胸元の特等席
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辺境伯邸に戻り、用意されている客室へと帰ってきた。
(ふぅ、たくさん買い物もできて、楽しかったなぁ)
大きなソファーに深々と腰を下ろし、ホッと息をつく。
すると、休む間もなくコンコンと控えめなノックの音が部屋に響いた。
扉が開くと、二人のメイドが、恭しいお辞儀とともに部屋に入ってくる。
もうすぐ夕食の時間になるため、身支度の手伝いに来てくれたのだという。
(今日は二人かぁ。昨日はさすがに身支度にしてはメイドの人数多かったもんね)
よく見ると、そのうちの一人は、先ほど『ランド・エッジ』の拠点まで夕食の招待状を届けに来てくれたメイドだった。
「セリア様、今日のお出かけは楽しめましたか?」
手紙を届けてくれたメイドが、にこやかに尋ねてくる。
「うん! 街でブティックに行って、可愛いワンピースを買ってもらったの」
私は今日買ってもらったばかりの洋服を見せたくて、クローゼットを開ける。
そこには、二着のワンピースがかけられていた。
ローラが買ってくれた胸元やスカートの裾にたっぷりとレースがあしらわれた淡い桃色のワンピースと、リズが選んでくれたパステルイエローの生地に小花の刺繍が施された、シンプルだが上品なワンピースだ。
「まぁ、とても可愛いですね!」
「どちらも素敵ですね。夕食には、どちらをお召しになりますか?」
「こっちのパステルイエローのワンピースにする!」
新しいワンピースを着られることにワクワクしている私の様子を見て、メイドの二人が微笑む。
「あら?」
すると、一人のメイドが、ソファーの上で大人しく待っているルクへと視線を移した。
「あのリス様の首元のリボンも、今日購入したものですか?」
「うん」
私が頷くと、メイドはふわりと微笑んだ。
「とても可愛いですね」
メイドにリボンを褒められ、ルクは一瞬だけ嫌そうな顔を作ったが、すぐに私の頭の中へ念話が飛んできた。
『ん? なんやこのリボン女性受けがええんか? なら、ありやな』
どうやらリボンは嫌だと思っていたが、女性受けがいいとなると話は別らしい。
ソファーの上で少しだけ胸を張り、尻尾をゆらゆらと揺らして自慢げなポーズを取っている。
その姿に、メイドの一人が思わず声を上げた。
「かわいいです!」
するとルクは、二人のメイドのうちの一人、スタイルのよい大人の女性の足元まで駆け寄り、下から上目遣いで彼女を見上げてコテンと首を傾げた。
落ち着いた雰囲気のそのメイドは、「まぁ!」と感嘆する声を出し、私に尋ねた。
「セリア様、このリスにお名前はありますか?」
「ルクっていうのよ」
「ルク様を抱っこしてもよろしいでしょうか?」
私が答えるより早く、ルクがすかさず念話を飛ばしてくる。
『ワイは、もちろんオッケーや!』
私は呆れつつも、苦笑いで許可を出した。
「ははっ、抱っこしてもいいですよ」
メイドはそっとルクを抱き上げると、「かわいい」とボソッと呟く。
その瞬間、ルクはあろうことかメイドの豊かな胸元へとダイブしたのだ。
「あっ、すみません!」
私が慌てて謝ると、メイドは気にした様子もなく優しく微笑んだ。
「動物のすることですから、大丈夫ですよ」
当のルクは、ふかふかの胸元に埋もれたまま、心底満足そうな笑みを浮かべている。
そんなルクを私はジト目で見つめると、ルクはそっと私から視線を逸らした。
(はぁ。見た目はリスだけど、あなたの胸元でだらしない顔をしているのは、一応知能の高い聖獣なんです。ごめんなさい)
私は心の中でメイドに謝る。
ルクが聖獣と分かったときに、このメイドに怒られないだろうか、そこだけが心配である。
着替えが終わり、ドレッサーの前に座って髪を綺麗に梳いてもらっている時だった。
ふと思い出したように、手紙を届けてくれたメイドが口を開いた。
「そういえば、今日ランド・エッジの皆様の家に伺った時に、とても良い匂いと甘い香りがしました。何を召し上がっていたのですか? もしよかったら、今度のお休みに買いに行きたいのでお店を教えていただけませんか?」
その言葉に、もう一人のメイドも興味津々に反応する。
「スイーツの新しいお店かしら?」
私は少し困ってしまい、申し訳なさそうに眉を下げて正直に答えた。
「あれは私が作ってたおやつの匂いなの。だから、お店には売っていないの」
すると、メイドたちは驚いたように目を丸くした。
「まぁ! そうなんですか?」
「セリア様がお料理を? すごいですね!」
次々と感嘆の声を上げて褒められ、すっかり嬉しくなった私は、ついポロリと言ってしまった。
「えへへ、今度時間があれば作ってあげるね!」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
手紙を届けに来ていたメイドが、『しっかり言質をとりましたよ』と言わんばかりのいい笑顔を浮かべる。
「本当ですか! とても楽しみです」
(あれ? まずいことを言ったかな……)
そう思ったが、すでに手遅れのようだ。
私がタジタジになっている間に、髪のセットも終わり、そのまま話は終わってしまった。
結局、ルクは私の身支度が終わるまで、そのメイドの胸元に抱かれたままでいた。
ルクにずっと胸元を貸し続けてくれたメイドに対しても申し訳なくなり、私は鞄から出すふりをして、アイテムボックスからイチゴジャムクッキーを取り出して二人に渡した。
「綺麗にしてくれたお礼です。お姉ちゃんたち、ありがとう」
「「わぁ……!」」
メイドたちは綺麗なクッキーを見て顔を輝かせた。
「ありがとうございます。とっても綺麗ですね。あとで頂きます」
「クッキーありがとうございます。夕食までまだお時間がありますので、お部屋でゆっくりとお休みくださいね」
メイドたちは嬉しそうにクッキーを抱え、お辞儀をすると部屋から出ていった。
パタンと扉が閉まり、部屋の中が私とルクだけになると、私はずっと疑問に思っていたことをルクに聞いた。
「ローラお姉ちゃんもスタイルいいけど、ルクは興味なさそうだったね。なんで?」
ルクは、やれやれという顔をして答えた。
「ローラか。あいつは落ち着きがないから、ワイのタイプやないな」
(なるほど、さっきのメイドは落ち着いた大人の女性だったな)
私は、ルクが意外とタイプがハッキリしていたことに驚く。
(あっ、夕食の席で辺境伯様から今回の事件の褒美について聞かれるんだった。どうしよう……)
私はソファーに座り、頭の中でナビに相談を持ちかける。
(ねえナビ。褒美はいらないけど、たぶん貰わないのも辺境伯様の面子をつぶすことになるよね。でも欲しいのがないし、お金っていうのもなぁ。何かいい案がないかな?)
≪それなら、辺境伯邸にある貴重な品を見てみたいというのはどうでしょうか? 貴族、それも辺境伯ともなると宝物室があるのではないでしょうか。鑑定スキルのレベル上げによいと思います≫
(たしかに! 鑑定スキルは早くあげたいし、ちょうどいいかも!)
≪セリア様、この辺境伯邸をサーチしてみてはいかがでしょうか?≫
ナビの提案に頷き、私は広い辺境伯邸全体を包み込むようなイメージでサーチを発動した。
(サーチ!)
すると、脳内に展開されたマップのあちこちで、紫、桃色、黄色といった高ランクを示す光が表示される。
その中でも、ある一部屋に高ランクの色が密集しているのがわかった。
そして、その中にはひときわ輝く伝説ランクの『金色』の光が一つだけ混ざっていた。
(ナビ! 金色があったよ! ルクの卵を見つけたときもそうだったけど、これって伝説ランクじゃない?)
≪はい、伝説ランクの物がこの辺境伯邸にはあるようです≫
(伝説ランクのアイテムかぁ。どんなものだろう?)
褒美として辺境伯にお願いすることが決まったところで、コンコンと扉が叩かれた。
「セリア様、夕食の準備が整いました」
呼びに来たメイドの声が響き、いよいよ待ちに待った夕食の時間が始まるのだった。




