表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ホームレスヒーロー。』  作者: あああ
第一章 CHANGE OF HERO ~冬に咲く、ひまわり~
21/43

 エピローグ

 

 こうして、蜂谷萌香誘拐事件は幕を閉じた。

 連日、テレビや新聞を賑わいさせたのは、蝶野会組長の逮捕と蝶野会の事務所で起きた不思議な内輪もめの記事だった。

 蝶野会の事務所から覚せい剤や銃器の発見により蝶野会組長および構成員は逮捕され、蝶野会は壊滅。

 事務所には争った形跡はあったが、何と争ったのか全然掴めないため、内輪もめという形になった。

 残された疑問は、なぜ内輪もめをしていたのかということだった。

 ふと、思い出すと監視カメラがあった気がするが、多分どこかのカエルの顔をした白衣のじいさんが抹消でもしたのだろう。

 まったくもって不可解な事件だと、警察も手を焼いているようだ。

 この事件の真相を知っているのは一部のホームレスと小さな暴力団組織だけだ。

 ましてやその中心に、一人の女の子がいるなんてことは誰も想像すらしないだろう。


     * * *


 あれから、二週間が経った。

 今日は、十二月二十四日。

 街は一面クリスマスで賑わっている。

 あちこちに光る電飾があり、馬鹿でかいクリスマスツリーあり、コスプレしたサンタさんがいる。

 町中に流れる溢れんばかりのクリスマスソング。

 所々にたむろするカップル。

 今日も平和であることに安心した。

 あの事件の後から、ほんの少しだけだが依頼も来るようになった。

 ネコ探しとか、ネコ探しとか、ネコ探しとか……

 俺は探偵かっ!

 今日も探していた三毛猫をやっとの思いで捕獲して、飼い主に渡すとそのまま公園に帰ることにした。

 公園の入り口に来たところで俺の足は歩みをやめる。

 阿比留公園の一番の特徴である公園の真ん中のアヒルの遊具に、誰か座っていたのだ。

 近づいてみる。

 口が少し緩むのが分かった。

 これって何て言うんだっけ? デジャヴ?

 片翼の天使がいた。その瑠璃色の瞳は今日の曇り空を睨みつけている。

 その髪は、この公園には場違いなほど金色に輝いていた。

 萌香だ。手には紙袋を持っている。

 あの時と違うところと言えば、制服を着ているというところだろうか。

 そういえば、コイツ俺と同い年なんだっけ。

 俺も本当なら制服を着ているのだろうけど。


「お嬢さん。どうかしましたか?」


 声をかけると、不機嫌な視線は俺にぶつかる。

 ひょいっとアヒルから降りると手に持っている紙袋を俺に差し出した。


「これ」


 俺は紙袋を手に取り、中を覗いた。

 何か赤いものが入っている。


「なにこれ?」

「……マフラー」


 ぶすっとして言う萌香の顔は目をそむけたままだ。


「マフラー?」

「そう。お礼よ」

「作ってくれたのか?」

「ち、違うわよっ。お父さんに作ってたら、毛糸が余ったからついでに作ってあげたの。ついでだからねっ」


 そんなことを言う萌香の手に何枚か絆創膏が貼ってあることは、言わないでおく。


「巻いてみていいか?」

「勝手にすればいいじゃないっ」


 何で不機嫌なのか分からんが、お言葉に甘えて巻くことにした。

 所々、毛糸が絡まったりほつれたりしているが、巻いてみると案外暖かい。


「うん。暖かい」

「よ、よかったわね」

「どうだ? 覆面ライダーユウキみたいか?」

「はいはい、かっこいいかっこいい」

「それにしても、毛糸結構余ったんだな。長いぞ」


 萌香はうつむいた。耳が赤い。

 アレ? なんか変なこと言ったかな?

 俺はフォローするためにもう一言加える。


「こんなに長かったら、お前と二人で巻けるんじゃないか?」

「な、何言うとんねんっ!」


 蒸気が出るくらい顔を赤くさせた萌香に殴られた。

 なぜ? ほわっと?


「まあでも、ありがとうな」

「ふんっ。デウスに喜んでもらっても別に嬉しくなんてないわよ」


 ですよね~。

 ってあれ? 今何か違和感があったような。

 まあいいか。それよりも。


「……ちゃんと、組長と墓参り行ってきたのか?」

「……うんっ」


 萌香はそう嬉しそうに答える。

 この嬉しそうな顔が見れただけでも、左手に風穴を開けた甲斐があるというものだ。


「そうか」


 だから俺もこう答える。

 それ以外に言葉を欲する必要がないから。


『お~い。デウス~こっちへ来て鍋食べましょう?』


 ママがダンボールハウスから呼びかける。

 俺も手を振りかえした。


「萌香も来るか?」

「いいの?」

「もちろんだ」


 そう言うと萌香は少し笑ってくれた。

 俺が一歩踏み出そうとしたとき、不意に何か冷たいものが顔に当たる。

 空を見上げた。

 白く儚い空の欠片が舞い降りる。

 ホワイトクリスマスか……。

 一人じゃないから支えられる。

 一人じゃないから支えてもらえる。

 一人じゃないから生きていける。

 そんな当たり前なようで見失いがちなことが、一番大切なのだ。

 失ってしまったと思っていたものは、いつの間にか形を変えてここにある。

 変わっても、消えてしまうことはないのだ。

 

 だって、俺の居場所ホームは、ここにあるのだから。

 

 そっと、手を出す。

 白い欠片は手に乗ると、体温でジワリと溶けて消えてしまった。




こんな拙い文章で書いた小説を読んでいただきありがとうございました。

第二章も書こうと思っています。

これからもよろしくお願いします!

それと、感想やアドバイス、誤字・脱字などの指摘お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ