打ち明けた秘密
(それにしても……やっぱり布の面積、石像の方が少ない気がする)
そんなことを思いながら、私はゆっくりと立ち上がった。
その時、脳内にルクの声が響く。
『お? 会ってきたんか?』
『ルクは、何が起こるか分かってたの?』
念話で問い返すと、ルクは肩の上で小さく頷いた。
『まぁ、なんとなくそうやろなと思っとったんや。やっぱり当たっとったな』
私とルクが念話で話していると、後ろから母が不思議そうに尋ねてきた。
「セリア、もういいの?」
振り返ると、大人たちが驚いた表情で私を見つめていた。
わけが分からず、私は首をかしげる。
続いて、父も戸惑ったように口を開いた。
「ずいぶん早かったが……もう終わったのか?」
(あっ……!)
そこでようやく思い出した。
(そういえば神様が、『向こうでは一瞬の出来事』って言ってたぁぁぁ!)
あの場所には長い時間いたように感じていたけれど、こちらとは時間の流れが違うということをすっかり忘れていた。
現実では、私が膝をついて祈りを捧げてすぐに立ち上がったようにしか見えていないらしい。
周囲が驚くのも、当然だ。
「えっと……うん! もう大丈夫!」
私は内心の焦りを隠し、にっこりと笑って頷いた。
それを見た父と母は、不思議そうな顔をしながらも頷いた。
今度は二人が創造神様の像の前へ進み、静かに膝をついて祈り始める。
その背中を見つめながら、私はぼんやりと考えた。
(久しぶりに教会へ来たパパとママは、神様に何を話しているんだろう……)
二人の祈る姿は、後ろから見ていても、とても真剣だった。
過去の出来事が原因で教会を避け続けてきたけれど、本当はずっと祈りたかったのかもしれない。
来たくても、来られなかっただけなのだろう。
私は邪魔をしないよう、静かにその姿を見守り続けた。
やがて両親の祈りが終わると、クライスが外で待機していたアデルを呼んできてくれた。
礼拝堂へ戻ってきたアデルは、まっすぐ母の前まで歩み寄り、深々と頭を下げた。
「以前、聖職者のせいで怖い思いをされたと伺いました。今日ここへ来るだけでも、とても勇気が必要だったことでしょう。本当に申し訳ございません」
「顔を上げてください。あなたが謝ることではありません」
母は慌てて首を横に振った。
アデルは穏やかに微笑み、言葉を続ける。
「ディートムの教会には私の妹がおります。ほかの聖職者のこともよく知っていますが、あの教会には信頼できる者しかおりません。またお祈りをしたくなった時には、どうぞ安心してお越しください」
その優しい言葉に、母の表情がふっと和らいだ。
長年、胸の奥に残っていた教会への恐怖が、少しだけ溶けていくようだった。
「ありがとうございます」
深く頭を下げる母の背中は、先ほどまでよりも穏やかに見えた。
こうして、人目を避けて行われた私たち家族の教会訪問は、無事に終わりを迎えた。
辺境伯邸へ戻ると、私は自分の部屋でナビに声をかけた。
(ナビ、加護って鑑定の儀でばれる?)
≪はい。しかし、セリア様は【カモフラージュ】を習得しておりますので、問題ありません≫
(あっ! そうだった!)
便利なスキルの存在をすっかり忘れていた。
私は思わず心の中で歓声を上げた。
しかし、ナビは続けた。
≪ですが、今後を考えると【鑑定】のさらなるレベルアップが必要です。本来、人に鑑定を使用することはマナー違反とされています。しかし、システムとして使用が制限されているわけではありません≫
(え? ということは……)
≪中には、他人のステータスを探るため、平然と鑑定を使用する者も存在します。そのような相手にも見破られないよう、備える必要があります≫
(そういえばルクって、生まれてすぐに私に鑑定を使ってたよね。そうだよね、常識が通用しない場合もある。まぁ、ルクは人ではないけど……)
私はルクをじっと見つめた。
「なんや? なんか失礼なこと考えとるか?」
「ルクって、聖獣なんだなって思っただけだよ」
「まぁ、唯一無二の存在やからな。可愛くて見つめたくなる気持ちも分からんでもないで」
ルクの調子のよい言葉を聞いて、少しだけ緊張がほぐれた。
「それにしても、ずっと引っかかっとったんやけどな。セリアには、なんか先生みたいな存在でもおるんかいな?」
「先生? いないけど?」
「鑑定スキルのレベル上げも、ちゃんと目的があって上げとったやろ? 前世の知識か?」
ルクの鋭い指摘に、私は戸惑った。
(ナビの存在はルクに言ってないもんね。契約しちゃったし、長く一緒にいることになるだろうし……ナビは、どう思う?)
≪セリア様が必要だと判断されたのでしたら、お伝えしても問題ありません。セリア様からの許可が得られれば、ナビの声はルク様にも届くようになります≫
(え? 三人で念話……ちょっとうるさくなりそうだな……)
頭の中が賑やかになると思うと、ルクに伝えるべきか少し悩んだが、仲間外れにしているみたいで申し訳ない気がして、伝えることにした。
「うーんと、神様からもらった機能の一つで、ナビゲーターというのがあって、いろいろアドバイスをくれるんだ」
「なんやそれ、聞いたことないな。そいつはどこにおるんや?」
(ナビ、ルクにも聞こえるように声をかけてみて)
≪初めまして、ルク様。ナビゲーター機能のナビと申します≫
「わっ! なんや!? 念話と似とるけど、ちょっとちゃうな」
「ナビにいろいろ聞いて、鑑定のレベルを上げてたんだ」
「なるほどな。四歳にしてはレベルが高いと思うたわ。ナビ、よろしくな」
≪ルク様、よろしくお願いいたします≫
ルクにも紹介できたし、あとは……
(とりあえず、パパとママには伝えておかなきゃ!)
私は両親を自分の部屋へ呼んだ。
これから話すことは、誰にも聞かれるわけにはいかない。
二人が部屋に入ったのを見届け、私はしっかりと扉を閉めた。
そして、ソファーに腰を下ろした両親とテーブルを挟むようにして、向かいのソファーに座る。
ルクも私の肩から飛び降り、テーブルの上でくつろぎ始めた。
「実はね、パパ、ママ」
小さく深呼吸をしてから、私は二人を見つめる。
「さっき教会で祈った時……創造神様から加護をもらったの」
「「……え?」」
二人は目を見開いたまま、固まってしまった。
「創造神様の加護といえば、聖女や勇者が持っていたと言われるものだろう……? ミカエル様や精霊からではなく、創造神様から……?」
父は困惑しながらも、事態を把握しようと努めているようだ。
よりにもよって、創造神様から直接加護を授かったと言われれば、驚かないほうがおかしい。
私は、教会で創造神様と会ったことや、多くのスキルを持つ私の体を守るために加護が必要だと言われたことを、順を追って説明した。
「そうだったのね……あなたの体を守るためだったのね」
母は安心したように頷いたが、次の瞬間、その顔から血の気が引いた。
「まさか……私たちが教会へ連れて行かなかったせいで、セリアは今まで危険な状態だったんじゃ……」
「ママ、違うよ!」
私は母の両手をぎゅっと握る。
「ほら、私はずっと元気だったでしょ?」
にっこりと笑うと、母は涙ぐみながら胸を撫で下ろした。
「よかった……本当によかった……」
その横で腕を組んでいた父が、険しい顔で口を開く。
「しかし……創造神様の加護を授かったことが知られたら、大変な騒ぎになるな」
私は小さく頷き、心配そうにこちらを見ている両親へ笑顔を向ける。
「大丈夫! 鑑定スキルで【カモフラージュ】を覚えたって言ったでしょ? カモフラージュを使えば、鑑定の儀でばれることはないよ!」
父と母は顔を見合わせると、そろって私へ視線を戻した。
そして――
「「はぁ……」」
二人はまったく同じタイミングで、大きく深いため息をついた。
お引っ越しのため、少し更新の間が空いてしまいました。
お待ちいただいた皆さま、本当にありがとうございます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




