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兆しの刻-ざわめく世界『仮面』

※「芽吹きの刻」編(改訂版)を経て、ここからは新たな物語が紡がれております。

『仮面』


魔剣の脚は止まる事なく、あっという間に王城にたどり着いた。

途中、何体かの影と出くわしたが、

斬り伏せながら駆け抜ける。必死に肩にしがみついてるので、爪が食い込んでしまっているだろうに、魔剣は痛がる様子もなく、ただひたすらに前を向き走った。やはり、焦ってるのだろうか…。


王城の裏庭に出ると、魔剣は立ちどまり辺りを見回す。

しかし、あの速度で走り、全く息も上がっていないなんて…。マリンも同様で、首にしがみついてる雫を大事そうに抱きしめながら、辺り警戒していた。


「どうしましたか?」

立ち止まった魔剣を怪訝そうに、マリンが声をかける。

「待て…臭う。」

眉間に深い皺を寄せ、ヒクヒクと鼻で臭うを辿っているみたいだ。

猫の嗅覚は犬ほどではないにしろ、そこそこ発達してる筈だけど…私には魔剣がいう臭いは感じられない。

魔剣の鼻は、犬並みなのかな?


「こっちだ!」

向かう先には、豊かな緑と花々が咲いている美しい庭園を見渡せる、バルコニーの下だった。

「この上から臭う…奴等を創り出してる張本人か?もしかすると、天使もそこに居るかも知れない。」

「…なんで臭いが分かるの?」

私は好奇心を抑える事ができず、魔剣に聞いてみた。

「…訳ありでな。オレは、この臭いに特別敏感なんだ…。」

魔剣は、肩に乗る私の頭をクシャと撫でると、バルコニーを見上げる。

3階分位の高さがあるから、直接バルコニーに行くのは難しそうだな。

梯子や、飛び移れそうな木もないし…

でも、魔剣の話しを信じるなら、このバルコニーの先に天使が居るかも。


雫がマリンの腕からするり飛び降りると、バルコニーから少し離れた場所へと移動して行く。

雫は、すぐ側に控えるマリンを見上げながら

「この位置かな…マリン、やれるよね?」

「問題ないかと。」

「んじゃ、魔剣を、投げて。」

え…雫、今、何て言った?

投げるって、聞こえたんだけど…

「雫?」

魔剣がちょっと慄きながら、無意識にマリンから数歩後退りした。

「時間がないから、諦めて?」

雫が、薄っすらと笑みを浮かべて魔剣を指先しながら、GOサインをマリンに与えた。


あ、何か、コレは嫌な予感が…私は慌てて飛び降りようと腰を上げた瞬間に。

「うわっ⁈」

マリンが私ごと魔剣を軽々と担ぎ上げた。

「狙いがそれますので、暴れないで下さい。」

魔剣の腰と背中を両手で支えて、頭上まで抱え上げる。私は、咄嗟に肩から魔剣の胸の上に移動。

爪を立てて、静止した。

ちょ、まって、せめて降りるまで!

「待て待て待てっ!」

魔剣も、まさかマリンにバーベルよろしく高々と担ぎ上げられるとは思わなかったらしく。ワタワタと慌てるが、私の心の中と魔剣の抗議など知った事ではないマリンは、そのまま勢いよくバルコニーへ向かって魔剣と私を槍投げのように投げ飛ばした。

「うわぁぁぁーっ!」 

「うにゃぁぁぁーっ!」

魔剣と私の絶叫が、重なり響く。

頭から一直線にバルコニーに飛ばされ、目前にガラス窓が迫る!

魔剣は身体を丸め、胸の上で踏ん張る私を抱えこんだ態勢で、勢い良くガラスに突っ込んだ。


ー時は少し遡りー


九尾は宰相アストロの執務室に、術により眠らせた白帝城を置いて、窓枠を器用に移動していた。

裏庭…庭園を一望出来る部屋が目的地だ。慎重に、足場を確認しつつ、何とか広々としたバルコニーへと降り立つ。


気配は遮断できても、物音は漏れ聞こえてしまう。

九尾が履いている靴は、皆が好んで履く皮物とは違い、布製で足音を全く立てる事はない。

でも、強度は皮製以上の優れた製品で、もちろん、雫が九尾の為に作った一点物だ。


音もなく、大きな掃き出し窓から

中の様子を窺う。ターゲットは、広々としたソファーで寛いでいる様子だった。こちらに背を向けているので、表情は窺えない。

角度を変える必要があるな…九尾は

視線をターゲットから外さず、良く観察出来るように移動する。

ようやくターゲットの全体を程度見れる位置まで移動すると…愕然とした。


ターゲットの膝に乗っているのは…頭…あの髪色は天使じゃないのか?

天使に膝枕をしている?

何で…いや、それより天使は?

ターゲットは頭を撫で、長い髪を手に取り、

愛おしげにその髪に口付けしている。

天使の身体はピクリとも反応していない。

九尾は背中に冷たい汗が流れるのを自覚した。

意識が無いのか…。まさか、既に天使が囚われているとなると…これは厄介だな…。


とにかく、室内に侵入して詳しい情報を集めないと…。

掃き出し窓には鍵はかけられていない。

チャンスは一度だけだ。

テーブルに置かれたティーセット。

カップからは仄かに湯気が見える。

九尾はターゲットの動きに、神経を集中させた。

ターゲットがカップを手に取り、口元へと運ぶ。カップは僅かに傾き、そしてソーサーへと戻される。

その、食器が触れ合う僅かなカチっという物音に窓を開ける音を重ねた。


大丈夫、気付かれてはいない。

あとはゆっくりと窓を開ければ良いだけだ。

九尾は慎重に窓をゆっくりと開け、部屋の中へと侵入した。

後手で窓を閉めるが、完全には閉めない。音を立てない為と、少しの違和感を残す為だ。窓が少し開いているのに気がつけば、変だと思いながら閉めに行くだろう。その隙に、ちょっとばかり大胆な動きをしても悟られにくくなる。

相手の意識が完全に窓へと集中するからだ。

九尾はそれを狙っていた…のだが。


「あら…お客様のようね…」

ターゲットがカップを見つめながら

独り言のように呟いた。

九尾はソロソロと部屋の奥へと進めていた歩みをピタリと止める。

まさか…気付かれた?

ターゲットは膝から天使をどかすと、手近にあるクッションに頭を乗せて、寝かせた。

この位置からなら、天使の様子が窺える。

顔色は少し青ざめてはいるが、眠らされているだけのように見える。胸が規則正しく上下していた。

生きているなら…奪還すれば良いだけの事だ。


ターゲットはゆっくりと立ち上がって

九尾に背中を向けた途端。

ガッシャーンっと派手な大きな音をさせて、

窓を突き破り、何かが部屋の中へ転がり込んできた。

「あらあら…困った子ね…。」

ターゲットが呆れたように、ふっと鼻で笑う。

窓から突っ込んで来たのは、魔剣だった。片手で猫を抱えて、粉々になった硝子を踏み締めて立ち上がる。

「クソ…なんて奴だ。」

軽く頭を振るい、猫を肩へと移す。

右手を上げ軽く凪げば、ゆらりと愛剣が現れた。


何で!

このタイミングで魔剣が、突っ込んでくるんだっ!

九尾はパニクリそうな頭を必死に抑える。

だが、ターゲットの意識は完全に魔剣に向いた。この隙に、天使を奪還するしかない。

「ふふ…相変わらず、派手なのね?」

嫋やかな笑みを浮かべて話しかける。

「知るか。オレをぶん投げたヤツにいえ。」

魔剣の視線が天使を捉えると、一気に殺気が魔剣から溢れ出る。

「天使に、何をした。」

ゾクっとする、地の底から響くような低い声。

「あら、怖いわね…アンジーなら眠っているだけよ?」

レイラは口元て手を当てると、楽しそうにクスクスと笑う。

「心配だったから…と救護室へ行ったら、泣きそうな顔をして迎えてくれたのよ?本当に、可愛らしいわねぇ。」

「…」

魔剣は何も言わずに、ジリジリとレイラとの間合いを測る。レイラからは底知れぬ威圧感が漂っていて、

一部の隙もない。

「それにしても…部屋をこんなにして。仮にも、この城の主の部屋なのよ?どうするつもりなのかしら。」

レイラは大袈裟な手振りで部屋の惨状を指し示す。

「…臭うんだよ…オレには、通用しない。」

「あらあら。それは、困ったわ。」

レイラはクスクスと笑いだす。

笑いは次第に波ように大きく、激しく、甲高く。

身体を仰け反らせ、天井を仰ぎ見ながら。

「きゃっははははははーっっ!」

耳を覆いたくなる程の、狂った叫び笑いが部屋中を、ドス黒く満たしていった。


読んでくださり、ありがとうございました。」

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