秘密がばれる
手土産のからあげを囲んだ嵐のような宴が一段落し、大人たちがようやく人心地ついた頃だった。
ランド・エッジのリーダー、カイがふとガウルに視線を向けた。
「そういえば、ギルドじゃ『一匹狼の戦士』として有名なガウルがセリアちゃんと一緒にいるなんて思わなかったよ。なんでまた、セリアちゃんと一緒にいるんだ?」
カイの問いに、私は「え?」と間抜けた顔で首をかしげた。
一匹狼の戦士。
そういえば、前にバルカスからそんな二つ名を聞いた気がする。
でも、目の前で甲斐々々しく私の手伝いをしてくれるガウルと、その呼び名がどうしても結びつかなくて、すっかり忘れていた。
不思議そうな顔をしている私に代わって、ガウルが少し決まり悪そうに口を開いた。
「……別に、頑なにパーティを拒んでいたわけではないんです。ただ、私はその、酷く人見知りで……上手く他人と話せなかっただけで……」
ガウルの説明によれば、見た目と話し方のギャップを揶揄されたり、挙動不審な態度を「馬鹿にしているのか」と誤解されたりすることが多かったらしい。
そうして一人で行動するうちに、いつの間にか「他人を寄せ付けない一匹狼」という尾ヒレのついた噂だけが独り歩きしてしまったのだという。
「そんな! ガウルお兄ちゃんは話し方もすごく丁寧だし、とっても優しいんだよ。私の、自慢の親友なんだから!」
私が鼻息荒く力説すると、ランド・エッジのみんなは、なんとも微笑ましいものを見るような、温かい眼差しをこちらに向けた。
「セリアさんは、私のことを怖がったりもしませんし、ディートムにいるときは私とも遊んでくれるので、お言葉に甘えさせていただいています」
「えー! 私達、親友でしょ! 一緒に遊ぶのはあたりまえだもん!」
「あはは、親友か。いいわね。じゃあ、その肩に乗ってるルクくんとはどこで友達になったの?」
ローラは、お酒を飲みすぎたのかほんのり頬が赤くなっている。
「ルクとは、森で友達になったの」
嘘ではない。
出会った場所は確かに森だ。
その時、それまで静かに話を聴いていたリズが、すっと姿勢を正して私を真っ直ぐに見つめた。
「セリアちゃん。……あなたが特別な子だということは、もう十分に分かっているわ。特別なことを自覚していないだけなのか、それとも隠しているつもりなのかは分からないけれど。……もう少し、慎重になるべきよ」
諭すようなその言葉に、私は「え……?」と固まった。
「今日の手土産だってそうよ。からあげはまるで今作ったばかりのように温かかったし、ビールも見たこともない筒に入っていて、驚くほど冷えていた。赤ワインも白ワインも、今まで飲んだことがないほど上質なものだったわ。一応、鞄から取り出す仕草はしていたけれど、あの小さな鞄のサイズからして、出てきた料理やお酒の量は明らかにおかしい。おまけに料理は温かく、飲み物は冷たい……それだけで、私たちがセリアちゃんは『特別なアイテムボックス』の持ち主だって気づくには十分すぎる理由よ」
さらに、リズの視線は私の肩の上へと向けられた。
「……それに。ルク様は、聖獣ですね?」
質問の形ではあったが、リズの声には確信がこもっていた。
どうしようか、正直に話すべきか迷って私が視線を泳がせていると、不意に肩の上の相棒が口を開いた。
「なんや、ばれとったんかいな。まぁ、これだけオーラがあるとばれるのもしかたないな」
念話ではない、はっきりとした人の言葉。
確信は持っていたようだが、実際に急に話し出した聖獣を前に、ランド・エッジのメンバーは椅子から転げ落ちんばかりに驚いた。
「ま、まさか本当に聖獣様だったとは……」
カイが絶句する。
「聖獣様って、なんていうか……すごく特徴的な話し方をするのね」
ローラが呆然と呟いた。
リズはすぐさま居住まいを正し、深く頭を下げて礼を尽くした。
「聖獣様、お目にかかれて光栄です」
「そんな堅苦しいことせんでええで。気軽にしてや」
驚きから立ち直ったカイが、真剣な顔で私に問いかけてきた。
「……聖獣様と一緒にいるということは、セリア、お前は『聖女』なのか?」
「えっ? 違うよ!」
私が即座に否定すると、ルクも鼻を鳴らして補足した。
「せや、セリアは聖女やない」
「しかしルク様、王都では公爵家の一人娘が聖女だという噂があります……セリアちゃんが聖女ではないのなら、聖獣様がここにいてもよろしいのですか?」
「まあ、ええやろ。だいたい、まだ生まれる時期やなかったしな」
ルクの回答に大人たちが顔を見合わせる中、ガウルも神妙な面持ちで私を見た。
「セリアさん。私も、もっと気を付けておくべきでした。……すみません」
ガウルが深々と頭を下げると、リズが彼に鋭くも温かい視線を向けた。
「ガウルさん。あなたが謝るということは、セリアちゃんの秘密を最初から知っていたということよね? ならば、周りにいる大人がもっと気を付けてあげなきゃ。あなたはセリアちゃんの『親友』なのでしょう? セリアちゃんがそれだけあなたに気を許しているのだから、きっとあなたは良い人なのだと思うわ。でもね、ただ『良い人』だけでは、大事な人を守りきれない時があるの。そこを注意しておいたほうがいいわ」
リズの言葉は重く、ガウルは「肝に銘じます」と表情を引き締めて頷いた。
続いて、リズの矛先は私の肩の上でふんぞり返っている相棒へと向いた。
「それから、ルク様。もしルク様が聖獣であることを隠し通すつもりなのであれば、いくら正体を疑われたからといって、自分から認めて話し出すのは良くありません。最後までシラを切り通していただいたほうがよいかと」
これには、さっきまで余裕たっぷりだったルクも「うっ……」と言葉を詰まらせた。
「……いや、それはその。あまりにリズが確信を持って言うもんやから、ついな?」
「つい、では困るのです。セリアちゃんの身の安全に関わることですから」
リズの正論に、ルクは気まずそうに視線を逸らし、耳をぺたんと伏せて小さくなった。
重苦しくなった空気に耐えられなかったのか、ローラが明るい声をあげた。
「……甘いのが食べたくなっちゃった! フルーツ残ってたかな?」
「あ、私クッキー作ってきたんだ。お口直しにどうかなって」
私がアイテムボックスから包みを取り出して解くと、「わあぁ!」と歓声が上がった。
中央に真っ赤なイチゴジャムがのったクッキーは、宝石が埋め込まれているようにキラキラして可愛らしい。
「待ってました!! ワイも食べるで!」
説教から逃れるように、ルクが尻尾を振ってねだる。
ガウルも、自分が一生懸命混ぜた生地がどうなったのかと興味津々だ。
二人がクッキーを一口食べると、その上品な甘さとサクッと軽い食感に驚き、顔を見合わせた。
「セリアちゃん……いい? こういう技術も、簡単に披露するのは危険だからね!」
リズが再び釘を刺す。
私は少し困ったように笑った。
「だ、だって、ランド・エッジのみんなだから……」
その言葉に、それまで静かにしていたロイドが口を開いた。
「まぁ、披露する相手を間違えなければ、きっとセリアちゃんの味方は増えていく。いざという時に、もう少し味方はいたほうがいいかもしれないしな。……もちろん、俺たちはセリアちゃんの味方だ」
ロイドの心強い言葉に、私が胸を撫で下ろしていると、カイがニヤリと笑って茶化してきた。
「将来のロイドの奥さんだからな。もちろん大切にしないと!」
リビングがドッと笑いに包まれる。
「お、奥さん……」
私はその言葉を反芻しながら、顔を林檎のように真っ赤にして俯いた。
横ではロイドが、カイに向かって心底呆れたような顔をしていた。
いつも、ありがとうございます!




