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兆しの刻-ざわめく世界『決意』

※「芽吹きの刻」編(改訂版)を経て、ここからは新たな物語が紡がれております。


『決意』


アストロさんが着座している間は、雫の膝の上で大人しくしていたが、対策室とやらに戻られたので、私はテーブルに飛び移り身体を伸ばした。

すると、マリンが畳んだふわふわの布をテーブルに置き、私を抱き上げてその布の上へと下ろす。

お〜柔らかくて、暖かい!

これは、本能がフミフミするんだ!と告げてくるヤツだ。…やらないけど。

マリンが用意してくれたのかなぁ。

見上げると、マリンが口角はそのままで眼だけで笑っていた。


「陛下奪還かぁ…メンバーって言われてもな〜」

九尾が行儀悪く、脚をテーブルの上に投げ出して両手を頭の後ろで組む。

チラッと向かいに座る白帝城を盗み見た。

「天使と魔剣は行くだろ。俺も行くしかないだろ…雫は?かなり危険だから、俺としては城に居てもらいたいんだけど…」

「やだ。行く。」

雫が即答する。

「まぁ、そう言うと思ったよ…。で、白帝城は?」

名を呼ばれて、白帝城の身体がピクリと反応する。

あれ…何か白帝城、辛そう?テーブルに添えられた右手をギュッと握り締めている。

「私は…」

何かを言いかけ、言葉を飲み込む。

視線は、握り締めた右手をじっと見つめている。

皆が、白帝城の言葉を待っているようだ。天使は下を向き、悲しげに目蓋を閉じて。魔剣は、そんな天使を気遣いながら。雫は、真っ直ぐに白帝城を見つめて。九尾は、白帝城を憐れむように見つめていた。

憐れむ?

あぁ…そうか。私は、今何でこんなに空気が重のか、その理由を思い出した。


白帝城は葉力で、この城内、外壁の内側まである広大な敷地を、結界を張り巡らせ守っている。

術者が居なくなれば、結界は維持出来ない。白帝城には選択の自由すらないんだ…。

皆が、あの化け物と対峙しなければならないのに…自分だけが残り、城を守らなければならない。

向かう先が、死地かも知れない…それを見送る。

それが役割りと言われても、そう割り切れるものでは無いだろう…。


白帝城は、それでも選択しなければならない。

自分の意思で、残って城に結界を張り続けると。

これは、キツイよ…。まだ、誰かに強制された方が楽だろうに。

白帝城の心情を思うと、辛くて。

私の耳がペタンと横に萎れてしまう。

すると、九尾が手を伸ばし、優しく頭を撫でてくれた。その眼が「仕方ないんだ…己れで決めて進まないと。」と物語っている。


白帝城は静かに目を閉じて、ふぅ…と小さく息を吐くと、

「私は、行かない。私には、城を守るという、役割りがあるからな。」

そう決意を言葉にして、皆に伝えた。

胸がギュッと痛み、私は堪らず白帝城の握り締められてる右手に、身体を擦り付ける。

右手は爪が食い込んでいて、拳は既に色を失くしていた。

「…輪が、私に擦り寄るなんて。初めてじゃないか?」

硬かった表情がふっと和らぎ、強張った右手で私の背中を撫で始めた。

張り詰めた空気が、少しだけ軽くなった時に

「白帝城様っ!少し座を離れる事をお許し頂けますでしょうかっ!」

扉前に立ち、完全に壁と同化していた従者のマヤが、いきなり大声を出した。白帝城が眼を丸くしながら

「構わぬが…」

その答えとほぼ同時に、マヤが物凄い勢いで部屋を飛び出していった。

「…どうした?」

魔剣が、呆然として尋ねてくるが、

白帝城は首を傾げる。

何度となく、マヤは会議に参加をしているが、終了を待たずに部屋を出るような事は、一度も無かった。

一体どうしてしまったと言うのか…。


暫くすると、ダダダダっと廊下を走る足音が聞こえ、ダンダンっとかなり荒っぽいノックをしてマヤが室内へと戻ってきた。

「もっ、申し訳ありませんっ、も、戻りまっ、した!」

かなり慌てて来たようで、ゼハッゼハッと肩で息をしている。何かを胸に抱え、苦しそうに身体をくの字にしている。

マリンが、ふぅと小さく溜息を吐くと、備えてある水入れからグラスに水を注ぎ、マヤへと手渡すと

「あ、ありがとうございま、す。」

マヤはその水を一気に飲み干した。


「マヤ、一体どうした?」

白帝城が挙動不審なマヤの行動を心配して声を掛ける。

「…お前、何を持って来た。」

マヤが胸に抱えている物を見て、白帝城は眉を寄せる。

それは、古びた分厚い本…だろうか?

白帝城に問われると、マヤは俯きギュッと本を抱きしめる。そして、意を決したように顔をあげると、雫の側に寄り、その本を手渡した。

キョトンとしたまま、雫は本を受け取り、小首を傾げる。

「進言、宜しいでしょうか。」

縋るように、雫を見つめながらマヤがいうと、黙ったまま雫は頷いた。

マヤはゴクリと喉を鳴らすと、

「…その本は…白帝城様のご実家に伝わる魔導書、禁忌書でございます。」

「なっ!」

白帝城が勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる。

「雫様であれば…その本に書かれている禁忌の術式を発動までもっていけるのではないかと愚考しました。…どうか、結界の譲渡術を…自分に…」

マヤは涙を浮かべながら、深々と雫へ頭を下げる。

雫は何も言わぬまま、本をテーブルに乗せると、ペラペラとページを捲り、中を確認し始めた。


ワナワナと白帝城の身体が震える。

「マヤっ!お前、何をしているのか分かっているのかっ!」

マヤに掴みかかりそうな勢いを見て、

魔剣が白帝城を抑えにかかる。

「分かっております!自分は、白帝城様は皆様と共に、行かれるべきだと。その為には、結界術を誰かに譲渡するべきだと!だからっ!

自分は…自分は…」

マヤは堪えきれずに、ボロボロと涙を溢しだした。

白帝城は魔剣に羽交締めされて、全く身動きが取れずにいる。そこまでしなくても…と、ちょっと思ったけれど、顔を真っ赤にして激昂している白帝城を見ると。…うん。仕方ないよね!

マヤ君の安全確保は大事。

「申し訳ないけど、話しがよく見えない…奴も居るから、詳しく教えてくれないか?」

九尾がマヤにそう声を掛ける。「奴」

って台詞の時に、白帝城と抑える魔剣をチラッと見た。

「…はい。」


この禁忌書は、自分が白帝城様の亡きお母上様からお預かりした書物になります。

自分は幼い頃に両親を亡くし、身寄りも無く、路上で行倒れても…誰かが気にする訳でも無い、ただの草のような存在でした。

その時に、たまたま通りかかった奥方様に拾われ、屋敷へ住まい、若様のお世話をするように…と。

自分にしてみれば、それは夢のような申し出…断る理由もなく、二つ返事でお受けしました。


若様の従者として、学びながら、お優しい奥方様、厳しくとも労りの心を常にお持ちになる旦那様、

従者である自分を、まるで弟のように接してくださる若様…日々が幸せで、感謝を込めぬ日はありませんでした。


ある日、奥方様に呼ばれお部屋をお訪ねすると、この禁忌書を渡されました…。

奥方様も、白帝城様と同じ葉力をお持ちだったと聞き及んでおります。

奥方様は、仰いました。


この葉力は、皆を助ける強力な守り…

だが、それは術者を縛り付ける、呪い。

発動させれば、そこからは己が意志で動く事が許されなくなる、楔。

この本には、発動させた葉力を他者へ移す術式が記載されています。

それは、とても危険な術。

術を移された者は、遅かれ早かれ、必ずその生命の灯火を消す事となるだろう…。

我が一族が、没落まで追いやれた理由のひとつでもある…術。

それが、禁忌とされた理由。

いつか、必要となる日が来るかも知れない。

来ないかも知れない…。

その判断を、マヤ…お前に託そう。

息子を…お願い…。


渡された日は、眠れませんでした…。

禁術が怖かった訳ではありません。

託された、奥方様の思いが、その責任が…自分に果たせるのかが、怖かったんです。

ですがっ!

今、使うべきだと!

奥方様の思いを、若様のお心を!

お守りするのは、自分の従者としての役目ですからっ!!


顔を真っ赤にしながら、涙を溢しながら、マヤは必死に思いの全てをぶち撒ける。誰も何も言えずにいた。

ただ雫がペラペラとページを捲る音だけが、部屋を満たす。

「…誰が、そんな事を頼んだ…」

羽交締めされたまま、白帝城が苦しげに呟く。

「いえ、自分が決めた事です。」

マヤは涙を服の袖で拭いながら、きっぱりと言い切った。

「自分は、若様は行かれるべきだと考えます。危険な任務です。若様のお力が必要になるはずです!魔剣様は、確かにお強いと思います。

その、化け物と称される敵と対峙している間、誰が天使様や雫様をお守りするのですか?

伏兵が現れたら、九尾様お一人で、果して守りきれるのでしょうか?

若様がいらっしゃれば、魔剣様や九尾様が安心してお力を振るえるのではないでしょうか。」


マヤの眼には力が籠り、正面から白帝城と対峙する。普段のマヤ少年からは想像も出来ない姿だった。

「若様も、行きたいとお考えなのは、分かっております。ですが、城を守るという責任感に苛まれているのも…ですから、その責任はマヤにお預け下さい。必ずや、皆様が城に陛下をお連れしてお戻りになるまで、持ち堪えてみせましょう。」

凛として胸を張る。

その姿は、少年ではなく、一株の立派な漢の姿そのもの。

「…マヤ…お前は、本当に…」

白帝城は力が抜けたように、魔剣に寄りかかる。

「…すまない」

白帝城の小さな呟きが、完全にマヤの言い分が通ったと悟らせる。

「…お前の従者、すげ〜な。」

魔剣がマヤを見て、ニヤっと笑った。

「ご立派です。」

背景に徹していたマリンが、マヤをみて微笑んだ。そのレアな笑顔を見て、皆が、おぉ〜となった時に、雫がパタンと本を閉じた。


「…大丈夫。マヤは、死なせない。把握完了。

再構築中…多分、違う方法で術式移行出来る。」

眼を閉じて雫が話すと、力が抜けて座り込んで居た白帝城が勢いよく立ち上がり、雫に詰め寄る。

「それは、本当かっ!?」

「…うん。出来る…というか、やる。マヤは、絶対に、死なせない。」

雫はゆっくり眼を開くと、マヤ、白帝城と順に見る。そして、私に視線を止めた。…なんか、嫌な予感が…?

「必要なのは、時間。あとは、輪さんの協力。」

雫の言葉で、視線が一気に私へ集中する。えぇぇ…な、何を、しろと…?

「…輪さん、頑張ろうね♪」

珍しく、和かに雫が私に笑いかけた…。私は、なんだか怖い雫の笑顔を見ないように、せっせと毛繕いを始めるのだった。


「読んでくださり、ありがとうございました。」

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