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兆しの刻-ざわめく世界『寝返り』

※「芽吹きの刻」編(改訂版)を経て、ここからは新たな物語が紡がれております。

『寝返り』 


時期を同じくして城内は、混乱の渦の只中にあった。

外壁まで張り巡らせたはずの結界内に

突如として敵が現れたからだ。

影人間達は、決して、抜ける事は出来ぬ筈とされてきた結界を、抜ける術を見つけたのか…それとも、結界自体が不能になったのか。

兵士達には判断出来ずに、白帝城への信頼だけが薄らいで行くのが、九尾には手に取るように見え始めていた。


「マズイな…このまま混乱してたら

敵の思う壺でしょう。」

九尾は、椅子に深く座って項垂れている白帝城を横目で見ながら、宰相のアストロに話しかける。

「それが狙いでは、あるだろうな…」

アストロは髭を摩りながら唸る。

まだ城内に進入してきた敵の数は少ないが、これ以上増えた場合を鑑みると、白帝城への不信感が指揮に影響するのは避けねばならない。


「確認なのですが、結界はどうでしょうか?」

アストロが白帝城に直球で尋ねてくる。

「…どういった意味ですか?」

「機能しているか、否か。と伺っております。」

九尾は右手で顔の半分を覆う。

確認は大事だろう…が、このおっさんは言葉を選ぶという事をしないのか?今の白帝城に、その聞き方は喧嘩を吹っ掛けてると同意だろう…。

「私の葉力が落ちたと、そうお聞きになっているのでしょうか?」

白帝城がアストロを睨め付けながら言う。プライドを傷つけられ、今にも爆発しそうな目付きである。

これが魔剣なら、間違いなく爆発しているだろう…と、九尾がそっと溜息を吐く。


アストロは両手のひらを見せながら、

「いやいや、まさか。見て下さい。あの美しい空を。虹色に覆う結界の色を。今までと変わらずに、いや…それ以上に。とても美しいではありませんか?」

アストロが窓の外に広がる空をうっとりと見つめる。

「私は、白帝城殿の葉力が落ちたなど夢にも思っておりませんよ。

寧ろ、より強固になっているのでは有りませんか?」

アストロが白帝城の目を真っ直ぐ見つめながら、語る。

「私が白帝城殿に言いたいのは、何故に項垂れる必要があるのか…それ一点のみですな。

私が機能しているか、否か…と尋ねた時に、何故、自信を持って応えて頂けないのでしょうか?」

白帝城がアストロから視線を外して

「いや…結界内に敵が侵入しているのは事実ですから…。」

と、また下を向いてしまった。

「どうせそんなモノは敵の策略、何か手妻があるのですよ…どんな手妻かまでは分かりませんがね。」

アストロが視線を九尾へと移す。

九尾は、なるほど…と思いながら、アストロの話に乗る事にした。


「確かに、閣下のおっしゃる通りに、手妻があるのは確かでしょうねぇ…。だが、今急務なのはその手妻を暴く事ではないでしょう。」

今まで、座り込んでいる白帝城の後ろに控えるような配置で立っていた九尾だが、回り込んでドカっと白帝城の隣に座る。

「その通りです、九尾殿。急務なのは、混乱を収め、兵士達の指揮を上げ、備える事です。」

アストロは両手をパンっと音が鳴るほど強く、膝を叩いた。

「ですから、私は、白帝城殿には己れを信じて揺るぎ無く、堂々として頂きたい。見ての通り、結界は美しく強固なままです。奴等が抜ける術など有りません!手妻など、私が必ず明かして見せましょう。」

グイっと髭もじゃな顔を、向かいに座る白帝城に寄る。


「…しかし…。」

白帝城がアストロの圧に押されつつ

少し仰け反りながら、戸惑いの言葉を吐くが、

「大丈夫です!兵士達には私がしっかりと話しをします!皆も空を見上げ、あの美しさを感じれば自ずと答えが出るはずです!」

アストロは、逃げ腰になりつつある白帝城の手をガシっと握りしめて

「必要なのは、白帝城殿の揺るがぬ自信だけです。

あの美しい結界を、胸を張って誇って下さい。

誰が何と言ったとしても!凛とした姿を皆が見れば、

あっという間に不信感など消え失せるでしょう!」

アストロの圧に、白帝城は完全に逃げ腰になった。

握りしめられた手を外して欲しくて、狼狽えだしている。

「ご理解頂けましたかな?」

アストロの問いに、白帝城は

「あ、はい…」と間抜けな返答をしてしまった。

しかし、そんな返答をアストロは気にする風でもなく

「それでは、私は隊長達を集めておりますので、状況の説明及び、激励に行きます。」

やっと、握りしめていた白帝城の手を離して立ち上がる。

「お二方もいかがですかな?」

と声を掛けてきたが、九尾と白帝城は丁重に断りを入れた。 


アストロが、髪を整えてから宰相が執務室を後にすると、残された九尾が肩を震わせる。

「堪らん…何回、美しいって言うんだよっ。

も、突っ込みたくて、突っ込みたくて!しかも、あの圧!」

宰相の執務室から爆笑している声が洩れ聞こえたら、流石に顰蹙をかいそうなので、九尾は声を殺して悶えている。

「…確かに凄い圧だったな。」

白帝城は握りしめられた手を、嫌そうに見る。

「いや…笑わせてもらったよ。

でも、宰相のおっさんが話す事は、間違っちゃいないだろ?鈍臭いおったんだと思っていたけど…

なかなかどうして…。」

自信喪失な白帝城に直球勝負で、ハッパをかけるとは…。

「宰相殿の話す通り、私の結界には綻びひとつない。あれば、直ぐに分かるからな。だが、実際に城内に影が入り込んで来た…。」

白帝城は、綺麗に整えられている白銀の髪をガシガシと掻き回して、頭を抱えた。

「言ってたろ?仕掛けがあるんだよ。まぁ、俺はその手妻とやらに心当たりがあるんだがな…。」


九尾の言葉を一瞬理解出来ずに、呆けた表情を見せたが

「な、な…」

言葉にならず、横に座る九尾の肩を掴み「知っているのかっ!」と喚いた。

「耳元で叫ぶなよ…。簡単だろ?

外から入れないなら、中で影を創り出せばいい。城内に影を創れる奴が居るんだよ。」

「…馬鹿な…」


九尾の言葉に今度こそ、何も言えなくなる。影を創り出せるのは…ドロドーナだけではないのか?

結界が張られているにも関わらず、ドロドーナが入り込んで城内に居ると…そう言ってるのか?

「まぁ、そんな顔になるよなぁ…。影を創れるのはドロドーナだけだと、何で知ってる?誰か見たのか?

違うだろ…確証なんか、初めからないのさ。」

力が抜けて、掴んだ九尾の肩から

自然と手が離れる。


「…どういう事だ。」

九尾の切れ長の眼がキツイ光を放つ。

「誰かが、ドロドーナ側に寝返った。だから、影を創り出す術が使えるようになった…しか、ないだろうな。」

「九尾…」

食い入るように九尾の顔を見つめる。誰かが…寝返った?

そんな、馬鹿な事が…あるのか?

そんな事が、あってたまるか!

「…俺に怒っても仕方ないだろ?」

九尾の眼光の鋭さはそのままに、口調だけが、のほほんといつもの調子に戻っている。

「まぁ、俺が行って調べてくるさ。

コレは俺の案件だろ?」

そう言うと立ち上がり、うーんっといいながら全身を伸ばす。


コードネームの由来、9枚の尻尾のトリコームが、ふわりと揺れる。

「白帝城は執務室から出るなよ。

おっさんが戻ったら、今の話しをして、俺が動くと伝えてくれ。」

白帝城は魅せられたように、揺れる尻尾を見つめる。何だか、思考が追いつかない。

「お前は要だからな…悪いが、良い子にしててくれ。」

眼が霞む…何だ、コレは…。まさか?

「…九尾…お前…」

口が思うように動かない。身体に鉛を着せられているようで、瞼が重くて

目を開けていられない。

九尾が指先で、ツンっと白帝城の額を軽く突くと、白帝城はソファーに倒れ込んだ。そして、そのまま寝息を立て始める。

「…すまんな、白帝城。術をかけさせてもらったよ。少しばかり、寝ててくれ。」

眠り込んだ白帝城の乱れた髪を手櫛で整えてやりながら、九尾が話しかける。

「何か、嫌な予感がする。白帝城は動かない方が良い…そんな気がするんだ。お前は要だからな…大将は現場には出ない方が良いんだよ。」

九尾はそれだけいうと、葉力を使う。

薄く風が巻き上がり、九尾の姿を覆い隠す。己の存在が消え、他者からの認識を完全に阻害する葉力。

九尾は窓からバルコニーへと出ると、

手摺をつたいながら目的地へと向かう。


ずっと前から、妙に風が騒ぐ場所がある…。

廊下からじゃダメだ、ドアをノックしただけで仮面をかぶるだろう。奴は警戒心の塊…尻尾は掴めない。

ならば、バルコニー側から侵入してみようと考えた。予期せぬ事態なら、仮面をかぶる隙もないだろうからな…。

九尾は慎重に、しかしハイスピードで移動を進めた。


読んでくださり、ありがとうございました。」

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