第四話 7人の救世主の話
初めてのゴブリン退治を無事に終え、素材の買取金を分け合った僕たち。
手に入れた僅かなコインで簡単な食事を済ませ、さっそく次の依頼を受けようと冒険者ギルドを出た時のことだった。
「――そなたたちが、あの『七人の救世主』であろうか」
ギルドのひさしの下、深くフードを被った一人の老婆が、静かに僕たちへと声をかけてきた。
「……え? 僕たちのこと……ですか?」
突然の問いかけに、僕たちは顔を見合わせる。
老婆は骨張った手で杖を突き、じっと僕たちの髪色を見つめていた。
「赤、緑、青、茶、朱、白……そして、すべてを内包する漆黒の髪。属性の色彩をその身に宿し、空の『異界の門』とともに舞い降りし七人の若者……間違いない。古の言い伝え通りじゃ」
「おばあさん、一体何の話をしてるんだよ? 救世主って……」
困惑する翔を制するように、老婆はゆっくりと首を振った。
「わしはこの街で語り部をしておる者じゃ。……聞きなされ。この世界アストラルには、千年以上前から語り継がれる『おとぎ話』があるのじゃよ」
老婆はかすれた声で、静かに童話を読むように語り始めた。
かつて世界が滅びの危機に瀕した際、天空に巨大な『門(魔法陣)』が開き、異世界より七人の英雄が現れたこと。
彼らは世界の命運を握る大樹『ユグドラシル』の試練を乗り越え、神々の力が宿る伝説の武具『神器』を授かったこと。
そして今、再び空に巨大な門が現れたということは、アストラルと異世界(地球)の双方に、かつてない滅亡の危機が迫っておるということ――。
「ふ、ふたつの世界が滅亡……!?」
ゆりが怯えたように声を漏らす。
涼は素顔の眉をひそめ、冷静に老婆へと問いかけた。
「……おばあさん。そのおとぎ話が本当だとして、なぜ僕たちがその『救世主』だと断言できる? ただの偶然かもしれないだろう」
「ふふ……偶然にしては、出来すぎておろう? 属性を映す髪色、界の門の出現、そして……」
老婆の視線が、じっと僕へと向けられた。
その眼光はまるで、僕の心の奥底まで見透かしているかのように鋭かった。
「……少年よ。そなたの奥底に眠る、すべての属性を統べる果てなき魔力……。その力は、決して人前で軽々しく見せてはならぬぞ」
「え……僕の、力……?」
(ちょっと待って……! 僕のこの全属性&測定不能のオーバーフロー魔力、おばあさんには全部見抜かれてる感じ!? 『普段は冴えないモブを装いつつ、いざとなったら隠された全属性の圧倒的チート能力で無双する隠れ最強主人公』……うわ、なにこれラノベで一番カッコいいやつじゃん最高かよ!!)
老婆はトントンと杖で地面を叩き、低い声で念を押し込めるように警告を発した。
「全属性と果て無き魔力……それは世界を救う鍵であると同時に、欲に狂った権力者や悪意ある者たちを引き寄せる忌むべき蜜でもある。正体を隠し、真の牙は試練の時まで隠しておきなされ。さもなくば、世界が滅ぶ前に身内に災いが降りかかるぞ」
冷や汗が背中を伝う。
ギルドでの計測の際、測定不能を起こしたあの力を、権力者などに知られればどうなるか……老婆の忠告は冗談ではない重みを持っていた。
(なるほどね……! 『その秘められた圧倒的な力ゆえに、世界から命を狙われる悲しき一匹狼』ってわけか。……くぅ〜っ!! 能ある鷹は爪を隠す、この前振り(フラグ)がたまらない……!)
「……肝に銘じます。教えてくれて、ありがとうございます」
「ふふ、賢い少年じゃ。……大樹ユグドラシルは、すでに試練の刻を告げておる。世界の滅亡を阻止したくば、力を蓄え、世界の中心に聳え立つ『ユグドラシルの大穴』を目指すがよい」
それだけを言い残すと、老婆は風に溶けるように、人混みの奥へとすっと姿を消してしまった。
「……なんだったんだ、今のおばあさん……」
「優、大丈夫……? 力を隠せって言われてたけど……」
翔が戸惑い気味に心配し、美緒も不安そうに僕の服の裾を強く握りしめる。
「うん、大丈夫。おばあさんの言う通り、僕の力は普段は隠して、ここぞという時まで温存しておこう。……みんなも、僕の全属性のことは他言無用で頼む」
「当然だ。僕たちの身を守るためでもあるからな」
涼が頷き、みんなも固い表情で同意してくれた。
ただの異世界サバイバルだと思っていた僕たちの旅は、老婆の警告とおとぎ話によって「正体を隠しながら、ふたつの世界を救うための戦い」へと、大きく動き出そうとしていたのだった。




