3:魔女の歴史
3と4話は三人称予定です。
思ったより長くなってしまい分割です……。
「あの者は魔女ではない?どういうことだ、
──カエサル?」
不穏な曇り空の下、鎧姿に槍を持った頑強な男たちの中で無精髭を生やした一人の中年兵士が
困惑した面持ちで問いかける。
「断定は出来ないが、俺が思うに3つある」
カエサルと呼ばれた精悍な顔つきをしたブロンドヘアの青年は、先ほど魔女を収監した牢を一瞥すると、男達の先頭を切るように歩みはじめる。
──彼が思う一つ目の理由が『異邦人説』だ。
「魔女が魔術を使うところを見た者は?」
カエサルのその問いに、後ろをついて歩く兵士達は一様に顔を見合わせる。
その内一人が首を横に振り、
「いや……そういう報告も上がってなかったな」
それを聞いたカエサルは振り返らずに言葉を繋げる。
「派手な服装に色の抜けた髪。自国の人間では無いことは確か。
ならただの旅行者と敵国のスパイ、見分けるところはどこだと思う?」
カエサルの二度目の問いに言葉を詰まらす兵士たち。
が、その返答を待たずして口を開く。
「楽しんでいるか、調べているかだ」
彼の言いたいことはこうだ。
通報を受けたカエサル一行が現場へ駆けつけたとき、容疑者ゲビルは呑気に噴水で遊んでいたのだ。
そこは観光スポットで有名な噴水広場であり、催し物も多く出店されていたのだ。
観光客が居れば、モラルのない奴もいる。
絶対悪である魔女を題材にした
なんでも屋を許可もなく出店していたなど不謹慎極まりないが、”自称魔女“で片付けられる理由にはなると話す。
そもそもこの国ローマに伝わる魔女とは、伝承の類いなのである。
その遥か昔、ローマ人が次々に失踪する事件が起きた。
その対象は決まって若い女性、そして失踪者が最後に発見された現場には、必ず青い薔薇が一輪咲いていたという。
失踪する女性、残された青い薔薇。
この二つの繋がりを結びつけるように
人々はやがて、女性は拐われて魔物に変えられる。
同胞を増やすための魔女の仕業だと
囁くようになった。
それは代々の言伝レベルで継承され、時に尾ヒレが付き、この国では魔女は絶対悪──それが揺るぎない真実となった。
たとえ黒幕が魔女ではなく別にいて、
歴史として真っさらな虚であったとしても、この国の骨子としてローマ人の団結力を増していることに違いない。
「──弱いな、それでは」
「まだ一つ目だ。残り二つを聞いて総合的に判断してくれ」
カエサルは続けて『リネンの拘束具』について触れる。
「リネンなんて……それこそ魔除け程度の効果だと思うが……」
リネン──植物由来の自然素材。
これも古くからの伝承による、魔女の唯一の弱点とされる物。まるで吸血鬼に十字架のよう。
ちなみにローマ人が身に付けている衣服の素材も大体がリネンである。
「ああ、実際のところ俺もよく分からなかった。
だから槍で突いた」
「!おま……大胆不敵」
仲間からの感嘆とした声に「ふふ」と笑みを浮かべるカエサルはどこか誇らしげだ。
それで、槍で突いたときの反応だが、
「魔女は反撃する素振りがなかった」
魔物は危機を察する嗅覚が人間よりも鋭い。
それは過去に対峙してきた経験からもそう言い切れる。
伝承される魔女は人に化けることは出来ても
薄皮一枚を被った魔物である。
外傷を与えれば特徴を現すのだ。
「が、それもなかった。
最後に処刑というワードで揺さぶりを掛けたが、これにも反応を示さなかった」
周りを着いて歩く兵士たちは、皆その言葉の意味をはかるかのように聞いていた。
兵士によっては、すでに非魔女派へと意見が傾いている者もいるようだ。
そしてもう一つ──
「あとは“気”だな」
「気?……っ!」
兵士たちは歩みを止めた。
「俺はやつにその気を感じられなかった」
なぜなら振り返ったカエサルとは対照的に、
「だってあんな苦労を知らなさそうな子、魔女な訳ないない」
──空を覆い尽くすほどの絶望的な竜がそこにいたのだから。




