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真眼の魔技師と太古の魔導書  作者: 直岩
第一章 真眼の覚醒
13/14

第13話 ご主人様

 「『魔導書』ですって!?」

 

 「ですから、何度もそう申し上げております。もしかしてエリアーナ様はバカなのですか?」

 

 机を大きく叩く音とお茶をずずっと飲む音が聞こえた。

 

 前者の音はエリアーナ。後者の余裕そうな音は学校の保管庫で出会った和服の少女である。

 

 あれから、場所は変わっている。とんでも無いことを言い放った少女は、俺達に同行すると言い出したので、仕方なく定食屋へ行くのは諦めて、自宅に帰ってきたところだ。

 

 「あーもしもし。ええ。出前を頼みたいんですが、ラーメンと」

 

 「バカ!?それは私に言ってるのかしら!?」

 

 「私を「読めない」人をバカ呼ばわりして何がいけないのですか?」

  

 「ちょっと落ち着けリーナ、うるさいぞ。こんなところで魔法を展開するなって。フィニアも煽らないの」

 

 飯は面倒なので出前を頼むことにしたのだが、うるさくて話しが出来ない。

 

 「申し訳ありません。ご主人様」

 

 「うーん…私としてはその『ご主人様』ってのが何なのか聞きたいなぁー?」 

 

 芽依がニコニコしたままフィニアに問い詰めている。あれ、結構怖いんだが、フィニアは動じる事なく淡々と答える。

 

 「芽依さま。それは先程説明した通りです」

 

 「私は両方とも気になるのだけど、フィニアちゃんだっけ?いくつか聞いても良いかしら」

 

 「はい。リカーナ様。何なりとご質問くださいませ」

 

 なぜかリカ姉が質問をすると芽依やエリアーナに答えるときよりも素直な気がする。

 

 「ねえ、リーナ。なんでリカさんとレンには素直なんだろね。私にもなんか素っ気ない気がするよ……」

 

 「私なんてバカとか言われたんだけど!?」

 

 

 「……なんでもいいんだけどさ。出前取るから。何が良いのか早く言ってくれると助かる」 

 

 

 

 ◇

 



  頼んだ出前が来るまでの間に先程の話の続きをする事に。まずは比較的、答えてくれやすいリカ姉から質問を投げ掛ける。

 

 「それで貴女は何なのかしら?」

 

 「何、と申されますと?」

 

 「あの『箱』から出てきた事とか、自分の事を『魔導書』と言ってる事よ」


 「言葉通りの意味ですが。私を『読んだ』御主人様であれば理解しているはずと思います」

 

 フィニアは俺に視線を移して言う。その言葉に三人が俺を一斉に見た。

 

 「み、皆して俺を見るな……まあ、本っていうのは判ってたけど、まさか人間になるとは思ってなかったよ」

 

 俺の発言にエリアーナが反応して来た。

 

 「判ってたと言ったの?それは一体、いつから?」

 

 「えー…それは、ほら。最初に見たときから、デケエ本だなぁと」


 「なんでそう言うことを、その時に言わないのよ!?」

 

 「い、いやでもホラ。俺だけにしかそう見えてない時とかって良くあるし、今回もその類いかなぁと」


 「他にも何かあるの!?怒らないから言ってみなさいよ」

 

 「それってたまに、なにも出てないところに魔法式が見えると言ってた事よね?」

 

 芽依が思い当たる事があるという感じで言う。

 

 「あ、うん。多分な。前もリーナに魔法式出してないのに魔法使うんじゃないって怒られたけど、実際は出してたしなぁ」

 

 エリアーナの方も思い当たる事があると言う感じで、考え込んでしまう。

 

 「でもさ。たしかに見た目は箱だったような。中も開いて空だったのは見たし」

 

 見た目は箱だったのは確かだ。俺が何となく本じゃないかと思ったのは、その中身が見えていたからでもある。

 

 「うーん…あの黒い箱は、何か別物の気がするんだよな。本に例えたら、後付けのハードカバーみたいな感じで。それと合ってないような感じと言うか」

 

 「ええ。私を包んでいた物は、本来、私の物では御座いません。あれは一人の魔導師が、私という魔導書を扱うためにつけた装置です」


 フィニアが俺の言葉を補足するように言う。にしても魔導師ってなんか、聞いたような。リカ姉も何か思い当たるのかちょっと考えて言う。

 

 「魔導師?今は授業くらいでしか聞かない言葉ね。でもさっきベルク・ローガスは確か――」

 

 「そういえば……イルファウスト・ラグネイトって言ってたよね」

 

 芽依がリカ姉の言葉を引き継ぐように言った。フィニアもその名前を聞いて、なにか思い出すように言う。

 

 「ああ、確かそんな名前でしたね。ですがあんな装置では、私の一部を扱う事は出来ても、本来の私を目覚めさせる事は出来ませんでした」

 

 「そんな貴女を、レンが目覚めさせた?」

 

 「はい。ご主人様は私を読み解き、本来の形へ修復させました」

 

 「読み解きってなんだ?なんかしたっけ俺?」

 

 「恐らく、あの時、部屋を修復させた魔法です。あの魔法は修復をする際に、周囲を解析し、壊れているものを判別して発動しています。今回は部屋の全てを指定されたようですが」

 

 「ああ、そういえば普段は直したいところだけ選別するようにしてたっけ。でも今回は天井まで滅茶苦茶だったし、めんどかったから全部直すために全体を視たんだ」

 

 「視るって……なんか平然と凄いことを言ってる気がするんだけど……まあ、いいわ。それが何でレンを主人にする事になるのよ」

 

 「皆様は、魔導書がどんなものかご存知でしょうか?私が作られてから、かなり年代が進んだように思えますが」

 

 「魔導書……たしか、最初に開いた者に所有する権利が与えられる。だったかしら?」


 「はい、その通りで御座います、リカーナ様。…普通、魔導書と呼ばれるものは、その名の通り本の形をしています。ですが資格が無い者には開くことは出来ません」

 

 「資格?」

 

 「魔導書を開くためには、幾つか条件があります」



 

 

 一つ。魔導書を使うに値する魔力を保有すること。

 

 二つ。精霊に認められること

 

 三つ。魔導書を読める事

 



 「とまあ、この辺でしょうか。条件は魔導書によって様々ですが、基本はこの三つです」


 「精霊ってフィニアもそうなのか?」

 

 「ええ。魔導書には精霊が宿り、使う者を補助する役割があります。そして、保有者の魔力によって魔導書の形は決まり、最低限の魔力であれば本の形に、多ければ精霊と意志疎通が出来るようになり、さらに多ければ私のように実体化します」

 

 実体化など、本当に稀ですが。とフィニアは言う。

 それを聞いたエリアーナは俺を指差して言う。


 「こいつにそんな魔力があるって言うの……? あんた普段どれだけ抑えてるのよ?」

 

 「いや、あんまり使うとリカ姉に怒られるし。大体、本気で魔力を出す場面が無いと言うか。それに本気出すと異様に疲れるしなぁ」


 

 「魔力か―…確かに半年前に起きた事件じゃ、レンくん凄かったもんねー」

 

 「あの時は私が止めなかったら、どうなってたか……でも魔力というなら納得できるわ。私の総魔力量よりもかなりあるからね、この子」

 

 

 芽依とリカ姉が、思い出すように言う。確かに半年前に俺の魔力が暴走したっけ……あんまり覚えてないけど、その件で留年したり、リカ姉と、一緒に住むことになったんだっけなぁ。

 

 「『翡翠の魔女』よりも多い!?そんな感じには全然見えないんだけど……?」

 

 「あ、あれは仕方ないだろ。まさかあんなので暴走するなんて思わないって。それに、今はもう、あれが危ないって言う自覚はあるから、使わないっての」

 

 「ぼ、暴走…?何があったのか、詳しく聞きたいけどそれはまた、今度にするわ。それよりもレン。この子、どうするのよ?」

 

 「俺にどうするって言われてもなぁ。見た感じ普通の女の子に見えるし、元の事を考えれば、放り出すっていう選択肢はありえないだろ」

 

 実際はどうか知らんけど、教科書に記載されているような魔導書ならば使う者がいなきゃいけない。フィニアがもし、ベルクやそれ以上に悪意を持った者に渡ったら大変な事になるかも知れない。

 

 「今、仮に私の所有権を破棄したとしても、もう所有者は現れないでしょう。ですから私を使って何かする、という輩は居ませんから大丈夫です」


 俺の思考を読んだかのようなタイミングで補足をする。

 

 「駄目よ。そんなことしたら私がレンを家から追い出すもの。女の子に優しく出来ない子に育てた覚えはありませんっ」


 

 

 リカ姉がフィニアをひしっと抱き締めるようにいる。それにフィニアはされるがままにしている。

   

 「いや、あの。誰もそんなこと言ってないんだけど」

 

 「いいのですか? 私は魔導書です。恐らくこの平和な世界にはきっと必要の無いものです。手放してしまった方が良いと思われますが」


  フィニアの表情は乏しいので、どういう気持ちで居るのかは定かじゃないが、寂しそうな声色に聞こえた。なので俺はフィニアの頭に手を乗せて言う。

 

 「まあ、あれだ。気にすんな。何かあったら守るくらいはするよ。……リカ姉が。それに追い出すと俺も追い出されそうだし」

 

 「そうだよフィニアちゃん! 安心してこの家に住めば良いんじゃないかな」

 

 「……はい。分かりました。皆様のご厚意に感謝いたします」

 

 やっぱりフィニアは表情こそ変わらない。だが何となくだが嬉しそうにしているのが分かる。

 

 「あの、それはいいんだけど……」

 

 エリアーナが何か言いたそうに手を挙げている。

 

 「ねえ、皆。ベルクの事、忘れてない?」

 

 「「「あ」」」

 

 「?」

 

 俺とリカ姉と芽依は思いだし、フィニアは、なんの話か分からないようで首を傾げていた。

 

 そういえば、その後に起こったことが衝撃的で、忘れていた。何となく気まずい雰囲気になりかけたその時、家のインターホンが鳴った。

 

 「お、出前が届いたかな。その話は食ってからしよう」

 

 

  

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