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【初心者安心パック】は歴代転生者アンケートから生まれました~いつの間にか聖女扱いされて困ってます~  作者: 紫陽花


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高級素材は速すぎる

 私たちの視界に飛び込んできたのは――


「え? うさぎ?」

「ホーンラビットや! しかも大きいで!」


 飛び出してきたのは、中型犬ほどもあるホーンラビットだった。


(あれがホーンラビットなんだ……)


 初めて見る魔物に目を奪われる。

 額に生えた一本の角は、まるで血のように赤く透き通り、どこか不気味な美しさを放っていた。


「変異種だ! あの角はガーネットだ!」

「あれが……」

「初めて見ました!」


(え? そんなにすごいの!?)


 父が驚愕に目を見開き、ガウルやクライスも信じられないといった声を漏らす。

 変異種。

 それは通常の魔物とは異なる特質を持った、非常に珍しい個体だ。


 目の前のホーンラビットは私たちに襲いかかってくる気配を見せず、むしろ慌てて方向転換しようとしていた。


「逃げるぞ! 進路をふさげ!」


 父の鋭い指示が飛び、三人は一斉にホーンラビットを囲み込もうと動いた。

 その瞬間、肩に乗っていたルクの重みが、ふっと消えた。

 すると上の方からルクの声が聞こえる。


「右や! ガウル回れ!」

「え? え? えぇぇぇぇぇ!」


 声のしたほうを見上げると、なぜかルクが空にふわふわと浮いていた。


「ル、ルク!? 飛んでる!?」

「セリア! 気を抜くんやないで! あいつは逃げ足がはやいんや!」


(えっ、リスって浮く生き物だっけ!? ……じゃなくて、今はホーンラビット!)


「ウィンドカッター! ちっ、ほんまにあいつはすばしっこいな」


 ルクは見えない風の刃を放ったが、ホーンラビットは空中で器用に身をよじり、ルクの魔法をするりと抜けて避けてしまう。

 赤い角を持つ変異種は信じられないほどすばしっこい。

 三人の間を縫うように、ジグザグに跳ね回って逃げ道を探している。


「セリア、右や!」

「えー! どこ?」


 あまりの速さに、四歳の私の動体視力ではその動きをまったく追いきれない。

 ただ赤い残像が草むらをジグザグに駆け抜けていくのしか見えなかった。


「ちゃう! もっと右や! あいつは美味いんや! 逃がすな!」

「えっ、美味しい!?」


 危機感から一転、ルクが必死になっているのがただの食い意地だということに呆れつつも、私は慌てて魔力を練り上げた。


「あー! もう! アイススピア!」


 氷槍を放つが、狙った場所に届いたときには、ホーンラビットはもう別の場所へ移動していた。


「どこ!? さっきまであそこにいたのに!」


 私が目で追おうとするたび、赤い影は視界の端へ消えてしまう。


「もう! 速すぎるよ!」

「落ち着け! 進行方向に向かって打つんや!」


 ルクの声が飛ぶ。

 私はルクの声だけを頼りに、少し先へ狙いを定めた。


「アイススピア!」


 手のひらから鋭い氷槍が一直線に放たれる。

 放たれた氷槍は、身をひねって避けようとしたホーンラビットの脇腹をわずかに掠めた。

 それでも足を止めるほどの傷にはならず、ホーンラビットはさらに加速して逃げようとする。


「速すぎるよーー!」


 父が右へ回り込み、ガウルは無言のまま左へ展開する。

 二人は一言も言葉を交わさない。

 それでも互いの動きを理解しているかのように、ホーンラビットの逃げ道を少しずつ狭めていく。

 クライスだけは距離を詰めず、ホーンラビットの動きを静かに見極めていた。


 ホーンラビットが地面を強く蹴る。

 その瞬間、姿がぶれたように見えた。


 けれど、逃げようとした先には父がいる。

 ホーンラビットは即座に向きを変えたが、反対側にはガウルが大斧を構えて立ちはだかっていた。


「ギィッ!」


 左右の逃げ道をふさがれたホーンラビットは、焦ったように進行方向を鋭く変える。


 だが、その先には――すでにクライスが剣を構え、静かに待ち構えていた。


「ハッ!」


 クライスの鋭い踏み込みと共に放たれた一閃が、ホーンラビットの首元を正確に捉え、一撃で鮮やかに仕留めた。


「おおーー!」


 見事な連携プレイに、私は思わず歓声を上げる。

 ドサリ、と地面に倒れ伏す変異種。


 父に促され木陰へ身を隠していた母も、戦いが終わると安心したように姿を現した。


 そして、倒れたホーンラビットの死体に不思議な変化が起きた。

 額の赤い角が淡く輝き始める。

 半透明だった角はみるみる透明度を増し、内部に閉じ込められていた光が解き放たれるように、硬く美しい結晶へと変わっていった。

 深紅に煌めくその角は、先ほどまでよりもさらに宝石らしい輝きを放っている。


 倒れたホーンラビットのそばに集まり、父、ガウル、クライスの三人が感心したように魔物を覗き込んでいる。


「初めて見たが、本当に大きいな」


 父はホーンラビットの頭を持ち上げ、赤い角を光にかざす。


「見ろ、この透明度だ」


「本当に綺麗ですね」


 クライスも思わず感嘆の声を漏らす。


 ガウルも感心したように頷いた。


「これだけでも結構な稼ぎになりますね。本当に運が良かったです」


 父は嬉しそうな表情を浮かべた。


「ホーンラビットの変異種は、目撃情報自体が少ないしな」


 クライスが剣を鞘に収めながら、同意した。


「噂には聞いていましたが、本当にすばしっこいですね」


 大斧を下ろしたガウルが、額の汗を拭いながら大きく息をついた。

 あの大人の三人がかりでようやく仕留められたのだから、その素早さは相当なものだ。

 ルクも空中からゆっくりと降りてきて、私の隣へ着地した。


「あー、肉は売らんといてや。めっちゃ美味いんや!」

「ほう、そんなに美味いのか」


 父は少し驚いたようにルクを見た。

 ルクの頭の中は、すっかり食欲で満たされているのか、ホーンラビットを見つめながら、今にもよだれを垂らしそうな顔をしている。

 私は苦笑しつつ、倒れたホーンラビットに向かって鑑定をする。


(鑑定!)


【鑑定結果】

 ホーンラビット変異種(C)

 角がガーネット化している。

 極めて俊敏で逃走能力が高く、発見しても討伐するのは難しい。

 毛皮は最高級の素材として高い価値を持ち、肉は非常に美味である。


『速すぎて、全然見えなかったよぉ』

『ワイもセリアも、レベル1やからな……今のワイらじゃ、あの動きは追いきれへん』


(Cランクかぁ……パパたちは見事な連携で倒したけど、普通の冒険者だったら逃げられて終わりなんじゃないかな)


 私は鑑定結果と、キラキラと輝く赤い角を交互に見て声を上げた。


「わぁー! たしかに角が綺麗!」


 その美しい輝きに見惚れていた、まさにその瞬間だった。


 ――ビクッ!


 私はその場でビクリと体を震わせた。


(ああっ! 安心したら急に!)


「ちょっと行ってくる!」


 私は猛ダッシュで先ほどの大きな木の方へと駆け出した。


「セリアどこに行くんだ! 危ないぞ!」


 突然走り出した私を見て、父が慌てて声を張り上げる。

 しかし、立ち止まって説明している余裕すらない。


「おトイレーー! レスト・トワレ!」


 私は走りながら必死に詠唱し、木の後ろにズズズッと現れた個室トイレのドアを勢いよく開け、そのまま駆け込んだ。


 バタンッ!


 ドアが閉まる音が響き渡る。

 取り残された父たちが呆気に取られて立ち尽くす中、ルクがやれやれといった様子でため息をついた。


「ほんまに人間は大変やな」

いつもは短めのあとがきですが、今回は少しだけお礼を伝えさせてください。


少し遅くなってしまいましたが、6月・7月は皆様のおかげで、ランキングで大変ありがたい順位をいただくことができました。


正直なところ、当時はまったく実感が湧かず、「何とお礼をお伝えすればいいのだろう」と考えているうちに、気づけば8月になってしまいました。


皆様からいただくブックマークや評価、リアクション、感想、そして、そっと読み進めてくださっているPVの一つひとつが、この作品を書き続ける大きな力になっています。


本当にありがとうございます。


また、いつも誤字脱字報告を送ってくださる皆様にも、心より感謝申し上げます。おかげさまで、とても助かっています。


作者自身、あまりの出来事に実感が湧かない日々が続いていましたが、ようやく少しずつ現実なんだと思えるようになってきました。


これからも、楽しんでいただける作品をお届けできるよう頑張りますので、引き続き応援していただけますと嬉しいです。


暑い日が続いておりますので、皆様どうぞ体調にはお気をつけください。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
某ドラ○エのメタルなあいつのような扱いですね。
 襲ってこなかったし、変異種だから、テイムするのかと思いました。残念。
こんばんは。 例え角兎でも、やはり変異種はなかなかめんどくさい存在なんですな…そのぶん実入りもあるみたいですが。 紫陽花様も熱中症等にはお気をつけ下さい。
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