止まらない味見
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本日も、お楽しみいただければ幸いです。
キッチンでは、四口の魔導コンロがフル稼働していた。
一つは、ワイバーンの骨を入れてコトコトと煮込んでいるスープ用の鍋だ。
もう一つでは、お米を炊いている。
(もう炊いたお米がなくなりそう。やっぱり、お米が美味しい。そして、米といえば和食!)
私は残りの二口のコンロを使って、おかずを作ることにした。
今回は地球調味料セットを駆使して、和食が中心だ。
ほうれん草のお浸しに、にんじんしりしり。
豚肉と大根の煮物を仕込みつつ、だし巻き玉子を綺麗に巻き上げ、ナスの煮浸しを手早く仕上げる。
あっという間に次々と完成して並べられていく料理の数々に、キッチンで待機していた味見役たちは目を輝かせた。
そして、味見という名のつまみ食いが始まる。
「美味しすぎる! もうセリアちゃんのご飯しか食べれないわー!」
ローラがだし巻き玉子を頬張りながら、幸せそうに頬を押さえる。
「野菜が美味しいとは思わなかったな。肉ばかり食べていたのが悔やまれる」
ロイドも、ナスの煮浸しを口に運んでは感嘆の息を漏らしていた。
「ロイド、騙されたらいけないわ。セリアちゃんのご飯だから美味しいのよ。帝国でも、こんな美味しい料理なかったわよ」
リズは豚肉と大根の煮物を上品に食べながら、うっとりする。
「わいは、セリアに一生ついていくでー!」
ルクは、にんじんしりしりの入った大きな皿を小さな両手で抱え込みながら、尻尾をブンブンと振っていた。
キッチンで味見をしながら賑わっていると、玄関の方から声が聞こえてきた。
「ただいまー!」
「おじゃまします」
帰ってきたのは、カイとガウルだった。
すぐに足音が近づいてきて、漂ってくる美味しそうな匂いに釣られたカイがキッチンへと顔を出す。
「あー! いい匂いがする! 腹減ったよぉ」
「おかえりなさい!」
「セリアちゃーん! 何か食べさせて」
カイは今にも倒れそうなふりをして、大袈裟にお腹を押さえている。
そのすぐ後ろから、ガウルも姿を見せた。
「ただいま戻りました」
「ガウルお兄ちゃんも、おかえりなさい! 二人ともお昼ご飯食べてないの?」
「ええ、タイミングを逃してしまいまして……」
「すぐ何か用意するね」
私は二人に昼食を食べてもらうためにリビングへと移動した。
(昨日の牛丼が、まだ残ってたよね! アイテムボックスオープン)
アイテムボックスのリストから、お米と牛丼をリビングテーブルの上に取り出す。
昨日、ルクとセバスの三人で食べたが、まだ四人前ぐらいは牛丼が作れそうな量が残っていた。
ガウルは牛丼を見て「この前作っていたおかずですね!」と嬉しそうに目を輝かせた。
(うーん、カイお兄ちゃんもガウルお兄ちゃんも、いっぱい食べそうだな)
私は二人に大盛によそった牛丼を差し出した。
すると、どんぶりに盛られた見慣れない料理を見たロイド、ローラ、リズの三人が、興味津々な様子で身を乗り出してきた。
「ちょっと、ずるいわカイ、ガウル! 私たちも食べたいわ!」
「味見をしてみよう」
「……そうね、私たちも味見したほうがいいと思うわ」
既に照り焼きとパンをおかわりまでして綺麗に平らげた上に、今作っているおかずも味見と称して結構な量を食べている三人だが、目を輝かせて一斉に騒ぎ出した。
(みんな、あんなに食べたのにまだ食べるの!?)
私は底なしの冒険者たちの胃袋にちょっと呆れてしまったが、おねだりする三人の視線に根負けし、テーブルの上に残っている牛丼を三人に分けた。
準備が整いガウルが綺麗に手を合わせて「いただきます」というと、『ランド・エッジ』のメンバーたちも顔を見合わせながら、彼の真似をして「いただきます」と声を揃えた。
五人は一斉にスプーンを動かし、口々に「美味しい!」と大絶賛しながら、食べている。
みんなが幸せそうに食べている姿を見届けた私は、料理の続きのためにキッチンへ向かうことにした。
「私はもう少し、おかずを作ってくるね!」
そう言ってキッチンに戻ろうとすると、ガウルが慌ててスプーンを置き、申し訳なさそうに声をかけてきた。
「セリアさん、お手伝いします。私でも手伝えることはありますか?」
「ガウルお兄ちゃんは気にしないでゆっくり食べて! 食べ終わってから、またあの『危険な料理』のお手伝いをお願いしたいんだけどお願いできる?」
「はい! もちろんです!」
危険な料理という言葉に、ガウルはからあげのことを思い出したのか、役に立てることが嬉しいようで満面の笑みで快諾してくれた。
だが、そのやり取りを聞いていた『ランド・エッジ』のメンバーたちは、一斉に動きを止めて首を傾げる。
「……危険な料理?」
「一体何を作るつもりかしら……」
不思議そうにこちらを伺うみんなの視線を背中に受けながら、私はガウルが手伝ってくれることを見越して、次々と食材の下ごしらえを始めた。
アイテムボックスから取り出したじゃがいもの皮を剥き、なす、きのこ、たまねぎを切っていく。
さらに、先ほど肉屋で買ったワイバーンの肉も、手際よく切り分けていった。
しばらくして、食べ終わったのか、空になったお皿を持ってガウルがキッチンへとやってきた。
「セリアさん、お待たせしました。手伝います」
「ありがとう! ガウルお兄ちゃん、この前の唐揚げのこと覚えてる?」
「はい、よく覚えています」
「うん、あれと同じで、熱い油を使って食材を『揚げる』お仕事をお願いしたいんだ!」
大量の油がパチパチと弾ける揚げ物は、四歳の私にとっては火傷の危険がある大仕事だ。
ガウルは私から揚げる手順や注意点の説明を真剣な表情で聞くと、手伝えることが本当に嬉しいのか、とても楽しそうにしている。
「よし、それじゃあガウルお兄ちゃん、よろしくね!」
「お任せください!」
ガウルに細かい火加減と投入のタイミングを指示し、揚げ物を任せている間に、私はおやつの材料を混ぜ合わせていく。
(うーん、泡立て器がほしいなぁ。バルカスお兄ちゃんに相談してみようかな。他にも欲しい調理器具がいっぱいあるなー)
そんなことを考えながら手を動かしていると、隣からガウルの声がかかった。
「セリアさん、このぐらいの色でいいですか?」
「うん、バッチリだよ!」
ガウルは一度教えれば、すぐに覚えてしまい、本当に器用だ。
「セリアさん、じゃがいもはすべて揚げ終わりました!」
「はーい! ふふふ、フライドポテトの完成!」
出来上がったのは、キツネ色に揚がったフライドポテトだ。
フライドポテトは私の大好物だし、絶対にすぐになくなると予想して、たくさん揚げてもらった。
今回は、食べ応えのある大きめの三日月形であるウェッジカットにした。
油を切って半分は塩を振り、残りの半分はコンソメ味にする。
「ガウルお兄ちゃん、ちょっと食べ比べしてみて?」
私がフライドポテトを差し出すと、ガウルはまず塩味のフライドポテトを一つ口に放り込んだ。
「え?! これは本当にじゃがいもですか?」
「すごく美味しいでしょ! こっちも食べてみて」
今度はコンソメ味のフライドポテトを渡す。
ガウルは、さらに大きく目を見開いた。
「全然違う! どっちも美味しいです!」
「これはマヨネーズつけても美味しいんだよ」
「……マヨネーズをつける。それは絶対に美味しいですね」
「なんや、ただのじゃがいもやないんか?」
ガウルの反応を見ていたルクが、私の肩の上から両手を差し出す。
すでにお腹をパンパンに膨らませて苦しそうだが、まだ食べる気満々らしい。
「まぁまぁ、ルクも食べてみてよ! 熱いから気を付けてね」
「もう舌が肥えてしもうたからな。じゃがいもぐらいじゃ、ワイのことを満足させられへんで」
文句を言いながらも、ルクは小さな両前足でポテトを掴み、ふーふーと息を吹きかけてからパクリと口に入れた。
「えぇぇ! なんやこれ! セリア、ビールや! これにはビールが合う!」
ルクがキッチンで大騒ぎを始めたせいで、リビングにいた『ランド・エッジ』のメンバーたちまで「何だ何だ」と集まってきてしまった。
「あー! 私も味見する!」
ローラが唇を尖らせて抗議する。
私は、先ほどから作ってはどんどん減っていくおかずの量に危機感を覚え、一人一本だけポテトを渡した。
「味見だからね」
私は満面の笑顔で念を押した。
「「「「ビール……」」」」
どうやら大人たちは、ビールが飲みたくなってしまったようだ。
「味見におかわりはないし、ビールもありません!」
私はピシャリと言い放ち、抗議するみんなをリビングへと追いやった。
その後も、ガウルは私が用意した食材をどんどん揚げてくれる。
(さて、私はデザートでも作りますか!)
私はガウルの横のコンロを使いフライパンにバターを入れ、先ほど混ぜておいた生地を流し込む。
すると、じゅわっとバターの甘くていい匂いがキッチンからリビングへと漂っていく。
すぐにローラとリズが反応して顔を覗かせた。
甘党のルクとガウルも、フライパンの上を見て目を輝かせている。
みんなの視線がフライパンに釘付けになっている。
「みんなずっと食べてるけど、お腹は大丈夫?」
私が心配して尋ねると、ローラは胸を張って答えた。
「デザートは別腹よ!!」
その言葉に、リズ、ガウル、ルクが深く頷く。
ふっくらと焼き上がったパンケーキを皿に乗せ、その上からバターと蜂蜜をたっぷりと回しかける。
「これは蜂蜜ね! 高価なものをこんなにたっぷりと……幸せ……」
「私たちはセリアちゃんにいくら報酬を渡したらいいのかしら……でも、全財産を出すだけの価値がこれにはあるわ」
ローラとリズは、砂糖が使用されていて、さらに蜂蜜がたっぷりかかったホットケーキを頬張りながら幸せそうな顔をして頬張っている。
ガウルとルクは無言で、ただ締まりのない幸せそうな顔をしているので満足していることは間違いないようだ。
「よくそんなに入るな……」
「本当だな……」
そんな三人と一匹を呆れた顔で見守るカイとロイドの呟きと同時に、玄関のドアをノックする音が聞こえた。
カイがドアを開けると、そこには辺境伯邸のメイドが立っていた。
どうやら、ランド・エッジのメンバーとガウル、そして私を夕食に招待するための手紙を持ってきたらしい。
カイとガウルが手紙を受け取り、夕食時に伺うと返事をする。
その際、カイがメイドに一つ言づけを頼んだ。
「申し訳ないが昼食が遅くてね。夕食は軽めにしてくれると助かる」
「かしこまりました」
部屋の奥から漂ってくる甘い匂いに気づいたのか、メイドは納得したように微笑み、辺境伯邸へと戻っていった。
「そろそろ食べるのやめろよ。あと数時間後には夕食だぞ」
カイがため息交じりに、パンケーキに夢中になっている三人と一匹に注意する。
私はその間に、炊き上がったお米や作ったおかずをアイテムボックスへとしまい込んだ。
(収納)
次々と料理が空間へと消えていく中、大鍋で煮込んでいたワイバーンの骨スープもついに完成した。
(うーん、さすがにみんな食べすぎよね)
私は何も言わず、そっと完成したスープの鍋もアイテムボックスへ収納した。
「ガウルお兄ちゃん、夕食の用意もあるしそろそろ辺境伯邸に戻ったほうがいいかも!」
「そうですね。戻りましょう」
私たちは『ランド・エッジ』のみんなに挨拶をし、この家を後にして辺境伯邸へと戻るのだった。




