昼食と作り置き
まさかの出来事に驚いています。
6月9日に、注目度ランキング(連載中)で8位に入っていました。
総合評価ポイントが数万という強豪ひしめく中で、200ポイントの私の作品がポツンと紛れ込んでしまい、最初は運営さんの悪戯か何かではないかと疑ってしまったほどです。
振り返れば、更新のたびにリアクションをくださる皆様やそっと見守ってくださる方々の支えがあって、いつの間にか20万文字にまで到達していました。皆様の応援が、何よりのエネルギーです。
これまでお付き合いくださった方も、今回新しく出会ってくださった方も、読んでいただいている間、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ドーソン商会を後にした頃には、ちょうどお昼時を迎えていた。
「はぁ……さすがにお腹が空いたわね」
ローラの気の抜けた呟きに、私のお腹も同調するように小さく鳴る。
どこか手頃なカフェにでも入ろうか。
そんな相談をしながら大通りを歩いていると、視界に活気ある肉屋の店先が飛び込んでくる。
「リズお姉ちゃん! あそこのお肉屋さんに行ってもいい?」
「もちろんよ、行きましょう」
店先に近づくと、巨大なワイバーンの肉が豪快に山積みになっていた。
「わぁ! ここにもワイバーンのお肉がいっぱい!」
「ワイバーンの肉が、いつもより安くなってるよー!」
肉屋の店主が、大声で呼び込みをしている。
いつもより安いと聞いて、私は迷わずワイバーンの肉を二十キロ買うことにした。
しかし、硬貨を取り出して支払いを済ませようとしたその時だ。
ふと店の奥に視線をやると、肉をそぎ落とされた巨大な骨の山が無造作に積まれているのに気が付いた。
(あれって、鳥ガラ? もう捨てちゃうのかな?)
前世の知識が頭をよぎり、居ても立っても居られなくなった私は、カウンター越しに恰幅の良い肉屋の主人へと身を乗り出した。
「ねえ、おじさん。あそこに積んである骨って、売ってるの?」
「ん? あー、あのワイバーンの骨か。あれは売り物じゃないさ。あとは捨てるだけなんだが、たまに孤児たちが、骨の周りに残った肉を削ぎ落として食べるって持っていくから、取っておいてるんだよ」
その言葉を聞いて、少し悩んでしまった。
私が買い取ってしまったら、その孤児たちの貴重な食事がなくなってしまうのではないだろうか。
「そっか……。じゃあ、私が貰っちゃったら駄目だよね?」
私が申し訳なさそうに眉を下げると、肉屋の主人は豪快に笑い飛ばした。
「いや、そんなことはないぞ。あいつらも小さな子供だからな、持っていける量なんてたかが知れてる。ほとんどは結局捨てることになるから、あんたが引き取ってくれるなら、こっちも処分の手間が省けてラッキーなくらいだ」
肉屋の主人の言葉にホッと胸を撫で下ろしたものの、やはり彼らの食事を奪ってしまうのは気が引ける。
私はポーチをごそごそと探り、銀貨を取り出した。
「じゃあ、この骨、全部売ってくれませんか?」
「だから、骨なんて捨てるもんだから金は――」
遠慮する主人を遮るように、私は銀貨五枚をカウンターの上にコトリと置いた。
「このお金で、骨を取りに来た子供たちにちゃんとしたお肉を譲ってあげてほしいの。私が骨を持っていっちゃうから、その代わりに渡してくれる?」
「ははっ、お嬢ちゃんは優しいな! ああ、それならあいつらにも腹いっぱい肉を食わせてやれる。ありがたく引き受けさせてもらうよ!」
主人は嬉しそうに目を細め、力強く頷いてくれた。
無事に交渉が成立したところで、私は横にいるローラとリズを見上げ、声をひそめて相談する。
「お姉ちゃん。これ、全部アイテムボックスに入れたいんだけど、人目に付かないところまで運ぶの手伝ってくれる?」
「それなら、ここから家も近いし、一度戻りましょ」
肉屋の主人は気を利かせて、私の背丈ほどもある大きな骨を鍋に入りやすいサイズに叩き割り、二つの麻袋に分けて詰めてくれた。
ローラとリズがずっしりと重い袋を手分けして持ち、『ランド・エッジ』の拠点へと向かって歩き出した。
「「「ただいまー」」」
「ふふ、セリアちゃんもここの子みたいね」
「あっ! おじゃましますだった!」
エヘヘと笑ってリズを見ると、リズも楽しそうに笑う。
「んー。二人は出かけてるみたいね。はぁ、さすがにお腹が空いたわー」
ローラがそう嘆くのを聞き、私は提案する。
「良かったら、私が作ろうか?」
するとリズとローラは目を輝かせ、「いいの!?」と声を揃えた。
ルクも「美味しいの頼むで!」と私の肩の上で期待を寄せる。
さっそく料理に取り掛かろうとしたところで、私は自分が着ている服を見る。
ブティックで買ってもらったばかりの高いワンピースだ。
このまま料理したら、ぜったいにシミを作ってしまう。
「あの、お料理するからエプロンを貸してもらえるかな?」
私が尋ねると、ローラとリズは顔を見合わせた。
どうやら『ランド・エッジ』のメンバーは料理作る人がいないため、この家にエプロンは一枚も置いていないらしい。
仕方がないので、私はもともと着ていた普段着のワンピースに一度着替えることにした。
身軽な格好になってキッチンへと足を踏み入れると、その立派な設備に思わず目を丸くした。
なんでも、もともと貴族の別荘として使われていたらしく、キッチンも驚くほど広々としている。
四口のコンロに、立派な大きなオーブンまで備え付けられていた。
キッチンは、火の魔石を使用する魔導具になっていたが、私がいつも使っている携帯型魔導コンロは小さな魔石で動くのに対し、このキッチンのコンロでは中サイズの火の魔石が必要らしい。
「小さい火の魔石しかないなぁ」
「あら、魔石ならあるわよ」
リズが腰に掛けていたポーチの中からじゃらじゃらと魔石を取り出し、火の魔石を一つ選んでコンロにセットしてくれた。
「ご飯を作ってもらうんだから、このくらい当たり前よ。もちろん、あとでご飯の代金も請求してね」
「ありがとう、リズお姉ちゃん!」
(せっかくだからワイバーンを使った料理にしようかな)
私は地球調味料セットから醤油、みりん、酒、砂糖、酢、オリーブオイル取り出し並べる。
手際よくワイバーン肉の照り焼きと、手作りのドレッシングをかけたサラダを作り始めた。
「セリアちゃんって、本当に四歳?」
「母より料理の手際がいいわね」
ローラとリズは、四歳の子供とは思えない手際で料理をしていく私を、背後から驚きの表情で見守っていた。
料理が出来上がると、私はアイテムボックスからパンを取り出し、照り焼きとサラダと共に食卓へ並べる。
甘じょっぱいタレの焦げた香ばしい匂いが部屋中に広がり、ローラとリズ、そしてルクの視線が皿の上に釘付けになった。
「冷めないうちに食べてね」
私が声をかけると、ローラがフォークとナイフで綺麗に照り焼きを切り分け、パクリと口に含んだ。
その瞬間、ローラの目がこれ以上ないほどに大きく見開かれる。
「な、何これ!? お肉がすっごく柔らかいし、このとろっとしたソースが甘辛くて……信じられないくらい美味しいわ!」
興奮した様子で頬に手を当てるローラに続き、リズも静かに肉を口へ運んだ。
普段は表情を崩さないリズだが、一口食べた途端に目を丸くして動きを止める。
「……驚いたわ。しっかり味のするタレなのに、ワイバーンの肉の味もしっかり感じるわ。それにこのサラダにかかってるソースも酸味があって、濃厚なお肉とよく合うわ!」
感嘆の息を漏らすリズも、フォークの動きが止まらない。
そして、テーブルの上ではルクが小さな両手で肉の欠片を掴み、夢中で頬張っていた。
「んまーっ! なんやこれ、ほっぺたが落ちそうやで! セリア、おかわりや!」
口の周りをタレでベタベタにしながら尻尾を振るルクに続き、ローラとリズもあっという間にお皿を空にしていく。
「セリアちゃん! おかわりをもらえるかしら?」
「……私も、お願いします」
結局、みんなおかわりをして、料理を綺麗に平らげてくれた。
そんな賑やかな食事の最中、ロイドが帰還した。
「ただいま。ん? この匂いは?」
食卓の様子を見たロイドは、私の料理だとすぐに気づいたのか、じっと私を見つめてくる。
「ロイドお兄ちゃん、おかえりなさい。そんなに見つめられたら、照れちゃう」
私は頬に両手を添えて、モジモジしてみせる。
もちろん、ロイドがそういう意味で見つめているわけではないことは分かっている。
「もぅ、分かってるよ。ご飯が食べたいんだよね?」
そう言うと、ロイドは嬉しそうに頷いた。
私は甲斐甲斐しくロイドの分も料理を運ぶ。
ロイドは「美味しい!」とだけ感想を漏らすと、黙々と食べ進め、最後に満足そうに口を開いた。
「セリアちゃんに胃袋を掴まれてしまったな」
「つまり、私がロイドお兄ちゃんの奥さんになれる日も近いってことね!」
「お父さんから結婚の許しを貰うのが難しそうだな」
急にロイドが、そんな冗談を言うので、私は顔を真っ赤にしてしまう。
ローラが茶化すように会話に入ってくる。
「私もセリアちゃんに胃袋掴まれてるわよ! 私もセリアちゃんのお父さんに結婚の許しをもらわなきゃね!」
「じゃあ、私も立候補しようかしら」
リズまで、真面目な顔でそんなことを言い出したので、みんなで顔を見合わせて笑ってしまう。
「あっ、そういえば、さっきのワイバーンの骨はどうするの?」
ローラは、なぜ骨を買ったのか気になっていたようだ。
「えーっとね。あれで、スープを作ろうと思って!」
私が元気に答えると、その場にいた全員が不思議そうな顔をして首を傾げた。
「骨でスープを作るの?」
ローラが不思議そうに尋ねてくる。
「うん! とっても美味しいスープができるんだよ。でも、作るのに少し時間がかかるんだけど……」
私がそう答えると、ローラは目をキラキラと輝かせて身を乗り出してきた。
「お願い! そのスープ飲んでみたいわ!」
ローラに続いてリズも興味津々な様子で頷き、ふと視線を感じて横を向くと、ロイドも無言で私をじっと見つめていた。
その瞳からは「飲みたい」という強い意志がひしひしと伝わってくる。
「ちょっと時間かかるけど、作ろうかな。でも、一人だと難しいから、手伝って欲しいな」
「俺がやろう。何をすればいい?」
私がお願いすると、即座にロイドが手伝いを申し出てくれた。
私は大きな鍋を取り出し、たっぷりの水を入れて火にかけ、お湯を沸かす。
お湯が沸騰したところにワイバーンの骨をロイドに入れてもらい、表面が白くなるまで茹でる。
「ロイドお兄ちゃん、骨を取り出して水で血合いをとってくれる?」
「わかった」
ロイドが熱い骨を器用に取り出し、丁寧に血合いを洗い流してくれている間に、私は次の準備に取り掛かる。
にんにく、しょうが、ネギを手早く用意し、スープを作るための下ごしらえを進めていった。
「セリアちゃん、洗い終わったよ」
「ありがとう! また骨をお鍋に入れてくれる?」
私は鍋に先ほど用意したにんにく、しょうが、ネギ、調理酒を加えて、再び火にかけた。
「あとは煮ていくだけなんだけど、ここから時間がかかるよ」
私がそう言うと、ローラは両手を合わせて嬉しそうに微笑んだ。
「やーん! 楽しみ!」
「うーん、お鍋の近くで見ておかないといけないし、他にも何か作っておこうかな」
「いいわね! 味見は、私に任せて!」
「俺も味見しよう」
私の呟きに、ローラとロイドがすかさず味見役として立候補してくる。
「私も、味見ならお手伝いするわよ」
「ワイの舌は肥えとるで! 任せとき!」
二人に続くように、リズとルクまでやる気満々で味見役に名乗りを上げた。
四人の食欲旺盛な様子に、私は思わずクスッと笑ってしまう。
「よし! いろいろ作っちゃおうかな!」
私は腕まくりをして、さらに気合を入れて張り切るのだった。
いつも、応援ありがとうございます。




