使い方くらい教えてくれれば良いのに。
ーまぁ、例外はあるがのぅ。
そうじゃなぁ…神から、啓示を受けた者は、己れが『霊力』を扱う事が出来ると知るだろうよ。
神の意志に従い、定めに囚われてしまうがのぅ。
憐れな事じゃて…。
そう言えば…伝承の四葉って、神に遣わされたって話しみたいだったけど、
アレって、実は神の意志に従い、霊力を使えるようになったハオルチアが、厄災から国を救った?
厄災ってのが、何なのか分からないけど…そうする事が定めだった…って事なのかな?
ーまぁ、そうじゃな。
神の意志を受け、抗う事も出来ず、
定めを受け入れる運命…
じーちゃんは、そう言うと何処か遠くを見つめる。もしかして…知ってる株だったのかな。
というか、じーちゃんどれだけ長く生きているんだうか。
霊力の詳細は、文献にも残ってないって雫は話してた。
じーちゃんはめっちゃ詳しい…この話を雫に教えたら喜ぶかな?
ーふぉふぉふぉ…。
輪が教えたいと思うなら、教えてやれば良い。
さて、最後に『精霊力』じゃな。
『精霊力』とは即ち、精霊の力を借りて奇跡を起こす事柄じゃ。『葉力』『霊力』のように己が内にある力では無く、借りる力。その力を使うには、精霊の助力が必要不可欠なんじゃよ。
精霊は『葉力』『霊力』持ちを嫌う。力の相性が悪いんじゃよ。だから、『葉力』『霊力』持ちには、力を貸したがらないのぅ…。
精霊が力を貸す必須条件は、精霊を知覚出来る事じゃ。そして、祝福を受けたり、盟約を結ぶ。
つまりはお互いの意思疎通が要となるんじゃな。
あぁ…私が葉力・霊力が無くて、意思疎通が出来るから、じーちゃんは手を貸してくれるって事か。
私、じーちゃんと盟約を結んでないよね?
ー輪が来た時に、祝福しておるよ。
その羽根で空を飛べるのも、此処へ来れるのも、儂が祝福をして、精霊達が力を貸してくれてるからじゃて。精霊達は祝福持ちには、対価なしで力を貸してくれるからのぅ。
祝福と盟約って何が違うんだろう?
今のままでも、良い感じな気がするんだけど。
盟約を結んだら、皆みたいに自在に能力を使えたりするのかな?
ー祝福は種みたいなもんじゃよ。
芽吹くかどうかは、己れ次第じゃ。
芽吹けば、精霊達が力を貸してくれよう。輪は、今のままで十分じゃろう…しっかり、芽吹いておるしなぁ。
盟約は、誓いを立てあい約束を交わす。目的の為に力を合わせて協力をするんじゃな。
祝福と盟約の違いかぁ。
私の今の状態は祝福で…羽根を大きくして、飛んだりする時に精霊が力を貸してくれてるって事なんだ。
それじゃ、何が違う事を頼んだら…そうだな、九尾の防御膜みたいなのとか。出来るのかな?
ー儂を含めて、精霊は精神感応に長けとる。強く願えば、力を貸してくれるはずじゃよ。弱精霊ならば、羽根を大きくしたり、飛ぶ為に補助したりは可能じゃが…攻撃や防御系になると、そこそこの力を持つ精霊じゃなければ難しいかも知れぬのぅ。
あー、そうなのか…。ちょっと残念だなぁ。私も何かの役に立てると思ったのに。
じーちゃんが、私を励ますように、
頭をカキカキしてくれる。
ーして、儂が手助けする条件じゃがのぅ…。
じーちゃんが手助けしてくれるのは、
本当に有難い!
雫は、霊力=精霊力と定めて術式を構築してるはずだから、今のままだと…不発してしまうかも。
それは、マズイ。非常にやばい…気がする。
ーじゃから、儂が直接、空色の娘っ子とその少年と話をしようと思っとる。
じゃが、このまま訪れたとしても、儂の声は届かぬし、姿も目視出来ぬじゃろう?
だから、輪に、何か儂が入れる…そうじゃのぅ…人形や置物を用意してもらいたんじゃよ。
頼めるかのぅ?
…人形に憑依するの?
ちょっと怖いな…オカルト映画で、幽霊が人形に憑依とか、あるあるじゃない?
大丈夫かなぁ…。
ーほぅほぅ、輪の世界にはそんなモノもあるのか…。面白いのぅ。
まぁ、問題なかろうて。
あれ…何か、景色がボヤけて見える。
じーちゃんの膝の上で立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回す。
あぁ…もしかして、戻ろうとしてるのかな…。
集中力が高まる魔法陣の中央で瞑想してた…あの部屋に。
ーでは、向こうに戻ったら、準備しておくれ。
儂は此処で耳を澄ませて待っとるよ…。整ったら、呼んでくれれば、直ぐに行くからのぅ。
じーちゃんの声が徐々に小さくなって、姿が滲み、擦れていく。
ー頼んだぞ。
そのひと言を残して、じーちゃんの姿が見えなくなった。
私の意識もドンドン浮上していくのが分かる。
きっと、身体は研究室に残され、意識だけがじーちゃんの居るあの場所に行ってたんだろう。
そういえば、猫になる前ってあんな感じだったなぁ…。ちょっと懐かしい気もする。
さて、人形か置物…雫の研究室にそんなのあったかな?
「読んでくださり、ありがとうございました。」




