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【初心者安心パック】は歴代転生者アンケートから生まれました~いつの間にか聖女扱いされて困ってます~  作者: 紫陽花


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両親へ初めての手料理

 母の手を取り、ゆっくりと歩きながら父たちの元へ戻る。

 父は私たちの姿を見つけると、すぐに歩み寄ってきた。


「二人とも大丈夫だったか?」


「うん。大丈夫だよ」


 私が答える横で、母は少し気まずそうに父から目を逸らした。

 父は何も尋ねなかった。

 ただ、母の顔色を確認すると、その背中にそっと手を添えた。


「無理はするな」


「……ええ」


 短いやり取りだったけれど、父も母が水分を控えていたことには気付いていたのかもしれない。

 それでも、どうしようもなかったのだろう。

 ガウルとクライスも何も聞かず、少し離れた場所でこちらを見守っていた。

 私は場の空気を変えるように、できるだけ明るい声を出した。


「ちょっとお腹がすいちゃった。ここで少し食べてもいい?」


 そして、みんなの顔を順番に見回す。


「お味噌汁……うーんと、スープなんだけど、みんなも飲む?」


「オミソシル?」


 父が聞き慣れない言葉を繰り返した。


「セリアが作った料理なのか?」


「うん。お野菜とお肉が入った、温かいスープなの」


 私が説明すると、父は興味深そうに頷いた。


「それはぜひ食べてみたいな」


「私も食べたいです!」


 ガウルもすぐに頷く。


「セリア様が作った料理ですか。それは気になりますね」


 母も穏やかな笑みを浮かべた。


「私もセリアの料理が楽しみだわ」


 母まで自然な調子で話に加わる。

 だけど、きっとみんな、母のために話を合わせてくれているのだろう。

 そこには、何も言わずに気遣うような優しい空気が流れていた。

 その優しさが心に沁みて、胸の奥が温かくなった。


「じゃあ、すぐに用意するね!」


 さっそく準備をしようとして、私はふと手を止めた。


 そういえば、クライスには私がアイテムボックスを使えることを、まだ話していない。

 鍋も器もすべてアイテムボックスの中だ。

 私は父の側まで寄ると、服の裾を引いて、小声で耳打ちした。


「アイテムボックスのこと、クライスさんには言ってないんだけど……」


 父はクライスへ一度視線を向け、「うーん」と少し考える素振りを見せた。

 それから私の頭に手を置き、優しく撫でる。


「セリアさえよければ、クライスには話しても問題ない」


「本当に?」


「ああ。クライスはセリアの秘密を守るために、わざわざ帝国に行く男だ。実はクライスは、私の実家に行くことになったんだ。それも、いつかセリアの役に立てるかもしれないという、それだけの理由だ」


 どうやら、父はクライスとも色々なことを深く話し合ったらしい。

 父がここまで強く言い切るのなら、隠す必要はないだろう。


「うん、クライスさんからも、パパの実家に行くことは聞いたよ。私はパパを信じるよ」


 私はこくりと頷くと、みんなの前まで戻った。


「それじゃあ、出すね」


「出す?」


 クライスが不思議そうに聞き返す。

 私はクライスの視線を気にすることなく、アイテムボックスから大きな鍋を取り出した。


 続いて、人数分の器とスプーンも取り出していく。

 どんどん目の前に現れる鍋や食器に、クライスは一瞬だけ目を見開いた。

 けれど、さすがは元騎士団副団長と言うべきか、大声を上げたり、慌てて問い詰めたりはしなかった。

 驚きを飲み込むように一度だけ瞬きをすると、すぐにいつもの落ち着いた表情へ戻る。


「……なるほど」


 クライスが口にしたのは、それだけだった。

 私が詳しく説明しようか迷っていると、クライスは穏やかに微笑んだ。


「今は何も聞きません。セリア様が話してもよいと思った時に、教えていただければ十分です」


「クライスさん……」


「このことは誰にも話さないと約束します」


「ありがとう」


 私はほっと息を吐いた。

 やっぱり、父が信用するだけの人だ。

 鍋の蓋を開けると、味噌と野菜の優しい香りがふわりと辺りへ広がった。


「いい匂いですね」


 ガウルが待ちきれないというように鍋を覗き込む。


「これが、オミソシルか」


「うん。具はお肉と、じゃがいもとたまねぎが入ってるよ」


 作ってすぐにアイテムボックスへ収納していたため、完成した時の状態がそのまま保たれていた。

 ただし、今の母には熱すぎない方がいい。


 私は水魔法で少しだけ温度を調整し、温かいけれどすぐ口にできる程度に冷ましてから、それぞれの器へよそっていった。


「はい、どうぞ!」


 最初に母へ渡す。


「ありがとう、セリア」


 母は両手で器を受け取ると、立ち上る湯気と香りを確かめるように、そっと顔を近づけた。


「不思議な香りね。でも、とてもおいしそう」


「少しずつ飲んでね」


「ええ」


 父たちにも味噌汁を配る。

 全員に行き渡ると、私は手を合わせた。


「いただきます!」


「「「「いただきます」」」」


 みんなも私に続いて、口を揃える。


 母はスプーンで汁をすくい、慎重に口へ運んだ。

 私は緊張しながら、その反応を見守る。

 母は一口飲むと、驚いたように目を瞬かせた。


「……おいしい」


「本当?」


「ええ。初めて食べる味なのに、なんだかほっとするわ」


 母はもう一口、今度は先ほどより少し多めに口へ運ぶ。


「優しい味ね。体に染み込んでいくみたい」


 その言葉を聞いて、私は胸を撫で下ろした。


「よかったぁ」


 父も味噌汁を口にすると、味を確かめるようにゆっくり飲んでいる。


「これは、今まで食べたことのない味だな」


「お味噌汁は苦手?」


「いや。とてもおいしいよ。セリアは料理も上手なんだな」


(前世で慣れ親しんだ料理を、今の家族が笑顔で食べてくれる。それだけで、この世界に来てよかったと思えた)


 私が父に笑顔を向けると、父も笑顔を返してくれる。


(幸せだなぁ……)


 その様子を見ていたクライスも、味噌汁を一口飲み、静かに頷いた。


「初めて口にする味ですが、不思議と落ち着きますね」


 クライスの言葉に、私も思わず笑みがこぼれた。


「セリア! おかわりや!」


 ルクは頬を膨らませたまま、おかわりを要求してきた。


「セリアさん、私もおかわりをいただけますか?」


 ほんの少し恥ずかしそうに、ガウルも器を差し出してきた。


「ルクとガウルお兄ちゃん、お昼ご飯もあるんだよ。おかわりは一回だけね」


「「はい……」」


 母は最初こそゆっくりと口にしていたけれど、少しずつ食欲が戻ってきたらしい。

 柔らかく煮込んだ野菜も食べ、気付けば器の中身を半分以上食べ終えていた。


 頬にも少しずつ色が戻っている。


「ママ、おかわりする?」


「もう少しだけ、いただこうかしら」


「うん!」


 私は嬉しくなって、母の器へ最初より少なめに味噌汁をよそった。


「無理して全部食べなくていいからね」


「ありがとう」


 母は私の頭を優しく撫でた。


「セリアの作ってくれた料理を、初めて食べられたのも嬉しいわ」


「セリアも、ママとパパに食べてもらえて嬉しい」


「セリアは、本当に料理が好きなのね。これも、あのスキルのおかげなのかしら?」


 母は、私にだけ聞こえるぐらいの小さな声でぼそりと呟いた。


(調味料セットが完全に料理スキルと思われてるけど、間違いでもないかな……)


 料理ができる理由を聞かれても、まだ答えられない。


(まだ前世のことを話す勇気がなくて、ごめんねママ)


 味噌汁を飲み終える頃には、母の顔色は休憩を始めた時よりも随分よくなっていた。

 完全に元気になったわけではないけれど、早めに対処できてよかった。


 もちろん、これからはこまめに休憩を取り、水分もしっかり取ってもらうつもりだ。

 必要なら、何度だってトイレを作ればいい。


(魔法で個室トイレを作れるようになっていて、本当によかった)


 まさか自分のために考えた魔法が、母を助けることになるとは思わなかった。

 味噌汁を飲みながら父と話す母の穏やかな横顔を見つめ、私はもう一度、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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