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兆しの刻-ざわめく世界『急襲』

※「芽吹きの刻」編(改訂版)を経て、ここからは新たな物語が紡がれております。

『急襲』


九尾が、宰相のアストロに報告を入れに行く事になり、マリンが用意した服に着替えて部屋を後にした。


何でマリンが、九尾の服を即座に準備できるのか…ちょっと謎におもったけど、ここは空気を読んで突っ込まずにスルーしておこう。

出る前には、また雫特製栄養ドリンク剤を手渡され、かなり嫌な顔をしていたが…マリンの無言の圧に負けて、一気に飲み干した。


その後は九尾抜きで、私の能力について話していた。

今のところは、「背中の羽根が巨大化」と「飛べる」以外は見当もつかない。

霊力は「神の身技」と評されているらしいけど、葉力のように与えられる力に大小があるものなのか。

私が意識していないだけで、他にも出来る事があるのか…。


雫、曰く。

「霊力を用いた奇跡は、文献にも余り残っていない…あったとしても、空想や妄想の類いで、信憑性は限りなく低い…」らしい。


そもそも、伝承に残る、

『危機的災害に見舞われた時、東西南北に座する四神達は滅亡に瀕したハオルチアを案じて、己の力の一部を宿した愛する株を使わした』

の一節にも疑問点が有ると、雫が指摘する。


私は、その伝承は初耳だったけど、

天使が雫の話しを補足しながら説明してくれたので、かなり助かった。


この伝承以降から、全ての民が徐々に「葉力」という力を得るようになった…と言うのだ。ならば、「霊力=葉力」となる筈ではなるのではないのか?

何故、「葉力」という言葉へと変換されたのか?


雫が導き出した仮説は…。

誰かの手によって「霊力」という言葉を故意に消しさり、代わり「葉力」という言葉を浸透させる心理操作を行なった…。というものだった。


「雫は、そんな事を考えていたのか…。」

魔剣が呆然としながら呟いた。

天使が、何か話そうと口を開いた時

何処からか、ビービービー…と音が、聞こえてきた。私は大きな耳を立て音の出所を探った。

「失礼します。」

マリンが雫に一礼すると、部屋を急ぎ出て行く。

「アレは城からの連絡装置の音。」

雫がピクピク音に反応する私の耳を、

興味深そうに見ながら説明してくれる。


「相手と話す事が出来るのですよ…此処に来れる方は限られてしまいますから…。」

天使が補足説明してくれるが、何故だろ…表情が曇っていく。

無線とか、電話みたいな物かな? 

「…何か、あったのかしら…。」

心配そうに呟く。

外からパタパタとマリンが走る音が聞こえてきた。

ドアノックが鳴り、返事を待たずに、マリンが雫の元まで駆けよる。

「ご報告致します。宰相様からのご連絡で、白帝城様、魔剣様に城内に大至急お戻りになって頂きたいと。天使様には、救護室にて待機して欲しいとのお話です。」


「!」

天使が救護室で待機という事は、怪我人が出る可能性があるという事に他ならない。城外で戦闘が始まったたのかも知れない。

皆に緊張が走った。

「魔剣、行くぞっ!」

白帝城が叫ぶ前に、魔剣は走り出している。

「雫ちゃんは、此処で待ってて…」

そう言い残すと、天使も少し遅れて2人の後を追って行ってしまった。


何だろう…とても嫌な感じがする。

全身の毛が逆立つ。縞模様の尻尾が

狸のように膨らんだ。

「輪さん、どうしたの?」

雫が声をかけて気遣ってくれた。

「分からない…嫌な感じがして、落ち着かない。私も皆を追いかけるよ。窓から飛んで行けるし…。」

「なら、ボクも行くよ。」

雫が立ち上がり、ハンガーラックに引っ掛けられている、実験に着用する白衣に袖を通した。

「…危ないんじゃないかな?」

雫には召集は来ていない。戦闘要員ではないからだ。

雫が外に出るのは、例え戦いが城外といえど危険なのは変わりないだろう。

「マリンが居るから、平気…」

側で控えていたマリンを振り返ると

小首を傾げて「ね?」と雫が尋ねる。

「問題ありません。主をお守りするのもメイドの業務の一環です。」

「え…そうだっけ?」

スンとしたままのマリンさんに、

思わず言ってしまうが、チラッと私を、見ただけでスルーされた。

私が知ってるメイドと、こちらの世界のメイドは微妙に違うのかな…。


「準備致しますので、1分程お時間を頂いても宜しいでしょうか。」

「ん…。」

マリンは雫の返事を聞くと、静々と部屋を出て行った。1分で準備が出来るのだろうか…。


「あ…」

窓から外の様子を見ていた雫が、小さく声を上げた。

窓から、城から東斜塔まで続く道が見える。その道を黒い人影が、まるで映画のゾンビのように、フラフラとこちらに向かって歩いてくる。

かなりの人数だ。

「…白帝城の結界が破られた?」

「え…?」

思わず雫の言葉に聞き返してしまった。白帝城の結界は破られる事は無いって話じゃなかった?

え、それじゃ、あの黒い影って…。

あの影、見覚えがある。

そうだ、魔剣が森の中で戦ってた相手じゃない?

「敵が、攻めてきた…?」  

私は、恐る恐る、言葉にする。

さっきの嫌な感じは、コレのせいだったのだろうか。結界が破られたから…

「ん…ちょっと、まずいね。今エレベータで降りると、鉢合わせになりそう。」

雫が難しい顔をして考え込んでいると、準備を終えたマリンが部屋の中に入って来た。

「お待たしました。…どうかなさいましたか?」

雫の様子がおかしいのに気がつくと

マリンが尋ねてきた。

雫は右手で口を覆うようにして、窓の外を凝視している。


「敵が、こっちに向かってる。」

雫が言うと、マリンが即座に窓の外を確認する。

「如何致しますか?」

「エレベータは使えないかも。鉢合わせする確率が高い…。けど、行かないと、天使が危ない…。」

そうだった。天使がいる救護室・メディカルルームはこの塔と隣接している。あの一群が押し寄せたらひとたまりもない。

「ど、どうする?」

天使が危ない!でも…雫と、猫と、メイドで一体何が出来る?魔剣を探す…いや、きっと何処かで戦っているだろう。

探している時間もない。

「マリン…行ける?」

雫が、マリンを上目遣いで見る。

「主がお希望とあらば。」

雫は頷く。

「ちょ、まって、行けるって、だって…」

マリンは、私の狼狽など全く気にしない様子で右手を胸に当て

「承知致しました。」

と深々と頭を下げた。

エレベータは使えないって言ってたのに…

どうやって下に降りるつもりなんだ?


読んでくださり、ありがとうございました。

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