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15:兵士カエサルVS巨鳥ガルーダ

予定していた分が長くなってしまったため分割です……申し訳ありません。明日17時には投稿致します。

──ガルーダの試練。

それを受けて立ったカエサル。


ルールは単純明快。

制限時間内での一騎打ち。



──この試練(たたかい)の真意は恐らく、

ガルーダの叔父さんを倒すことではない。


そもそもにカエサルは、人としては十分にタフな方であるが、ガルーダを倒す──その領域にはまだ届いていない。


叔父さんもその力量の差は一目見て分かっていることだろう。

だからこの試練、

カエサルが格上の敵と遭遇したときの生き延びる術を知りたいのだ。


「…………はぁ」


私は腕を組み、静かに息をつく。


私たちには時間が惜しい。

だからといって叔父さんが試練を止めることはない。頑固者だから。


だから事情を説明して条件──制限時間を設けてもらった。


時間は一分。その時間内に、

ガルーダの翼に生える羽──金羽の断空剣を

一本でも奪えれば勝ちという。




「カエサル」


試練の前、緊張した面持ちで銀長剣(グラディウス)を見つめるカエサルに対して、

私は声を掛ける。


「……棄権しますか?」

「え?」


顔を上げるカエサルに、私は続ける。


「ガルーダの叔父さんは私たちへの協力を約束しています。

この余興に無理に付き合うことはありません」


つまらない合理的判断だが、状況が状況だ。

時間の無駄は省略せねば。



「……いや、やらせてくれ」


その一言に、私は少しばかり目を細めた。


「──すまん」


カエサルは視線を落とす。


「急いでるのは分かってる。

……でも、これから先、もっと強い敵と戦うことにもなる。きっとそうなる。

そのときに、”逃げる“って選択肢がある、

自分でいたくないんだ」


そう言ったカエサル。

握る剣には力が込められていた。



「…………」


彼の言葉の意味は、理解出来る。


一般的に逃げるという行為は、弱さの現れ。

生き延びるためのもっとも賢い選択だが、


カエサルは勘違いしている。


逃げるのは弱さではない。

それを選ぶには、


──逃げてもいいんだと、自分を認められるだけの

経験が必要になってくるからだ。



「……ときには、逃げることも大切なんですよ。

カエサル……あなた自身を守るためにも」


私のその言葉は肯定でもあり、確認でもあった。



「──頑張ってください。その代わり、

ケガでもしたら置いていきますから」

「……分かってる」


カエサルは軽く笑って見せた。

その目はもう、揺れてはいなかった。


「心配すんなって!絶対試練に勝ってみせる!」


私はそれ以上は、何も言わなかった。

カエサルに視線を向けて、その背中を見送った。



──今のカエサルに足りないのは、経験則。

修羅に心を置いてくるまでは、まだ時間が掛かりそうだ。



♢♢♢♢♢



「制限時間は一分」


ガルーダの叔父さんの低く強い声は、谷に満ちた。


「その間に我が翼に宿る──金羽の断空剣を一本、

奪えればキサマを認めてやろう」


静まり返った空間。


ガルーダとカエサル、その周囲を鳥獣たちが取り囲む。この山村に棲む風の精たちも息を潜めて見守っている。


私はその一角で、ただ視線を前に向けて二人を見つめる。



カエサルは銀長剣(グラディウスを構え、相手の様子を伺う。


「悠長だな。時間は限られていると言うのに」

「……情報もなく突っ込めば無駄死にだ」


剣を構えたままカエサルは動かない。

翼を揺らすガルーダを測っているのだ。


「だからと言って様子見はいかん。

戦場では先手必勝。情報がなければ、なおさらのこと」


その言葉とともに、翼を大きく羽ばたかせた。


それだけで風が爆ぜるように鳴り、空気が裂ける。


「後手に回っていいのは強者のみ」


竜巻が起こる。

地面を削り、周囲の物を巻き込み、

全てを呑み込む暴風。



カエサルは即座にグラディウスを地面に突き刺し、風に抗う。


踏みとどまる。だが、

それは一瞬だった。


竜巻を切り裂く一筋の閃光。


ガルーダの翼から放たれた黄金の羽──もはや羽ではない断空剣が、

カエサルを射抜く軌道で放たれる。


「……ほう」


──ん。


私は目を細め、意識をカエサルの腰元に向けた。


そこに揺れる、小さな影が一つ。


「避けたか」

「なんの、これしき!」


(──いや危なかった!

正直この”さるぼぼ王“がいなければ串刺しになっていた……!)



スピリット──あれが左に動いたことで、

それに引っ張られたカエサルが、ガルーダの攻撃を避けることになった。


──そういえばカエサルには、危機を知らせる”お守り“が引っ付いていましたね。


あの必中と思われた断空剣を避けれたのは、

さるぼぼだけではなく、彼の判断力によるのも大きいと見る。




「だがやはり人間。動きを止めてしまえば抗う術など持ち合わせぬ、非力な存在よ」


「ッ……」

(その通りだ。さっきのはまぐれ。

あんな避け方では、すぐに限界が来る。

──なら!)


「開き直っての猛進か」


ガルーダがニヤリと笑う。


「臆せず攻めるのが、俺のやり方だ!」


カエサルは再び構えると、ガルーダへ踏み出す。



──これはただの猛進ではない、と思いますが……。

私はあの動きを見て、そう推測する。


(──この試練が始まる前、ゲビルは言った。

『時には逃げることも大切』だと……だが!)



「逃げるのは俺の性分じゃない!」


叫びとともに、ガルーダを狙う銀の一閃。

カエサルは一気に間合いを詰める。


──だが、


「そのグラディウス(なまくら)の向かう先は、私ではない」



ガルーダの巨大な翼が広がる。

瞬間、正面から叩きつけられるような、

強烈な暴風が吹く。


カエサルの体が弾き飛ばされる。


「ッ!」


空中で体勢を崩しながらも、

受け身を取るとすぐに体勢を立て直した。


(さすがに素直には。近づきさせてくれないか……!)



「休む暇はないぞ」


翼を振るうガルーダ。

放たれた無数の断空剣が、カエサルを執拗に追う。


キィン!ガキィン!


火花が散る。

カエサルは走りながら、迫ってくる金羽の断空剣をその強靭な膂力に頼り、

弾き、弾き──弾き続ける。


(ッ!これじゃジリ貧だ!)


圧倒的な物量による羽を、全て避けるのは無理と踏み、走り回りながらもその隙を探っていた。


(ッ!はっ……!なんて重い風だ!

さるぼぼ王の誘導がなければ、これが全て俺に……!)




「防戦一方か?

一兵士として情けないとは思わないのか」


──叔父さんは余裕の表情だ。

それと対照的にカエサルは……、


「ッ!く!!」

(弾き返す度に腕が軋む!!)


歯を食いしばりながら、剣を弾き返す。

……ただ受けるだけでは、削り殺される。


(分かってる……だが俺だって、このままやられっぱなしじゃない!!)


──んっ。


カエサルが動いた。

視界の端、地面に突き刺さる黄金の剣──断空剣を掴み上げ、


(風だ。ゲビルが言っていた風を読み──流れを止める!!)



その断空剣を握りなおし、ガルーダに向かい投げ放った。


「フン」


軽い一声で風を吹かす。

次の瞬間、放たれた断空剣は、ガルーダの前でピタリと停止。


「風は常に、我に従う」


そして金色に光る刃を再びカエサルへと向けた。


「そこだ!」


カエサルの声が、風を切り裂いた。


ガルーダが剣を止めたその瞬間(とき)、風がわずかに途切れた。

その一瞬、ガルーダに向かっていく剣は、”断空剣だけではなかった“。



勢いをつけ地を蹴り出したカエサルは、

身体そのものを剣のように突撃させ、ガルーダへの懐へと飛び込む、


決死の策。


だが、



「ッ?!なんだ」


カエサルの動きが止まる。


視界が赤く染っていく。


血のような赤であり、それは赤い霧。


この風域全体が、血霧に包まれていた。


「この霧は、キサマの恐怖の尺度──心の可視化だ」


血霧──心が弱い方へと傾くと風がガルーダに従い、その逆、ガルーダへ臆することがなければ、風は対戦者──カエサルへと従う。



──神風の呪い。


あの血霧は、勇気ある者に味方する。

かつて私も受けた試練──


勇気を問う、風の選別。





博識!ゲビルちゃんの一口メモ。


【ガルーダ】

遥か太古、飢えと干ばつが支配していた時代に、巨人族である神の血を飲み巨鳥となった鳥獣族のリーダーです。

神喰いの代償を抱えていた時代は、魔女の国とは何度か衝突を繰り返していたそうです。


しかし私が調査隊としてこのガルーダ幽谷に派遣された際、唯一試練に合格し、神喰いの代償──自壊していく呪いを解いてあげたところ、私に対して父親ヅラしてくるようになりました。


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