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兆しの刻-ざわめく世界『術式』

※「芽吹きの刻」編(改訂版)を経て、ここからは新たな物語が紡がれております。

『術式』


後日、雫は白帝城とマヤを東斜塔の自室へと呼び出した。

この数日間、白帝城の術式の解析、術式の核になるマヤの解析鑑定、新たな術式の構築、私の解析鑑定と寝る間も惜しんで雫は頭を使いまくっていた。


そう、新たな術式に私も必要とされている。…猫なのに、休む暇もありゃしない!

でも、マヤ少年のためだからっ!

髭を数本引っこ抜かれても、毛を毟りとられても…文句も言わず、協力した…。

そして、今…。

私は、魔法陣の中央で香箱座りしながら、霊力アップするために…ひたすら瞑想している。


雫の考えた新たな術式は、白帝城の家に伝わる禁術をベースにした結界術譲渡術式と、霊力をベースにした補助術式の二重の構築式になるらしい。

正直言って、説明されても全くわからなかった!


要するに?

禁術は、結界術式自体を誰かに移し、その人の生命を蝕みながら結界を維持する…。つまりは、必要なエネルギー源が葉力から生命力へと、強制的に変換される術式。

で、それを阻止するために、生命力から霊力へと変換する補助術式を構築する…らしい。

つまりは、マヤの命を削らないように、私の霊力でそれを補う流れを作る…みたいだ。


もともと白帝城の規格外の葉力で維持してる結界術式を、葉力エレベータすら一人で動かす事も出来ないマヤに譲渡したら、生命力を使ったとしても、即死するよ。と…雫がぼやいていたのは、マヤには秘密だ。


霊力=精霊力と雫は定義して、補助術式を構築した。

つまりは…私が霊力を使えるようになるのが必須になってしまった訳だ。

そういえば…天使が、私の事、精霊そのものなのでは?

なんて言ってたよな。

霊力とか言われても、本当によく分からない…。

とりあえず、雫に言われるがままに、集中力が増すからと魔法陣の中央で瞑想をしてみてはいるが。


マヤ少年を助けるために。

私は必死に特訓を続けるしかない。


今日、白帝城達が雫に呼び出されたのは、

先に禁術ベースの結界術譲渡術式を身体に刻むため。

私を召喚したように床に式を書かないの?と雫に聞いたら

「禁術式はとても繊細で、危険。下手をすると全てを巻き込む恐れがある…。白帝城の術は広範囲だから…城にいる株全員巻き込むかも。だから、術者の身体に刻むが、一番安定して、確実。」

と教えてくれた。


刻むと言っても、入れ墨のように彫るわけではないみたい。

術者の血に、炭やら何やら色々と混ぜた液体で描く。それは、術が発動するまで消えないが、無事に発動しきればいずれ消える…が。

術そのものは、魂に刻まれ遺る。

雫にも私を呼ぶ為の術が、魂に刻まれたのだろうか…。

恐る恐る雫に尋ねると、

「輪さんと、ボクの絆だね。」と

微笑んでいた。それが、答えなのだろう。


今回は白帝城の血を使って、式を描く溶液を作る。その採取も兼ねている。マリンが雫の指示の元、手早く血を採取。素早く白帝城の手当て。

採取した血に色々と混ぜて溶液を作製。

恥ずかしがるマヤ少年の服を容赦なく毟り取り、上半身右側の脇腹を中央にして、式を描いていく。


円形の魔法陣の中心が脇腹にあたり、腹部と背中に幾何学模様のような式が拡がる。模様のひとつひとつ全てに意味があり、交差する線すら重要だと教えてくれた。


緻密で細かな模様を、マリンは雫の指示を聞きながら描いていく。

雫のその指示は、ぽやっとしてて、とても大雑把なのに…あの指示で何でこうなるんだろと、心底不思議に思う。

マリンの脳内変換、ある意味で最強なのではないだろうか…。


しかし、術式を描くのは雫がやるのだろう…と思っていたから、マリンが描きだしたのは、白帝城も驚きを隠せなかった。

「些末な作業で、主の手を煩わせる訳には参りません。」

と、スンとしながら答えられたら、

流石の白帝城も、あっけに取られて何も言えなくなっている。禁術式を描くのが些末ですか…ははは…って、そりゃあ、なるよね。

白帝城の反応は普通だと思うよ。


作業自体は単調に終わり、残すは私の霊力次第となってしまった。

霊力ベースの術式は、私の霊力数値次第になるから、マヤ少年の左半身は綺麗なままで待機となる。

霊力数値かぁ…。

雫の目論見通りに霊力が向上しなかったら、どうなるんだろ…白帝城の苦しみの連鎖は続き、マヤの必死な決意も無駄になっちゃうんだよね。

非常に、マズイ。

近来稀に見るほどのプレッシャーを感じて来た。


マヤ少年はこのまま塔に残る事に話は決まったらしい。

白帝城は渋ったが、

「白帝城が、マヤにちょっとでも触れたら、術式が発動するよ?左が完成してないから、マヤ、死ぬけど…それでも、連れてく?」

と、静かに雫に脅され、白帝城はマヤが此処に残る事を了承するしかなかった。

帰り際には、マヤを残すのが気掛かりな白帝城は

「何かあったら、私に直ぐに連絡をしなさい。」

とマヤにはそう伝え、雫とマリンには、「マヤを頼みます」と言い残し、後ろ髪を引かれながら塔を後にした。


一人残されたマヤは、とても申し訳なさそうにモジモジしているが、雫はなんだかちょっと嬉しそうに見える。年齢も同じ位だし、きっと仲良しなんだろうな…と、微笑ましく思う。


「…輪様。先程から、ピクピク髭が動いているようですが、ちゃんと瞑想されていますか?」

マリンがいつもより低い声で話しかけてきた。

あ、やばい…この声は、マズイ。

「…すみませんっ!」

誤魔化しても、マリンは騙せない。素直に謝った方がいい。と判断して、速攻で謝る。

「…集中して下さい。雫様が期待してお待ちになっているのですから。」

「はいっ!頑張りますっ!」

マリンの雰囲気が、次はないからな!と告げている…気がする…。きっと、錯覚ではないだろう。私の猫の本能が全力で逃げろ!と囁いているのだから。


本当に、私に出来るのだろうか…

不安が鎌首をもたげて、襲い掛かろうと心の隙を狙っている。駄目だ、集中しなければ。

雫の言う事を信じるんだ…大丈夫、羽根を自在に操り飛べたじゃないかっ。

私には、霊力があるんだ。

あるなら、向上だってするはずだ!

集中する。

元の世界には無かったはずの力が、今の私には備わっている。それを感じ取るんだ。

知覚する事が大事だと、雫は話していた。

知覚して、それの有り様を確認したら、応用出来るように…意識を広げる。

雫は実に簡単そうに言うけど…難しい。

でも、泣き言はいっていられない。

私しか出来ない事なんだから…。


今まで感じてた重苦しさが、ふっと軽くなる。

大きな耳で集める物音や、雫達の会話が遠ざかる。

そうだ、良い感じに集中してる。

眼を閉じているから見えないけれど、私を中央にした魔法陣が光っているかも知れない。そんな気がした。


ー私は深く息を吸い、ゆっくりと吐く。

何度も、何度も繰り返し、深く深く、もっと深く。

自分の中へ…もっと奥へ、潜っていく。

そして、その底で。ー


「読んでくださり、ありがとうございました。」

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