第二話 異世界サバイバル生活・開幕!
「……う、嘘でしょ……ここ、どこ……?」
眩い光が収まった瞬間、最初に聞こえたのは咲野ゆりの狼狽した声だった。
アスファルトの匂いも、車の排気音も消え去っていた。
僕たち7人が立っていたのは、見たこともない重厚な石畳の広場。周囲にはレンガ造りの建物が建ち並び、三角帽子を被った商人や、腰に剣を差した男たちが飛び交っている。
「おい優……京都タワーはどこ行ったんだよ!? 塾はどうなったんだ!?」
「静かにして翔、パニックになっちゃダメ……! って、待って……翔、その髪……!?」
常盤楓の驚愕した叫び声に、全員の視線が高橋翔へと集中した。
黒かったはずの彼の髪が、まるで炎のような鮮やかな赤色に染まっていたのだ。
「えっ……まじだ、なんだこれ!? 染めてねえぞ!? 髪だけじゃねえ、お前らの髪や瞳も……!」
翔の言葉に、僕たちはお互いの顔を見合わせ、言葉を失った。
ゆりは柔らかく輝く茶髪に、楓は風を思わせる緑髪、あかねは力強い朱色、涼は涼やかな青髪へ。そして元々黒髪だった古塚美緒は、人目を惹く美しい『真っ白な髪』へと変化していた。
「髪色が……? 一体僕たちの身体に何が起きてるんだ……」
「……うん。でも、髪が変わっても……優は黒のまま……」
白髪になった美緒が、不安を打ち消すように僕の制服の裾をぎゅっと掴み直し、口の中のキャンディを転がした。
「……みんな、一度空を見て」
美緒の短い呟きに促され、全員が一斉に上を見上げた。
「――っ! あれって……!」
思わず息を呑む。
見上げる広大な異世界の空にも、京都で見たものと全く同じ「巨大な魔法陣」が重々しい光を放ちながら浮かんでいたのだ。
「あるじゃないか、元の世界に繋がる穴が! 飛び込めば戻れるんじゃ――」
「待って翔、試してみよう」
僕たちは藁にもすがる思いで、魔法陣の真下と思われる高台へ走り、跳躍や手を伸ばすなど試してみた。だが、どれだけ空を仰いでも、その魔法陣は遥か頭上に鎮座するだけで、吸い込まれる気配すら一切ない。
『そこにあるのに、戻れない』
完全な一方通行。その現実が、僕たちに重くのしかかった。
「……みんな、一度落ち着こう」
僕は呼吸を整え、意を決して声を張った。ネット小説やラノベを読み漁ってきたオタクとしての知識が、脳内で高速回転を始める。
「これ、完全に『異世界転移』だ。空の魔法陣は一方通行の門で、ここから戻ることはできない。元の世界へ帰る方法を探すにしても、まずはこの世界で生き残る術を作らないとダメだ」
「生き残る……って、どうやって? お金も身分証明もないのよ!?」
「向かう場所はひとつしかないよ」
僕は広場の先に見える、剣と盾のマークが刻まれた重厚な看板を指差した。
「――『冒険者ギルド』だ。あそこなら情報も稼ぎも手に入る」
ガラガラ、と重い木製扉を開けると、酒と汗の匂い、そして荒くれ者たちの視線が一斉に僕たちへ注がれた。制服姿と、鮮やかな髪色をした高校生7人組だ。
周囲の圧迫感に身を縮めるみんなを背に、僕は受付の女性と、近くにいたベテラン冒険者に声をかけた。
「すみません、少しお聞きしたいのですが――僕たち、気がついたら急に髪色が変わってしまっていて……これって何なんでしょうか?」
僕の質問に、強面のベテラン冒険者はガハハと豪快に笑った。
「なんだい、そんなことも知らねえのか! この世界『アストラル』の濃密な魔力に適応すると、その人間が秘めている『魔力属性』に合わせて髪や瞳の色が変化するのさ! 赤は火、緑は風、青は氷や雷、茶は光……ってな具合にな!」
「髪色が……僕たちの属性……!?」
ベテラン冒険者の言葉に、翔たちが「俺が火属性……!?」「私が風……!」と己の手を見つめ、目を見張る。
「……ちなみにアンタ、その白い髪の嬢ちゃんは超希少な『闇属性』の素質があるぜ。千人に一人レベルの逸材だ」
「……ん。闇……」
美緒は自分の白髪をひと束つまみ、どこか他人事のようにパチパチと瞬きをした。
「……それとそこのぼっちゃん、お前さんは黒髪だから残念ながら魔法が使えないみたいだ」
(俺つよ的な展開を期待した俺がばかだったな)
聞き込みを進めるうちに、さらに多くの事実が明らかになる。
空の巨大魔法陣は数前から突如現れ、街でも不気味がられていること。
街の外には凶暴な「魔物」が蔓延っており、身分証を得て生き抜くには『冒険者登録』をして依頼をこなすのが手っ取り早いこと。
「……甘くないな。髪色の謎は解けたが、元の世界へ帰る鍵を探すには、ここで力をつけて戦うしかないってわけか」
涼が涼しげな素顔のまま冷静に呟き、翔がニッと強気に口角を上げた。
「へっ、望むところだぜ! 属性に合わせた髪色なんて、完全に主人公補正じゃねえか! ここで暴れまくってやる!」
「翔、調子に乗らないの。……でも、みんなで協力すれば絶対生きて帰れるよね」
楓が翔の背中をポンと叩き、ゆりも「私、回復やサポートなら頑張るから!」と力強く頷いた。あかねは拳を打ち鳴らし、美緒は僕の裾を掴んだまま静かに頷く。
髪色の変化に秘められた属性の力、そして空に見えるのに届かない帰還の門。
困惑と覚悟が交差する中、僕たち7人の「異世界サバイバル」が、ついに幕を開けたのだった。
ご覧いただきありいがとうございました。




